心理学

【心的表象とは】意味・研究の歴史からわかりやすく解説

心的表象(Mental representation)とは、外界の情報の心の中における表現形式のことです。

心的表象は私たちが頭の中で考えるという当たり前に行っていることを支えています。そのため、人間の認知に関心がない方でも知っておきたいものです。

この記事では、

  • 心的表象の意味・歴史
  • 心的表象の心理学的な実験

をそれぞれ解説していきます。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:心的表象とは

1章では、心的表象を概説します。心的表象の心理学的な実験に関心のある方は、2章から読んでみてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:心的表象の意味

冒頭の確認となりますが、心的表象とは、

外界の情報の心の中における表現形式のこと

です。

私たちはさまざまな現象を心の中で想像したり、操作したりすることができます。このような働きを支えているのが心的表象です。

心的表象ということばは非常に多義的な意味で用いられますが、共通しているのは心の中に描かれる像を指しているという点です。

像といっても、それは視覚的なイメージばかりではありません、映像や音はもちろんですが、悲しいやうれしいといった実際には目に見えない感情のような概念も私たちは頭の中で思い描くことができます。

このような説明だけでは理解できないと思いますので具体的な例を追いながら、「心的表象」の心的表象を作っていきましょう。まずは、「ネコ」を想像してください。今あなたの頭の中で思い浮かべているネコがまさに心的表象です。

さて、この時、想像したネコは人によって異なると思います。たとえば、以下のような違いあるはずです。

多様なネコ

  • ある人は真っ白いマンチカンの画像を想像したかもしれないし、そのマンチカンが優雅に歩いている映像を想像したかもしれない
  • また、ある人は食肉目ネコ科の哺乳類であるという知識を想像したかもしれないし、ある人は、「ニャーという鳴き声をするのであれば猫である」といったルールを思い浮かべたかもしれない
  • はたまた、自分が飼っているネコとの思い出を想起した人もいたかもしれない

このように、心的表象はさまざまな形式をとります。ここでいう形式とは、内容の違いではなく、画像で思い浮かべるのか動画で思い浮かべるのか、知識やルール、はたまた記憶として思い浮かべるのかといった思い浮かべ方のことを指します。

この心的表象は私たちが頭の中で考えるという当たり前に行っていることを支えています。たとえば、スマホで電話をかけるということを考えてみましょう。

  • 私たちは「電話をかける」ということを使用と思ったとき、すぐにスマホや電話機を使おうと考える
  • これは私たちが、スマホや電話機が電話を掛けるときに使用できるものであるという心的表象を持っているからである
  • また、私たちは「スマホという機械の電源を入れて受話器のボタンを押すと、電話帳が表示されるのでそこから連絡したい電話番号を探して、青い受話器のボタンを押すことで、電波によってその相手と音声がつながる」といったシミュレーションを行うことができる
  • これは、私たちの頭の中に、スマホのモデルがあり、実際にそれを操作することができるからにほかならない

このような、外界の対象や状況についての心の中にある操作可能な心的表象のことをメンタルモデルといいます。



1-2:心的表象の研究の歴史

1-1の説明で心的表象とは、心に思い浮かべるもの全般を指していることが分かったと思います。心理学は心というものの性質についての科学的理解を目指す学問ですから、心的表象は中心的な興味の対象ということになります。

しかし一方で、一口に心的表象といっても、心の中で思い浮かべるイメージとしての表象、知識についての表象、ルールについての表象、記憶についての表象というように、対象となる表象によってその性質も異なります。

そのため、現代の心理学においては心的表象という概念は細分化されて研究が進められています。たとえば、心の中に思い浮かべるイメージについては、心的イメージとして研究が進められています。(→より詳しくはこちら

心理学において、心的表象の1つの形式である心的イメージの性質を明らかにするためには、その人の主観に頼らざるを得ませんでした。なぜなら、その人がどんなイメージを持っているかは外部から観察不可能だからです。

たとえば、ドーナツをなるべくリアルに頭の中で想像してくださいという問いを出したような場面を考えてみてください。

  • 多くの人が真ん中に穴の開いたドーナツを想像するかもしれない
  • しかし、サーターアンダギーのような穴の開いていないものや、クリームが挟まっているもの等、人によって、さまざまなイメージを想起するとかんがえられる
  • これは、ドーナツのチェーン店に羅列されている種類などを考えれば明らかである

このように、特定の場面でどのようなイメージを持っているかは、その人の報告に頼らないとわからないというわけです。

しかし、このような主観的な報告に頼った方法は、科学的ではないという批判を受けます。なぜなら、主観的な報告は、その人が思い描いているイメージを正しく報告しているという保証がないからです。

科学的な結果には再現性が大切です。再現性というのは同じ手続きで同じ実験を行ったら同じ結果になるということです。

たとえば、次の違いを考えてみてください。

  • 物理学の成果は非常に再現性が高いといわれている。手に持っているリンゴは手を離したら必ず重力に従って下に落ち、水は100度で蒸発する
  • 一方で、主観的な報告は全く同じ人が行ったとしても同じ結果を繰り返すことができないようなものがほとんどである

このような批判の中、視覚的なイメージの性質について、主観的な方法に頼らずに明らかにする実験が行われました。それが、シェパードとメッツラー(1971)の心的回転の実験です。

彼らの詳しい実験の内容は、2章で紹介しますので、簡単な例を示します。以下の画像を見て覚えてください(図1)。

記憶する画像図1 記憶する画像

覚えましたか?では、次のa、b、cのうち、記憶したものと同じ形のものをこたえてください。正解は1つとは限りません。

心的回転のイメージ図2 イメージと同じものを探してください

わかりましたか?正解は、aとcです。どちらも、同じ形ですが、aに比べてcのほうが同じだと判断するのが難しかったと思います。

  • aは元の画像と全く同じだが、cは元の画像に対して約100度程度回転している
  • つまり、私たちはイメージに対して、対象が回転していると同定するのが難しくなる

このように、イメージと特定のものが同じかどうかを判断するときには、その対象の回転角が大きいほど時間がかかることが知られています。

このことは、イメージを頭の中でその対象とのずれた角度の分だけ回転させて、同定判断をしているように見られることから、この性質を心的回転というようになりました。

この心的回転の性質を示した実験は、心的表象のような心の中のイメージの研究を客観的な指標で扱うことが出来ることを示唆したという点でも、研究の1つとしてイメージ研究における重要な成果であるといえます。

このように、現代では心的表象は細分化されたさまざまな領域において客観的な実験に基づいてその性質が検討されているのです。

「心的イメージ」に関しては、日本認知心理学会が刊行するハンドブックがより詳しい説明をしています。

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1章のまとめ
  • 心的表象とは、外界の情報の心の中における表現形式のことである
  • 心的表象は中心的な興味の対象となっている

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2章:心的表象の心理学的実験

上述した通り、心的表象は非常に多義にわたる用語です。そのため、心の中に描かれる像についてのほとんどの研究が、表象が関係しているとも言えてしまいます。

そこで、今回は特に心の中に思い描くイメージである、心的イメージの実験をいくつか紹介したいと思います。

2-1:シェパードとメッツラーの心的回転についての実験

シェパードとメッツラー(1971)の実験では、図形の回転角度によって、2つの画像が同じものだと判断する速さがどのように異なるのかを検討するために行われました2Shepard, R. N., & Metzler, J. (1971). Mental rotation of three-dimensional objects. Science, 171(3972), 701-703.

実験概要

  • 画像は、10個の立法体を組み合わせて作られた立体画像が使用された
  • 実験では、2つの画像が提示され、その画像が回転された画像なのか鏡に映った画像なのかを判断するという実験を行った
  • 実験に使用された立体画像は非対称のものだったので、鏡に映った形が図形を180度回転させたときの形と一致することはなかった

実験では、実験参加者は出来るだけ早く正確に判断するようにと教示を受けていました。そして、画像を提示してから、判断を行うまでの時間が測定されていました。

実験の結果、画像の回転角が大きくなるにつれて、判断を行うまでの時間も長くなることが示されました。このことは、心的イメージを使って同じかどうかを判断するときに、心的イメージを回転させていることを示唆しています。

つまり、以下の点が明らかになりました。

  • 回転角が小さいときには心的イメージの回転も少しでいいので判断を行うまでの時間が短い
  • 反対に回転角が大きいときには、心的イメージの回転を多く行わなければいけないので判断を行うまでの時間が長くなった

この研究は、私たちが抽象的なイメージを頭の中で実際に回転という操作していることを示しています。



2-2:ウェクスラー、コスリン、ベルトーズの実験

このような心的回転がなぜ生じるのかということについて検討した実験として、ウェクスラー、コスリン、ベルトーズ(1998)を紹介します3Wexler, M., Kosslyn, S. M., & Berthoz, A. (1998). Motor processes in mental rotation. Cognition, 68(1), 77-94.。この実験は、心的回転が実際に運動として、心的イメージを回転させているかどうかを確かめるために行われました。

実験概要

  • 実験では、実験参加者はシェパードとメッツラーの実験と同じような心的回転の課題を行った
  • この時、参加者は2つの条件に分けられていた
  • 1つが、課題中に心的回転と同じ方向にレバーを回すことを求められる条件、もう1つが課題中に心的回転と異なる方向にレバーを回すことを求められる条件である

もし、頭の中で心的イメージを運動として回転させることで同じかどうかを判断しているのだとすれば、それとは異なる運動を行うことで干渉し、判断が難しくなると考えられます。

対して、頭の中で心的イメージを運動として回転させているわけではなく、そのほかの理由で角度による反応時間の遅れが生じているのであれば、レバーをどちらに回転させようが関係ないですので、どちらの条件でも同じ結果になると考えられます。

実験の結果は次のとおりです。

  • 心的回転と同じ方向にレバーを回転させた条件のほうが、異なる方向に回転させた条件に比べて、判断までにかかる時間が短く、間違いも少ないことが示された
  • このことは、シェパードとメッツラーの実験で示されたような図形の回転角と判断までの時間の間の比例関係が、頭の中で心的イメージを運動として回転させることによって生じていることを示唆している

このような、「頭の中で心的イメージを運動させてみる」ということを言い換えると、心的イメージがある運動をしたらどのようになるかをシミュレーションしてみるということが出来ます。

このような点から、心的回転は私たちの運動についての内的シミュレーションに関与する機能といわれています。今回の心的回転の例のように同じかどうかを判断するだけではなく、このボールはどこに落ちるだろうとか、このまま歩くとぶつかるからよけようといったような私たちの日常的なさまざまな判断に使われています。

つまり、心的回転についての知見は2つのものが同じかどうかを判断するときに、それが回転してると判断が難しいということだけではなく、私たちが頭の中で運動をシミュレーションしているということを示している知見ともいえるのです。



2-3:コスリン、ボール、ライザーの心的走査についての実験

コスリン、ボール、ライザー(1978)は回転以外の、心的イメージの性質について検討するために次のような実験を行いました。

この実験では、心の中で描いたイメージにおいて、初めに示された点から他の点に視点を移すといった操作を行うにあたって、距離が長いほど時間がかかるのかを調べるために行われました。

初めに、参加者は図3のような地図の画像を見せられてそれを記憶するように求められました(この図は記事の作者が簡易的に作成したものです)。

心的走査の実験に使用された地図(簡易版)図3 心的走査の実験に使用された地図(簡易版)

その後、参加者はこの地図を見ずに特定の地点がどこにあったかを心の中に思い描いた地図の中で探して、そこに焦点があったら報告するように指示されました。

たとえば、「Aの地点はどこにありましたか焦点を当ててください。」といったような形です。次に、それとは別の地点を地図上で探して焦点があったら報告をするように求められました。

実験の結果、初めに提示した地点(A)からの距離が長いほど、二点目の地点を発見するまでの時間が長いことが示されました。つまり、地点Bよりも、地点Cのような遠い地点のほうが地点Aから探し始めると時間がかかるということです。

この結果は、心の中で描かれる地図において、実際の事物の上を走査しているように、心的なイメージの上を走査していることを示しています。

2章のまとめ
  • 心的イメージを使って同じかどうかを判断するときに、心的イメージを回転させている
  • 心的回転についての知見は2つのものが同じかどうかを判断するときに、私たちが頭の中で運動をシミュレーションしているということを示している
  • 初めに提示した地点(A)からの距離が長いほど、二点目の地点を発見するまでの時間が長い

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3章:心的表象を学ぶ本・論文

心的表象を理解することはできましたか?最後に、あなたの学びを深めるためのおすすめ書物を紹介します。

おすすめ書籍

菱谷晋介『認知心理学ハンドブック』(有斐閣)

日本認知心理学会という、認知心理学についての学会が刊行しているハンドブックです。用語ごとにそれについての非常に詳しい説明が、紹介されています。今回扱った心的回転についても「心的イメージ」の章で、他の諸概念と関連付けながら説明されています。心的イメージについてもっと詳しいことが知りたいという方におすすめです。

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Shepard, R. N., & Metzler, J. (1971). Mental rotation of three-dimensional objects. Science, 171(3972), 701-703.

心的回転について示した代表的な論文です。英語の論文ですが、3ページ程度にまとめられていますので、心的回転に関心を持った方はチャレンジしてみてもいいかと思います。しっかりと読み込むのは困難でも、図や結果のグラフはさまざまな教科書に記載されていますのでこれが教科書で見た図形の出典かということを確認するだけでも意味があると思います。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 心的表象とは、外界の情報の心の中における表現形式のことである
  • 心的表象は中心的な興味の対象となっている

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参考文献

  • 菱谷 晋介 (2013). 心的イメージ. 日本認知心理学会(編). 認知心理学ハンドブック 有斐閣. 62-63.
  • Shepard, R. N., & Metzler, J. (1971). Mental rotation of three-dimensional objects. Science, 171(3972), 701-703.
  • Wexler, M., Kosslyn, S. M., & Berthoz, A. (1998). Motor processes in mental rotation. Cognition, 68(1), 77-94.