行動主義(behaviorism)とは、科学が扱うべき対象を客観的に観察可能な行動に限るべきだと考える立場です。
行動主義の立場に賛成しない認知主義を支持するにしても、どちらか一方の主張だけに耳を傾けるのではなく、まずは、両者でなされた議論を整理し、その理解を深めることが大切です。
そこで、この記事では、
- 行動主義の意味・歴史
- 行動主義の例・批判
をそれぞれ解説していきます。
好きな箇所から読み進めてください。
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1章:行動主義とは
まず、1章では行動主義の全体像を提示します。行動主義の心理学的議論に関心のある方は、2章から読んでみてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1:行動主義の意味
冒頭の確認となりますが、行動主義とは、
科学が扱うべき対象を客観的に観察可能な行動に限るべきだという考え方
です。
ここでいう「行動」とは、人間や動物などが行うものを指しています。基本的には、人間の行動に対しての考え方を指します。
行動主義においては、基本的に「心」というものの存在を認めていないことが特徴です。たとえば、次の例を考えてみてください。
- あなたがスーパーで水を購入したとする
- 私たちは通常、その理由を聞かれたとき、水が飲みたいと思ったからといったように答える
- しかし、行動主義においてはあくまでも、スーパーで水を買ったのは、3時間水を飲んでおらず、給水するための方法が購入しかなかったためと答える
このように、行動主義においては、現在の環境やこれまでの経歴に基づいて説明を試みます。
2章:行動主義の歴史
行動主義に基づく人間の行動を対象とした学問は行動分析学と呼ばれています。人間の行動を対象にしているのだから心理学では?と疑問に思った方も多いと思います。実際、この行動分析学は心理学なのかどうかという点に関しては現在も議論が行われています。
2章では、どのような歴史の中で行動主義が台頭してきたのかということについて説明していきます。
2-1:内観心理学
心とはなんだということについての探求は、古くはソクラテスやプラトンといったギリシャ哲学の時代までさかのぼることが出来ます。一方で、心理学、特に実験心理学という学問の歴史は意外に浅く、確立されたのは1800年代中頃だといわれています。
ヴント(Wundt)は、心理学を哲学の分野から切り離し、心理学を直接経験される意識の内容を研究の対象とするとしました。ヴントは、心理学を独立の学問として規定し、体系化を果たしたということで、「実験心理学の父」と呼ばれています。
彼は意識の内容を調べるために、内観法という方法を用いて検討しました。
内観法の概要
- 内観法とは、ある特定の刺激によって生じる意識的経験を報告させることで、意識の内容を調べる方法である
- ここでいう内観というのは、単に思ったことを報告させるということではなく、厳密に統制された刺激を与えたときの意識の内容を訓練した実験参加者に報告させるというものである
このような特徴から、ヴントの扱った心理学は内観心理学と呼ばれます。
2-2:ワトソンの議論
こうした、内観心理学は個人に依存しすぎるため科学として客観的に扱うべきではないと批判したのがワトソン(Watson)です。ワトソンは1993年に、「行動主義者から見た心理学(Psychology as the behaviorist)」というタイトルの論文を公刊しました。
彼は、この論文において心理学を科学とするためには、心理学の対象は客観的に観察や測定が可能であり、ほかの場所でほかの人が行っても同じような結果になるものを対象にしなければならないという行動主義宣言を行いました。
さらに具体的には、以下のような主張がされました。
- ワトソンは、「心」のようなものを用いると、人間の行動を説明するときに、実際には観察できないもの(心とか意識とか)を想像する必要が出てきてしまい、それは科学的な方法ではないと批判した
- ワトソンは心理学から、心や意識といった、主観的なものを徹底的に排除し、観察可能な行動のみを研究するという立場であった
2-3:徹底的行動主義
その後、この行動主義の考え方を引き継ぎ、さらに発展させたのがスキナー(Skinner)です。スキナーは自分自身の見方を徹底的行動主義として、ワトソンの行動主義と区別しました。
この徹底的行動主義の立場では、客観的に観察可能かどうかという点は些細な問題であり、客観的な出来事も主観的な出来事も行動として扱うことが出来ると考えます。たとえば、次の例を考えてみてください。
- 「アイスを食べる」というのは客観的に観察可能な出来事である。なぜなら、アイスを食べるという行動は、周りにいる人も観察できることだからである
- 対して「アイスを食べたいと思う」とは、主観的な出来事である。アイスを食べたいと思っているのが私自身だから、これは周りの人が観察することはできない
この2つの出来事の間の違いは何でしょうか?それは、周りの人が観察できるかどうかです。スキナーの考え方では2つの出来事は、主観的にも客観的にもなりうると考えられます。
たとえば、「アイスを食べる」という出来事が、外部から遮断された密閉された空間内で行われていたら、この出来事は主観的な出来事になります。対して、「アイスを食べたいと思う」という出来事も、科学技術が発展して頭の中で考えていることが外部からみられるようになれば、客観的な出来事になります。
つまり、スキナーの提唱する徹底的行動主義では、主観的な出来事も客観な出来事も等しく行動してとらえ、科学の対象とすることが出来ると考えるということです。
- ワトソンは心理学の対象は客観的に観察や測定が可能であり、ほかの場所でほかの人が行っても同じような結果になるものを対象にしなければならないという行動主義宣言をした
- スキナーは客観的に観察可能かどうかという点は些細な問題であり、客観的な出来事も主観的な出来事も行動として扱うことが出来ると考えた
3章:行動主義の例
これまで説明してきた行動主義の主な関心は、外界のから与えられた特定の刺激(stimulus)とそれに対する反応(response)の結びつきの解明でした。このような結びつきのことを「連合」といいます。
3-1:パブロフによる古典的条件づけの実験
このような連合がどのように形成されるのかについて行動主義の心理学者は、多大な功績を残しました。もっとも有名な実験がパブロフによる古典的条件づけの実験です。
おそらく心理学になじみがないような方でも、パブロフといえば犬を思い浮かべるのではないでしょうか。そのイメージ通り、パブロフは、犬を対象に実験を行いました。
実験の前提
- 実験目的は、刺激と反応の結びつきである連合がどのように形成されるのかを確かめることであった。具体的には、ベルの音(刺激)によって唾液を出す(反応)という連合の形成が可能かどうかを検討された
- 実験を始める前の時点では、ベルの音は特に反応を起こさない。このような刺激を中性刺激という
- また、犬は餌を食べると唾液をだす。つまり、餌を食べるという刺激と唾液を出すという反応は生理的に獲得している連合である
- このような刺激を、無条件刺激(餌)といい、それに対する唾液のような反応を無条件反応という
パブロフは、餌を与えるときに必ず、ベルの音を鳴らすようにしました。これを何度も繰り返すと、次第にベルの音を聞くだけで犬は唾液を出すようになりました。このことは、無条件刺激と中性刺激が一緒に提示され続けたために、中性刺激と無条件刺激に伴って生じる無条件反応の間の連合を学習したためだと考えられます。
3-2:ワトソンによるアルバート坊やの実験
上記の実験に着想を得たワトソンは、このような刺激と反応という客観的に観察可能な事象のみで学習を行うことが人間においても可能だと考えて、実験を行いました。これはアルバート坊やの実験として有名な実験です。
実験目的
- 赤ちゃんがもともと怖がっていなかったぬいぐるみを古典的条件づけによって怖がるようになるかを確かめること
- ワトソンは赤ちゃんのアルバート坊やに対して、白いネズミのぬいぐるみを渡すと同時に、大きな音を鳴らした
- パブロフと共通の用語を使用して説明すると、白いネズミのぬいぐるみが中性刺激、大きい音が無条件刺激、恐怖反応が無条件反応に対応する
実験の結果、アルバート坊やは白いネズミのぬいぐるみを渡されると恐怖反応を示すようになりました。このことは、人間においても古典的条件づけによる学習が有効であることを示しています。
また、この実験を行った結果、そのほかの白い犬や白いクマのぬいぐるみといったに多様な対象に対しても恐怖反応を示すようになりました。このことは、単一の刺激と反応だけではなく類似した刺激と反応の間の連合を学習していることを示しています。
3-3:古典的条件づけの体験
さて、ここまで難しい話が多かったので、あなたにも古典的条件づけを体験してもらいたいと思います。
もちろん、記事を読んでいただくだけでは、刺激と反応を学習させることは容易ではありませんので、あなたがすでに獲得しているであろう連合を利用してみたいと思います。あなた、今から挙げるものを出来るだけリアルに想像してみてください。
「梅干し」
想像しましたか?どうでしょう、今皆さんの口の中には唾液がたくさん分泌されているのではないでしょうか?
このようなことが生じるのも条件づけによるもので、用語を用いて説明すると、梅干しの味覚刺激が無条件刺激、唾液が無条件反応に当たり、「梅干し」という文字列やそれに含まれる視覚情報やイメージに対応します。
このように、私たちは意外と身近なところでこのような刺激と反応の連合を学習しているというわけです。
- 行動主義のもっとも有名な実験がパブロフによる古典的条件づけの実験である
- ワトソンはパブロフによる古典的条件づけの実験をヒントに、アルバート坊やの実験を実施した
4章:行動主義への批判
行動主義に対する最もポピュラーな批判として、人間のブラックボックス化が挙げられます。これは、人間を観察可能な行動のみで記述するべきだというワトソンの考え方に対する批判です。
一方で、認知主義の考え方では、このブラックボックスの中身こそ心理学が扱うべき対象であり、人間が世界をどのように解釈するかといったような人間の内側を明らかにするべきだと考えます。
4-1:認知主義との違い
一方で、スキナーの徹底的行動主義の立場はこのような批判を受けません。なぜならこの立場では、主観的な事象も検討の対象になるため、人間をブラックボックスとして扱っているというわけではないためです。
では、行動主義と認知主義の間の違いは何なのでしょうか?その主な争点の1つは、自由意志の存在を認めるかどうかという部分にあるといわれています。
- 行動主義の考え方
→行動は遺伝と環境、および個人の経歴によって決定されると考える。言い換えると、行動主義の考え方では、人間が自分の意志で判断や決定を行うとは考えない
→行動は、遺伝や環境や文脈にとって決定されるというこの考え方は決定論と呼ばれる - 認知主義の考え方
→人間は意識的に考え、意思決定を行い、感情を感じることが出来ると考える
つまり、行動主義と認知主義の間ではこの自由意志を持つかという点において大きな違いがあるということです。
ちなみに、「自由意志がないこと」とは、私たちの実感と違いすぎてなかなか理解できないかもしれません。自分の行動は自分の「意思」で決定しているという感覚がその証拠だというかもしれません。
一方で、このような感覚が行動に付随して起こる単なる反応であり、我々は意思があるように感じているだけなのだという考え方もあります。このようにこの観点については現在も哲学を含めた、さまざまな論争が行われている点でもあります。
自分の趣味嗜好・政治的意見までもが、身体にしみついた社会的性向によるものとして考えることを「ハビトゥス」といいます。より詳しくは、ブルデューがハビトゥス概念を参照ください。
一方で、この決定論か自由意志かどちらかという証拠を用意するのは非常に難解だといわれています。なぜなら決定論ではないということを証明するためには、遺伝的にも、環境的にも、個人の経験も全く同一の個体を用意したときに異なる行動をとるかということを検証する必要がありますがそれは不可能です。
このように、行動主義と認知主義は、根本的な部分で人間に対する考え方が異なっていますが、人間理解という目的に関しては共通しているということが重要かもしれません。
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5章:行動主義について詳しく学べる本
行動主義を理解することはできましたか?最後に、あなたの学びを深めるためのおすすめ書物を紹介します。
オススメ度★★★ 鹿取廣人・杉本敏夫・鳥居修晃『心理学[第5版]』(東京大学出版)
これは、東大出版が出している心理学の教科書書籍です。この教科書では心理学史についての記載が充実しており、行動主義についての歴史的な大まかな流れを知るのに有効です。
オススメ度★★ 坂上貴之・井上雅彦『行動分析学』(有斐閣アルマ)
行動分析学の基礎から応用まで網羅的に概説されている教科書です。古典的な理論だけではなく最新の知見についても触れられているので、現在の行動分析学の立ち位置を理解できます。
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オススメ度★★★ ウィリアム・M・ボーム『行動主義を理解する: 行動・文化・進化』(有限会社二瓶社)
行動主義の立場から、行動主義の成り立ちから非常に詳細に説明されています。この書籍では、行動主義に対する主な批判に対して反論を示す形で章が進んでいきます。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- 行動主義とは、科学が扱うべき対象を客観的に観察可能な行動に限るべきだと考える立場である
- ワトソンは心理学の対象は客観的に観察や測定が可能であり、ほかの場所でほかの人が行っても同じような結果になるものを対象にしなければならないという行動主義宣言をした
- 行動主義に対する最もポピュラーな批判として、人間のブラックボックス化がある
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