心理学

【プラシーボ効果とは】事例から心理学的な研究までわかりやすく解説

プラシーボ効果とは

プラシーボ効果(Placebo effect)とは、偽薬効果というもので、実際には効果のない偽物の薬を飲んだにも関わらず、その薬によって何らかの症状の改善がみられることです。

心理学の現象の中でも非常に有名なプラシーボ効果ですが、それが生じる場面は非常に限定されています。そのため、学術的議論に沿ってしっかり理解をする必要があります。

そこで、この記事では、

  • プラシーボ効果の意味・例
  • プラシーボ効果の心理学的実験

をそれぞれ解説していきます。

好きな箇所から読み進めてください。

このサイトは人文社会科学系学問をより多くの人が学び、楽しみ、支えるようになることを目指して運営している学術メディアです。

ぜひブックマーク&フォローしてこれからもご覧ください。→Twitterのフォローはこちら

Sponsored Link

1章:プラシーボ効果とは

1章では、プラシーボ効果の全体像を提示します。プラシーボ効果の心理学的実験に関心のある方は、2章から読んでみてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:プラシーボ効果の意味

そもそも、「プラシーボ(placebo)」とは以下の意味をもつ言葉です。

  • 「偽薬」、すなわち医学的には何の薬学的影響も及ぼさない物質を指した言葉
  • もともとはラテン語の「placēbō(私を喜ばせる)」に由来する言葉といわれている

プラシーボ効果とは、ここでいう偽薬を、何らかの効果のある薬だと信じ込ませることで、何らかの症状の改善がみられることを指しています。

この偽薬の投与によって生じる生体的、心理的反応をプラシーボ反応といいます。プラシーボ反応には、呼吸やホルモンの変化といった身体的なものから、気分の変化といった心理的なものが含まれます。

なぜこのようなプラシーボ効果が表れるのかについては現在も明確な答えは得られていません。鎮痛治療に関するプラシーボ効果を調べた研究では、プラシーボ反応のような変化が古典的条件づけを背景に持つと説明しています2Price, D. D., Finniss, D. G., & Benedetti, F. (2008). A comprehensive review of the placebo effect: recent advances and current thought. Annu. Rev. Psychol., 59, 565-590.

古典的条件づけとは、パブロフの犬という実験で有名な学習のメカニズムです。

実験概要

  • この実験は犬に対して行われた
  • 犬は、餌を出されると唾液を分泌する
  • パブロフは犬に餌を与える際に、同時に鈴を鳴らした。また、パブロフは、餌を出すと同時に鈴を毎回鳴らした
  • すると、犬は、鈴が鳴ると唾液が出るようになった

ここでいう、餌を無条件刺激といい、それによって生じる唾液を出すという反応を無条件反応といいます。そして、無条件反応を起こさないような刺激(ここでは鈴を鳴らす)を中性刺激といいます。

この犬のように、無条件刺激と中性刺激を繰り返し対呈示されることで、無条件刺激によって生じる無条件反応と中性刺激の間に連合が生じて、中性刺激だけでも無条件反応が生じるようになるような学習を古典的条件づけといいます。

この古典的条件づけの考え方をもとにプラシーボ効果を考えてみましょう。

  • 鎮痛剤には痛みを和らげる効果がある
  • 古典的条件づけの用語で言いかえると、鎮痛剤が無条件刺激、痛みが和らぐが無条件反応、薬といわれた白い粒を飲み込むが中性刺激だと考えることができる
  • つまり、この古典的条件づけによる説明では、プラシーボ効果は、古典的条件づけによって中性刺激によって、無条件反応が生じてしまうために起こると説明される

プラシーボ効果がなぜ生じるのかということに関しては、この古典的条件づけ以外にも、期待や暗示、さまざまな要因があります。



1-2: プラシーボ効果を疑問視する立場

一方で、プラシーボ効果のような効果は本当にあるのかと疑問視する立場もあります。実際に、プラシーボ効果は実際にはほとんど効果がみられないことを示す研究がいくつもあります3Kienle, G. S., & Kiene, H. (1997). The powerful placebo effect: fact or fiction?. Journal of clinical epidemiology, 50(12), 1311-1318.

ここでは「なぜプラシーボ効果があるように見えてしまうのか」という点について、因果関係に着目しながら議論しています。

一般的にプラシーボ効果がみられる場面を考えてみましょう。Aさんは、ある疾病を抱えています。Aさんにプラシーボ(偽薬)を疾病に効く薬だとして投薬しました。するとAさんの疾病は回復しました。

さて、ここで問題です。Aさんの疾病が回復したのは偽薬のおかげでしょうか?答えは、「そうとは言えない」です。なぜなら、この偽薬の投薬と、疾病の回復の間には因果関係があるとは言えないからです。

因果関係とは、2つ以上のものの間に原因と結果の関係があることを意味しています。「Aさんの疾病が回復したのは偽薬のおかげ」ということを説明するためには、偽薬を飲むということとAさんの病気の回復の間に、この因果関係が成立する必要があります。

しかし、今回はそうとは言えません。なぜなら、それは以下の理由からです。

  • Aさんは偽薬を飲んだ後に、勝手に体調がよくなっただけという可能性ものこっている
  • つまり、偽薬を投与されなくても、回復していたという可能性である
  • もし、偽薬の投与によって、症状が回復したという因果関係を示すためには、偽薬を投与した人と、何も投与していない人をなるべく同じ比較して偽薬を投与した人が回復したかを見る必要がある

しかし、実際には、多くの疾病において、実験のために病気の状態を維持してくださいというのは倫理的に許されるものではありません。

そのため、結果としては、偽薬を投与したら症状が回復したという知見ばかりが集まってしまい、プラシーボ効果が「あるように見えてしまう」というわけです。



1-3:プラシーボ効果の事例

では、このプラシーボ効果は、どのような場面で利用されているのでしょうか?それは、新薬などの臨床試験の現場です。先ほどの、因果関係の話を思い出しながら次の話を考えてみてください。

仮に新しい薬が開発されて、その新薬が、疾病Aを治療する効果が見たいとなったときにどのように検証すればよいでしょうか?そうです、新薬を与えていない条件との比較が必要です。つまり、①新薬を与える条件、②投薬をしない条件を用意するわけです。

ですがこれで本当に条件がそろったといえるでしょうか?いいえ、これでは、もし病状が回復したとしても、①と②の間の「薬(と言われたもの)を飲む」という違いによって病状が回復した可能性が捨てきれません。

つまり、新薬の投与によって病状が回復したとしても、それが新薬の薬効による効果なのかプラシーボ効果によるものなのかを区別できないということです。

これを区別するためには、①と偽薬を与える条件と③偽薬を与える条件の間の比較をする必要があります。

  • もし、①のみで治療の効果がみられた場合、Aの薬効によって治療の効果がみられたことになる
  • 対して、①、②の両方で治療の効果がみられ、③の条件で効果がみられない場合はプラシーボ効果によるものとなる

つまり、これにより、新薬Aの薬効のみの違いによる治療の効果が検証できるというわけです。

1章のまとめ
  • プラシーボ効果とは、偽薬効果というもので、実際には効果のない偽物の薬を飲んだにも関わらず、その薬によって何らかの症状の改善がみられることである
  • プラシーボ効果を疑問視する立場からは「なぜプラシーボ効果があるように見えてしまうのか」という点について、因果関係に着目されて議論されている

Sponsored Link

2章:プラシーボ効果に関する心理学的な研究

さて、2章ではプラシーボ効果に関する心理学的な実験を紹介していきます。

2-1:プラシーボ効果が非常に強力であることを示した研究

ここでは、プラシーボ効果が科学的に認められるきっかけとなったといわれている、ビーチャーが1955年に行った調査の内容を紹介します4Beecher, H. K. (1955). The powerful placebo. Journal of the American Medical Association, 159(17), 1602-1606.

実験概要

  • ビーチャーは1082人の症例や実験を調査した
  • この調査では、手術後の痛み、せき、薬物による気分の変化、狭心症による痛み、頭痛、船酔い、不安と緊張、一般的な風邪に対するプラシーボの投薬によって、症状が回復した人の割合を調査した
  • その結果、調査対象となった患者1082名の約35%が症状が回復していた

この論文は、「THE POWERFUL PLACEBO(直訳:強力なプラシーボ)」というタイトルで公開され、プラシーボ効果の有用性についての議論が行われるようになりました。

2-2:プラシーボ効果の強さを疑問視する研究

一方で、このビーチャーの結果がプラシーボ効果を検証する上で、重要な要件を満たしていないという批判もあります5Kienle, G. S., & Kiene, H. (1997). The powerful placebo effect: fact or fiction?. Journal of clinical epidemiology, 50(12), 1311-1318.。先ほどの因果関係についての議論でも説明しましたが、プラシーボによって症状の改善がみられることを示すためには、偽薬を投与した条件と何も投与しない条件を比較する必要があります。

しかし、ビーチャーが1995年の論文で、調査対象にした患者のデータはプラシーボ対象薬物試験におけるものでした。つまり、先ほどの新薬の開発の話のように、新薬の効果を試すための対照群として用意されたプラシーボ群において、症状の回復がみられた患者の割合を示しています。

これでは、偽薬を投与したために症状が改善したという因果関係を示すデータとしては十分ではありません。そこで、キエンレとキエネは、ビーチャーのこれらの結果は、患者の「自然治癒」「平均への回帰」といったことに起因するものである可能性があると批判しました6Kienle, G. S., & Kiene, H. (1997). The powerful placebo effect: fact or fiction?. Journal of clinical epidemiology, 50(12), 1311-1318.。それぞれ解説していきます。

自然治癒というのは説明を加えるまでもないかもしれませんが、人間の体に備わっている治癒能力による病気の回復のことを指します。つまり、プラシーボの投薬は原因ではなく、自然治癒によって回復しただけではないかという疑義があるわけです。

また、平均への回帰というのは、統計的な現象の説明の1つです。サイコロを何度も降ってそのサイの目の平均を考えるような場面を想像してみてください。

  • はじめの10回の平均は5であった。すべてのサイコロの目の出る確率が等価な場合、予測される平均(予測平均)は(1 + 2 + 3 + 4 + 5 + 6)/6ですので、3.5である。それを考えると、この結果は予測平均よりも上にぶれているといえる
  • さて、もう10回サイコロを振ったとき、20回分のサイコロの目の平均は5よりも大きくなる確率の方が高いか、それとも小さくなる確率の方が高いか?
  • 正解は後者である。なぜなら、サイコロを振れば降るほど、予測平均に近づいていくはずだから

では、体の状態における平均値とは何でしょう?わかりやすいのは痛みです。仮に、持病や障がいを持っていないと仮定した時、痛みの平均状態はほぼ痛みがない状態に近いのではないでしょうか?

このような状態で、何らかの痛みを引き起こす疾病を患ってしまったとします。これは、先ほどのサイコロの例のように、予測される平均よりも上振れている状態であるといえます。

症状によっては痛みは増加する可能性もありますので、一概には言えませんが、あくまで確率の問題と考えたときにはこの平均への回帰の考え方に基づくと痛みは和らぐ確率の方が高くなります。つまり、プラシーボのあと回復がみられたのは確率的に平均状態へ戻った人がそれだけいたというだけの話だという批判です。



2-3: プラシーボ効果に対するさらなる批判

このほかにも、さまざまな点で、プラシーボ効果に対する批判が行われました。Hróbjartsson & Gøtzsche (2001)は、患者が偽薬を与えられた条件と未治療の条件にランダムに振り分けられた事例を収集し、プラシーボ効果がみられるかを調べました7Hróbjartsson, A., & Gøtzsche, P. C. (2001). Is the placebo powerless? An analysis of clinical trials comparing placebo with no treatment. New England Journal of Medicine, 344(21), 1594-1602.

つまり、偽薬を投与された条件で、未治療の条件よりも症状の回復がみられたときに、偽薬の投与が原因となって症状の回復という結果つながったという因果関係が検証できるような事例だけを集めて調査を行ったということです。

実験概要

  • 727の試験の内、上記の条件を検証するのに適切な114件の試験を対象にした分析を行った
  • 調査対象になった患者の数は約8000人近くに上った
  • この結果、継続的に行われる痛みの緩和治療のような場合では、わずかにプラシーボ効果がみられたが、そのほかのほとんどの症例でプラシーボ効果は観察されなかった

Hróbjartsson & Gøtzsche(2001)はこの結果から、上述したような新薬の開発などの臨床試験の場面以外の、治療目的での偽薬の使用がほとんど効果を期待できないと主張しています。

この章では、プラシーボ効果について批判的な観点を多くまとめました。特にHróbjartsson & Gøtzsche (2001)の結果は、特定の限られた状況以外では、プラシーボ効果がほとんど見られないというものでした。

つまり、心理学の現象の中でも非常に有名なプラシーボ効果ですが、それが生じる場面は非常に限定されているというということです。

2章のまとめ
  • 患者の「自然治癒」や「平均への回帰」から、プラシーボ効果は批判された
  • 特定の限られた状況以外では、プラシーボ効果がほとんど見られない

Sponsored Link

3章:プラシーボ効果について学べる本・論文

プラシーボ効果を理解することはできました?

プラシーボ効果に少しでも関心をもった方のためにいくつか本を紹介します。

おすすめ書籍

オススメ度★★★ ブローディ・ハワード『プラシーボの治癒力──心がつくる体内万能薬』(日本教文社)

プラシーボ効果についての事例を交えながら、プラシーボ効果がなぜ起こるのかについての説明を提示してくれる書籍です。日本語の書籍ですので、読みやすいと思います。

created by Rinker
日本教文社
¥2,409
(2024/11/21 18:34:20時点 Amazon調べ-詳細)

Beecher, H. K. (1955). The powerful placebo. Journal of the American Medical Association, 159(17), 1602-1606.

2-1で紹介したプラシーボ効果の強力さを主張した論文です。非常に古い論文ですが、内容としてはそこまで難しいわけではないです。2-2で述べたように批判の対象となっている論文ではありますが、問題点を理解する意味でも目を通す価値はあるかと思います。

Kienle, G. S., & Kiene, H. (1997). The powerful placebo effect: fact or fiction?. Journal of clinical epidemiology, 50(12), 1311-1318.

2-2で紹介したビーチャー(1995)の問題点を挙げている論文です。本記事で説明したよりもさらに多くの問題点が整理されています。プラシーボ効果がどういう観点で批判されているのかということを理解するのに役立ちます。

学生・勉強好きにおすすめのサービス

一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。

最初の1冊は無料でもらえますので、まずは1度試してみてください。

Amazonオーディブル

また、書籍を電子版で読むこともオススメします。

Amazonプライムは、1ヶ月無料で利用することができますので非常に有益です。学生なら6ヶ月無料です。

Amazonスチューデント(学生向け)

Amazonプライム(一般向け) 

数百冊の書物に加えて、

  • 「映画見放題」
  • 「お急ぎ便の送料無料」
  • 「書籍のポイント還元最大10%(学生の場合)」

などの特典もあります。学術的感性は読書や映画鑑賞などの幅広い経験から鍛えられますので、ぜひお試しください。

まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • プラシーボ効果とは、偽薬効果というもので、実際には効果のない偽物の薬を飲んだにも関わらず、その薬によって何らかの症状の改善がみられることである
  • プラシーボ効果を疑問視する立場からは「なぜプラシーボ効果があるように見えてしまうのか」という点について、因果関係に着目されて議論されている
  • 心理学の現象の中でも非常に有名なプラシーボ効果ですが、それが生じる場面は非常に限定されている

このサイトは人文社会科学系学問をより多くの人が学び、楽しみ、支えるようになることを目指して運営している学術メディアです。

ぜひブックマーク&フォローしてこれからもご覧ください。→Twitterのフォローはこちら

参考文献

  • Brody, H and D. Brody.(2000). The Placebo Response: How You Can Release the Body’s Inner Pharmacy for Better Health, Cliff Street Books.(ブローディ・ハワード 伊藤はるみ(訳)2004『プラシーボの治癒力──心がつくる体内万能薬』日本教文社)
  • Beecher, H. K. (1955). The powerful placebo. Journal of the American Medical Association, 159(17), 1602-1606.
  • Hróbjartsson, A., & Gøtzsche, P. C. (2001). Is the placebo powerless? An analysis of clinical trials comparing placebo with no treatment. New England Journal of Medicine344(21), 1594-1602.
  • Kienle, G. S., & Kiene, H. (1997). The powerful placebo effect: fact or fiction?. Journal of clinical epidemiology50(12), 1311-1318.
  • Price, D. D., Finniss, D. G., & Benedetti, F. (2008). A comprehensive review of the placebo effect: recent advances and current thought. Annu. Rev. Psychol.59, 565-590.