ジェンダー論

【アンチフェミニズムとは】特徴・日本とアメリカの事例からわかりやすく解説

アンチフェミニズムとは

アンチフェミニズム(Anti-feminism)とは、フェミニズムに反対する思想や運動のことを指します。しばしば、バックラッシュとも呼ばれます。

アンチフェミニズムはフェミニズムを一枚岩的に捉えているため、建設的な議論に達しているようには思えません。お互いの対話を開くためには、まず両者の立場を理解することが大事です。

そこで、この記事では、

  • アンチフェミニズムの背景・特徴
  • アンチフェミニズムの具体的な運動

などをそれぞれ解説していきます。

関心のある所から読み進めてください。

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1章:アンチフェミニズムとは

フェミニズムは誕生以来ずっとバッシングにさらされており、アンチフェミニスト(反フェミニスト)の存在はつきものでした。

ちなみに、日本におけるカタカナの「アンチフェミニズム」という用語は、2010年代に入りSNS上で盛んに用いられはじめたものであり、現時点では学術用語として定着しているとは言い難い状況です。

よって、この記事では、冒頭で定義したとおり、バックラッシュを含むフェミニズムに反対する動きの一般的な総称として「アンチフェミニズム」を用います。

1-1: アンチフェミニズムの背景

18世紀、フェミニズムの世界的先駆者であるフランスのオランプ・ド・グージュが「扇動的」という理由で処刑され、19世紀からはじまるイギリスの第一波フェミニズムでは女性たちが警察官に投げ飛ばされ輪姦の対象になったように1中村久司 2017『サフラジェット――英国女性参政権運動の肖像とシルビア・パンクハースト』大月書店、フェミニストの前には幾度となく巨大な障壁が現れ、女性たちはそのたびに膝についた泥を拭って立ち上がってきました。

女性の権利獲得と解放を求めるフェミニズムの歴史には、つねに「逆流」や「反動」を意味するバックラッシュの存在がありました。そのような「アンチフェミニズム」を大まかに分類すると、以下のようになります。

政治的・イデオロギー的にフェミニズムを批判するもの

  • アメリカのバックラッシュ(1970年半ば〜)
  • 日本のバックラッシュ(2000年代前半)
  • 日本のカタカナの「アンチフェミニズム」(2010年代〜)

第二波フェミニズムを後続の世代が批判するもの

そして、フェミニストに対する数ある「反動」のなかで、この記事で注目するのが、アメリカでは1970年代、日本では2000年代前半の動きです。



1-2: アメリカと日本における反動

まず、アメリカから見ていきましょう。

1960年代後半に公民権運動や学生運動の波と同時期に起こった第二波フェミニズムが問題にしたのは、男性を中心にした近代社会のあり方そのものでした。

  • 「個人的なことは政治的なこと」をスローガンに運動を展開していった
  • 具体的には、教育と雇用の場での機会均等、性差別の是正、中絶、セクシュアル・ハラスメント、日常に潜む性差別など、法制度では覆いきれない公私領域における抑圧全体を問題とした

※より詳しくは次の記事を参照ください→【第二波フェミニズムとは】背景・目的・具体的な運動からわかりやすく解説

そんななか、1970年代半ばまでに、とりわけフェミニズムが重要課題としてきた妊娠中絶と、性別役割の否定と中絶の権利が書かれた平等権修正(Equal Right Amendment 略称: ERA)を憲法に書き込もうとする動きに対してバックラッシュがはじまります3大嶽秀夫 2017 『フェミニストたちの政治史――参政権、リブ、平等法』東京大学出版会 239−252頁

1973年の最高裁による中絶合法化の判決の後、ちょうどソ連のアフガニスタン侵攻と同時期であったこと、最高裁が公民権や中絶でリベラルな判決をつづけていたということもあって、ERAをめぐっては「フェミニストは共産主義者である」「家族を破壊しようとしている」と、バックラッシュ派が勢いを増します。

そして、バックラッシュが80年代に大衆化するきっかけになりました。ちなみに、アメリカでバックラッシュが認識しはじめられたのは、スーザン・ファルーディの『バックラッシュ』(1991=1994)の出版がきっかけでした。

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アメリカでは、第二次世界大戦で反ユダヤ主義が、そして1975年以降のソ連の解体のはじまりで反共産主義が時代遅れのものになったために、右翼団体のターゲットがフェミニストに移行しました。

さらに同時期、情報通信革命をきっかけにして、これまでの大量消費・大量生産のフォード経済から新自由主義的方向に舵が切られます。→新自由主義に関してはこちらの記事

1980年代半ばになると、学問の世界ではフェミニズムの危機が囁かれるようになります。1982年、ERAの成立によって目標を失った政治運動としてのフェミニズムが衰退し、学問の世界にしか残っていないという状態になりました。それはなにより、学問と運動が分離したことを意味しました。

そして、その後、さまざまな状況が新たな状況を生み出していきました。

  • 1980年代頃〜
    →ジェンダー間の平等は達成され、フェミニズムは必要なくなったという言説も流通しはじめます。つまり、新自由主義と親和的なポストフェミニズムという状況が生まれます。
  • 1990年代頃〜
    →新しい世代によって、母親世代の第二波フェミニズムを批判的に継承し、個性の平等を目指す第三波フェミニズムが誕生します。

もちろん、2010年代に入っても「フェミニズムは終わった」という表現は繰り返し囁かれており、3章で紹介する#WomenAgainstFeminism などのハッシュタグ運動にも発展しました。

一方で、日本では次のような状況がありました。

  • 1990年代後半に「新しい歴史教科書をつくる会」(1996)、「日本会議」(1997)が立て続けに生まれた
  • そして、保守勢力が「共産党の砦」ともいわれた日教組をターゲットにし、日本軍「慰安婦」問題や歴史教科書問題をテーマに反共、反知識人、反マスコミの姿勢をあらわにする
  • 2000年代に入ると、一斉に「ジェンダー・フリー」教育に矛先を向けることになった

では一体、それらはどのような特徴だったのでしょうか?2章でよりくわしく見ていきます。

1章のまとめ
  • アンチフェミニズムとは、フェミニズムに反対する思想や運動のことを指し、バックラッシュとも呼ばれる
  • アメリカと日本では、アンチフェミニズムが立ち上がる具体的な状況があった

 

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2章:アンチフェミニズムの特徴

アンチフェミニズムの思想的特徴について、結論を先取りすれば、伝統主義と新自由主義とがフェミニストを標的にすることで結びついたものであるということです。一体、どういうことでしょうか?

2-1: アメリカのバックラッシュ

政治学者の大嶽秀夫によれば、アメリカのバックラッシュの主張は以下の3つの流れに集約されます4大嶽秀夫 同上 240−252頁

  1. 伝統主義の復権
  2. 行き過ぎた性革命批判
  3. 新自由主義改革(福祉の削減)

まず、バックラッシュが1970年代からはじまったアメリカで、最大の争点は妊娠中絶でした。中絶に反対する運動の支持層はカトリックで、比較的貧しい階層の人びとでした。

主な主張

  • 中絶は「母性役割」を貶めるものである
  • フェミニズムに扇動された女性が男性や家族、子どもを憎むゆえに求めるものである
  • 「男性が女性を保護する責任から逃れさせるものだ」とされた

また、1970年代末から1980年代にかけてニューライト運動と呼ばれる反フェミニズムの女性団体が活躍しました。つまり、フェミニズムに反対していたのは男性だけはなかったのです。

学問の世界でも、1990年代はじめに論争になった「ポリティカル・コレクトネス(政治的に適切な言葉)」に対して、権威ある学者たちがアカデミズムの政治化を批判します。

レーガンの選挙時には福音派の動員がなされ、キリスト教原理主義者を動員するため教会のネットワークが形成されます。彼らの中心的な要求は、妊娠中絶反対、公共教育における祈祷でした。
→キリスト教原理主義について詳しくはこちら

なぜここで宗教が出てくるのかというと、宗教は何よりも性関係を規制するものとして社会的な機能を果たしており、家族の秩序や伝統的なジェンダー秩序の擁護者でもあったからです。

このように、バックラッシュの3つの流れは相互に共鳴しつつ、フェミニズムに反対するかたちで(現在もなお)立ちはだかっています。

しかし興味深いのが、性別役割分業を重んじる「①伝統主義の復権」と、市場原理主義を推し進める「③新自由主義改革」は矛盾するように見えることです。

1950年代の「古き良き時代」の家庭像を理想としたバックラッシュ派にとって、競争を奨励し個人主義を徹底して追求する新自由主義の価値は対立しないのでしょうか?なぜ、両者が共通の要求となるのでしょうか?

この問いについては、日本のケースを見たあとでさらに探ってみたいと思います。



2-2: 日本のバックラッシュ

2000年代前半に日本で巻き起こったジェンダーフリー・バッシングについて見ていきたいと思います。

男女共同基本計画が閣議決定されたのが2000年12月、さらに第二次男女共同参画基本計画が閣議決定されたのが2005年12月でした。その間、「ジェンダーフリー教育」をターゲットにしたバックラッシュが一部の右派メディアで熱を帯びました。

山口智美は5山口智美 2006 「『ジェンダー・フリー』論争とフェミニズム運動の失われた10年」双風舎編集部編『バックラッシュ――なぜジェンダーフリーは叩かれたのか?』双風舎244-82頁、「ジェンダー・フリー」という用語を以下のように説明しています。

  • そもそも、「ジェンダーフリー」という言葉は、1995年に東京女性財団が若い教師や教員を目指す学生を対象として作成したパンレット「Gender Free」およびその報告書が初出である
  • 報告書では、「男女平等をもたらすような、人びとの意識や態度をあらわす言葉」として位置づけられていた

しかし、この用語は、実は誤訳をもとにしていました。英語に直訳すると「ジェンダーを無視する、見ないようにする」という真逆の意味となる和製英語でした。

ところが、多くの学者や行政が無批判にこの用語を使い、「ジェンダーフリー」社会を、「固定的なジェンダー意識から自由になる社会」「性差別のない社会」などと独自の解釈をくわえながら広めたことで、バックラッシュ派に攻撃のいとぐちを提供しました。

バックラッシュ派の主張

  • バックラッシュ派は、「ジェンダーフリー」を「フリーセックス」「過激な性教育」と意図的に混同することで、バッシングをしていった
  • 『諸君!』『正論』『産経新聞』などの右派メディアで「性差の否定」「家族の多様化」「性の自己決定」「親と子どもの関係」などが批判された

3章で紹介する国分寺市事件(2005)において、そのターゲットのひとりとなった上野千鶴子は、バックラッシュについてこう述懐しています6上野千鶴子 2006「不安なオトコたちの奇妙な<連帯>」双風舎編集部編『バックラッシュ――なぜジェンダーフリーは叩かれたのか?』双風舎 378頁

私はバッシングがはじまった当初から、バックラッシュ派は『うまいターゲットを見つけたな』と思っていました。なぜかというと、まず「ジェンダー・フリー」という言葉は、女性学の研究者のなかでも合意が形成されていないという意味で、フェミニズムのアキレス腱だったからです。つまり、行政フェミニズムと草の根フェミニズムの亀裂を衝く、という意味で攻撃されやすい言葉だったのです

つまり、70年代のウーマン・リブ以降、草の根の女性たちが地道に築いてきたフェミニズムを、行政が奪胎換骨するかたちとなった男女共同参画基本法が1999年に公布・施行され、同法が地方に基本計画となって降りはじめた頃、バックラッシュがはじまりました。

「行政フェミニズム用語」として生まれた「ジェンダーフリー」という言葉は、バックラッシュ派にとって、フェミニストだけでなく行政のほころびを見つけて締め上げるために好都合の言葉だったのです。

実際、この「ジェンダーフリー」問題は結果的に東京都の教職員らを萎縮させ、日の丸・君が代問題にまでおよぶことになります7上野 同上 380頁



2-3: 伝統主義と新自由主義はどうやって結びつくのか?

以上、アメリカと日本のバックラッシュの特徴について大まかに見ていきましたが、伝統主義の復権を目指す保守派宗教勢力と、新自由主義はどうやって結びついているのでしょうか?

まず押さえておきたいのは、本来、伝統主義者にとって、新自由主義は相性のいいものではないということです。

  • 新自由主義の進展は伝統主義者が守ろうとする家族や地域を壊し、社会を流動化させる
  • 加えて、グローバル化の進展によって、移民労働者の流入、途上国への生産拠点の移転など産業空洞化をうながし、社会的な不安は増していく

とはいえ、伝統主義者による新自由主義や資本主義体制に対する批判というのはほとんどないです。むしろ、そのような不安は社会の流動化や伝統の形骸化を象徴するような、フェミニストや性的少数者、移民労働者といった人たちへのバックラッシュというかたちで噴出することになります。

社会学者のホックシールドが『壁の向こうの住人たち――アメリカの右派を覆う怒りと嘆き』で示したように、それは「辛抱強く列に並んで待っていたのに、そこへ、次々と列の前に割り込む者が現れた、許せん!」という主張です8ホックシールド, アーリー・ラッセル 2016=2018『壁の向こうの住人たち――アメリカの右派を覆う怒りと嘆き』布施由紀子訳 岩波書店 378頁

荻上チキと小山エミによれば、このパターンは以下のような構図をつくっています9小山エミ・荻上チキ「<コラム>バックラッシュを知るためのキーワード10」双風舎編集部編『バックラッシュ――なぜジェンダーフリーは叩かれたのか?』双風舎 157-8頁

  • 「社会政策に『寄生』し既得権益を貪る『弱者権力』だ」というパターン化された怒りのかたちを取ることが多い
  • そして、新自由主義による社会の変化に不安を抱える人たちが、いつの間にか新自由主義を強化するような論理を主張するという皮肉な構図が出来上がっている

また、宮台真司は、このおびえを「不安のポピュリズム」と呼び、以下のように説明しています。

「新自由主義的なセルフ・ヘルプ思想は、家族共同体や性別役割分業の護持を同時に主張し、むしろ行政の介入が、家族の地域の自立相互扶助メカニズムを空洞化させるのを恐れ(ることを政府介入への反対の根拠にし)ます。だから新自由主義者は『伝統』や『共同性』を平気で押しつけ」10宮台真司 2006「ねじれた社会の現状と目指すべき第三の道――バックラッシュとどう向き合えばいいのか」双風舎編集部編『バックラッシュ――なぜジェンダーフリーは叩かれたのか?』双風舎 26頁るのだ

いずれにせよ、伝統主義者は競争原理を徹底させる新自由主義がひき起こす社会変化に不安を覚えながらも、それ自体に抗うことはしません。

むしろ、その価値を取り込み、「(自助努力すべきなのに)ヤツらは恩恵を受けすぎている」と、「だから政府は介入するな」と、「列の前に割り込む」かのように見える弱者を叩くことで不安を解消しようとするのです。

つまり、伝統主義と新自由主義は、弱者を標的にすることで、お互いがより安定的に結びつき、自己存在の原動力にしているということができます。

2章のまとめ
  • 宗教は何よりも性関係を規制するものとして社会的な機能を果たしており、家族の秩序や伝統的なジェンダー秩序の擁護者でもあった
  • バックラッシュの特徴は、伝統主義と新自由主義が弱者を標的にすることで結びついている点

 

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3章:アンチフェミニズムの日本とアメリカの事例

さて、3章では、日本の「国分寺事件」と呼ばれるバックラッシュ事件、アメリカのハッシュタグ運動である#WomenAgainstFeminismキャンペーンについて具体的に見ていきたいと思います。

3-1: 日本 〜国分寺事件

日本では、2005年8月、ジェンダーフリー・バッシングの象徴的な事件が起こります。東京都国分寺市が都の委託で計画していた人権学習の講座に女性学者の上野千鶴子を招こうとしたところ、都の介入で取り消しになったという事件です。その経緯はどのようなものだったのでしょうか?

毎日新聞によると、それは以下のとおりです11毎日新聞夕刊(首都圏)2006年1月10日

  • 国分寺市は2004年3月、都に概要の内諾を得たうえで、市民を交えた準備会をつくり、計12回の連続講座を企画
  • 2003年に当事者運動の可能性を論じた『当事者主権』を出版したばかりの上野に、人権意識をテーマに初回の基調講演を依頼しようと同7月に市が都に相談をした
  • ところが、これに都が難色を示し、講師の変更を迫った
  • 同市は同8月、委託自体の申請を取り下げ、連続講座そのものが中止となった

都は「上野さんは女性学の権威。講演で『ジェンダー・フリー』の言葉や概念に触れる可能性があり、都の委託事業に認められない」と説明しました。

石原都政(1999〜2012)の下での2002年8月、都教委は「(ジェンダーフリーという用語は)男らしさや女らしさをすべて否定する意味で用いられていることがある」として、「男女平等教育を推進する上で使用しないこと」との見解をまとめていたというのです。

(※石原都知事は同年「ジェンダーフリー」という言葉の生みの親ともいえる東京女性財団を解散させています)

しかし、上野は、そもそも「ジェンダーフリー」という女性学や研究者の間でも合意が形成されていない用語は採用しないと明言します。同時に、言葉は生き物なので話者の自由であるが、公的機関が統制することについては危機感を感じていると述べています12上野 同上 403頁 なお、上野は同書の396頁で「ジェンダーフリー」という用語の代わりに国際標準で憲法にも明記されている「男女平等(gender equality)」を使えばいいだけと主張しています。

2006年1月13日には、石原都知事や都教育長らに公開質問状を送付しました。さらに、研究者が呼びかけ人となって、東京都教育委員会と都知事に抗議文を提出し、1808筆の賛同署名もそえられました13小山・荻上 同上 155−156頁

このように行政職員の都知事への忖度(そんたく)によって起きた「ジェンダーフリー」をめぐる「言論統制事件」は、バックラッシュ派による日の丸・君が代問題とともに教育行政を萎縮させていきます。

上記しましたが、冷戦終結以降のグローバル化による地位低下という不安感のもとで、ジェンダーフリー・バッシングだけでなく、靖国問題、天皇制、日本軍「慰安婦」問題と、ネオ・ナショナリズム的なバックラッシュはすべてむすびついています。この国分寺事件は、その一端であった、ということができます。



3-2: アメリカ 〜#WomenAgainstFeminism

つぎに、SNS上で2013 年から生じたアンチフェミニズムのハッシュタグ運動、#WomenAgainstFeminismについて、高橋幸の研究を中心に紹介していきます14(ここで紹介するのはその研究の一端ですので、より詳しく知りたい方はリンク先の論文に飛んでみてください)高橋幸 2019 「若い女性の「フェミニズム離れ」をどう読み解くか:#WomenAgainstFeminism(2013-2014)の分析から」『女性学ジャーナル』

#WomenAgainstFeminism(以下、#WAF)は、2013年頃にはじまったアンチフェミニズムのハッシュタグ運動です。具体的には、以下のような特徴があります。

  • #WAFは、「私はフェミニズムを必要としない、なぜなら…(I don’t need feminism, because…)」という定型文から始まり、その理由を書き、ハッシュダグをつけてSNS等で共有するキャンペーンである
  • #WAFの何よりの特徴が、フェミニズムに反対しているのは女性であるということを強調するため、主に「若い女性」の自撮り(セルフィ)という手段をとった点である

そこで高橋は、2013年7月から2014年12月までのタンブラーにおける139人分の投稿写真を分析対象とし、内容をコーディングして分類しました。すると以下のような結果が出ました。

139人分の投稿写真の分析結果

①性別役割重視 19.4%(64)

  • 「私は夫のためにクッキングするのが好きだから」
  • 「私は女らしいファッションが好きで、女らしくありたいと思っているから」
  • 「私は男が嫌いじゃないから」等

②「個人」主義 47.8%(157)

  • 「私はフェミニズムが言うような犠牲者ではないから」
  • 「私は自由で幸せだから」
  • 「フェミニズムは私の声ではなく、私の主張とは異なるから」等

③アンチフェミニスト 32.6%(107)

  • 「すべての男性がレイピストではない」
  • 「男性を悪魔化する必要はない」等

高橋は①と②をポストフェミニストとしてまとめ、③の政治的・イデオロギー的にフェミニストに反対するアンチフェミニストと切り離します15高橋の定義では、アンチフェミニストとは政治的・イデオロギー的にフェミニストに反対する者として限定されている点は注意が必要です。

ポストフェミニストとは、ジェンダー平等は達成され、もはやフェミニズムは必要なくなったと考える状況を指します。

そして、ジェンダー不平等から生まれる諸問題を「女らしさ」や「女性的な魅力」をみがくなど、性別役割を否定しない個人的な努力によってのりこえようとする女性たちのことを指します。

それらの女性たちは、「女らしさ」や料理が好きだという考えがフェミニストによって批判されていると思いこんでいるがゆえに、#WAFのような形で反対の態度を表明します。

しかし、これまで紹介してきたように、実は、フェミニズムは性別役割を家事労働や家父長制の分析をとおし見つめ、性の解放を実践し、「女性原理」とは何か、「男並み」とはどういうことか、「私らしい」平等のあり方などなど、論争を重ねながら発展してきた多様性にあふれた思想であり運動です。

※より詳しくはジェンダー論の記事を読んでみてください。

高橋の分析をとおし見えてきたことは、それをとらえそこない、フェミニズムの表面的な批判に始終しているという点が#WAFキャンペーンの特徴であるということです。

もちろんこのネット上には、女性だけでなく、男性のアンチフェミニストたちもあふれています。そのすべてを把握することはできませんが、それらに共通するのは、(意図的/非意図的含む)フェミニズムの単純化であるということができます。

フェミニズムは多様性に満ち一枚岩ではないというのは、フェミニズム理解のための難しさですが、それはフェミニズムという思想と運動が豊穣であるということの証でもあるのです。

2章のまとめ
  • アンチフェミニズムの具体的な運動の一例は、日本の「国分寺事件」と、アメリカのハッシュタグ運動である#WomenAgainstFeminismキャンペーン
  • アンチフェミニズムに共通するのは、フェミニズムの単純化である

 

4章:アンチフェミニズムを学ぶためのおすすめ本

アンチフェミニズムについて理解が深まりましたか?

さらに深く知りたいという方は、以下のような本をご覧ください。

おすすめ書籍

双風舎編集部編『バックラッシュ――なぜジェンダーフリーは叩かれたのか?』双風舎

ジェンダーフリー・バックラッシュ言説を批判的に検討した論考集です。このページでも多くを参照しています。

大嶽秀夫『フェミニストたちの政治史――参政権、リブ、平等法』(東京大学出版会)

第一波フェミニズムから日米のバックラッシュまで、左右の主張を幅広く網羅した政治史です。

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Faludi, Susan, 1991, Backlash: The Undeclared War Against American Women, Crown: New York. (=1994, 伊藤由紀子・加藤真樹子訳『バックラッシュ―逆襲される女たち』新潮社)

マスメディアによって流されるイメージが女性の内面に入り込み、平等を阻害していると指摘しています。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • アンチフェミニズムとは、フェミニズムに反対する思想や運動のことを指し、バックラッシュとも呼ばれる
  • バックラッシュの特徴は、伝統主義と新自由主義が弱者を標的にすることで結びついている点
  • アンチフェミニズムに共通するのは、フェミニズムの単純化である

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