経営学

【組織行動とは】目的・テーマから具体的な事例までわかりやすく解説

組織行動とは

組織行動とは、組織の中で起こるさまざまな人間行動に着目した議論です。この組織行動を明らかにしようとするのが「組織内で人々が示す行動や態度についての体系的な学問」1須田敏『組織行動』NTT出版株式会社 2頁である組織行動論です。

組織行動論は、人々が社会で生活していく上で関わり合いを持つことが必須である「組織」に関する共通した論点です。

いまでは経営学部や商学部などのビジネス系の学部のみならず、他のさまざまな学部でも一般教養科目として取り上げられるほどの重要なテーマです。

そこで、この記事では、

  • 組織行動の意味や歴史
  • 組織行動の事例

をそれぞれ解説します。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:組織行動とは

まず、1章では組織行動を概説します。2章以降では組織行動の歴史や事例などを解説しますので、用途に沿って読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注2ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:組織行動の目的

組織行動の目的は、組織で働いている人の行動や考え方を理解することです。

ここで言う組織で働く人とはあなた自身や、上司や同僚、部下など職場で一緒に働く人のことを指します。仕事をスムーズに進めるには、同じ職場で働く人たちが何を考え、どのように行動しているのかを正しく理解する必要があります。

つまり、組織行動論とは実際に私たちが普段から実践していること、あるいは実践しようとしていることを学問的にまとめたものです。

1-2:組織行動論のアプローチ

そもそも、組織行動論とは人間の心理・行動を科学的に理解しようと試みようとする「行動科学」と呼ばれる学問分野を基にする経営学のひとつの論点です。

行動科学の代表的な学問分野には、以下のものが挙げられます。

  • 個人の心理や行動を分析する「心理学」
  • 社会に存在する集団心理や集団行動を分析する「社会心理学」
  • さらには社会現象の実態や現象の起こる原因に関するメカニズム(因果関係)を分析する「社会学」

さらに言うと、「政治学」「文化人類学」といったテーマも行動科学のひとつに分類されるでしょう。

そして組織行動論自体は、上で挙げた行動科学の分野に比べると後発の分野であるため、さまざまなテーマの影響を受けた学問分野であるのが特徴です。

現在の組織行動論にもっとも近しい学問である「組織心理学」が生まれたのが1960年代後半ごろであったことを考えると、組織行動論自体まだまだ新しい学問領域であるといえます。



1-3:組織行動の3つのテーマ

組織行動を考える上で、研究の対象となる主体は大きく「個人レベル」「グループレベル」「組織レベル」の3つにわかれます。

まずは、個人レベルです。

  • 主に心理学をベースとして「職務満足」や「モチベーション」といったテーマを取り上げる
  • テーマは、いずれも労働者個人に着目した論点であり、どのような労働環境を整備すれば労働者が高い満足で働くことができるのかを明らかにするものとなる

次に、グループレベルです。

  • 主に社会心理学や社会学をベースとして「組織文化」や「リーダーシップ」といったテーマを取り上げる
  • テーマは、組織内のグループに着目した論点であり、労働者個人が集まりグループを形成した時に、そのグループが組織にどのような影響を与え、組織のパフォーマンスにどう関係するのかを明らかにするものとなる

最後に、組織レベルです。

  • 主に政治学や人類学をベースとし「エンパワーメント」や「ダイバーシティ(多様性)」といったテーマを取り上げる
  • これらのテーマは、組織自体に着目した論点であり、組織全体の特性や構造などを探究するものとなる

今回記事で取り上げた組織行動に関する具体的な理論を知りたい方は、下記のリンクを参照してください。

個人レベル

  1. モチベーション理論
  2. 目標管理制度
  3. 人的資源管理

グループレベル

  1. リーダーシップ理論
  2. 組織文化

一般的な組織行動論では、「個人レベル」と「グループレベル」という比較的小さな単位に焦点を当てることから、組織行動は「ミクロ組織論」とも呼ばれます。

一方で、「組織レベル」は比較的大きい単位に焦点を当てていることから「マクロ組織論」と呼ばれ、異なる学問領域として区別されます。

1章のまとめ
  • 組織行動とは、組織の中で起こるさまざまな人間行動に着目した議論である
  • 研究の対象となる主体は大きく「個人レベル」「グループレベル」「組織レベル」の3つになる

 


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2章:組織行動の歴史と成り立ち

さて、2章では組織行動の歴史を簡潔に紹介していきます。

2-1:組織行動の礎としての産業心理学

これまで見てきたように、組織行動論は、組織に属している「労働者」の心理や行動に着目した論点です。

その起源を遡ると、早くとも労働者という概念が生まれた産業革命以後に生まれたものであるとわかります。

※労働者が生まれる成り立ちに関する記事はこちら→【人的資源管理とは】歴史・要素・具体的な事例からわかりやすく解説

モリス・S・ヴィテレスによると、心理学や生理学が労働問題の解決のために実際に科学的に応用され始めたのは、1880年頃から1990年ごろにかけてです3角隆司『組織行動の科学』ミネルヴァ書房 2頁

その頃に生まれたのが、経済生活の諸問題に対する心理学的な研究をおこなう「産業心理学」と呼ばれる学問領域です。この産業心理学が現在の組織行動論の礎になっています。

日本の経営学者である角隆司は、産業心理学の誕生に関して以下のように指摘します。

  • 産業心理学の誕生の萌芽をみるのは、ドイツの心理学者であるミュンスターバーグの出現以後である
  • ミュンスターバーグが広範囲にわたる諸問題の解決のために心理学を応用しようとする「精神技術学」を、産業界に本格的に持ち込んだことで産業心理学が生まれた

そして、角によればミュンスターバーグは自身の著書で以下のような主張をしています4角隆司『組織行動の科学』ミネルヴァ書房 4頁

心理学と精神技術学の適用による産業能率の増進は、経営者のみならず労働者の側にも労働時間の短縮や賃金の上昇や生活レベルの向上といった面で益するところ大となるとともに、さらにこのことが国民全体の経済的利益となり文化の向上にもつながる

このように、ミュンスターバーグは当時まだ一般的ではなかった人的資源の効率的活用によって、生産効率を上昇させようとする見解を学術界のみならず実務界に向けても示しました。



2-2:産業心理学の発展

その後、産業心理学の研究は産業革命の恩恵を著しく受け、急激な経済成長を遂げていたアメリカへで発展を遂げていきます。

産業心理学の発展

  • 研究領域は適性、労働条件、採用配置、訓練といった従来の労働心理学的な限定された範囲から、労働への動機付け、モラール、人間関係といった新たな経営社会心理学的領域へと拡大した
  • 研究対象は「個人」から「グループ」、さらに「組織」へと移り変わった
  • 社会心理学や集団力学の発展によって労働における人間の態度や価値観が重要視されるようになり、モラールや職務満足、リーダーシップの問題が盛んに研究された

そして、1960年頃になると前出の「組織心理学」が産業心理学に代わる幅広い学問領域を取り扱う新たな学問として登場することになります。

2章のまとめ
  • 経済生活の諸問題に対する心理学的な研究をおこなう「産業心理学」と呼ばれる学問領域である
  • 1960年頃になると前出の「組織心理学」が産業心理学に代わる幅広い学問領域を取り扱う新たな学問として登場した

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3章:組織行動の研究・事例

さて、3章では組織行動論のひとつのテーマである個人と組織の関わりについての代表的な2つの研究を紹介します。

組織行動論では主に「個人」と「グループ」に着目した研究が数多くおこなわれていますが、これに「組織」を加えた3者の関係性も非常に重要な論点です。

3-1:心理的契約

心理的契約とは、

「雇用関係の契約には明記されてはいないが、組織と社員の双方がお互いに対して抱く心理的期待」5須田敏『組織行動』NTT出版株式会社 115頁のこと

です。

この心理的契約は組織と社員がとった過去の行動(社員に対する施策や対応)によって、両者の間で培われるものです。つまり、どちらか一方の行動で形成されるものではなく、両者の相互関係によって作られます。

心理的契約は、組織と社員の両者間の円滑な雇用関係を維持する上で、非常に重要な要素です。

たとえば、入社したばかりの新卒者には、その時の募集要綱に基づいた報酬や雇用形態などに関する雇用契約がなされますが、同時に次のような心理的契約が交わされていると考えることができます。

  • 今後の企業の方針や価値観については、トップマネジメントの発言や指針が尊重され、約束通り実行されるはずである
  • 職場の雰囲気や仕事への取り組み方については、既存の社員や採用担当者の評価通りになっており、差異はないはずである
  • 今後の報酬の決まり方や人事評価については、採用担当者が企業説明会で説明した通りであり、変更はないはずである

上記のような内容は、基本的には雇用契約書には明記されません。新卒者がトップマネジメントや採用担当者からの受け取ったメッセージを解釈し、自身のイメージとして抱いているに過ぎません。

しかし、こうした心理的期待を抱くからこそ、新卒者は入社した企業に貢献していこうという姿勢や忠誠を持てるのであり、もし入社後の企業の実態が入社前のイメージとあまりにもかけ離れてしまっているような状況では、早期離職のようなミスマッチが起こります。



3-2:組織側のスタンス

心理的契約は両者の相互関係によって形成されるものですが、特に重要であるのが情報の発信者となりやすい組織側のスタンスです。

アメリカの経営学者であるデニス・ルソーによると、個人の心理的契約は「メッセージ」→「コード化」→「デコード化」のプロセスを経て、形成されると主張しています6須田敏『組織行動』NTT出版株式会社 116頁

社員の心理的契約形成の出発点となるのが、企業が発するさまざまな「メッセージ」です。たとえば、トップマネジメントが語る企業のビジョンや価値観、会社全体に公表している人事施策などは典型的なメッセージと考えることができます。

次に「コード化」とは、組織の発するメッセージを、社員が自分たちに対する約束として解釈していくプロセスのことです。この段階で重要となるのは、以下の点です。

  • 組織の発するメッセージを社員が信頼できるものと捉えるかどうか
  • もし組織の発したメッセージが言葉としては理解できるものであったとしても、信頼できるメッセージとして真に受けることができないものであれば「コード化」は実現しない

最後に「デコード化」とは、受け入れたメッセージを個人が解釈し、実際の行動に結びつけることです。この時気をつけなければならないのは、発したメッセージがひとつであっても、そのメッセージの捉えられ方は個人によって異なるということです。

たとえば、組織が「さらなる大きな目標を立てよ」というメッセージを発しても、そのメッセージが実際にどのような行動に結びつくかは個人によって異なるため、必ずしも組織の意図した結果にならない可能性もあります。



3-3:組織コミットメント

組織コミットメントとは、

「組織と個人の関係において、組織に対する関心や一体感、愛着などに焦点をあてた概念」7須田敏『組織行動』NTT出版株式会社 123頁

です。

一般的に、従業員の組織コミットメントが高い状態であれば、以下のような状況が想定されます。

  • 組織目標の達成を自分のことのように感じて組織の目標達成に主体的に関わる
  • 目標達成に対するモチベーションは向上し、個人と組織のパフォーマンスがあがる

またモチベーションが比較的短期間で変化するものと認識されているのに対して、組織コミットメントは長期的に安定しているものと考えられており、この点においても組織コミットメントの向上は重要です。

ジョン・メイヤーとナタリー・アレンによると、組織コミットメントには「情緒コミットメント」「規範的コミットメント」「継続的コミットメント」の3つの次元が存在していると指摘しています(図1)。

3つのコミットメント図1 3つのコミットメント

メイヤーとアレンは組織コミットメントを①従業員と組織の関係を特徴づけ、②組織の一員でい続けようという意思決定を内包する心理的な状態としています。

加えて、コミットした従業員はコミットしていない従業員よりも、その組織に居続ける度合いが高いと説明しています。

そして、その心理的状態を3つの要素である①情緒的、②継続的、③規範的という3つの要素の組み合わせと、その程度によって決まると主張しました8独立行政法人労働政策研究・研修機構『労働政策研究報告書No.147 中小企業における人材の採用と定着―人が集まる求人、生きいきとした職場/アイトラッキング、HRMチェックリスト他から―』 220頁

3章のまとめ
  • 心理的契約とは、「雇用関係の契約には明記されてはいないが、組織と社員の双方がお互いに対して抱く心理的期待」9須田敏『組織行動』NTT出版株式会社 115頁のことである
  • 組織コミットメントとは、「組織と個人の関係において、組織に対する関心や一体感、愛着などに焦点をあてた概念」10須田敏『組織行動』NTT出版株式会社 123頁である

4章:組織行動が学べるおすすめ本

成果主義について理解できたでしょうか?

この記事で紹介した内容はあくまでもきっかけにすぎませんので、下記の書籍からさらに学びを深めてください。

おすすめ書籍

須田敏子『組織行動』(NTT出版株式会社)

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 組織行動とは、組織の中で起こるさまざまな人間行動に着目した議論である
  • 研究の対象となる主体は大きく「個人レベル」「グループレベル」「組織レベル」の3つになる
  • 1960年頃になると前出の「組織心理学」が産業心理学に代わる幅広い学問領域を取り扱う新たな学問として登場した

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