経営学

【目標管理制度とは】成立の背景から日本企業の事例までわかりやすく解説

目標管理制度とは

目標管理制度(Management by objectives)とは、「担当者自身に到達すべき目標設定とその実行管理を委ねることで、成果の最大化を目指す組織マネジメントの仕組み」1野村総合研究所『経営用語の基礎知識(第3版)』(ダイヤモンド社)124頁のことです。

目標管理制度は、経営学の巨匠であるピーター・F・ドラッカーによって提唱された概念です。

彼の著書『現代の経営』(1954)で、近代のマネジメントの在り方を「managed by object(目標によって管理する)」と主張したことから目標管理制度(Managed By Objectの頭文字をとってMBOとも呼ばれる)が生まれたとされています。

その後、目標管理制度はドラッカー提唱以降もさまざまな研究者や実務家によって研究・導入が進められており、いまでも数多くの企業で目標管理制度が用いられています。

この記事では、

  • 目標管理制度の背景・特徴
  • 目標管理制度の具体的な事例

などをそれぞれ解説していきます。

好きな箇所から読み進めてください。

このサイトは人文社会科学系学問をより多くの人が学び、楽しみ、支えるようになることを目指して運営している学術メディアです。

ぜひブックマーク&フォローしてこれからもご覧ください。→Twitterのフォローはこちら

Sponsored Link

1章:目標管理制度とは

まず、1章では目標管理制度を概説します。2章以降では目標管理制度の運用方法や具体例を解説しますので、用途に沿って読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注2ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:目標管理制度が生まれた背景

まず、冒頭に、目標管理という制度がどのような経緯や背景によって生まれることになったのかを簡単に説明していきます。

実業家でコンサルタントの五十嵐は、目標管理制度の誕生の背景には、科学的管理法3科学的管理手法とは、「科学的管理手法の父」と呼ばれ、近代的管理手法の生みの親であるフレデリック・W・テーラー(1856-1915)によって提唱された「命令とアメとムチ」という3要素に着目した経営管理手法のことです。による「他律統制のマネジメント」の限界があったと指摘しています。

  • 他律統制とは、「他者の力によって自分のヤル気が左右されたり、他者の意思によって自分の仕事がコントロールされること」4五十嵐英憲『新版 目標管理の本質』(ダイヤモンド社)34頁である
  • 最も初期に考案された伝統的な経営管理法では、この他律統制を科学的管理によって実現しようと試みられた
  • 労働力を科学的に管理するという手法は、当時としては画期的な発明ともいえる概念であり、当時の企業の生産力の向上に多大なる貢献をした

一方で、命令を基本とする他律統制のマネジメントは、工業を中心とする定型労働型の産業にはうまく適合しましたが、アイディアやコンセプトのように目に見えない要素が重要となる専門知識活用型の産業にはうまく適合しないという問題が生まれるようになりました。

この「労働の質的変化」とも呼べる現象は、特に工業を中心とした定型労働型の産業を海外に移管し、代わりに専門知識活用型の産業の比重が高まった近年の先進諸国によく見られたものです。

そして、このような他律統制のマネジメントに代わる新たなマネジメント手法として、目標管理制度が注目されるようになりました。



1-2:目標管理制度の特徴

五十嵐は次の書物で、目標管理制度は「チャレンジ目標の設定」「セルフコントロールの活用」という2つの基本原理によって成り立つ制度であると述べています。それぞれ解説していきます。

1-2-1:チャレンジ目標の設定

目標管理制度ではその名の通り、適切な目標設定が非常に重要となります。一般的に、企業で用いられている目標は、いついつまでにどの仕事を終わらせるといったノルマの様なものを連想される方が多いかもしれません。

しかし目標管理制度では、社員自らが目標を設定し、主体的に目標達成に取組めることを制度の大原則と定めています。ゆえに、目標管理制度における上司の役割も、部下にノルマや目標を与えることではなく、部下の定める目標が適切なものになるように支援することであると考えられています。

目標管理制度では、目標の設定方法にもいくつかの注意が必要です。まずは、目標が個人にとって容易に達成できるものではなく、なおかつ達成不可能でもない最適な目標を設定しなければなりません。

目標設定のポイント

  • 入社したての新入社員が、入社10年を超えるベテラン社員と同じ目標設定をしても、到底達成できるものとは考えにくく、現実的な目標設定であると言えない
  • 管理者も、目標とはその個人のレベルや企業内でのステージによって絶えず変化するものであり、組織として継続的に目標を設定、評価する仕組みを考えていかなければなない

加えて、個人の目標と企業の目標の統合を図ることも重要です。目標管理制度では、個人の目標をその個人自らが定めることが基本となりますが、その目標が企業の目標と大きく乖離していては企業全体として目標管理制度の高い効果を期待することできません。

たとえば、企業が「一人一人の顧客に寄り添った対応をし、顧客からの注文の単価を向上させる」という目標を掲げているのに、ある個人が「とにかく新規開拓をおこない、顧客数を向上させる」という目標を掲げてしまえば、企業の方針と個人の方針がうまくマッチせず、どちらの目標達成も実現しなくなってしまうでしょう。

1-2-2:セルフコントロールの活用

セルフコントールとは、

「内発的動機付け」がもたらす「内なる力」によって、チャレンジ目標を自主的に設定し、達成を粘り強く追い求めようとする姿勢

です5五十嵐英憲『新版 目標管理の本質』(ダイヤモンド社)79頁

その内なる力の元となる内発的動機付けのメカニズムは複雑で、そのすべてを科学的に説明することは難しいです。

しかし、ヤル気もない、ただ与えられた仕事よりも、自分が興味や関心をもって、積極的に取り組んだ仕事のほうが、パフォーマンスが高くなるというは自身の経験則で実感できる方が多いかと思います。

そして、セルフコントールを実現するためには、設定された目標が、個人にとって納得性の高いものであり、なおかつ自己実現欲求を刺激するものである必要があります。

  • 納得性とは、個人がその目標の意味や目的を理解し、主体的に取り組むための前提条件が整っているかどうかを意味している
  • もしも設定した目標が、客観的に合理的なものであったとして、目標を設定した本人がその目標に納得していなければ、目標設定の効果は発揮されない

また、自己実現欲求とは、自分の潜在的可能性を発見した喜びや驚きによって、さらなる「自分らしさ」や「自分の持つ無限の可能性」を追求しようとする欲求です6五十嵐英憲『新版 目標管理の本質』(ダイヤモンド社)83頁

自己実現欲求は、新しいものを生み出すといった創造的な成果の求められる仕事では特に重要となる欲求で、知恵やアイディアの根源ともいえるものです。ゆえに、目標管理制度では、個人の自己実現欲求を喚起できるような目標の設定が理想であると考えられています。

1章のまとめ
  • 目標管理制度とは、「担当者自身に到達すべき目標設定とその実行管理を委ねることで、成果の最大化を目指す組織マネジメントの仕組み」7野村総合研究所『経営用語の基礎知識(第3版)』(ダイヤモンド社)124頁のことである
  • 目標管理制度では、個人の自己実現欲求を喚起できるような目標の設定が理想である

 


Sponsored Link

2章:目標管理制度の運用方法

さて、2章では目標管理制度の運用方法とその問題点を紹介していきます。

2-1:運用方法

個人や職場に対して目標を設定しても、その目標が達成できたかどうかをチェックしたり、成果をフィードバックできるような仕組みがなければ、目標管理制度は形骸化したシステムとなってしまいます。

そこで目標管理制度では、組織が個人の目標を継続的に確認、評価できるような仕組み作りが非常に重要となります。目標管理制度でよく用いられる運用方法が、PDCAサイクルによる継続的な改善手法です。

PDCAサイクルの概要

  • PDCAとは、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)を循環的に繰り返すことで業務を継続的に改善する方法である
  • ビジネスでは業種業態を問わず広く使用されており、さまざまな分野に浸透している

目標管理制度におけるPDCAサイクルのポイントは次の通りです。

2-1-1: 計画

計画段階では、「個人目標の設定」「実行計画の作成」をおこないます。個人目標は、上でも述べたように、個々のレベルに合わせたチャレンジ目標を設定する必要があります。

また、目標を達成するための実行計画はなるべく具体的に作成することが望まれます。なぜなら、その個人のレベルよりも高いレベルで設定された目標を達成するためには、それまでと同じ進め方で仕事をしていても目標達成は難しく、新たな具体的な取り組みが必ず必要とするです。

2-1-2: 実行

実行段階では、「実行計画の修正」をおこないます。実行段階では、計画段階で想定できなかった環境変化や役割・役職の変化を考慮した実行計画の修正を定期的におこない、実行計画が実現不可能なものにならないように注意します。

2-1-3: 評価

評価段階では、「目標の達成度」を評価します。目標の評価においては、仕事のアウトプット、つまりは目標自体の達成度を評価することはもちろん、目標達成プロセスにおける行動の評価や、発揮した能力の評価もおこないます。

2-1-4: 改善

改善段階では、評価段階で得られた情報をもとに、「次の目標の策定」をおこないます。目標を達成できていたならば、新たな目標を設定し、目標を達成できていなかったのであれば、なぜ達成できなかったのかを明らかにし、目標の修正または変更をおこないます。

  • 目標管理制度では、このPDCAサイクルを組織として絶えず動かし続けることで、仕組みとして目標管理の効果を高めていくことを基本とします。
  • 加えて、個人や職場の目標管理におけるPDCAサイクルのみならず、目標管理制度自体もブラッシュアップのためにPDCAサイクルを回し続けることで、より精度の高い制度の構築が可能となります。



2-2:目標管理制度における問題点

目標管理制度で最も注意を払うべきであるのが、目標管理制度と全社的経営戦略・人事戦略との統合性を考えなければならない点です。

目標管理制度が有効に機能するためには、個人や職場目標のPDCAが企業全体に貢献するものである必要があります。そのために、企業全体の方針とも言える全社的経営戦略や人事戦略も目標管理制度の特徴や機能を考慮したものにしなければ目標管理制度は十分な役割を果たすことができません。

この点に関して、五十嵐は以下のように指摘して、目標管理制度と経営戦略の一致の重要性を強調しています8五十嵐英憲『新版 目標管理の本質』(ダイヤモンド社)152頁

MBOを単に「企業と働く人々とが“ともにハッピー”になるための活動プロセス」と考えるのではなく、「経営基本戦略の実行プロセス」として位置付けなければならい。

また、人事戦略・制度も目標管理制度を考慮した設計が大事です。目標管理制度においては、労働者が自身の目標を設定し、その達成度合いを評価するプロセスを重視しているため、その特徴を踏まえた報酬制度や昇進制度を用意する必要があります。

もし適切な人事制度が設計されていなく、目標管理制度に基づく評価が高い労働者よりも、評価が低い労働者の報酬が高くなってしまうような事態が多発すれば、制度としての目標管理が形骸化する危険性があります。

2章のまとめ
  • 目標管理制度の運営では、組織が個人の目標を継続的に確認、評価できるような仕組み作りが非常に重要となる
  • 目標管理制度では、目標管理制度と全社的経営戦略・人事戦略との統合性を考えなければならない

Sponsored Link

3章:目標管理制度の事例

さて、3章では標管理制度を実践的に導入した企業事例をして、育児・介護用品の製造、販売および保育事業をおこなうピジョン株式会社を紹介します。

ピジョンでは、2002年に人事制度改革を行い、成果主義を導入するとともに目標管理制度を取り入れました。目標管理制度における人事考課の結果はポイント制によって管理されており、目標の達成度合いが誰の目から見ても明確なものとなっています。

目標管理制度におけるポイント制

図1 ピジョン株式会社のポイント9制日本経済団体連合会(2010)「経営環境の変化にともなう企業と従業員のあり方~新たな人事労務マネジメント上の課題と対応策~ 事例編」40頁

ピジョンの目標管理制度の概要

  • マネージャー以上の目標内容を全従業員がイントラネットで閲覧できるなど、設定された目標の内容をオープンにすることで透明性・納得性を高める仕組みづくりをしている
  • 期初に「目標設定会」、期末に「目標達成会」を開催することで、グループメンバー全員で目標の確認・達成度の共有化を図っている

また制度導入以前は、部門での評価が出た後に部門間の調整を行って評価を確定していましたが、事後の調整によって責任の所在が不明確になることから、目標管理制度では部門間の調整を行わない「絶対評価」を採用しています。

このようにピジョンでは、制度をただ表面的に採用するのではなく、システムとして継続的に機能する仕組みとして整備しており、また全社的な人事戦略にも目標管理制度の特徴をベースとしたエッセンスを取り入れていることで、目標管理制度を有効に機能させています。

3章:目標管理制度について学べるおすすめ本

目標管理制度について理解を深めることはできましたか?

この記事で紹介した内容はあくまで概要です。目標管理制度をしっかり学ぶために、これから紹介する本をあなた自身で読んでみることが重要です。

おすすめ書籍

オススメ度★★★ 五十嵐英憲『新版 目標管理の本質』(ダイヤモンド社)

企業の目標管理制度の導入や運用のコンサルタントを務める著者による目標管理制度の解説本です。目標管理制度に関する実務的な内容と学術的な内容がバランスよく書かれており、一通りの目標管理制度を学ぶには最適の本です。

オススメ度★★ 吉田正敏『イラストでわかる 賃金・評価・目標管理システムの作り方と運用』(税務研究出版社)

こちらは人事コンサルタントや社会保険労務士を務める著者による実務的な目標管理制度の解説書です。イラスト付きでわかりやすく書かれており、実際に企業に目標管理制度を導入しようと考えている経営者の方などにおすすめです。

学生・勉強好きにおすすめのサービス

一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。

最初の1冊は無料でもらえますので、まずは1度試してみてください。

Amazonオーディブル

また、書籍を電子版で読むこともオススメします。

Amazonプライムは、1ヶ月無料で利用することができますので非常に有益です。学生なら6ヶ月無料です。

Amazonスチューデント(学生向け)

Amazonプライム

数百冊の書物に加えて、

  • 「映画見放題」
  • 「お急ぎ便の送料無料」
  • 「書籍のポイント還元最大10%(学生の場合)」

などの特典もあります。学術的感性は読書や映画鑑賞などの幅広い経験から鍛えられますので、ぜひお試しください。

まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 目標管理制度とは、「担当者自身に到達すべき目標設定とその実行管理を委ねることで、成果の最大化を目指す組織マネジメントの仕組み」10野村総合研究所『経営用語の基礎知識(第3版)』(ダイヤモンド社)124頁のことである
  • 目標管理制度では、個人の自己実現欲求を喚起できるような目標の設定が理想である
  • 目標管理制度では、目標管理制度と全社的経営戦略・人事戦略との統合性を考えなければならない

このサイトは人文社会科学系学問をより多くの人が学び、楽しみ、支えるようになることを目指して運営している学術メディアです。

ぜひブックマーク&フォローしてこれからもご覧ください。→Twitterのフォローはこちら