経営学

【ジョブ理論とは】クリステンセンの議論から特徴・事例をわかりやすく解説

ジョブ理論とは

ジョブ理論(Jobs-To-Be-Done)とは、「顧客に特定のプロダクト/サービスを購入して使用するという行為を引き起こさせるもの」1クリントン・M・クリステンセンら『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン) 58頁を特定するための理論です。

ジョブとは日本語直訳で作業・仕事のことであり、ジョブ理論とは一見すると雇用や人事に関する理論と思われがちです。

しかし実際は、プロダクトやサービスのイノベーションを生み出すために何が必要であるのかを示す理論です。

この記事では、

  • ジョブ理論の背景・特徴
  • ジョブ理論の実践

をそれぞれ解説します。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:ジョブ理論とは

まず、1章ではジョブ理論を概説します。2章以降ではジョブ理論の実践を解説しますので、用途に沿って読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注2ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:ジョブ理論が生まれた背景

ジョブ理論は、経営学において「破壊的イノベーション」という金字塔とも言える概念を生み出したクリントン・M・クリステンセンらによって発表された理論です。

この理論が生まれた背景には、多くの企業にとって、イノベーションがいまも運任せであることに対するクリステンセンの問題意識がありました。

クリステンセンは企業のイノベーションへの対する取り組み姿勢について、次のように述べています3クリントン・M・クリステンセンら『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン) 13頁

企業がイノベーションに費やす予算は加速度的に増えているが、斬新なイノベーションを多少なりとも達成できていればいいほうで、長期的かつ持続可能な成長を呼び込む根本的なイノベーションにおいてはまったく成果をあげられていない。

クリステンセンは、このイノベーションの停滞とも呼べる事態の原因には、イノベーションの創造を従来のマーケティング手法や製品開発手法によって達成できると考えている企業の認識違いが存在していることを指摘しています4クリントン・M・クリステンセンら『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン) 13頁

企業は果てしなくデータを蓄積しているものの、どういうアイデアが成功するかを高い制度で予測できるようには体系化されていない。むしろデータは、「この顧客はあの顧客と類似性が高い」…(中略)…「顧客の68パーセントが商品Bより商品を好む」といった形式で表現される。だがこうしたデータは、顧客が「なぜ」ある選択をするのかについて何も教えてくれない。

近代的な経営において、データの有効活用はほぼすべての企業が取り組んでいることですが、イノベーションの創造においては全く異なる視点が必要であるとクリステンセンは強調しています。

そして、この全く異なる視点を体系的に理解するために生み出されたのが今回の「ジョブ理論」です。



1-2:ジョブとは何か

ジョブ理論におけるジョブとは、「ある特定の状況で顧客がなし遂げたい進歩」と定義されます。そして、成功するイノベーションとは、顧客のなし遂げたい進歩を可能にし、困難を解消し、満たされていない念願を成就することです。

企業がそれまでは物足りない解決策しかなかったジョブや、解決策が存在しなかったジョブを片付けるようなプロダクトやサービスを開発することができれば、そこにはイノベーションが生まれます。

ジョブは従来のマーケティングでよく言及される「ニーズ」とは異なる意味合いを持ちます。この点に関して、クリステンセンは次のように表現しています5クリントン・M・クリステンセンら『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン) 63頁

ニーズはトレンドと似ている。方向性を把握するには有益だが、顧客がほかでもないそのプロダクト/サービスを選ぶ理由を正確に定義するには足りない

このように、ニーズを把握しただけではイノベーションを生み出す具体的な方策にならないことを指摘しています。

たとえば、「私は食べる必要がある」という表明は、顧客の意思を反映したものであると言えます。しかし、それでも人々は時に食事を抜かすことがあったり、食べることを我慢したりとニーズだけでは説明できない行動を取ることがよくあります。

それなのに「私は食べる必要がある」という顧客の表明だけに着目し、プロダクトやサービスを開発しようとしても、顧客の需要を正確に捉えたイノベーションを生み出せる可能性は低いとクリステンセンは指摘しています。

1-2-1:ジョブ理論の範疇

一方で、ジョブは、ニーズを超えたはるかに複雑な事情を考慮します。たとえば、仕事時のランチタイムでは「私は食べる必要がある」というニーズが発生しますが、そのニーズに基づく行動は人それぞれです。

  • オフィスを見回せば、片手でサンドウィッチを食べている男性もいれば、同僚とレストランに食事に向かう女性たちもいる
  • なぜ人々がそれぞれ同じニーズを持ちながらも違う行動をとるのかというと、そこにさまざまな状況があるからにほかなりなあい
  • 片手でサンドウィッチを食べている彼は締め切りの近いタスクを抱えており、食事をしながら仕事をする必要があったり、レストランに食事に向かう女性たちは午前に終わらせた重要な会議の労いも兼ねた食事会をおこなうつもりかもしれない

このように、ジョブとはそのときの特定の状況で作用するニーズが集合したものであると考えることができます。

この点に関して、クリステンセンは次のように述べて、機能的あるいは実用的なニーズだけで顧客を理解することを否定しています6クリントン・M・クリステンセンら『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン) 62頁

ジョブは機能面だけでとらえることはできない。社会的および感情的な側面も重要であり、こちらのほうが機能面より強く作用する場合もある

たとえば、もし会議を終えていつもより少し豪華な食事を楽しみにしている女性たちに「サンドウィッチはどうか?」と提案したら、「いまは何かを食べる必要はあるが、それがサンドウィッチの気分ではない」と拒絶されることでしょう。

つまり、ここでの人々の行動を分析するとは、

  • オフィスにいる男性は「片手で手軽に食事を取りたい」というジョブを「サンドウィッチ」を雇用することで片付けている
  • 食事に向かった女性たち「少し豪華な食事を同僚たちと取りたい」というジョブを「レストラン」を雇用することで片付けている

ということです。

このプロダクトやサービスを“雇用する”という考え方がジョブ理論の基本的な考え方です。これがイノベーションを生み出すための重要な条件のひとつであるとクリステンセンは述べています。



1-3:ジョブ理論の特徴

クリステンセンはジョブ理論について、「イノベーションの強力なガイドだけにとどまらず、真の差別化と長期的な競争優位を可能にし、顧客の行動を組織が理解するための共通言語になりうる」7クリントン・M・クリステンセンら『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン) 48頁と説明しています。

そして、ジョブ理論が「真の差別化と長期的な競争優位」を実現できるのは、ジョブ理論が従来のマーケティング手法にとらわれない独自のターゲティングやセグメンテーションをおこなうからであると述べています。

ジョブ理論の特徴

  • ジョブ理論では従来のマーケティング手法で当たり前のように使われている「男性/女性」「若者/高齢者」「都会/地方」のような統計学的マーケティングを重視しない
  • また、業界勢力図や市場占有率といった従来の競争戦略の枠組みもジョブ理論では大きな意味をもたない
  • むしろ重点を置くべきは、顧客がどんなジョブを片付けたがっているかを理解し、それに対して最良の解決策をもたらすことである

たとえば、ネットフリックス社の創設者であるリード・ヘイスティング氏はライバル企業について尋ねられた際に、「リラックスのためにすることなら、なんでも競争相手だ」8クリントン・M・クリステンセンら『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン) 74頁と述べています。

これは動画配信サービスのみならず、ビデオ業界からワイン業界までもが自社のライバルであるということです。

つまり、ネットフリックス社が優先して考えていることは、「リラックスしたい」というジョブを抱える顧客に対して、動画配信サービスとしてどのような最善の解決策を提示できるかであるとクリステンセンは分析しています。

それは自社の属する業界勢力図の動向や、動画配信サービスのユーザーシェア率とは大きくことなります。

もしネットフリックス社が自社の競争相手を同様の動画配信サービスと定義し、あくまで同業界内での競争に固執するようなことがあれば、いまのネットフリックスの成功はなかったかもしれません。

1章のまとめ
  • ジョブ理論とは、「顧客に特定のプロダクト/サービスを購入して使用するという行為を引き起こさせるもの」9クリントン・M・クリステンセンら『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン) 58頁を特定するための理論である
  • ジョブとは、そのときの特定の状況で作用するニーズが集合したものである

 


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2章:ジョブ理論の実践

さて、2章では、ジョブ理論の実践のための「ジョブを見つける方法」と「ジョブを適切に処理するための組織づくり」の方策を説明します。

2-1:ジョブ・ハンティング

ジョブ理論におけるジョブ・ハンティングとは、顧客の抱えるジョブ見つけ出すことです。

ジョブ・ハンティングで重要となるのは、顧客を注意深く観察することであり、顧客にどういう質問をして、その質問から得られた情報をどうつなぎ合わせるかによってジョブ・ハンティングの成果は大きく変わります。

クリステンセンはジョブ・ハンティングの手法として次の5つを紹介しています。

2-1-1:生活に身近なジョブを探す

自分の生活のなかにある片付けるべきジョブには、イノベーションの種が数多く眠っています。

事例

  • 携帯音楽プレイヤーのさきがけであるソニーの「ウォークマン」は、「いつもで、どこでも音楽を聞きたい」という人々のジョブを片付けたことで、世界的なブランドへと成長を遂げた
  • 音楽を持ち運ぶという発想さえもなかった当時において、ソニーがウォークマンという画期的な開発できたのは、経営者であった盛田昭夫が人々の生活を注意深く観察し、携帯音楽プレイヤーの必要性を確信したからに他ならない

2-1-2:無消費と競争する

無消費とは、消費者がジョブを満たす解決策を見つけられず何も雇用しない道を選ぶことです。クリステンセンは、「企業は他社から市場シェアを奪い取ることばかりに気を取られがちで、目に見えない需要が大量に眠っている場所のことは考えていない」10クリントン・M・クリステンセンら『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン) 126頁と述べています。

そのため、企業が無消費に気付くのは容易なことではなく、ほとんどの場合でこうした需要を見逃していると指摘しています。

事例

  • メガネメーカーのJINSはパソコンやスマートフィンから発せられるブルーライトをカットできるメガネ「JINS PC」を開発した
  • それによって、本来であればメガネを必要としない人々がメガネを買うという消費を呼び起こした



2-1-3:間に合わせの対処策

ジョブをすっきりと解決できずに間に合わせの策で苦労している消費者に着目することで、イノベーションが生まれることもあります。

事例

  • アプリケーション開発会社のマネーツリーは、銀行口座やクレジットカードの引き落としなど資産管理に関するデータをすべてWeb上で連携できる家計簿アプリ「Moneytree」を開発した
  • それまで消費者が自宅での手書きの家計簿や、いくつかの家計簿アプリを組み合わせておこなうことでしか実現できなかった資産管理を、ひとつのアプリケーションで完結できるようになった

2-1-4:できれば避けたいこと

進んでやりたいことと同じくらい、できれば避けたいジョブもたくさん存在します。そうしたことは「ネガティブジョブ」と呼ばれ、イノベーションの優れた機会となり得ます。

事例

  • 空調機メーカーのダスキンでは、1989年から「家事代行サービス」を運営している
  • 共働きで家事の時間を取れない家庭や、家事自体があまり得意でない家庭向けに家事代行のサービスを提供することで、「家事をやりたくない」というジョブから人々を解放した

2-1-5:意外な使われ方

顧客がプロダクトをどう使っているかを観察することでも多くの発見を得ることができます。

とりわけ、企業が想定していたのと異なる使われ方をされていた場合は、その使用法が新たなイノベーションを生むことがあります。



2-2:ジョブ中心の組織

顧客の抱えるジョブを見つけ、それを適切に片付けるためには、組織全体がジョブ理論の思想や考え方を反映し、実現可能である形になっていなければなりません。

そのために、クリステンセンは次の2つを重点的に実行すべきであると主張しています。

2-2-1:ジョブを中心としたプロセスの開発と統合

ジョブ理論におけるプロセスとは、企業内の単なる効率化や改善活動を超えて、顧客のジョブを継続して解決できる一貫した業務プロセスのことを指します。

たとえば、オンラインショッピングサイトの世界最大手であるAmazonを例に考えてみましょう。

  • 顧客のジョブを適切に解決するために「豊富な品揃え」「低価格」「迅速な配送」の3つのポイントを常に意識している
  • それらを実現できるように業務プロセスを整備することで、他の企業が真似できない強固な流通網を構築した

クリステンセンは、「プロセスは組織にとってある種の潜在意識のように働く」11クリントン・M・クリステンセンら『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン) 249頁と述べています。

これは、毎日それぞれの現場で何度となく起こる出来事、意思決定、相互作用が統合することによって、片付けるべきジョブを中心とした組織文化が自ずと形成されていくことを意味します。(→組織文化に関してはこちらの記事

そして、企業内部に構築されたプロセスは大きな付加価値の源泉となり、真の差別化と長期的な競争優位を実現できると述べています。

2-2-2:パフォーマンスを追跡する測定基準の策定

ジョブを中心とした組織では、目標達成の測定基準もジョブを中心に構築しなければなりません。

先のAmazonの例を用いると、次のようになります。

  • Amazonの商品画面に頻繁に表示される「2時間32分以内にご注文ください お届け日:火曜日」というメッセージにはAmazonのシグナルが込められている
  • 顧客が「注文を確定する」ボタンをクリックすると、配送センターや出品業者に共有されている一連の配送プロセスが始動する
  • そしてAmazonも、配送が社の方針通りに進んでいるかどうか追跡し、約束通りの日時に配送できたかどうかを測定する

ここでは「最短で火曜日までにはお届けできます」という表記は使わずに、「いつまでに注文すれば、いつまでにお届けします」とあえて明確に宣言されています。

それによって、顧客のみならず自社の社員に対しても自社の方針を正しく伝えることができ、強固なプロセス形成の支えになるとクリステンセンは指摘しています。

2章のまとめ
  • ジョブ理論におけるジョブ・ハンティングとは、顧客の抱えるジョブ見つけ出すことである
  • 組織全体がジョブ理論の思想や考え方を反映し、実現可能である形になっていなければならない

 

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3章:ジョブ理論が学べるおすすめ本

ジョブ理論について理解できたでしょうか?

この記事で説明した内容は組織文化のごく一部を紹介したに過ぎませんので、GEについてもっと知りたい方は参考文献やその他の書籍をご覧ください。

おすすめ書籍

クリントン・M・クリステンセンら著『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン)

ジョブ理論に関する原典です。世界中でベストセラーになった著書であり、経営者の方のみならずビジネスマンの方にもぜひ読んでもらいたい1冊です。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • ジョブ理論とは、「顧客に特定のプロダクト/サービスを購入して使用するという行為を引き起こさせるもの」12クリントン・M・クリステンセンら『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン) 58頁を特定するための理論である
  • ジョブとは、そのときの特定の状況で作用するニーズが集合したものである
  • ジョブ理論におけるジョブ・ハンティングとは、顧客の抱えるジョブ見つけ出すことである

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