東洋哲学・東洋思想

【淮南子とは】成立背景・思想の特徴・名言までわかりやすく解説

淮南子とは

『淮南子』とは中国古代の様々な思想家の思想をまとめた百科全書風の書物です。前漢の淮南(わいなん)の王であった劉安によって書き著され、紀元前139年に成立しました。

現在はその内容の21篇が残っていますが、劉安は元々内書21篇・外書33篇・中篇8書に代表される撰著がありました。

現在に伝わっている『淮南子』は内書に相当するもので、その他はすべて散佚してしまいました。儒家、法家など様々な思想家の思想を収録したものになっていますが、中でもとりわけ老荘思想 を中心に取り扱っています。

国家の勃興や古代中国人の宇宙観なども記述されており、当時の思想や社会を把握する重要な史料にもなっています。

今回は、そんな『淮南子』の、

  • 淮南子の概要と構成
  • 思想の内容
  • 後世への影響

について解説をしていきます。

好きなところから読み進めてみてください。

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1章:淮南子とは冒頭:定義的説明

『淮南子』について、冒頭でも説明をしましたが、改めて内容を振り返っておきましょう。『淮南子』とは前漢に成立した各思想についてまとめられた書物で、前漢の淮南王劉安によってまとめられました。

劉安の他にも・蘇非・李尚・伍被らが著作者として確認されています。

読み方については、漢音の「わいなんじ」ではなく、呉音の「えなんじ」になっています。これは、『淮南子』が日本に古くから伝わっているため、古い読み方である呉音で読まれるようになったと考えられています。

内容としては、儒家や墨家、法家など諸子百家の思想をまとめたものになっていますが、中でも老荘思想が重点的に取り上げられています。

1章では、そんな『淮南子』が成立した時代背景と書物の構成について解説をしていきます。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:淮南子が書かれた時代背景

『淮南子』が成立したのは、中国の前漢の時代です。前漢7代皇帝の武帝の頃に淮南王の劉安によって編纂されました。

武帝の時代は、地方に封じられた王の勢力が強まった時代であり、その治世に起こった呉楚七国の乱(紀元前154年)は、前漢の国土の約半分が反乱軍として朝廷に牙を剥きました。

この反乱が起こったのは、武帝の父である景帝の時代です。

反乱は3ヶ月で鎮圧されますが、これを機に漢の帝室は諸侯王の力の削減に力をいれられるようになり、中央集権の強化を図っていきました。景帝が紀元前141年に崩御すると、後を継いだ武帝は、帝国治下の諸勢力・諸思想をすべて容認しつつ、緩やかではありますが、それらを調和統一しようと動き始めます。

その統一と調和を図るために、諸思想を統合し、中央が管理するために作られたのが『淮南子』だったのです。

そのため、この書物は諸思想を集めた雑家に分類されています。



1-2:淮南子の構成

『淮南子』は全部で21篇の構成になっており、主に老荘思想の存在論を中心にして、世界の万物の構成である「道」を探求する原道篇、真理について述べた俶真篇、天文篇・地形篇、時則篇と展開されていきます。

これらの内容は、老荘思想の「道」と儒家・墨家の思想とを生かして相乗効果を生み、両者をより高次元へと止揚していく意図で作られました。

儒家、墨家の思想について詳しくはこちら。

また、止揚したものを未来永劫、普遍的に通用する帝王の学問として示す目的もありました。

『淮南子』は、まだ即位して間もない若い武帝に思想統一の意義を示し、董仲舒を代表する当時の儒家たちに中央集権化を意識させることにも繋がります。その後、紀元前136年に儒教の地位は飛躍的に向上して国教となり、中国の思想・学問の中心となりました。

『淮南子』の21篇 概要

1:原道(根本を問う)

2:俶真(めでたい真理)

3:天文

4:地形

5:時則(時の問題)

6:覧冥(見えざる ものについて)

7:精神

8:本経 (大本の意味)

9:主術(人生と政治)

10:繆称(理論の誤りについて)

11:斉俗(世俗同化論)

12:道応(「道」の概念について)

13:氾論

14:詮言(要点の言葉)

15:兵略

16:説山(逸話集1)

17:説林(逸話集2)

18:人間(処世とは何 か)

19:修務(人としてのありかた)

20:泰族(大いなる帰結へ)

21:要略 (まとめ)

次に、2章では淮南子の具体的な思想の内容について解説します。

1章のまとめ
  • 『淮南子』とは前漢に成立した各思想についてまとめられた書物で、前漢の淮南王劉安によってまとめられた
  • 帝国治下の諸勢力・諸思想の統一と調和を図り中央が管理するために作られた
  • 老荘思想の「道」と儒家・墨家の思想とより高次元へと止揚し、未来永劫、普遍的に通用する帝王の学問とすることが目指された
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2章:淮南子の思想

『淮南子』は当時の思想家たちの思想をそれぞれ書き記したものであったのですが、中心には老荘思想がありました。『淮南子』の要略篇(まとめ)には、次の様な言葉が書き記されています。(→老荘思想に関してはこちら

■原文

故言道而不言事、則無以與世浮沉。言事而不言道、則無以與化遊息。

■訓読

道を言いて事を言わざれば、則ち以て世と浮沈すること無く、事を言いて道を言わざれば、則ち以て化と游息すること無し。

■意訳

深遠な道を述べながら現実の事を言わなければ、世俗とともに生活することな どできないし、現実の事ばかり述べて深遠な道を語らなければ、自然とともに遊び息(いこ)うことはできない。

『淮南子』はその様な思想の元に編纂されたもので、現実世界の事象である「事」は全て根底に「道」という法則があり、全て「道」に帰一するという考えでした。この思想は荘子の思想でもあり、斉物論の考え方そのものでした。

『淮南子』はこの「事」の世界に対処するための役割を儒墨などの諸家の思想によって治め、それらを包括する根本原理に「道」を置きました。

では、『淮南子』の思想や特徴的な説話にはどの様なものがあったのでしょうか。2章では代表的なものをいくつかご紹介していきます。

2-1:「道」と「事」

敢えて一言で表現をすると、『淮南子』における「道」とは、物事全てに共通する原理・真理を指し、「事」とは現実世界を指しています。『淮南子』の原道では、「道」を次の様に述べています。

■原文

夫道者、覆天載地、廓四方、柝八極。・・・(中略)・・・故植之而塞於天地、橫之而彌于四海、施之無窮、而無所朝夕。舒之幎於六合、卷之不盈於一握。

■訓読

夫れ道なる者は、天を覆い地を載せ、四方に廓り、八極に柝く。・・・(中略・・・)故に之を植つれば天地に塞がり、之を横たうれば四海に弥り、之を施せば窮まり無くして、朝夕する所無し。之を舒せば六合を幎い、之を巻けば一握に盈たず。

■意訳

道というものは、天を覆い地を載せ、四方八方に開張して、深さも広さも計り知れないものである。それ故に道を縦にすれば天と地を塞ぎ、道を横にすれば四方へ広がり、用いても極まるところがなく、増減することもない。開けば四方を覆い、巻くと一握りに満たない程の大きさになる。

このように『淮南子』における「道」は超次元的なものであり、絶対普遍的なものとして語られています。

一方で、「事」は要略で次のように述べられています。

■原文

夫道論至深、故多為之辭、以抒其情。萬物至眾、故博為之說、以通其意。

■訓読

夫れ道論は至って深し、故に多く之が辭を為し、以ってその情を抒(の)ぶ。萬物は至って衆(おお)し、故に博(ひろ)く之が説を為して、以て其の意を通ず」

■意訳

道に関する論はいたって深遠であるため、多くの言葉を使って述べる必要がある。万物は至って多いので、広く(万物について)説き明かし、その意を伝える必要がある。

すなわち、「事」は事象が多岐に渡るため、その意を通じさせる必要があると説きました。

このように『淮南子』における「道」は「事」を統べる根本原理としての機能を担っていました。そして、現実世界の社会的場面(事)を処理するにあたっては、諸家の思想を用いようとしたのです。



2-2:南船北馬

「南船北馬」の出典は『淮南子』斉俗に収められていると言われています。

一般的には「絶えず忙しく旅行をすること」という意味で使用される四字熟語ですが、厳密な意味を考えると、少し違うようです。『淮南子』に収録されている原文を見てみると、次のようにあります。

■原文

是以人不兼官、官不兼事、士農工商、鄉別州異。・・・(中略)・・・是以士無遺行、農無廢功、工無苦事、商無折貨、各安其性、不得相干。・・・(中略)・・・各有所宜、而人性齊矣。胡人便於馬、越人便於舟。異形殊類、易事而悖、失處而賤、得勢而貴。

■訓読

是を以て、人は官を兼ねず、官は事を兼ねず、士・農・工・商、郷別に州異にす。・・・(中略)・・・是を以て、士に遺行無く、農に廢功(はいこう)無く、工に苦事(くじ)無く、商に折貨無く、各々其の性に安んじ、相い干(おかす)を得ず。・・・(中略)・・・各々宜しき所有りて、人の性は齊(ひと)し。胡人は馬に便に、越人は舟に便になり。形を異にし類を殊にするもの、事を易(か)ふれば而ち悖(もと)り、處(ところ)を失へば而ち賤しく、勢を得れば而ち貴し。

■意訳

一人の者は二つの官職を兼ねることはせず、一つの官職は二つの仕事を兼ねることはせず、士農工商それぞれに区別があった。・・・(中略)・・・こうして、士人には治務の遺漏がなく、農民にはむだな骨折りなく、工人には困難な作業なく,商人には損失なく、各人が自分の持ち前に従って、互いに犯しあうことはなかった。・・・(中略)・・・このように人にはそれぞれ長ずるところがあり、人の性に優劣はないのである。胡人(北方の異族)は馬をのりこなし、越人(南方の異族)は船を乗りこなす。形や類のちがう者が仕事を替えれば失敗し、適所を失えば賤しまれ、勢いに乗ずれば尊重される。

ここから、南船北馬とは、忙しく旅行をすることではなく、適材適所によって使い分けることの重要性を説いた言葉だという事が分かります。

2-4:天地開闢

『淮南子』は中国だけに留まらず、日本にも影響を与えました。『日本書紀』の冒頭には、『淮南子』から引用された文言が用いられています。

『日本書紀』冒頭

■原文

古天地未剖、陰陽不分、渾沌如鶏子、溟涬而含牙。及其淸陽者、薄靡而爲天、重濁者、淹滯而爲地、精妙之合搏易、重濁之凝竭難。故天先成而地後定。

■意訳

古の時、天と地は未だ分かれず、陰陽も分かれず、混沌として鶏の卵のようでありながら、ほのかに兆しが含まれていた。清陽なものはたなびいて天となり、重濁なものはとどまって地となった。精妙な集まりは群がりやすく、重濁な集まりは固まりにくいので、天がまず定まり、後に地が定まった。

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『淮南子』俶真

■原文

有未始有夫未始有有無者、天地未剖、陰陽未判、四時未分、萬物未生、汪然平靜、寂然清澄、莫見其形、若光燿之間於無有、退而自失也。

■意訳

「無の無の無」とは、天地に未だ形がなく、陰陽の氣も生まれず、春夏秋冬の季節の巡りもなく、万物も生まれておらず、静かにたたずんで、ひっそりとした清らかさがあり、その形は見えない。

どの様な理由で『日本書紀』に『淮南子』が引用されたのか不明ですが、中国の典籍は古くから日本に流入しているため、紀元前1世紀に成立した『淮南子』も他の典籍と同様に奈良時代には日本に伝わっていたことが分かります。

2-5:人間万事塞翁が馬

「人間万事塞翁が馬」とは、人生における幸不幸は予測しがたいということを意味します。『淮南子』人間に登場する話です。因みに人間万事塞翁が馬の「人間」は「にんげん」ではなく、「じんかん」と読み、世の中のことを表しています。

昔、中国北方の砦近くに住む老人(塞翁)がいました。老人は占いが得意でした。ある時、老人の馬が逃げ、人々が気の毒に思うと、老人は「そのうち幸福がくる」と言いました。

暫くすると、逃げた馬は沢山の駿馬を連れて帰ってきました。

人々が老人を祝うと、今度は「これは不幸の元だ」と言います。するとその馬に乗った老人の息子が落馬して足を骨折します。

人々がお見舞いに来ると、老人は「この出来事は幸福の元である」と言いました。一年後に敵軍が侵攻し戦争となると、砦近くに住む若者たちは多くが戦死してしまいます。しかし骨折した老人の息子は、徴兵されず戦死しなかったといいます。

幸福や不幸は予測できないという意味であると同時に、この言葉は老荘思想の「道」の思想にも繋がります。

老荘思想では物事は本来全て根源が一つであり同じものであると考えます。つまり、全ての事柄に善悪はなく存在しており、人為によって善悪の分別が付けられているのです。「人間万事塞翁が馬」で起きた出来事は、本来は善悪もなく、根源が一であるという事なのです。

2章のまとめ
  • 淮南子の思想の中心には老荘思想があった
  • 淮南子における「事」は現実世界の事象のこと、「道」はすべての根底にある法則のこと
  • 淮南子の思想は日本にも影響を与えた
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3章:淮南子に関するおすすめ本

『淮南子』について理解を深めることはできたでしょうか?

最後に、より深く理解を深めるためのおすすめ本を紹介しますので、ぜひ読んでみてください。

おすすめ本

オススメ度★★★金谷治『淮南子の思想 老荘的世界』(講談社学術文庫/1992年)

『淮南子』についての数少ない解説書です。『淮南子』の歴史的背景と成立の過程が解説されており、老荘思想をより深く理解したい方にお勧めです。

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オススメ度★★池田 知久『訳注「淮南子」』(講談社学術文庫/2012年)

『淮南子』の抄訳になります。「人間万事塞翁が馬」は掲載されていませんが、電子書籍 増補改訂版には掲載されています。抄訳のため、全ての内容は確認できませんが、訳文が読みやすく、入門の書としては充分な内容になっています。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 『淮南子』は、前漢の淮南王劉安によって、前漢に成立した各思想がまとめられた書物
  • 諸思想、諸勢力の思想を統一・調和し、中央が管理すること、また普遍的に通用する学問とすることが目指されて作られた
  • 『淮南子』の中心には老荘思想があった

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