グリーンツーリズム(Green Tourism)とは、農山漁村などにおける滞在型余暇活動を意味します。わかりやすくいえば、農山漁といった田舎を舞台として、自然・文化・人びととの触れあいを楽しむことを目的とした、新たな観光形態です。
グリーンツーリズムは、観光地におけるマスツーリズムの弊害(自然・文化財・景観の破壊など)が顕著になって以降に取り組まれた新たな観光形態の一種です。
グリーンツーリズムという取り組みは地方で盛んに取り組まれており、持続可能な観光を考える上で極めて重要です。
そこで、この記事では、
- グリーンツーリズムの特徴
- グリーンツーリズムとエコツーリズムの違い
- グリーンツーリズムの事例
- グリーンツーリズムの課題
をそれぞれ解説していきます。
関心のあるところから読んでみてください。
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1章:グリーンツーリズムとは
まず、1章ではグリーンツーリズムを概観します。2章は「グリーンツーリズムの事例」、3章は「グリーンツーリズムの課題」を解説しますので、あなたの関心のある箇所から読み進めてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1: グリーンツーリズムの特徴
まず、冒頭を繰り返しますが、
グリーンツーリズムとは、農山漁といった田舎を舞台として、自然・文化・人びととの触れあいを楽しむことを目的とした、新たな観光形態
です。
しかし、グリーンツーリズムは国や地域によってさまざまな様態があるのが実情です。そこで、グリーンツーリズムの全体像を理解するために、「4つ条件」と「時代認識と人間観」を知る必要があります2安村 克己/遠藤 英樹/寺岡 伸悟/堀野 正人(著)『よくわかる観光社会学』(ミネルヴァ書房)。
「そもそも、なぜ環境は守られないといけないのか?」と疑問を持つ方はこちらの記事を参照ください。
1-1-1: グリーンツーリズムの4つの条件
多様な様態をもつグリーンツーリズムですが、少なくとも次の4つ条件が必ず付随されています。
- 農山漁村における生活や生業の体験をすること
- 当該地域における人びととの交流をすること
- 当該地域の自然を大切にすること
- 外部資本ではなく、当該地域がサービスの主体となり、地域の活力を促進させること
詳細は後述しますが、③の「当該地域の自然を大切にすること」に特化した観光は「エコツーリズム」と呼ばれます。また、①と④に特化した観光は「アグロツーリズム」と呼ばれたりします。
1-1-2: グリーンツーリズムの時代認識と人間観
上述の4つ条件に加えて、グリーンツーリズムにはある特定の時代認識と人間観があります。それは以下のようなものです。
グリーンツーリズムを成り立たせる時代認識と人間観
- 現代に人間、特に都会で生活する者は疲れており、やすらぎが必要である
- 豊かな自然こそが都会生活者を癒やすことができる
- 癒やすことができる空間こそが、過疎に直面する農山漁村である
つまり、現在の時代認識と人間観が地域振興の流れに結合することで誕生するものが、自然との共存を目指す「グリーンツーリズム」です。
事実、グリーンツーリズムが謳われるとき、頻繁に「自然との調和」が強調されます。
1-2: グリーンツーリズムとエコツーリズムの違い
さて、ここでまでくると、「では一体、「グリーンツーリズム」と「エコツーリズム」はどう違うの?」と疑問に思う方がいるかもしれません。その点を詳しく解説していきます。
1-2-1: エコツーリズム
エコツーリズム(ecotourism)とは、
自然や文化といった地域資源を活かしながら、持続的にそれらを利用することを目指した観光のあり方
です。
「エコツーリズム」という言葉は、「生態環境(ecology)」と「観光(tourism)」を組み合わせた造語です。日本語では「環境観光」や「環境に優しい観光」と訳されます。
日本では20世紀末になると、観光現象が与える自然環境への被害が数多く報告されるようになりました。その問題を克服するように、登場したのが「エコツーリズム」でした。
エコツーリズムの理念は「環境保全」「観光振興」「地域振興」から構成されています。それぞれの理念は以下の意味を指します。
- 環境保全…自然環境を保全するような観光のかたちをエコツーリズムが目指していること
- 観光振興…環境保全のための観光ではなく、観光として魅力的であること
- 地域振興…地域経済の活性化や地域交流の促進など、ツアーによるポジティブな影響をエコツーリズムが与えること
こうしてみると、エコツーリズムは環境保全に力点を置いた観光であり、農山漁村における生活や生業の体験を含むグリーンツーリズムとは一線を画すことがわかると思います。
ちなみに、エコツーリズムに詳しくは次の記事を参照ください
1-2-2: オルタナティブツーリズム
実は、エコツーリズムとグリーンツーリズムの両者は「オルタナティブツーリズム」と呼ばれる新たな観光形態の総称です。
オルタナティブツーリズムとは、
観光地におけるマスツーリズムの弊害が顕著になって以降に取り組まれた、新たな観光の形態を指す用語
です。
この説明を聞いても、「そもそも、マスツーリズムとはなに?その弊害ってなに?」と感じる方もいると思います。それぞれの要点は、以下のようにまとめることができます。
マスツーリズムとその弊害
- マスツーリズムとは観光の大衆化・大量の観光客が発生する現象を意味する
- 一般的に、カネとヒマを有する上流階級の特権であった観光が、第二次世界大戦後以降、大衆の経済力向上によって広く普及したことを指す
- その結果、観光地の文化変容・犯罪や売春の発生・環境汚染が発生した。つまり、マスツーリズムの弊害の発生。
- また、観光地外部の観光業者が経済的利益をあげる、無秩序な観光開発が乱立した
こうしたマスツーリズムの「悪い」観光を反省した観光業者や国際機関は、1980年代から新たな観光の形態を模索し始めました。その先導となったのは、世界観光機関(UNWTO: United Nations World Tourism Organization)です。
新たな観光で目指されたのは、住民主体の計画的で管理的な観光開発でした。その代表的なものに「エコツーリズム」や「グリーンツーリズム」があります。
エコツーリズムとグリーンツーリズムは同じような問題関心から誕生したため、混同されやすいですが、しっかりと違いを理解することが大事です。
オルタナティブツーリズムとマスツーリズムについて詳しくは、次の記事を参照ください。
いったんこれまでの内容をまとめます。
- グリーンツーリズムとは、農山漁といった田舎を舞台として、自然・文化・人びととの触れあいを楽しむことを目的とした、新たな観光形態
- 現在の時代認識と人間観が地域振興の流れに結合することで誕生したものが、自然との共存を目指す「グリーンツーリズム」
- エコツーリズムは環境保全に力点を置いた観光であり、農山漁村における生活や生業の体験を含むグリーンツーリズムとは一線を画す
2章:グリーンツーリズムの事例
さて、2章ではグリーンツーリズムの事例を簡潔に紹介していきます。多様な個別の事例が多く報告されるため、全体像を提示するのは困難を極めます。そのため、所々で紹介する書籍を参考に、あなた自身で個別の事例に触れてみてください。
2-1: 大分県安心院町のグリーンツーリズム事例
日本における有名な事例は、大分県安心院町のグリーンツーリズムです。この事例は、日本のグリーンツーリズムの始まりとされています。
前提知識として知っておきたいのは、日本社会の場合、長期休暇が取りづらいという事情があるため、日帰りや短期滞在のグリーンツーリズムが多いことです。そのため、農村に長期滞在するヨーロッパのそれと区別をつけるため、「日本型グリーンツーリズム」と呼ばれることもあります。
繰り返しますが、その日本型のグリーンツーリズムの先駆けは、大分県安心院町のグリーンツーリズムでした。その事例は以下のようにまとめることができます。
大分県宇佐市安心院町の事例
- 日本のグリーンツーリズムの始まりとして、有名な「会員制農泊」の事例
- 日本は法律上有料宿泊が難しいため、農家が会員による農村体験(農泊)という名目で観光客を受け入れる方法を考案し始まったもの
- 農泊型のグリーンツーリズムは、旅館業法簡易宿所として認められるようになった
- それ以降、「安心院式」と呼ばれて、日本国内のグリーンツーリズムの普及に大きな役割を果たした
その他の地域の事例や具体的な実践については、次の書籍を当たってみてください。
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2-2: 各国のグリーンツーリズム事例
そもそも、グリーンツーリズムの起源はヨーロッパとされています。1970年代からドイツ・フランス・スイス・オーストリアで提唱されると、1980年代には普及したといいます。
やはり、その背景には「脱都会志向」「マスツーリズムの弊害」「農業保護政策」といった上述した内容がありました。
ここでは、各国のグリーンツーリズムの事例をみていきましょう。
- イギリス…1990年代から農家民宿の質的な向上を目指す政策と実践がおこなわれてきた
- 韓国…1980年代から政府主導による農村観光の振興事業が始まる(関係省庁による農村開発が展開される)
- 中国…1996年前後から「農家楽」というグリーンツーリズムが展開をみせる
各国のグリーンツーリズムの事情について詳しくは、以下の書籍を参考にしてください。
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3章:グリーンツーリズムの課題
さて、これまでグリーンツーリズムの概要と事例を紹介してきましたが、最後にグリーンツーリズムの課題を紹介します。
グリーンツーリズムに対しては社会学的な立場から批判的な考察がされており、再考するべき点がいくつかあります。
3-1: 都市の理論
まず、最初の課題はグリーンツーリズムが都市の理論によって成立することです。それは次のようなことを意味します。
- 1970年代の当時の山村振興基本問題諮問委員会は「都市住民に緑と憩いの場」を提供するものとして、行政的な支援を要請する。これが国家によるグリーンツーリズムの始まりである
- しかし、労働力の再生産の場として国家が「緑」を必要とするのみで、地域主体の方向性をこの時点では認めていない
- 過疎が進む農山漁村とリフレッシュが必要な都市住民の双方の必要性がマッチしたいわれるが、根本的には都市の論理によってグリーンツーリズムが要請された
つまり、国家の失政によって日本の農山村は基盤が崩壊しつつありますが、その責任は農山村政策に帰結するのではなく、都市の論理が作動するグリーンツーリズムによって覆い隠されるという問題があります。
3-2: 自然回帰という幻想
そもそも、都市の論理を「自然回帰」という幻想で見えにくくする手法は20世紀初頭のヨーロッパにもみられるものであり、そういった意味で近代的な思想といえます。
言い換えると、
- グリーンツーリズムが象徴する自然への回帰は、近代産業社会に特有の思想である
- つまり、グリーンツーリズムは近代社会のバイオリズムにすぎない
といえます。
これらの課題を提示しながら、社会学者の古川と松田(編)は、次のように述べています3『観光と環境の社会学』21-22頁(2003)新曜社。
では、グリーンツーリズムやエコツーリズムは、単なる大衆観光路線の一変種にすぎず、それらが提案した環境保護と実践・自然と人にやさしいライフスタイルへの転換はまやかしだったのだろうか。(中略)本論が言いたいことは、けっしてそういうことではない。本論が強調したいのは、こうした小さな共同体の努力を、環境保護、人間重視、自然と共生といった都市でつくられたスマートな知の体系のなかに回収させてはならないという点である。
つまり、地域振興・環境保護としてグリーンツーリズムが謳われるとき、そこに作用する社会政治性を批判的に考察する視点が不可欠でしょう。
これまでの内容をまとめます。
- グリーンツーリズムが都市の理論によって成立すること
- 地域振興・環境保護としてグリーンツーリズムが謳われるとき、そこに作用する社会政治性を批判的に考察する視点が不可欠
4章:グリーンツーリズムのオススメ本
グリーンツーリズムについて理解を深めることができましたか?
上述したように、グリーンツーリズムにはさまざまな観光形態があります。
そのため、グリーンツーリズムの具体的な事例に触れることが大事です。それらを学べる書籍をここでは紹介します。
安村 克己/遠藤 英樹/寺岡 伸悟/堀野 正人(著)『よくわかる観光社会学』(ミネルヴァ書房)
観光学に関する基礎をさまざまな事例とともに学べるため、前提知識ゼロから学びたい方に大変おすすめです。多様な事例に触れることができます。
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持田 紀治 (編)『グリーン・ツーリズムとむらまち交流の新展開』(家の光協会)
グリーンツーリズムの概要と日本と海外の事例を学ぶことができます。さまざまな形態のグリーンツーリズムを提示しているので、初学者にはわかりやすいです。
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古川 彰 (著/編)/松田 素二 (編)『観光と環境の社会学』 (新曜社)
社会学的な立場からグリーンツーリズム、強いては近代観光の批判的な考察をしています。これからの観光現象を考えたい方におすすめです。
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一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
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また、書籍を電子版で読むこともオススメします。
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まとめ
この記事の内容をまとめます。
- グリーンツーリズムとは、農山漁といった田舎を舞台として、自然・文化・人びととの触れあいを楽しむことを目的とした、新たな観光形態
- 現在の時代認識と人間観が地域振興の流れに結合することで誕生したものが、自然との共存を目指す「グリーンツーリズム」
- 地域振興・環境保護としてグリーンツーリズムが謳われるとき、そこに作用する社会政治性を批判的に考察する視点が不可欠
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