フィードラー理論(Fiedler contingency model)とは、LPC尺度という指標を用いて、どういう条件下なら、どのリーダー行動が有効なのかを明らかしようとする理論です。コンティンジェンシー(条件適合)理論とも呼ばれます。
ひとえにリーダーシップと言っても、人によってそのイメージや形はさまざまであり、唯一最善のリーダーシップを決めることは容易ではありません。
そこで、リーダーシップとは、そのリーダーシップを発揮しうる状況であったり、リーダー本人のパーソナリティの差異によって、望ましいリーダーシップが変化するはずと考え、独自の理論を構築したのが、アメリカのリーダーシップ研究者であるフレッド・E・フィードラーです。
この記事では、
- フィードラー理論の背景や特徴
- フィードラー理論に関する学術的な議論
などについて解説します。
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1章:フィードラー理論とは
まず、1章ではフィードラー理論を概説します。2章ではフィードラー理論を深掘りしますので、用途に沿って読み進めてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1:フィードラー理論の背景
フレッド・E・フィードラーはアメリカ出身のリーダーシップ研究の第一人者です。
「フィードラーによってリーダーシップ研究のパラダイム・シフトがもたらされた」「リーダーシップ研究は、フィードラーを境目にそれ以前とそれ以後に2分割される」2白樫三四郎(1994)「フレッド・E・フィードラー:人と業績」『大阪大学人間科学部紀要』20号 71頁と評価されるほど、リーダーシップ研究において高い貢献を果たした人物です。
リーダーシップ研究自体は特性理論からはじまり、1950年代に入ると行動理論が注目されるようになり、1960年になるとフィードラーによってコンティンジェンシー(条件適合)理論という新たな枠組みが提唱されました。
※特性理論については次の記事を参照してください→【特性理論とは】リーダーシップの特徴をわかりやすく解説
端的にいうと、リーダーシップ研究における特性理論と行動理論は、あくまでリーダー自身に着目した論点でした。これは学術的に以下のようなことを意味しました。
- 「この特性を持つリーダーは優れたリーダーだ」「この行動をするリーダーは優れたリーダーだ」といったように、リーダーに唯一のリーダーシップ・スタイルを求めるものであった
- しかし多くの研究者がさまざまな研究を重ねても、普遍的に有効なリーダーの特性も普遍的に有効なリーダーの行動も定義できなった
- そのため、新しいリーダーシップ研究の開拓が求められた
そこで登場したのが、フィードラーによるコンティンジェンシー理論です。フィードラーは、次のような主張をします3金井壽宏(2005)『リーダーシップ入門』日本経済新聞社 286頁。
唯一最善のスタイルのようなものが存在すると認めたとしても、状況からの要請やリーダー本人のひととなりによって、望ましいリーダーシップ・スタイルは変化しうるはずだ
このように、リーダー自身の特性や行動に着目したリーダーシップ論から、状況に着目したリーダーシップ論への転換を唱えました。
1-2:LPC尺度
フィードラーのコンティンジェンシー理論の基礎となっているのは、LPC(Least Preferred Co-corker)尺度と呼ばれる、もっとも一緒に働きたくない仕事仲間をどう評価するかという心理テストです。
図1 LPC尺度4白樫三四郎(1994)「フレッド・E・フィードラー:人と業績」『大阪大学人間科学部紀要』20号 80頁
このテストはリーダーを対象に実施され、次のように判断されます。
- 評定の合計得点5LPC得点:高いほど好意的評定とみなされるが高ければ、そのリーダーは一緒に仕事したくない人でもポジティブに捉えることができる「人間関係指向」(高LPC)の人であると判断される
- 逆に合計得点が低ければ、一緒に仕事をしたくない人をネガティブに捉える「課題達成中心指向」(低LPC)の人であると判断される
さらに調査対象となる集団が置かれた状況は、次の3つの条件で類別されます。
- リーダー/成員の関係・・・部下のリーダーに対する信頼度はどうか
- 課題構造度・・・リーダーの直面している課題や、部下の職務が明確にされている度合いはどうか
- リーダー地位勢力・・・リーダーが持つ報酬力や人事権の度合いはどうか
これらの3つの条件は、いずれもその度合いが高いほど、その集団は統制されているか考えられています。この3つの条件の度合いの組み合わせから「高統制」「中統制」「低統制」の3つのグループ分けがおこなわれました。
一般的に、高統制であればあるほどリーダーにとっては好ましい状況であると考えられ、低統制であればあるほどリーダーにとっては好ましくない状況であると考えることができます。
そして、条件の度合いによって分類されたグループに対するリーダーの属性(人間関係指向か課題達成中心指向か)がその集団の業績にどのような影響を与えているかを図2のようにまとめました。
図2 リーダーの指向と集団の置かれた状況と業績の関係6白樫三四郎(1994)「フレッド・E・フィードラー:人と業績」『大阪大学人間科学部紀要』20号 83頁
この調査結果から「高統制」または「低統制」下にある集団では「課題達成中心指向」(低LCP)の人の方が、「人間関係指向」(高LCP)の人よりも高い業績を上げることができます。
一方で、「中統制」下にある集団では「人間関係指向」の人の方が、「課題達成中心指向」の人よりも高い業績を上げることができると明らかになりました。
こうしてフィードラーによって、「リーダー行動には、やはり普遍的に有効なものはなく、どのような条件・状況下に置かれるかによって有効な行動は変わる」7グロービス経営大学院(2014)『グロービスMBAリーダーシップ』ダイヤモンド社 25頁というコンティンジェンシー(条件適合)理論が立証されました。
1-3:リーダー・マッチ
リーダー・マッチとは、コンティンジェンシー理論に基づいたリーダーシップの訓練と経験に関する取り組みのことです。
コンティンジェンシー理論の立証によって、優れた成果を生み出すリーダーの条件が決して単純なものではないことを確信したフィードラーは、リーダーシップの訓練に関する新たな枠組みの必要性を感じるようになります。
そこでフィードラーと彼の共同研究者らはリーダーの訓練と育成を支援するためのリーダー・マッチと呼ばれる手順を次のように考案しました8白樫三四郎(1994)「フレッド・E・フィードラー:人と業績」『大阪大学人間科学部紀要』20号 87頁。
- リーダーは所定の尺度に回答することによって、自分が高LPC(関係動機型)であるか、それとも低LPC(課題動機型)であるかを知る
- リーダーは現実に自分がおかれている状況に関連して、リーダー/成員関係、課題構造度、及び地位力の各所定の尺度に回答し、それらデータを総合して自分の状況統制力が高、中、低のいずれのレベルにあるかを知る
- 上の① と② の結果をフィードラーの条件即応モデル(第3図参照)と照合して、自己のLPCが現在の状況統制力との関係で高い効果性を発揮できる可能性の高い組合せ(たとえば、高LPCリーダーで中統制、あるいは低LPCリーダーで高統制もしくは低統制)にあるか、それともそうでないかについて判定する
- もし、高い効果性を発揮する可能性のある場合はそれでよいとし、もしそうでない場合(たとえば高LPCリーダーで高統制ないし低統制、あるいは低LPCリーダーで中統制)、状況統制力を適当に変化させて、自己のLPCにふさわしい状況にもってゆくため、リーダー/成員関係、課題構造度及び地位力をどのように変化させればよいかについて示唆を与える
このリーダー・マッチはリーダー自身が主体的に取り組むものとして想定されており、その内容は数多くの練習問題とその解説によって構成されています。
その有効性についてはさまざま批判や疑問もありますが、リーダーシップの訓練手法を具体的かつ実践的に提示できた点は高い評価を受けています。
ちなみに、リーダーシップについて学びたい方にまずおすすめなのは、金井の『リーダーシップ入門』です。
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- フィードラー理論とは、LPC尺度という指標を用いて、どういう条件下なら、どのリーダー行動が有効なのかを明らかしようとする理論である
- フィードラー理論は、リーダー自身の特性や行動に着目したリーダーシップ論から、状況に着目したリーダーシップ論への転換した理論である
2章:フィードラー理論に関わる学術的な議論
さて、2章では、フィードラー理論に関わる批判やその後の理論の展開を紹介します。
2-1:フォードラー理論に対する批判
フィードラー理論には主に次の2つの批判が存在します。
2-2-1:第一の批判
まず、第一に「LPC尺度や集団が置かれた状況の定義が曖昧で、不明確である」という批判があります。
代表的な例として、マクマホン(1972)はフィードラー理論に関して次のような批判をおこなっています9白樫三四郎(1994)「フレッド・E・フィードラー:人と業績」『大阪大学人間科学部紀要』20号 88頁。
(A)LPC得点の妥当性および信頼性に問題がある
LPC得点の妥当性や信頼性については数多くの研究者が批判をおこなっています。LPC尺度の質問項目はどれも抽象的なものであり、そもそもフィードラーが用意した質問項目自体がLPCを測定するのに果たして効果的であるのかについては疑問が残されています。
(B)リーダー/成員関係測定尺度の測定法に問題がある
集団の置かれた状況の分析や測定にも批判があります。リーダー/成員関係の測定に関しては、そもそもの業績がリーダーと成員の関係に影響を与えている可能性が考慮されておらず、特に集団としての業績が良ければ、その結果は集団の雰囲気に反映され、集団心理としてリーダー/成員関係は良好になるのではないかという指摘が存在します。
(C)課題構造度の分類基準があいまい
フィードラーは集団が置かれる状況のひとつである課題構造度を、リーダーが直面している課題がどの程度明確で、基準化・標準化されているかによって測ろうとしましたが、集団の抱える課題構造がそんな単純なものであるはずはなく、ほかのさまざまな要因が課題構造度に影響を与えているのではないかという指摘が存在します。
2-2-2:第二の批判
そして、第二の批判に「リーダーにとっての集団の置かれた状況が所与である」というものがあります。
金井は、フィードラー理論における集団の置かれた3つの状況について、状況に働きかけて状況好意性を改善できるのはほかならぬリーダーであるのに、状況の特徴が所作であることを批判しています10金井壽宏(2005)『リーダーシップ入門』日本経済新聞社 292-294頁。
たとえば、リーダーが部下への配慮に気を配るように心がけることでで、リーダーと成員の人間関係は好転する可能性があったり、リーダーが新たに集団の構造作りに取り組むことで、課題構造度は改善する可能性があるにもかかわらず、フィードラー理論ではそうした動的な状況変化は想定していません。
そのため、一時的な状況判断からそのリーダーが取るべきリーダーシップのスタイルを決めてしまっており、動的な変化を考慮していないという指摘をしています。
2-2:フィードラー理論のその後の展開
フィードラー理論は、2-1のような理論的合理性の観点から、さまざまな批判を受けることが多い理論でもありますが、その後、多様な学説が登場することになるコンティンジェンシー理論の礎を築いたという点では非常に高い評価を受けています。
野中(1976)は、「組織理論におけるコンティンジェンシー理論という言葉自体は、フィードラーのリーダーシップ効率の研究に起源を発する」11占部郁美(1979)『組織のコンティンジェンシーモデル』白桃書房 52頁と指摘しています。
そして、「あらゆる状況に適用できる唯一最善の方法というものは存在しない」という「普遍主義的立場」を否定し、「状況が異なれば、有効な方法は異なる」という、一見すると当然のようにも思える理論の立証に生涯を尽くしたフィードラーに賛辞を送っています12占部郁美(1979)『組織のコンティンジェンシーモデル』白桃書房 4頁。
フィードラー理論は、集団レベルを分析したコンティンジェンシー理論の原典として、その後の、R.J.ハウスの「経路-目標理論」、ハーシー=ブランチャードの「状況リーダーシップ(SL)理論」へと引き継がれていきます。
さらに、リーダーシップ研究を中心とした集団レベルを超えて、組織レベルのコンティンジェンシー理論として、ローレンスとローシュの「組織の条件適応理論」などにも応用されていくなど、さまざまな広がりを見せました。
金井は、フィードラー理論が経営学の古典としてずっと残り続けているのは、「有効なリーダーシップの型が状況に依存していることを初めて解明したからである」と著書にて結んでいます13金井壽宏(2005)『リーダーシップ入門』日本経済新聞社 294-296頁。
- 批判①・・・LPC尺度や集団が置かれた状況の定義が曖昧で、不明確である
- 批判②・・・リーダーにとっての集団の置かれた状況が所与である
3章:フィードラー理論について学べるおすすめ本
フィードラー理論を理解することはできました?フィードラー理論に少しでも関心をもった方のためにいくつか本を紹介します。
金井壽宏『リーダーシップ入門』(日本経済新聞社)
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- フィードラー理論とは、LPC尺度という指標を用いて、どういう条件下なら、どのリーダー行動が有効なのかを明らかしようとする理論である
- フィードラー理論は、リーダー自身の特性や行動に着目したリーダーシップ論から、状況に着目したリーダーシップ論への転換した理論である
- フィードラー理論にはいくつかの批判がある
このサイトは人文社会科学系学問をより多くの人が学び、楽しみ、支えるようになることを目指して運営している学術メディアです。
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