経営学

【事業部制とは】特徴・成立の歴史・具体例をわかりやすく解説

事業部制とは

事業部制(Divisional organization)とは、組織が目的ごとに部門化(事業部化)されており、1つ1つの事業部がすべての職能を持つことで、自律的に活動することができる組織構造です。

事業部制は、活動目的や営利・非営利を問わずにさまざまな組織で用いられている代表的な組織構造です。事業部制を採用している組織は、各々の組織によって細かな違いはありますが、事業部制としての共通する性質をもっています。

この記事では、

  • 事業部制の意味・特徴・事例
  • 事業部制の歴史

などをそれぞれ解説していきます。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:事業部制とは

まず、1章では事業部制を概説します。2章では事業部制の歴史を解説しますので、用途に沿って読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:事業部制とは

事業部制とは、基本的に市場への適応を考える「事業部」と経営戦略を考える「経営層」の2つの階層に分業された組織構造です。

事業部の特徴とは、それ自体が特定の目的をもって活動するために、1つ1つの事業部が活動の遂行に必要となる職能を事業部の中に有していることです。たとえば、経済活動の流れがイメージしやすい製造業で説明すると、製造業の業務フローは図1のようにあらわすことができます。

製造業のバリューチェーン図1 製造業のバリューチェーン2株式会社日本ビジネスクリエイト『バリューチェーンを構成する「4つのプロセスチェーン」とは?』(幻冬社ゴールドオンライン)

図1の主活動にあたる部分が製造業としての付加価値を生む経済活動です。その流れは以下のようになります。

  1. 原材料を調達する「購買物流」
  2. 製品を製造する「製造」
  3. 完成した製品を出荷する「出荷物流」
  4. 出荷した製品を市場に流通させる「マーケティング営業」
  5. 製品のアフターサービスなどを担当する「サービス」

製品の製造によって付加価値を生み出すという目的は共通しますが、こうした一連の経済活動をひとつの部署がすべて担当することはまれです。

一般的には①を担当する購買部や②を担当する製造部、④を担当する営業部など、組織の機能別にさらに細かく分担されることで、経済活動ごとの効率化や専門化が図られています。

ここで事業部制をより理解するために、もうひとつの代表的な組織構造である「職能別組織」と比較をしながら、その特徴を押さえていきましょう(図2)。

松下電器従業員数の推移図2 職能別組織と事業部制組織3鈴木竜太(2018)『はじめての経営学 経営組織論』(東洋経済新報社)86頁

職能別組織ではひとつの組織内に生産や販売といった職能がひとつしか存在しないのに対して、事業部制組織では事業部ごとに職能が保有しており、同じ機能を持つ事業部(部門)が複数存在していることがわかります。

つまり、事業部制とは複数事業になった企業がまず事業部を分割し、その下で職能別に組織が分割される組織形態であるとみなすことができます。さらに言うと、大きくなった職能別組織を事業部ごとに小さくしたうえで、再度職能別組織を作るものであると考えることができます。

さらに、事業部制には、

  • 製品別事業部・・・製品を基準とした事業部
  • 地域別事業部・・・地域を基準とした事業部

があります。

製品別事業部は、製造業でよく用いられる事業形態です。たとえば、乳酸菌飲料の「ヤクルト」で有名な株式会社ヤクルトでは、主力の食品事業本部に加え、化粧品事業や医薬品事業をそれぞれ事業部として独立させています。

それによって、経営の効率化をおこなっており、製品別事業部制を採用していると考えられます4株式会社ヤクルト公式ホームページ「組織図」

また地域別事業部は、全国各地に支社をもつ企業や、小売・サービス業でよく用いられる事業形態です。東京支社や大阪支社のようにエリア別に組織を管理している場合は、地域別事業部と呼ぶことができます。

もっとも、すべての事業部制組織が製品別と地域別の2つに分けられるわけではなく、国内事業部と海外事業部のようにまずは地域別で分けられたうえで、製品別事業部が編成されていたり、地域別事業部と製品別事業部が同一の階層に並列して作られていたりするようにケースも存在します。

また、一般的には、職能別組織が単一または少数の製品カテゴリーしか扱っていないような中小企業向けの組織形態であるのに対して、事業部制組織は複数の製品カテゴリー、または広域の市場で販売する中規模以上の企業向けの組織形態であると考えれています。



1-2:事業部制のメリット

事業部制のメリットには、次のような点が挙げられます。

  1. 柔軟で迅速な意思決定ができる
  2. 利益責任が明確である
  3. 経営後継者の育成ができる

それぞれ解説していきます。

①柔軟で迅速な意思決定ができる

事業部制では、製品あるいは地域といった市場に近いところで意思決定ができるために、柔軟で迅速な対応をおこなうことができます。

たとえば、同じメーカーの家電製品であっても、洗濯機と冷蔵庫ではユーザーのニーズや用途は全く異なります。また、寒い地域と暖かい地域では、空調機器や暖房機器そのものに求められる性能は大きく異なります。

事業部制では、こうしたユーザーのニーズの違いを事業部ごとに反映することができるため、より顧客に密着した製品開発やマーケティング戦略を実行することできます。

②利益責任が明確である

事業部制では、事業部ごとに損益計算書を作成するため、事業別の利益責任が明確になり、業績向上に向けたインセンティブが働きやすいというメリットがあります。

機能別組織では、それぞれの部門の役割は明確であっても、その役割が会社に対してどれだけの利益的貢献ができているかを正確に算出することは非常に難しいです。

しかし、事業部制組織では、それぞれの事業部が独立して経済活動をおこなえるため、どの事業部がどれだけの利益貢献ができているのかが明確であり、全社的な経営戦略が立案しやすいという特徴があります。

③経営後継者の育成ができる

独立した活動が可能である事業部制は、その小さな組織を束ねる事業部のトップはさまざまな職能をまたいで全体を見渡す視点を得ることができるため、将来的な経営者の育成に貢献することができます。

生物学的な寿命が存在しない組織においては、ひとりの経営者が永続して組織を率いることは不可能であり、世代交代は組織に必ず訪れる課題です。そのため、その世代交代に必要なスキルや素養を各事業部での経験で養うことで、円滑な世代交代を実現できる可能性が高まります。



1-3:事業部制のデメリット

メリットとは逆に、事業部制には次のようなデメリットも存在します。

  1. 事業部ごとに経営資源の重複が生まれる
  2. 各事業部の独立性により、横断的な組織運営が難しくなる

①事業部ごとに経営資源の重複が生まれる

事業部制のデメリットのひとつには、各事業部に必要な職能を配置しなければならないため、同一の組織内で経営資源の重複が生まれることがあげられます。

たとえば、同じ企業が種類の異なる製品を製造する場合、各事業部で製品企画や製造、マーケティングや販売などの製造・流通に必要な職能を備える必要があり、社内に製造部や営業部が複数存在する可能性が生まれます。

もちろん、各事業部には人員や機械設備などを個別に投入しなければならないため、社内の経営資源が過度に肥大してしまうリスクが発生します。

②各事業部の独立性により、横断的な組織運営が難しくなる

事業部の独立性は事業部制の大きな特徴のひとつですが、その独立性が高ければ高いほど、社内での部門横断的な組織運営が難しくなります。

職能別組織であれば、各部門はそれぞれの専門性や役割に応じて必要な機能を提供するだけの存在であるため、部門を跨いで協力的な体制を構築することはそこまで難しくありません。

しかし、組織として活動に必要なほとんどの職能を備えている事業部制組織では、事業部間が協力または連携する必要性が小さく、部門横断による新たなイノベーションが生まれにくいというデメリットがあります。

1章のまとめ
  • 事業部制とは、組織が目的ごとに部門化(事業部化)されており、1つ1つの事業部がすべての職能を持つことで、自律的に活動することができる組織構造である
  • 事業部制とは複数事業になった企業がまず事業部を分割し、その下で職能別に組織が分割される組織形態である

 


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2章:事業部制に関する研究・事例

2章では、日本ではじめて実質的な事業部制組織を導入した企業である松下電器(現パナソニック)とその創業者である松下幸之助を紹介します。

※パナソニックの詳しい説明については割愛しますのでが、詳しくはリーダーシップ論の記事をご覧ください。→【リーダーシップ論とは】意味・歴史・有名な事例をわかりやすく解説

ここで「実質的」とわざわざ前置きしたのは、松下電器よりも先に組織の名称として「事業部」という言葉を使った財閥系企業が存在するためです。

しかし、戦略的な組織構造として明確な理念な目的をもって事業部制組織を考案し、試行錯誤を繰り返しながら構築したのは、まぎれもなく松下電器が日本ではじめてです。

そしていまでも事業部制組織と言えば、松下電器が思い浮かぶ人が多いくらい先進的な企業運営をしていました。

2-1:事業部制導入の背景

松下電器電機の研究者として知られている大森(2011)によると、松下電器に正式な事業部制が導入されたのは1933年のことであったと述べています。

松下電器も創業からしばらくは、製作部や営業部などに分けられる、ごく一般的な職能別組織を採用していた一企業にすぎませんでした。

しかし、部下を信頼して仕事は任せるが、決して任せっぱなしにするのではなく、適宜助言を与えながら報告を求め、最後の責任は経営者である自分がとる「任せて任せず」という松下幸之助の哲学のもと、日本のどの企業よりも先駆けて事業部制組織を導入しました。

松下電器が事業部制を導入するにあたって、その創業者である松下幸之助がどのように考えていたのかについては、『松下電器五十年の略史』にその想いが書かれています5製品別事業部制組織(昭和8年5月)5大森弘(2011)「第6章「事業部制」がもたらしたもの」 『松下幸之助 社員を夢中にさせる経営』(PHP研究所)

私が小規模でやっていたときは、私だけの支配でこと足りた。しかし、さらに新しい仕事ができてくるとなると、私自身も一人では、どれもこれも、よくわかるということはできない。にもかかわらず、それを一つ一つ私が見なければならないとなると、ある場合には「君ちょっと待ってくれ。いま私は別のことを考えているんだ」ということになる。これでは、いかんという感じがしたのである。

そこで電熱部(当時、電気コタツやストーブなどを製造する部門のひとつであった6カッコ内は筆者注釈)も、だれかに担当してもらおうと思った。さて、担当してもらうにあたって、私はちょっと考えた。

同じ担当してもらうなら、いっさいの責任をその人に持ってもらおうと考え、「松下では、やはり電熱器を作らないといかんから作りたいのだけれども、僕はようやらない。君やってくれ」ということで、いっさいを任せた。

この「君やってくれ」というときに、その人を事業の最高責任者にしたわけである。業容は小さくても、全部任すということである。これが松下電器の事業部制の始まりです。

松下のこの言葉からも、事業部制という構想が、会社が拡大していく過程で、ごく自然の流れで生まれたものがわかります。

しかしながら、いくら会社が大きくなったからといっても、いまほど経営に関する研究が存在しなかった当時の環境から考えると、「部門ごとの経営を部下全面的に任せる」という考え方は、まさに松下幸之助の独自性から生まれたものである言えるでしょう。

松下電器従業員数の推移図3 松下電器従業員数の推移(大正7年~昭和11年)7大森弘(2011)「第6章「事業部制」がもたらしたもの」 『松下幸之助 社員を夢中にさせる経営』(PHP研究所)

製品別事業部制組織図4 製品別事業部制組織(昭和8年5月)8大森弘(2011)「第6章「事業部制」がもたらしたもの」 『松下幸之助 社員を夢中にさせる経営』(PHP研究所)



2-2:松下電器の事業部制の特徴

日本の事業部制組織の礎を築いたと言っても過言でない松下電器ですが、特筆すべき点をあげるとすれば「柔軟な環境適応力」「人間本位の組織づくり」にあると言えます。

2-2-1: 柔軟な環境適応力

1933年に正式に制度化された松下電器の事業部制でしたが、松下電器は第二次世界大戦による社会の混乱と、敗戦によるGHQの各種制限の影響を考慮して、従来の事業部制組織から中央集権的な職能別組織への転換を試みています。

職能別組織への転換の要因

  • それは先の読めない社会情勢や、日本やGHQなど政府に厳格に管理された資本主義に対応するための松下電器の生存戦略があったと考えられている9確かに、事業部制組織は組織内の権限が分権化され、市場の細かなニーズに対応するのには適した組織構造であると言えます。
  • また、戦時中など社会情勢が不安的であるときには、経営者の強力なリーダーシップの下で、全社的な戦略を実行できる職能別組織のほうが適切であるとの松下幸之助の判断が働いた可能性がある

このように、松下電器には自らが作り上げた事業部制組織を捨ててでも、組織を社会環境に適用させようとする柔軟性がありました。

そして戦後処理が落ち着き、経済情勢が安定し始めた1950年になると、松下電器の事業部制組織は再度復活し、そのすぐ後に訪れる高度経済成長で高いパフォーマンスを示しました。

2-2-2: 人間本位の組織づくり

次に「人間本位の組織づくり」とは、まさしく松下幸之助が信念としていた経営哲学に通ずる特徴です。松下電器の事業部制の構築においてもその理念は存分に反映されていました。

1章で、事業部制組織のメリットには「利益責任の明確化」であると述べましたが、松下幸之助の目指した事業制組織では、「利益責任の明確化」を必ずしも松下電器にとってだけのメリットとしては捉えていませんでした。

会社で働く人のモチベーションやパフォーマンスを最大限発揮したいという人間的な願いを実現するために、制度としての「利益責任の明確化」を導入したと考えられます。そのため、松下幸之助が生み出した「事業部制」とは、ただの組織制度としての形ではなく、そこに込められていた理念を含めて「事業部制」であったと考えられます。

いまでも多くの組織で事業部制という形は採用されていますが、事業部制という組織構造のメリットを最大限発揮するためには、松下幸之助のような確固とした経営哲学や人間哲学が必要であると言えるかもしれません。

2章のまとめ
  • 松下電器に正式な事業部制が導入されたのは1933年のことであった
  • 松下電器の特徴は「柔軟な環境適応力」と「人間本位の組織づくり」にある

 

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3章:事業部制に関するおすすめ本

事業部制について理解が深まりましたか?

さらに深く知りたいという方は、以下のような本をご覧ください。

おすすめ書籍

オススメ度★★★ 鈴木竜太『経営組織論(はじめての経営学)』(東洋経済新報社)

大学の経営学部でも用いられている経営組に関する論点がまとめられた教科書的な1冊です。組織構造論から組織行動論まで幅広くまとめられており、経営組織論の全体を把握したい方におすすめの1冊です。

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オススメ度★★★ 大森弘『松下幸之助 社員を夢中にさせる経営』(PHP研究所)

松下幸之助に関する研究の第一人者でもある筆者による松下哲学の解説書です。今回の2章の内容のベースともなっている書籍でもあり、学生や研究者のみならず、実務家の方にもぜひ読んでもらいたい1冊です。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 事業部制とは、組織が目的ごとに部門化(事業部化)されており、1つ1つの事業部がすべての職能を持つことで、自律的に活動することができる組織構造である
  • 事業部制とは複数事業になった企業がまず事業部を分割し、その下で職能別に組織が分割される組織形態である
  • 松下電器に正式な事業部制が導入されたのは1933年のことであった(日本初)

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