同調現象(Conformity)とは、自分の意見や判断または信念を曲げて、所属している集団の多数派の意見や判断に従ってしまう効果のことです。
同調現象を学ぶと、集団の判断や意思決定が、私たち個人の判断や意思決定に与える影響が非常に大きいことがわかります。言い換えれば、同調現象を理解していないと、知らずのうちに影響を受けてる可能性があります。
そこで、この記事では、
- 同調現象の意味・例
- 同調現象の心理学的実験
をそれぞれ解説していきます。
好きな箇所から読み進めてください。
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1章:同調現象とは
1章では、同調現象の全体像を提示します。同調現象の心理学的実験に関心のある方は、2章から読んでみてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1:同調現象の意味
冒頭の確認となりますが、同調現象とは、
自分の意見や判断または信念を曲げて、所属している集団の多数派の意見や判断に従ってしまう効果のこと
です。
日本のことわざをもじっていうと「長いものには巻かれてしまう効果」のようなものです。つまり、私たちは、性格や状況によって個人差はあるものの多数派の意見に従いやすい傾向にあるということです。
この同調現象はアッシュ(1956)という心理学者によって実証されました。アッシュ(1956)の実験は、以下のとおりです2Asch, S. E. (1956). Studies of independence and conformity: I. A minority of one against a unanimous majority. Psychological monographs: General and applied, 70(9), 1.。
実験概要
- 実験は7-9人の集団に対して行われた
- 実験参加者は比較的簡単な視覚的な判断をすることを求められた。たとえば、実験参加者は図1のような棒の長さを比較するように求められた
- 具体的には、「Xの棒の長さと同じ長さのものはA、B、Cのうちのどれか」といったことを判断することが求められた
図1 アッシュ(1956)の実験で使用された刺激の例
さて、読者の皆さんはどれが同じ長さだと思いますか?多くの方はXと同じ長さなのはBであると判断できたのではないでしょうか?実際、アッシュ(1956)の実験においても、ほとんどの参加者(ほぼ100%)がこの問題を正しく判断することが出来ました。
しかし、実験参加者を少数派にすることで、正答率は約6割程度まで低下しました。実はこの実験7~9人の集団のうち1人以外は、全員サクラだったのです3サクラというのは、心理学の実験でよく用いられる用語で、実験者の指示の通りに行動する実験参加者のことを意味しています。。
この実験では、1人以外のサクラの実験参加者にはCを選ぶようにという指示が与えられていました。つまり、この実験の結果は、約4割の実験参加者が、同調現象によってほぼ100%の人が正解できる問題を間違えてしまったということです。
1-2:同調現象が起きる理由
では、なぜこのような同調現象が生じるのでしょうか?心理学者の唐沢はその理由として、「情報的要因」と「規範的要因」の2つの要因があると以下の書物で指摘しています4唐沢 穣「集団の中の個人」『社会心理学(補訂版)』池田 謙一・唐沢 穣・工藤 恵理子・村本 由紀子(編)有斐閣 183-200頁。
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情報的要因とは、「多くの人が行う判断や意見は正しい」という信念に基づいているものです。アッシュが行ったような、多くの人が正しくこたえられるであろう問題において、多くの人がC(またはA)と回答しているという状況は、その回答が正しいものであると考えるための十分な証拠になるということです。
対して、規範的要因とは、その集団の中で、逸脱した行動をとることで集団から排除されることを避けたいといった動機や、一致した判断をすることで集団から認められたいという動機を指します。
これらの要因の存在を支持するように、図1のような課題において、集団内に自分のほかに1人でも正解を選ぶ参加者がいるような場合には、参加者の正答率は9割程度まで上がることが知られています。つまり、集団内に自分以外に同様の意見を持つ者がいることで、同調現象は非常に弱まるということです。
これは、 上記の2つの要因をもとに説明することが出来ます。
- 情報的要因
→自分と同じ意見を持つ構成員の存在は、多数派が選んだ選択肢に対する正しさの評価を下げ、自身の回答への確信度を高めてくれます。 - 規範的要因
→1人自分と同じ意見を持つ構成員がいることで、自分だけが逸脱するというリスクを回避することが出来ます。
つまり、自分と同じ意見を持つ構成員の存在により、同調現象を促すような規範的要因と情報的要因が弱まるということです。
また、この同調現象には、状況と個人特性が影響を与えています。同調現象に影響を与える状況要因の1つとしては、その集団の凝集性の高さというものが挙げられます。集団の凝集性とは、「成員を集団に引きつけてとどまらせるように働く力」のことを指します5唐沢 穣「集団の中の個人」『社会心理学(補訂版)』池田 謙一・唐沢 穣・工藤 恵理子・村本 由紀子(編)有斐閣 183-200頁。
たとえば、集団の凝集性が高いということは、その構成員がその集団から離れようとする気が低いような集団ということです。このような集団では、この同調現象がより強く表れることが知られています。
1-3:同調現象の日常的な例
では、このような同調現象は日常場面におけるどのような状況下で観察されるのでしょうか?代表的な場面の1つとして挙げられるのは、選挙でしょう。選挙の形態にはさまざまなものがありますが、ここでは多数派が勝利する構造を考えてみましょう。
同調現象の選挙における例
- A党とB党が票を取り合っているとする。この時、A党が優勢で7割程度の人がA党を支持していて、残りの3割程度の人がB党を支持しているとする
- 先ほどの同調現象を踏まえて考えると、自身が少数派な場合、多数派に合わせて意見を変えるということが起こる。結果として、実際にA党を支持しているかは置いておいて、7割よりも多くの人が多数派であるA党を支持すると表明することになる
- また、反対に少数派の人は、集団から逸脱しているということを表明したくないという規範的要因の箇所で述べた理由により、意見を変えるまではいかなくてもより沈黙するようになる。結果として、少数派であるB党を支持する声はどんどん小さくなる
さて、このような状況は渦のようにどんどん進行していきます。なぜなら、多数派と表明する人が多くなるほど、少数派と表明する人が少なくなるほど、このような多数派の声が多くなって、少数派が声を上げにくくなるという現象は加速するためです。
このような現象は「沈黙の螺旋理論」として、社会全体のなかで多数派が形成されていく仕組みの一つとして説明されるものです。そして、この対象になるのは、選挙だけではありません。
いわゆる世論と呼ばれるものも、このように形成されるといわれています。世論の場合は、ここで説明したA党とB党が、意見Aと意見Bのどちらが世論になるかという話だと、考えてください。すると、意見Aが正しいと表明する人が増えると、意見Bを表明する人が減るという現象が渦のように続いていくということです。
もちろん、これらの例は理論上の話であり、少数派は必ず多数派に対して沈黙するというわけではありません。しかし、私たちは同調によってこのような行動をとりやすいということは確かです。
1-4:正常化バイアスとの関係
もう1つ、同調現象がみられるような場面を紹介しましょう。それは、正常化バイアスがみられるような場面です。
正常化バイアスとは、
何か緊急事態が発生した際に、事態の緊急性を過小評価し、平常性を過大評価してしまうバイアスのこと
です。
たとえば、災害時に多くの人が、とっさに行動に移せないことが知られています。これは、この正常化バイアスによって事態の緊急性を過小評価してしまうためだといわれています。
この正当化バイアスの原因は、状況判断の性質に起因するといわれています6村上 由紀子「集団行動とマイクロ=マクロ過程」『社会心理学(補訂版)』池田 謙一・唐沢 穣・工藤 恵理子・村本 由紀子(編)有斐閣 373-394頁。それは具体的に以下のような意味です。
- 私たちが状況判断を行うときには、まず「今は正常だ」という前提で物事を探索するからだといわれている
- 前提が「今は正常だ」という状態なので、「今は平常ではない」という判断を下すためには、「今は平常だ」を更新するだけの情報が必要になる
- しかし、私たちは自身の持つ前提を確証するような証拠を探してしまいやすいという特性(確証バイアスなど)あるため、「今は正常ではない」という証拠はなかなか発見できない
- 結果として、緊急性を過小評価するという正常化バイアスにつながる
では、この正常化バイアスに同調現象はどのような影響を与えるのでしょうか?この正常化バイアスは個人でいる時よりも、集団でいるときのほうが起こりやすいことが知られています。
このようなことが起こる原因はいくつか考えられますが、その1つが同調現象によるものだと考えられます。正常化バイアスは個人でも起こります。そのため、何か緊急事態が生じたとき、そこにいる集団の全員が個人差はあれど正常化バイアスによって現在の状況を正常だと判断することになります。
すると、同調現象によって、多数派が正常だと判断している状況が生まれます。このような状況は「今は正常だ」と判断するための強い手掛かりになります。その結果、先ほど言った沈黙の螺旋理論のように、「今は正常だ」という多数派の意見がどんどん大きくなっていくというわけです。
このように、同調現象は集団が関与するさまざまな現象に関与しています。この同調現象について学んだだけでも、集団の判断や意思決定が、私たち個人の判断や意思決定に与える影響が非常に大きいことがわかると思います。
- 同調現象とは、自分の意見や判断または信念を曲げて、所属している集団の多数派の意見や判断に従ってしまう効果のことである
- 同調現象には「情報的要因」と「規範的要因」の2つの要因がある
2章:同調現象に関する心理学的な実験
さて、2章では同調現象に関する学術的な議論を紹介します。
2-1:少数派による多数派への影響
さて、ここまでの話では、私たちは多数派の意見に「同調」することによって自身の意見を変えてしまう傾向にあるということを説明しました。一方で、私たちは、多数派の意見ばかりではなく、少数派の意見をきき、考えを改めることもあります。この章では、多数派の意見ではなく、少数派の意見の持つ力に着目した実験を1つ紹介します。
ここで紹介するのは、モスコビッチ、ラージ、ナフレシュー(1969)の実験です7Moscovici, S., Lage, E., & Naffrechoux, M. (1969). Influence of a consistent minority on the responses of a majority in a color perception task. Sociometry, 365-380.。実験の概要は以下のとおりです。
実験概要
- この実験は、6人の集団に対して行われた。この6人のうち2人はサクラであった
- 実験は知覚現象を調査するものだといって行われた。実験参加者は、いくつかのグラデーションの「青い」画像を見せられて、これが何色かを判断するという課題を行った
- ここで提示される「青い」画像は、一般的な参加者のほとんどが青いと答えるようなものとなっていた。しかし、色をこたえる際、サクラの2人は一貫して「緑」と回答した
- つまり、アッシュ(1956)の実験でサクラを使用して多数派を作っていたように、この実験ではサクラを利用して少数派を作り出した
- ここで重要なのは、サクラの2人の参加者は一貫して「緑」と回答を続けたこと。この実験ではこの時、ほかの4人の判断が青から緑に変わるのかということが検討された
実験の結果、実験参加者の中に、「緑」と回答するものが現れました。つまり、少数派の判断によって多数派が影響を受けたということです。
また、実験の結果、実験参加者が「緑」と知覚する範囲が広くなりました。この結果は、少数派の意見が多数派の判断や意思決定だけではなく、知覚という私たちが意識的に操作することが出来ないような部分にまで影響を与えたことを示しています。
これらの結果について、モスコビッチ、ラージ、ナフレシュー(1969)は、今回の実験結果が限定状況におけるものだということを述べたうえで、少数派の意見が多数派に与える影響について一貫性の重要性を主張しています。
- 今回の実験において、多数派に影響を与えた少数派のサクラは一貫して「緑」と主張していた。これは、個人内での回答の一貫性である
- アッシュ(1956)の実験において一貫性について考えてみると、自分以外の参加者がみんな一貫して同じ回答をしているといえる。これは、個人間での一貫性と考えることが出来る
- つまり、個人間で回答が一貫している場合に、より正しいと認識されるように、個人内で回答が一貫している場合にも、より正しいと認識されるためこのような影響がみられたと考えられる
ただし、一貫性だけでは、少数派の意見が多数派に与える影響をすべて説明することはできません。たとえば、少数派Aさんのすべて判断や行動が、集団の多数派とは異なるものだった場合、Aさんの行動が多数派に与える影響は少なくなると考えられます。
なぜなら、Aさんの行動は一貫して集団と異なるのであり、自身には関係ないと認識されてしまうためです。少数派の意見が力を持つためには、一貫性以外にも、複数の条件を満たすことが重要なのです。
3章:同調現象について詳しく学べる本
同調現象を理解することはできましたか?最後に、あなたの学びを深めるためのおすすめ書物を紹介します。
オススメ度★★★ 池田 謙一・唐沢 穣・工藤 恵理子・村本 由紀子『社会心理学(補訂版)』(有斐閣)
社会心理学に関する教科書です。同調(現象)に関する説明も詳細に紹介されています。社会心理学の基礎から、応用まできちんと網羅された良い教科書だと思います。大学生向けです。
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オススメ度★★★ 亀田達也『眠れなくなるほど面白い 図解 社会心理学』(日本文芸社)
社会心理学が扱うさまざまな現象を図解とともに非常にわかりやすく説明している良著です。内容は、実際に行われた実験の内容なども紹介しながら非常に簡潔にまとめられています。高校生や場合によっては中学生の方にもおすすめできる書籍です。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- 同調現象とは、自分の意見や判断または信念を曲げて、所属している集団の多数派の意見や判断に従ってしまう効果のことである
- 同調現象には「情報的要因」と「規範的要因」の2つの要因がある
- 少数派の判断によって多数派が影響を受けるときもある
このサイトは人文社会科学系学問をより多くの人が学び、楽しみ、支えるようになることを目指して運営している学術メディアです。
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参考文献
- Asch, S. E. (1956). Studies of independence and conformity: I. A minority of one against a unanimous majority. Psychological monographs: General and applied, 70(9), 1.
- Moscovici, S., Lage, E., & Naffrechoux, M. (1969). Influence of a consistent minority on the responses of a majority in a color perception task. Sociometry, 365-380.
- 唐沢 穣「集団の中の個人」『社会心理学(補訂版)』池田 謙一・唐沢 穣・工藤 恵理子・村本 由紀子(編)有斐閣 183-200頁
- 村上 由紀子「集団行動とマイクロ=マクロ過程」『社会心理学(補訂版)』池田 謙一・唐沢 穣・工藤 恵理子・村本 由紀子(編)有斐閣 373-394頁