経営学

【カッツモデルとは】3つのスキルの育成・問題点をわかりやすく解説

カッツモデルとは

カッツモデル(Katz model)とは、ハーバード、スタンフォード両大学の経営大学院で教鞭をとったロバート・L・カッツによって提唱された組織の管理者らに求められる基本的スキルに関する理論です。

カッツモデルはスキル・アプローチとも呼ばれます。

優れた管理者を判定する上で、その個人がどのような素質や性格を有しているのかではなく、その個人が何ができるのかを明らかにすることで、組織のなかで育成可能な3つの基本的スキルを提示しています。

この記事では、

  • カッツモデルの意味・個別のスキル
  • カッツモデルの問題点

などをそれぞれ解説していきます。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:カッツモデルとは

まず、1章ではカッツモデルを概説します。2章以降ではスキルの育成やカッツモデルの問題点を解説しますので、用途に沿って読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:カッツモデルの意味

カッツモデルが『ハーバードビジネスレビュー』で発表された1955年当時、多くの企業では持続的な成長を実現するために、理想的な幹部のパーソナリティ上の特徴を明らかにしようとする精力的な試みがおこなわれていました。

カッツモデル誕生の時代的背景

  • 詰まるところ、企業の成長を担う幹部を務めるためには、特別な才能や素質が必要であり、なおかつそれは先天的なものであると考えられていた
  • 企業も研究者もそうしたダイヤの原石を組織内でどのようにしたら見つけるにはパーソナリティに着目するしかないと考えていた
  • ところが、カッツは経営者が本当に知りたいのは、その人がどんな人柄かということよりもむしろ、その人は何ができるかであるはずだと考えた

つまり、千差万別なパーソナリティに関する理論を構築することよりも、組織の業務プロセスにおいて多くの共通点が見られるスキルの側面に着目することから「カッツモデル」が生み出されていったのです。

カッツモデルでは、管理者が成功するために、その所属する管理階層のレベルによって程度は変わるものの、必ず有していなければならないものとして3つの基本的スキル「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」の存在を指摘しました(図1、詳しくは後述)。

カッツモデル図1 カッツモデル2ダイヤモンドオンライン「成功しているリーダーに「良い人」が多い理由」

さらに、カッツはここで使用している「スキル」という言葉について、以下のように説明しています3ロバート・L・カッツ(1982)『スキル・アプローチによる優秀な管理者への道』ダイヤモンド社 76頁

必ずしも生まれつきのものではなく、育成可能であり、単に潜在的なものに留まらず、行為として現われる能力を意味している。したがってスキルに優れているということの主たる判断基準は、さまざまな条件の下で効果的な行動をとるということでなければならない

このように、カッツモデルとは特質を見分けるものでなく、あくまで行動結果の測定に過ぎないことを強調しています。



1-2:テクニカルスキルとは

テクニカルスキルとは、

「特定の活動、特に手法、プロセス、手順、あるいはテクニックとかかわりあう活動を理解し、それに熟達している」4ロバート・L・カッツ(1982)『スキル・アプローチによる優秀な管理者への道』ダイヤモンド社 76頁こと

です。

テクニカルスキルは最も具体的で、仕事が専門化・分業化されている現代において、多くの人に求められるスキルです。

たとえば、工場の作業員であれば、実際に製品を製造したり、検査したりすることはテクニカルスキルとなり、企業の会計担当であれば、帳票の仕分けをしたり、請求書の作成をしたりすることもテクニカルスキルが求められる仕事であると考えられます。

一般的に、テクニカルスキルは訓練計画やOJT(オン・ジョブ・トレーニング)によって組織内部で当然に育成されていくものであり、育成の計画や育成の度合いの可視化が容易であることが特徴です。

1-3:ヒューマンスキルとは

ヒューマンスキルとは、

「グループの一員として手際よく仕事をし、自分の率いるチーム内で力を合わせて努力する場を作り上げる能力」5ロバート・L・カッツ(1982)『スキル・アプローチによる優秀な管理者への道』ダイヤモンド社 76頁のこと

です。

テクニカルスキルが目に見える具体的な物事にかかわるスキルであるのに対して、ヒューマンスキルは個人が上司や同僚、部下に対して認知または行動する仕方によってあらわれるスキルです。

また、テクニカルスキルが必ずしも対人関係を意識しないスキルであったのに対して、ヒューマンスキルは人材のマネジメントに直接的に影響を及ぼすものであり、特に組織の中間管理職(ミドルマネージャー)に重要な能力であると考えられています。

たとえば、次のような状況を考えてみてください。

  • 会社の上司がある個人(ここでは上司の部下)の普段の仕事ぶりや発言・行動を信頼して新たな仕事を任せてくることは、その個人のヒューマンスキルが高い証拠のひとつになる
  • 逆に、会社の部下がある個人(ここでは部下の上司)に仕事の相談をすると、理不尽な叱責を受けたり、手柄を横取りされるかもしれないと考え、接触を避けるようなことがあれば、その個人はヒューマンスキルが低いと判断される

ヒューマンスキルは、テクニカルスキルとは性質が異なり、可視化や数値化が難しいスキルであり、組織で計画的な育成を試みようと思っても、その個人の全人格を変革することは大きな困難を伴います。



1-4:コンセプチュアルスキルとは

コンセプチュアルスキルとは、

「組織の諸機能がいかに相互依存し合っているか、またその内のどれか1つが変化した時、どのように全体の機能に影響が及ぶかを認識すること」6ロバート・L・カッツ(1982)『スキル・アプローチによる優秀な管理者への道』ダイヤモンド社 78頁

です。

端的にいえば、コンセプチュアルスキルは企業を総合的に捉えることのできる能力で、経営者や取締役などトップレベル層に必要不可欠なスキルです。

カッツはコンセプチュアルスキルについて「管理プロセスを統合し、整合させる要素であり、何にもまして重要であることは否定の余地はない」7ロバート・L・カッツ(1982)『スキル・アプローチによる優秀な管理者への道』ダイヤモンド社 76頁と述べており、組織が総合的な成功を収めるために最も重大なスキルであることを指摘しています。

テクニカルスキルやヒューマンスキルであれば、そのスキルの良し悪しに一定の評価を下すことが難しくありませんでしたが、コンセプチュアルスキルは不確実な環境や状況において、組織全体の方針や将来の方向性を定める必要があり、その成否がある一時点では判断しにくいという特徴を持っています。

また、ある個人のコンセプチュアルスキルが、必ずしも多くの人に受け入れられたり、認められたりする必要がないというのも興味深い点です。たとえば、日本を代表する企業の1社であるソニーの創業者の井深大は、時には周囲が理解できないほどの秀でたコンセプチュアルスキルを持っていた経営者のひとりとして高い評価を受けています。

ソニーに関して

  • ソニーは、1946年に井深大と森田昭夫によって設立された「東京通信工業株式会社」(以下、東通工)を前身とする日本を代表するメーカー
  • 資源も資金の調達もままならない戦後すぐに創業された企業が、日本のみならず世界的な大企業になれたのは創業者の井深と森田に卓越したコンセプチュアルスキルがあったからと言われている

戦後すぐGHQの管理下にあった日本では、戦争で失われた文化の再興が早急に求められていました。そこで、GHQは日本政府を通して、各電機メーカーにラジオの生産を指示しました。

当時の東通工の主力製品は受信機を中心とするラジオ部品であり、社内の人間は誰しも、その強みを生かして東電工でもラジオ本体の製造に取り組むと考えていました。

しかし、当時の社長であった井深は周囲の反対を押し切り、GHQから要請されたラジオ本体の製造をおこなわない決断をします。この決断の背景には井深の深い洞察とコンセプチュアルな思考があったと考えられます。

  • ラジオの本格製造に参入しないまま、代わりに東電工が力を入れたのは当時まだ開発途上であったトランジスタと呼ばれる電子回路の開発であった
  • トランジスタを開発することができれば、当時は画期的だった高性能な小型ラジオの開発ができ、それはまさに井深の目指していた高級受信機を製造するための足掛かりとなるものであった

結果的に、東電工は数多くの失敗を重ねながらも1955年に日本初のトランジスタを使ったラジオを発売し、1家に1台だったラジオを1人1台の大衆家電へと進化させました。

もし井深がトランジスタの開発に力を入れずに、GHQの要請通りにラジオの組み立てに注力していたら、日本屈指のイノベーションカンパニーとして君臨するいまのソニーの栄光はなかったかもしれません。

カッツは井深のような秀でた経営者や管理者を育成するために、もっとも重要と考えられるコンセプチュアルスキルをどう鍛えていけばいいのかというポイントまで論文でしっかりと触れています。

1章のまとめ
  • カッツモデルとは、組織の管理者らに求められる基本的スキルに関する理論である
  • カッツモデルでは、3つの基本的スキル「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」の存在が指摘された

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2章:スキルの育成

さて、2章では3つの基本的スキルのうち育成が難しいとされているヒューマンスキルとコンセプチュアルスキルの2つのスキルの育成方法を紹介します。

2-1:ヒューマンスキルの育成

ヒューマンスキルを育成するためにカッツは、次の2つの手法を紹介しています。

  1. ケーススタディ・・・事例研究のことであり、グループで具体的な事例に対して、どういう意思決定や行動をとるべきかを、ディスカッションを交えながら検討すること
  2. ロールプレイング・・・参加者に実際の場面を想定し、さまざまな役割を演じさせることで、実践的な問題解決力を養うことを目的とする育成方法です。

ケーススタディは参加者自身の概念や価値観を自己審査することで、参加者が自分自身及び他人に関して役に立つ態度を養うことを目的としています。

そして、ロールプレイングは、①のケーススタディと合わせて取り入れると特に効果の高い育成方法であり、ケーススタディで立案した理想的な行動や態度を具現化するための方法として用いられます。



2-2:コンセプチュアルスキルの育成

コンセプチュアルスキルを育成するためにカッツは、次の2つの手法を紹介しています。

  1. 上司によるコーチング・・・対話によって個人の目標達成に必要な知識、スキル、ツールが何であるかを整理し、その個人の目標の達成を試みるプロセス
  2. 仕事を取り替える・・・個人に与えている仕事の責任と同じくらいの業務に異動させることを指す

コーチングでは、上司が自分の部下に対して特定の責任を課し、部下が助けを求めることに対して、すぐに答えを与えるのではなく、探りの質問をしたり、意見を述べる応対をすることで部下のコンセプチュアルスキルを高める手助けをします。

②に関していえば、たとえば、ある企業の製造部長を務めている人物を、新たに営業部長に異動させることで、その人物に部門横断的な発想や見識を培わせることができます。

このようにさまざまな部門を経験させることで、企業を総合的に捉えることのできる能力を大きく伸ばすことがでコンセプチュアルスキルを養うことができます。仕事を取り替えるという方法は実際の企業でもよく使われる手法であると言えます。

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3章:カッツモデルの問題点

カッツモデルは1955年に発表され、すでに60年以上の時を経ている理論ですが、いまだにさまざまな論文や書物で引用されているほど、普遍的な洞察を持っています。一方で、長い時を経てその理論に関するさまざまな問題や欠陥が指摘されるようになりました。

3-1:人事重視

まず、これはカッツ自身が論文の回想録を作成するのにあたって述べていることですが、「コンセプチュアルスキルは育成に主眼を置くことよりも人事を重視すべき」という指摘です。

カッツは1982年に発表した回想録で、以下のように述べています8ロバート・L・カッツ(1982)『スキル・アプローチによる優秀な管理者への道』ダイヤモンド社 87-88頁

私は、いまではこの思考方法(※ここではコンセプチュアルスキルを指している9()内は筆者の注釈)がどの程度オン・ザ・ジョブで育成されえるか、これまでほど楽観的になれなくなってきている。人生の初期にこの思考方法を学ばない限り、経営者の地位に到達するに当たって、大きな変化を起こすのを期待することは非現実的である。(中略)・・この意味で、コンセプチュアルスキルは生得の能力と見るべきものであるかもしれない

このように、コンセプチュアルスキルの本質的な育成の難しさを指摘しています。そして、結びに経営者の役割とは高いコンセプチュアルスキルを持った人材を見つけ、登用することであると述べています。



3-2:時代背景の変化

また、好川は以下の書物で、情報化時代におけるナレッジワーカーの登場でコンセプチュアルスキルが必ずしもトップレベル層だけに必要とされている能力でなくなってきていることを指摘しています。

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カッツモデルが発表された当時は、まだまだ労働者とはブルーワーカー(工場作業員)が中心であり、ナレッジワーカー(知的労働者)は珍しい存在でした。

しかし社会の情報化が進み、組織のミドルレベル以下についてもコンセプチュアルスキルが求められる機会が大幅に増加した、と好川は述べています。

そのため、コンセプチュアルスキルとは、組織内で出世や昇進を目指さない人であっても、基本的なビジネススキルとして必要不可欠なものになってくると予測しています。

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4章:カッツモデルが学べるおすすめ本

カッツモデルについて理解を深めることはできたでしょうか?

この記事で紹介した内容はあくまでもきっかけでしかありません。そのため、以下の書物を参考にして、あなたの学びをより深めていってください。

おすすめ本

好川哲人『コンセプチュアル思考』(三松堂)

カッツモデルの中でも、特に重要なコンセプチュアルスキルについて詳細にまとめられた書籍です。プロジェクトマネージャーとして活躍する著者による実務的かつ実例的な解説がまとめられています。

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ロバート・L・カッツ(1982)『スキル・アプローチによる優秀な管理者への道』(ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・ライブラリー)

カッツモデルの原文にあたる論文です。学術論文ですが、実務家でも読みやすいように実例が豊富に掲載されており、カッツモデルをもとの文章のまま理解したい方におすすめです。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • カッツモデルとは、組織の管理者らに求められる基本的スキルに関する理論である
  • カッツモデルでは、3つの基本的スキル「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」の存在が指摘された
  • カッツモデルは時代の変化にともに、その理論に関するさまざまな問題や欠陥が指摘されている

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