ビッグ・ファイブ(5大因子)理論(Big Five personality traits)とは、人間の性格特性が「神経症傾向(Neuroticism:N)」「外向性(Extraversion:E)」「開放性(Openness:O)」「調和性(Agreeableness:A)」「誠実性(Conscientiousness:C)」の5つの次元で構成されているとする理論です。
行動特性に基づいて人間の性格をとらえよう理論が多くありますが、ビッグ・ファイブ理論は代表的な心理学の理論となります。そのため、人間の性格に関心のある方は必ず知っておきたい理論です。
そこで、この記事では、
- ビッグ・ファイブ理論の要素
- ビッグ・ファイブ理論への批判
- ビッグ・ファイブ理論の心理学的実験
をそれぞれ解説していきます。
好きな箇所から読み進めてください。
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1章:ビッグ・ファイブ理論とは
1章では、ビッグ・ファイブ理論の全体像を提示します。ビッグ・ファイブ理論への批判は2章から、心理学的実験に関心のある方は3章から読んでみてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1: ビッグ・ファイブ理論の概要
定義において説明したように、ビッグ・ファイブ理論は、人間の性格特性が5つの次元で構成されているとする理論です。ビッグ・ファイブ理論について理解するためには、人間の性格が心理学においてどのようにとらえられているのかという話をする必要があります。
人間にはさまざまな性格の人がいることは、皆さんも日常生活の中で感じているかと思います。心理学の分野では、性格について大きく2つの方法でとらえようとされています。1つは「類型論」、もう1つは「特性論」と呼ばれてます。
1-1-1: 類型論
類型論は、
人間の性格をいくつかのタイプに分けて理解しようとする方法
です。
類型論では、ある個人の性格はいくつかの型に分類することが出来るという風に考えられています。また、この理論に基づく性格検査では、この人の性格はどの型に当てはまるのか?という方法で分類されます。
類型論に基づく性格分類の方法として有名なものの1つにクレッチマーによる、体型の違いに着目した性格分類の方法があります2玉瀬耕治(2012)「10章 性格」『心理学』無藤隆・森敏昭・遠藤由美・玉瀬耕治(編)pp. 214-234 有斐閣。クレッチマーの類型論は以下のとおりです。
クレッチマーの類型論
- クレッチマーは精神病患者の臨床経験にもとづき、躁うつ病の患者には肥満体型の人が多く、分裂病の患者にはやせ型の体型の人が多く、てんかん病の患者には闘士型の人が多いことを示した
- クレッチマーはこうした経験から、患者の体型と性格を調べ、肥満体型の人は、循環気質(社交的、ユーモアがあるなど)、やせ型の人は分裂気質(非社交的、無口など)、闘士型の人は粘着気質(誠実、几帳面など)を持つというように分類した
こうした類型型の性格分類は、人の性格の全体を大まかにとらえるためには役に立ちます。一方で、やせても太ってもないといったような中間型を検討できないことや、個人の持つ多くの性格特性の細部を説明できないといった問題点が挙げられます。
1-1-2: 特性論
このようなより詳細な個人の性格を検討するためには、その性格の人がとりやすい行動を特定し、その個人の行動傾向から性格を特定するという方法が有効だと考えられます。
この行動傾向のことを特性といい、特性論ではこれに基づいて個人の性格を説明することを目的としています。
このような特性論に基づく考え方には、ある個人の性格を型に当てはめるのではなく、「あなたは外向性は高いけど調和性は低いですね」、といったような個人ごとの性格特性について説明できるという利点があります。
その代表的なものの1つがビッグ・ファイブ理論です。定義でも説明しましたが、ビッグ・ファイブ理論では、次の5つの次元から性格特性をとらえています。
- 神経症傾向(Neuroticism:N)
- 外向性(Extraversion:E)
- 開放性(Openness:O)
- 調和性(Agreeableness:A)
- 誠実性(Conscientiousness:C)
言い換えると、この5つの行動特性に基づいて人間の性格をとらえようとするのが、ビッグ・ファイブ理論です。5つの特性で性格を表すことが出来るのかと疑問に思うかもしれません。
しかし、それぞれの次元には下位次元がそれぞれずつ存在していて、より詳細な性格特性を検討できるようになっています。
1-2: ビッグ・ファイブ理論における5つの要素
ビッグ・ファイブ理論における各次元はどのような性格特性を表しているのかについて説明を進めたいと思います。
ここでは、小塩・阿部・カトローニ(2012)が作成した、10個の質問項目からなるビッグ・ファイブの性格特性を測定するTIPI-Jという、質問紙を紹介して、どういう質問によって調査する項目なのかを確認しながら話を進めたいと思います3小塩真司・阿部晋吾・Pino Cutrone (2012)「日本語版 Ten Item Personality Inventory (TIPI-J) 作成の試み」『パーソナリティ研究』 21(1) 40-52頁。
※ただし、ビッグ・ファイブを測定する質問紙はさまざまな種類があり、これがすべてではないことは留意してください。
なお、質問項目には反転項目というものがあります。反対項目とは測定したいこと(メロンパンが好きかどうか)を調べるときに、逆方向の聞き方(メロンパンは嫌いですか?)をするような項目のことです。
TIPI-Jにおいてもこのような項目が含まれていますので、そういう項目についてはRと記載しておきます。
1-2-1: 神経症傾向(Neuroticism:N)
神経症傾向の次元は、
不安、敵意、抑うつ、自意識、衝動性、傷つきやすさ、という6つの下位次元を持つ特性
です。
これらの下位項目からもわかるように、神経症傾向は心理的なストレスの受けやすさを反映するものだといわれています。神経症傾向についてTIPI-Jでは「心配性で、うろたえやすいと思う」と「冷静で、気分が安定していると思うR」という2つの項目で測定されます。
つまり、心配性でうろたえやすいと思う傾向が高く、冷静で気分が安定していると思う傾向が低い場合に、神経症傾向が高いということです。
1-2-2: 外向性(Extraversion:E)
外向性の次元は、
温かさ、群居性、断行性、活動性、刺激希求性、よい感情、という6つの下位次元を持つ特性
です。
下位次元を見ただけではイメージしにくいかもしれません。要約をすると、外向性は外界との積極的な関わりや、新しい活動への意欲の強さを反映するものだといわれています。エネルギッシュな程度というと理解しやすいでしょうか。
TIPI-Jでは、外向性は「活発で、外交的だと思う」と「ひかえめで、おとなしいと思うR」という質問で測定されます。つまり、活発で、外交的だと思う傾向が高く、ひかえめで、おとなしいと思う傾向が低い場合に、外向性傾向が高いということです。
1-2-3: 開放性(Openness:O)
開放性の次元は、
空想、審美性、感情、行為、アイデア、価値、という6つの下位次元を持つ特性
です。
開放性の次元は、自身の新しいアイデアや多様なものを好む傾向をあらわしています。この特性は、自身の考えにとらわれない(開放)傾向を表しているため、創造的なアイデアの発見のしやすさや、芸術活動などと関連がみられることが知られています。
TIPI-Jでは、「新しいことが好きで、変わった考えをもつと思う」と「発想力に欠けた、平凡な人間だと思うR」という質問項目で測定されます。
つまり、新しいことが好きで、変わった考えをもつと思う傾向が高く、発想力に欠けた、平凡な人間だと思う傾向が低い場合に開放性が高いと評価されるということです。
1-2-4: 調和性(Agreeableness:A)
調和性の次元は、
信頼、実直さ、利他性、応諾、慎み深さ、優しさ、という6つの下位次元を持つ特性
です。
この特性は、他人を疑うことなく、他者への配慮や協力関係を築くことが出来る傾向を表しています。
TIPI-Jでは、協調性と呼ばれており、「他人に不満をもち、もめごとを起こしやすいと思うR」と「人に気をつかう、やさしい人間だと思う」という項目で測定されます。
つまり、他人に不満をもち、もめごとを起こしやすいと思う傾向が低く、人に気をつかう、やさしい人間だと思う傾向が高い場合に、調和性が高いと考えられるということです。
1-2-5: 誠実性(Conscientiousness:C)
誠実性の次元は、
コンピテンス、秩序、良心性、達成追及、自己鍛錬、慎重さの6つの下位次元をもつ特性
です。
誠実性は、自己をコントロールし、秩序や計画を重んじる傾向を表しています。TIPI-Jでは、勤勉性とされており、「しっかりしていて、自分に厳しいと思う」と「だらしなく、うっかりしていると思うR」という項目で測定されます。
つまり、しっかりしていて、自分に厳しいと思う傾向が高く、だらしなく、うっかりしていると思う傾向が低い場合に、誠実性が高いと考えられるということです。
- ビッグ・ファイブ理論は、人間の性格特性が5つの次元で構成されているとする理論である
- ビッグ・ファイブ理論は、神経症傾向(Neuroticism:N)、外向性(Extraversion:E)、開放性(Openness:O)、調和性(Agreeableness:A)、誠実性(Conscientiousness:C)の5つの行動特性に基づいて人間の性格をとらえようとする
2章:ビッグ・ファイブ理論に対する批判
さて、2章ではビッグ・ファイブ理論に関する批判を簡潔に紹介します。
2-1: 性格特性は行動を予測するか?
ビッグ・ファイブのような特性論では、特性を長期的に比較的一貫性をもつものであるという前提を置いています。つまり、個人の特性はある程度状況が異なっていても、同じような行動様式を示すと考えていることです。
一方で、これはビッグ・ファイブ理論に関するもの以外のものも含みますが、質問紙で測定される性格次元と、それとは異なった手段で測定された行動との間の相関は常に0.2から0.3程度しかないことが知られています4若林明雄(1993)「パーソナリティ研究における “人間-状況論争” の動向」『心理学研究』 64(4)296-312頁。
つまり、質問紙によって測定された性格特性と行動との間には安定した一貫性のようなものは見られず、状況によって同じ性格でも行動様式が異なることを意味しています。
2-2: 人間-状況論争
このような、パーソナリティ研究に対する批判に端を発し、人間-状況論争というものが起こりました。
人間-状況論争とは、
行動の決定因として内的要因と外的要因のいずれを重視するかというパーソナリティ研究だけにとどまらない心理学の根本的な問題についての論争
です5若林明雄(1993)「パーソナリティ研究における “人間-状況論争” の動向」『心理学研究』 64(4)296-312頁。
よりかみ砕いて説明すると、個人の行動を決定するのは、性格のような個人が持つ内的な要因なのか、その個人が置かれた状況のような外的な要因なのかという論争です。
当たり前に聞こえるかもしれませんが、この論争は、人間の行動には性格特性から予測される一貫した傾向と、状況による多様性の両方を含むということを示唆しました。
つまり、いかにビッグ・ファイブ理論のような性格の次元が明らかにされようとも、人間個人の行動について考えるときには、性格特性からだけではなく、状況との相互作用を考えることが重要です。
3章:ビッグ・ファイブ理論の心理学的実験
心理学の分野では、ここまで紹介した、5つの性格特性が他の性格特性や行動とどのような関係があるのかについて非常に多くの研究が行われています。
先に述べたように、性格特性が状況によって変化するということから、個人の置かれた状況とこれらの特性がどのように関連しているのかを調べることは非常に重要な課題となっています。
この章では、日本で行われた、5つの性格特性が年齢の変化や性別とどのような関係があるかを検討した論文を紹介し、状況によって性格が変化する例を1つ紹介したいと思います。
3-1: 年齢や性別の違いと5つの性格特性の関係
この章で紹介するのは、川本・小塩・阿部・坪田・平島・伊藤・谷(2015)が行った研究です6川本哲也・小塩真司・阿部晋吾・坪田祐基・平島太郎・伊藤大幸・谷伊織(2015)「ビッグ・ファイブ・パーソナリティ特性の年齢差と性差: 大規模横断調査による検討」『発達心理学研究』 26(2) 107-122頁。調査概要は以下のとおりです。
調査概要
- 川本ら(2015)は、4588名を調査対象者とした大規模社会調査の中で、TIPI- Jを使って5つの性格特性を測定した
- 調査対象者は、男性2112名、女性2476名であり、年齢範囲は23歳から79歳であった
- 彼らは、この大規模データを使用して、性別と年齢がビッグ・ファイブパーソナリティに与える影響を検討した
そして、その結果、次のようなことが判明しました。
- 協和性と誠実性に関して:年齢の効果が有意であり、年齢に伴って上昇する傾向がみられた
- 外向性と開放性に関して:性別の効果のみが有意であり、男性よりも女性のほうが外向性が高く、開放性は低いということが示された
- 神経症傾向に関して:年齢と性別の交互作用がみられ、若い年齢では男性よりも女性のほうが高い得点を示した
つまり、加齢が進むほど、調和性と誠実性が高くなるということ、男性よりも女性のほうが外向性が高く、開放性が低いということ、若い年齢では男性よりも女性のほうが、神経症傾向が高いということが統計的に確認されたということです。
これらの結果は、年齢や性別といったある種の状況によって、性格特性が変化するということを示しています。この研究は、相互作用という観点で見ると、年齢や性別といったものによって、ビッグ・ファイブ性格特性が異なるということを示したという点で非常に意味のあるものです。
3-2: 結果の解釈に関する注意点
ただし、この結果の解釈については、注意する点が2点あります。それぞれ解説していきます。
3-2-1: 年齢差について
1つ目は、年齢の差についてです。現在の17歳の人が27歳までに経験することと、1960年生まれの人が17歳から27歳までに経験することはおなじでしょうか?もちろん、答えはNOです。
さまざまな技術や文化の発展に伴い、同じ年代を生きていても、その発達の様式は異なっている可能性があります。今回の研究は、1人の人を追跡調査して、若い年齢から歳を重ねるまでの変化を調査したわけではありません。
そのため、現在17歳の人より72歳の人のほうが誠実性が高かったとしても、この17歳の人が72歳になったときに誠実になるわけではありません。つまり、この研究でみられた際は単純に世代間の特性の際である可能性があるということです。
3-2-2: 男女差について
2点目は男女の際についてです。男女の差というと、多くの人は生まれながらにして男女にはこういう差異があるというように解釈しがちですが、一概にそのようには言えないということを留意しておいてください。
外的要因か内的要因かという話にも通じますが、性別の間に存在する文化的な差異によって、このような差異が生まれている可能性が考えられるからです。
- 年齢や性別といったものによって、ビッグ・ファイブ性格特性が異なるということを示した
- 年齢差や男女差に関しての解釈には注意が必要である
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4章:ビッグ・ファイブ理論を学ぶ本と論文
ビッグ・ファイブ理論を理解することはできました?
ビッグ・ファイブ理論に少しでも関心をもった方のためにいくつか本を紹介します。
オススメ度★★★ 辻平治郎『因子性格検査の理論と実際―こころをはかる 5 つのものさし―』(北大路書房)
1998年と古い本ですが、ビッグ・ファイブ理論について概説から詳細まで把握できる良書です。
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オススメ度★★★ ネトル、ダニエル『パーソナリティを科学する―特性 5 因子であなたがわかる』(白揚社)
ビッグ・ファイブ理論についての訳書です。各次元について章を割いて詳しく解説されています。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- ビッグ・ファイブ理論は、人間の性格特性が5つの次元で構成されているとする理論である
- 人間個人の行動について考えるときには、性格特性からだけではなく、状況との相互作用を考えることが重要である
- 年齢や性別といったものによって、ビッグ・ファイブ性格特性が異なるということを示した
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