大気汚染問題(Air pollution)とは、人間の経済・社会活動によって、大気中の微粒子や有害な気体成分が増加し、環境や人体に影響を与える一連の問題を指します。
私たちの社会は、産業の発展とともに、地球環境の問題にも直面してきました。とくに、大気汚染問題は、私たちの生活に身近な問題として存在しています。
近年では、PM2.5など新たな問題も出現しており、大気汚染問題についての正しい理解と対策が求められています。
そこで、この記事では、
- 大気汚染問題の現状や原因
- 大気汚染の問題点
- 大気汚染問題への対策
について解説します。
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1章:大気汚染問題とは
まず、1章では、大気汚染の「現状」「原因」「問題」について解説します。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1:大気汚染問題の現状
さっそくですが、現在、世界において発生している大気汚染問題には次のようなものがあります。
- 酸性雨
- PM2.5
- 黄砂
- 光化学スモッグ
それぞれ解説していきます。
1-1-1: 酸性雨
酸性雨とは、
- 強い酸性を持った物質が大気中で雨に溶け込んでできた酸性の度合いが強い雨のこと
- pH5.6以下の雨が酸性雨の目安となるもの
です。
酸性雨は、森林などの植物を枯らしてしまうだけでなく、建築物などの表面を溶かし、水中で暮らす生き物にも影響を与えます。
日本での酸性雨の観測は30年以上続けられており、現在でも酸性雨が降っていることが確認されています(図1)。
1-1-2: PM2.5
PM2.5のPMとは、
Particulate Matter(粒子状物質)のことで、粒径2.5㎛(マイクロメートル)以下の粒子
を指します。
その小ささから、人間が大気中にあるPM2.5を吸い込むと、肺の奥深くまで入りやすく、人体への悪影響があると言われています。
とくに中国のPM2.5の問題は一時期大きなニュースとして報じられ、日本への飛来も報道されていました。現在も依然として多くのPM2.5を排出している中国ですが、その量は年々減少傾向にはあるようです(図2)。
1-1-3: 黄砂
黄砂は、
東アジアの砂漠などの砂が強風などで巻き上げられ大気中に広がることで、日本などの周辺の国に降り注ぐことで問題化しているもの
です。
以前は単なる自然現象と考えられていましたが、森林の減少や砂漠化など、人間の経済活動が原因となっている側面もあり、現在は大気汚染問題の一つとされています。
発生場所からの距離によっても被害の内容は変わるとされ、それは黄砂が運ばれる過程で、人間や植物に有害な物質を取り込んでいる可能性があるためです。
日本の1967〜2019年の統計データによると、黄砂観測のべ日数(国内で黄砂を観測した地点数を合計した日数)は、観測当初と比べてこの20年で急増しています(図3)。
1-1-4: 光化学スモッグ
光化学スモッグとは、
光化学オキシダントと呼ばれる有害物質が大気中にたまることで、白っぽい靄がかかったような状態になる現象
です。
光化学スモッグによって、目にチカチカとした違和感をあったり、のどがイガイガと痛くなったりするなど、人体への被害、また植物にも害を与えることが確認されています。
自動車の排気ガスや工場の煙が原因とされているため、都市部や工業地域に発生しやすい傾向にあります(図4)。
1-2:大気汚染問題の原因
では一体、これら大気汚染の原因は何なのでしょうか?結論からいえば、大気汚染の原因は化学物質であり、これを大気汚染物質と呼びます。
大気汚染物質には、さまざまなものがありますが、その中でも日本政府が規制の対象に挙げているものは以下の通りです。
- ばい煙…硫黄硫化物(SOx)、ばいじん(すすなど)、有害物質(窒素酸化物(NOx)、カドミウム、塩素、塩化水素、フッ素、鉛など)
- 粉じん…一般粉塵(セメント粉、石灰粉、鉄粉など)、石綿
- 自動車排出ガス…一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、鉛化合物、窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM)
- 特定物質…化学合成・分解その他の科学的処理に伴い発生する物質のうち人の健康または生活環境に被害を生ずるおそれのある物質28種類(フェノールなど)
- 有害大気汚染物質…有害大気汚染物質に該当する可能性のある物質248種類(ベンゼン、トリクロロエチレンなど)
- 揮発性有機化合物(VOC)…大気中に排出、または飛散したときに気体となった有機化合物
大気汚染物質の発生源は、工場の煙や自動車の排気ガスなどによる「人為起源」と、火山や植物などから発せられる「自然起源」があります。
発生源から直接粒子として大気中に排出されたものを一次粒子(一次生成)、排出されたときは気体でも、大気中で化学反応などによって粒子化したものを二次生成粒子と呼びます。
とくに光化学オキシダントとPM2.5は、この二次生成粒子が主な原因となって発生しています。
PM2.5は、原因となる物質や気体が大気中に放出され、風に乗って運ばれる過程で、気体が粒子になったり、その粒子同士がくっついたりすることで、発生源から離れた地域にも影響を及ぼします。
また光化学オキシダントについては、畠山(2015)によると、その大部分はオゾンであり、自動車や工場などから排出された窒素化合物NO2、あるいは揮発性有機化合物(VOC)が光化学反応によって生成されます2畠山史郎(2015)「大気汚染物質の化学と分析」,ぶんせき2015,日本分析化学会 埼玉県環境科学国際センターHP「光化学スモッグ」って植物にも悪影響を及ぼすの? https://www.pref.saitama.lg.jp/cess/cess-kokosiri/cess-koko7.html (最終閲覧日:2020年5月18日)。
そして、上述したように、光化学オキシダントが大気中に漂うことで光化学スモッグが発生します。
1-3:大気汚染が起こす問題
大気汚染の原因である大気汚染物質は、これまで私たちの生活や健康に大きな影響を及ぼしてきました。
たとえば、高度経済成長期の日本においては、硫黄酸化物(SOx)が大気汚染の主な原因でした。SOxは、人体に入ることで気管支炎やぜんそくなどの原因になると言われています。
また、自動車の排気ガスなどに含まれる窒素酸化物(NOx)、とくに高濃度の二酸化窒素は、のどや気管、肺などの呼吸器に悪影響を与えます。
しかし、政府のさまざまな規制や取り組みにより、近年はSOxやNOxなどの、いわゆる一次粒子の大気汚染物質は大幅に減少しています。
日本の平成30年度に環境省が示した環境基準の達成率の状況によると、SOxは一般局が99.9%、自排局が100%、NOxは一般局が100%、自排局が99.7%と、環境基準のほとんどを達成していることがわかります3環境省HP「平成30年度 大気汚染物質(有害大気汚染物質等を除く)に係る常時監視測定結果」 https://www.env.go.jp/air/osen/matH30taikiosenjokyofull.pdf(最終閲覧日:2020年5月15日)。
- 環境基準とは、社会で排出される環境汚染物質に対して、人の健康の保護及び生活環境の保全のうえで維持されることが望ましい基準として定めたもの
- 一般局・・・住宅地などの生活空間に設置されている観測局
- 自排局・・・道路などの自動車走行による排出物質の影響を受けそうな場所に設置された観測局
PM2.5については、肺の奥まで入りやすく、呼吸器疾患だけでなく、肺がんなどを引き起こす可能性があると言われていますが、これも平成30年度の環境基準達成度は、一般局が93.5%、自排局が93.1%とかなり改善されています。
これに対して光化学オキシダントは、達成率が1%以下であり、それどころか過去40年増加傾向にあります。
光化学オキシダントがさらに悪いのは、
- 目の痛みや吐き気、頭痛など、人体に影響を与えるだけでなく、植物にも被害をもたらすこと
- 植物の葉にある気孔から光化学オキシダントが葉の中に取り込まれることで、葉の細胞にダメージを与え、葉緑素を壊す
- その結果、植物の成長を抑制してしまう
とされています。
さらに近年は、大気汚染物質が気候変動にも影響を与えていることが問題となっています。
大気汚染物質の中には、
- 温室効果を持つブラックカーボン(BC)
- 対流圏オゾン(O3)
- 冷却効果を持つ硫黄酸化物(SOx)
- 窒素酸化物(NOx)
- 結城カーボン(OC)
を主とした大気エアロゾルが含まれています。
一般的に、大気汚染物質に含まれる大気エアロゾルには地球を冷却する効果がありますが、同時にそれでは間に合わないほどの温室効果ガスを発生させているため、気候変動に大きく影響を与えると言われているのです。(→気候変動問題に関してはこちら)
- 大気汚染問題とは、人間の経済・社会活動によって、大気中の微粒子や有害な気体成分が増加し、環境や人体に影響を与える一連の問題を指す
- 大気汚染問題には「酸性雨」「PM2.5」「黄砂」「光化学スモッグ」がある
- 大気汚染物質は気候変動にも影響を与えている
2章:大気汚染問題への対策
さて、2章では、大気汚染問題に世界や日本が対策してきた歴史、そして現在どのような取り組みをしているかについて解説していきます。
2-1:世界の対策の歴史と現在
大気汚染への国際的な取り組みが叫ばれ出したのは、1950年代頃でした。そのきっかけとなったのは、以下のような出来事でした。
- 1950年代、ノルウェーやスウェーデンなどの北欧で湖や川が酸性化し、魚などの生物が減ったり、樹木が枯れ森林が衰退したりすることが問題となってた
- 調査のなかで、その原因が国内ではなく、ヨーロッパ中部から酸性雨として運ばれてきていることが分かった
- その後、酸性雨の調査は、スウェーデンとOECDが中心となってヨーロッパ全域に広がり、大気汚染物質の長距離輸送における評価・監視が始まった
そして1979年、史上初の越境大気汚染に関する国際条約「長距離越境大気汚染条約」が締結されました。
この条約では、加盟国に対して大気汚染防止に関する政策の実施を求め、酸性雨の研究や監視、それらについての情報交換の推進などを規定されました。署名したのは、ヨーロッパ諸国を中心に49カ国です。
これがきっかけとなり、1985年にはヘルシンキ議定書によって硫黄酸化物(SOx)の30%削減、1988年にはソフィア議定書によって窒素酸化物(NOx)の排出の削減と、具体的な目標が定められていきます。
そして、大気汚染対策の流れはヨーロッパだけでなく世界中に波及していきます。
- 1991年・・・アメリカとカナダの間でもアメリカ・カナダ空気室協定が結ばれ、酸性雨などの監視や情報交換を推進された
- 2002年・・・東南アジアにおける森林火災などによる煙霧の発生による健康被害に対処するため、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の間で、越境煙霧汚染ASEAN協定を締結された
最近では、2015年に全世界159カ国の間で「パリ協定」が結ばれています。
パリ協定自体は、温室効果ガスの削減を目指すものですが、温室効果ガスの中にはNOxなどの大気汚染物質も含まれており、地球温暖化問題と大気汚染問題の両方への対策になるような取り組みとなっています。
また、同じく2015年に国連によって発表された「持続可能な開発目標(SDGs)」も重要です。
SDGsは、2015年9月の国連サミットで採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すための国際目標です。地球上の「誰一人取り残さない」を合言葉に、発展途上国のみならず、先進国自身が取り組むユニバーサルな目標です。
特に、SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」の中では、
- 2030年までに、大気の質及び一般並びにその他の廃棄物の管理に特別な注意を払うことによるものを含め、都市の一人当たりの環境上の悪影響を軽減する
- 2020年までに、包含、資源効率、気候変動の緩和と適応、災害に対する強靱さ(レジリエンス)を目指す総合的政策及び計画を導入・実施した都市及び人間居住地の件数を大幅に増加させ、仙台防災枠組2015-2030に沿って、あらゆるレベルでの総合的な災害リスク管理の策定と実施を行う
というターゲットが記述されています。
このように、世界各国の政府、自治体、企業、市民などが一体となって大気汚染問題に取り組んでいるのが現状です。
2-2:日本の対策の歴史と現在
次に、日本の大気汚染問題のこれまでの取り組みの歴史を見ていきます。
日本では、第二次世界大戦後の経済復興と急速な成長、工業化の過程で、公害問題が大きな問題になっていました。富山県のイタイイタイ病や四日市ぜんそく、水俣病などが有名です。
これらをきっかけに、大気汚染対策の法律や機関が誕生していきます。
- 1962年・・・ばい煙規制法(日本で初めての大気汚染対策の法律。工場などから排出されるばい煙について一定の基準を設け、この遵守を義務化された)
- 1967年・・・公害対策基本法の制定
- 1968年・・・大気汚染防止法の制定
- 1971年・・・今の環境省の前身である環境庁が設置され、公害等を含む自然環境保全を全面的に扱う機関が生まれた
- 1993年・・・さらに複雑化・地球規模化する環境問題に対応するために、環境基本法が制定された
そして、近年では、EST(環境的に持続可能な交通)という取り組みも推進されています。
ESTとは、OECD(経済協力開発機構)が提案する新しい政策ビジョンであり、長期的視野に立って交通・環境政策を策定・実施する取り組みのことです。
具体的には、
- 大気汚染や温室効果ガス排出の原因の一つとなっている自家用自動車への過度な依存をなくすこと
- 環境に配慮された路面電車やバスの整備を行うことで、公共交通機関の利用を促進している
といった取り組みを推進しています。
このように、行政や工場、企業だけでなく、個人に対しても大気汚染問題を意識した取り組みが求められています。
- 大気汚染への国際的な取り組みが叫ばれ出したのは1950年代頃
- 第二次世界大戦後の工業復興から生じた公害から、さまざまな法律や機関が誕生してきた
3章:大気汚染問題について学べる本
大気汚染問題について、理解できましたか?
さらに深く知りたいという方は、以下のような本をご覧ください。
饒村曜『最新図解 PM2.5と大気汚染がわかる本』(オーム社)
PM2.5を始めとした、大気汚染問題について、図解入りで詳しく解説されています。また、大気汚染と気象のしくみとの関係など、気象現象の基礎知識についてもやさしく解説してくれる一冊です。
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藤田慎一『酸性雨から越境大気汚染へ』(成山堂書店)
酸性雨が初めて問題となったヨーロッパの工業都市の時代から、これまでの大気汚染対策についての歴史を学べる一冊です。現在もなお続く酸性雨問題にも焦点を当てています。
杉本裕明・嵯峨井勝『ディーゼル車に未来はあるか――排ガス偽装とPM2.5の脅威』(岩波書店)
私たちの一番身近な大気汚染の原因となっている自動車の排気ガスについて言及している一冊です。とくに近年売り上げが伸びている低燃費ディーゼル車の問題点や、排気ガスがもたらす健康被害のメカニズムについて解説されています。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- 大気汚染問題とは、人間の経済・社会活動によって、大気中の微粒子や有害な気体成分が増加し、環境や人体に影響を与える一連の問題を指す
- 大気汚染問題には「酸性雨」「PM2.5」「黄砂」「光化学スモッグ」がある
- 第二次世界大戦後の工業復興から生じた公害から、さまざまな法律や機関が誕生してきた
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<参考・引用文献>
- 気象庁HP「降水の酸性度の経年変化」(最終閲覧日:2020年5月15日)
- 環境省HP「平成30年度 大気汚染物質(有害大気汚染物質等を除く)に係る常時監視測定結果」(最終閲覧日:2020年5月15日)
- 気象庁HP「黄砂観測日数の経年変化」(最終閲覧日:2020年5月15日)
- 環境省HP「平成30年光化学大気汚染の概要」(最終閲覧日:2020年5月17日)
- 環境省HP「大気汚染防止法の概要」(最終閲覧日:2020年5月17日)
- 東京都HP「微小粒子状物質(PM2.5)とは(最終閲覧日:2020年5月17日)
- 畠山史郎(2015)「大気汚染物質の化学と分析」,ぶんせき2015,日本分析化学会
- 埼玉県環境科学国際センターHP「光化学スモッグ」って植物にも悪影響を及ぼすの?(最終閲覧日:2020年5月18日)