イタリアルネサンス(Italian Renaissance)とは、
15世紀に起こった美術、音楽、建築など幅広い分野で古典文化を復興する運動(ルネサンス)の、特にイタリアを中心に勃興したもののことです。
カトリック教会の権威の低迷や、イスラム世界からの古代ギリシャ・ローマの文化の逆輸入によって、キリスト教の教義に縛られた表現から大きく脱した芸術が開花したのがこの時期です。
この記事では、
- イタリアルネサンスの時代背景や特徴
- イタリアルネサンスの代表的芸術家や作品
について詳しく紹介します。
関心のある所から読んでみてください。
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1章:イタリアルネサンスとは
繰り返しになりますが、イタリアルネサンスとは、15世紀にイタリアを中心に起こった古代文化を復興しようと言う運動(ルネサンス)のことです。
ルネサンスはヨーロッパに広く勃興した運動ですが、まずはイタリアを中心に起こったのです。特に美術、絵画の分野で一つのジャンルを形成しています。
1章では、イタリアルネサンスの特徴や時代背景について解説します。実際の活躍した芸術家や作品については、2章で詳しく説明します。
1-1:ルネサンスとはキリスト教的世界観からの脱却
そもそもルネサンスとは、15世紀から16世紀にかけてヨーロッパを席巻した古典古代の文化を復興させようとした運動のことです。
なぜ古典古代の文化を復興させようとしたのかというと、15世紀までの芸術は中世的な世界観に規定されていた、と考えられたからです。中世的な世界観とは、キリスト教の教義の影響が、生活、文化、芸術などに広く浸透している世界の観方のことです。
したがって、たとえば絵画を見るとキリストもマリアも悲惨な表情、厳しい表情、苦難に耐えるような表現がなされていたわけです。キリスト教の教義では、現世の苦難に耐えたものが天国にいけるわけですから、苦難に耐える表現が絵画でも一般的になっていました。
1-2:ルネサンスの時代背景
では、なぜ15世紀になってキリスト教的な世界観が自覚され、そこからの脱却が図られるようになったのでしょうか?
そのきっかけは13世紀の「十字軍の遠征」にありました。
十字軍の遠征とは、カトリック教会の支配下にあった諸国が、13世紀に聖地エルサレムをイスラムから奪還しようと軍隊を派遣したこと。
十字軍の遠征は長期にわたって行われましたが、その結果、
- 十字軍の遠征の失敗によってローマ教会の権威が低迷
- 十字軍の遠征によって活発化した東方世界との交易により、イタリアが経済的に発展
- 古代ギリシャ・ローマの文化を保存していたビザンツ帝国から、文化の逆輸入が行われた
といったことが起こりました。
古代ギリシャ・ローマは、まだキリスト教の支配がなく人間中心の文化を持っていました。
そのため、経済的に豊かになり、かつ人間中心の文化のすばらしさを知ったイタリアの人々が、キリスト教的世界観を脱却し、人間中心の文化を復興しようとしたわけです。
1-3:イタリアルネサンスの特徴
こうした背景から勃興したイタリア中心のルネサンスは、以下のような特徴を持っています。
1-3-1:古典以上のものを作り出そうとした
イタリアルネサンスは、キリスト教的なテーマを否定するのではなく、そのテーマにさらに人間的な解釈を付け加えたものです。
そのため、単なるキリスト教の否定でも古典の模倣でもなく、古典以上の芸術の創出が目指されました。
具体的には、
- 古典的な人間の肉体や喜びを描写する表現に、写実や理想的調和の精神が見いだされる
- 教義に規定された禁欲的な表現から、自然の美、現実の美しさの表現へ
といったことが目指されます。
1-3-2:フィレンツェを中心に発展
ルネサンスは、まずは商業都市として栄えたイタリア・フィレンツェを中心に展開しました。
当時のフィレンツェは、交易による豊かさと君主の支配に屈しない共和政ならではの自由主義の精神に満ちており、芸術を発達させる経済的、精神的豊かさを持っていたのです。
したがって、フィレンツェの芸術は以下のように展開しました。
- 科学の発達により、遠近図法や解剖学、現実をありのまま見た写実的な捉え方が芸術にも導入される。その結果、現実的な写実的表現や、重量感や安定感のある彫刻が可能になる。
- キリスト教的な壮大な規模の芸術、建築から、人間らしさ、人間規模の芸術や建築が好まれる。
そして、ルネサンスはその後さまざまな人物、社会からの影響を受けながら16世紀まで続きました。
時代区分を分けると以下のようになります。
1-3-3:北方ルネサンスとの違い
ルネサンスは、イタリアと同時に北方、つまりネーデルランド、ドイツなどの地域で同時に起こりました。
北方ルネサンスに、
- 発達した油彩画の技法による緻密な描写
- 見たものをありのままに描く写実主義
- 『聖書』の世界を日常の中に描く
- 背景の自然を丁寧に描く
といった特徴があったのに対して、イタリアルネサンスは、
- 古代ギリシャ・ローマ的な人間の肉体や喜びの描写
- 自然の美、現実の美しさの表現、写実主義
- 解剖学や幾何学の発達による、正確かつ統一的な構図
- 人間らしさ、人間規模の重視
といった特徴を持っています。
それでは、2章ではイタリアルネサンスの代表的作品や人物を詳しく紹介します。まずはここまでのポイントを整理します。
- イタリアルネサンスは、15世紀から16世紀にかけてイタリア中心の勃興した、古代ギリシャ・ローマの文化を復興しようとした運動
- イタリアルネサンスは、カトリック教会の権威の低迷や交易による都市の発展、イスラムからの古代文化の逆輸入などによって起こった
- イタリアルネサンスには、古典主義的な人間の肉体の表現や写実主義、統一的な構図などの特徴があった
2章:初期ルネサンスの歴史・作品・人物
14世紀にルネサンスがはじまってから15世紀までの100年間は、「初期ルネサンス」と呼ばれます。
この時期は、1章でも説明した、
- 中世的な世界観を超えて、古代ギリシャ・ローマの文化を復興
- 人間主体、人間規模、写実的な特徴を持った芸術
といった実践が成されます。
イタリアにおける初期ルネサンスの代表的芸術家と、その作品たちを紹介します。
2-1:ブルネッレスキ
フィリッポ・ブルネレスキ(Filippo Brunelleschi/1377年-1446年)は、初期のイタリアルネサンスを代表する彫刻家、建築家、金細工師です。
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ブルネッレスキの代表作は、1420年から1436年にかけて建造されたサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂ドームです(ブルネッレスキが作ったのはドームのみ)。
ブルネッレスキは古代ローマのパンテオンを参考にこのドームを設計しました。
ブルネッレスキは、はじめての建築家であると言われています。どういうことかというと、ブルネッレスキ以前の建築という仕事は、単なる職人の仕事だったのですが、ブルネッレスキは自らの芸術的感性や個性をフル活用して、建築という仕事を行ったのです。
つまり、建築を創造的に行うようになった「建築家」が誕生したのです。
2-2:ドナテルロ
ドナテルロ(Donatello/1386年ごろ-1466年)も、イタリアの初期ルネサンスで活躍した金細工師、彫刻家です。
ドナテルロの代表作は、ダビデや聖ゲオルギウスの彫刻です。
ドナテルロは、古代ギリシャ芸術の肉体美、コントラポスト(体重の大部分を片脚にかけて立つ彫刻)などを再現しました。
古代ギリシャの芸術以来はじめて、彫刻がそれ自体として自立した構造の彫刻を作ったことも偉大な成果です。
2-3:フラ・アンジェリコ
フラ・アンジェリコ(Fra’ Angelico/1395年ごろ-1455年)は、イタリアルネサンスで活躍した画家です。
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代表作である「受胎告知」は非常に有名ですので、どなたでも一度は見たことがあると思います。天使がマリアに受胎、つまり神の子を身ごもったことを知らせに来るシーンです。
フラ・アンジェリコの特徴は、
- 優雅さ、甘美さ
- 信仰心、内面の表現を重視
- ルネサンス的な立体表現や遠近図法は軽視
というところです。他にも『聖者と聖母子』『最後の審判』などの代表作があります。
2-4:ヴェロッキオ
ヴェロッキオ( Andrea del Verrocchio/1435年ごろ-1488年)は、イタリアルネサンス期に活躍した画家、建築家、金細工師、彫刻家です。
メディチ家の強力な支援のもとで彫刻、絵画など幅広い分野で活躍し、レオナルドダヴィンチの師匠としても知られています。
代表作の一つダヴィデ像は、レオナルドダヴィンチをモデルにして作られたと言われています。
2-5:ボッティチェルリ
ボッティチェルリ(Sandro Botticelli/1445年-1510年)は、イタリア初期ルネサンス期に活躍した画家です。
ボッティチェルリは、異教的なテーマを書いたという点で非常にルネッサンス的な画家です。
繰り返しになりますが、当時のヨーロッパはカトリック教会によって支配されたキリスト教世界です。「異教」とは、キリスト教以前の信仰であるギリシャ神話のことです。
ボッティチェルリの代表作は、これも非常に有名な「ヴィーナスの誕生」などですが、これはギリシャ神話の一つのシーンを描いたもので異教的なテーマなのです。
3章:盛期ルネサンスの歴史・作品・人物
盛期ルネサンスとは、1500年から1530年までの30年間のことです。ルネサンスの3つの時代区分の中ではもっとも短い期間ではありますが、超有名な芸術の偉人を輩出した時期でもあります。
それが、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロの3人です。
ルネサンスの芸術はある意味で、この時期に頂点に達したのです。
それぞれの人物、作品、芸術的成果を順番に紹介します。
3-1:レオナルド・ダ・ヴィンチ
ダヴィンチ(Leonardo da Vinci/1452年-1519年)はルネサンスを代表する芸術家、発明家です。
彫刻、絵画、音楽、建築、解剖学、数学、幾何学、工学、土木工学、力学、物理学、天文学、気象学など非常に幅広い分野で業績を残している紛れもない天才です。
ルネサンス期は表現手法こそ変化があったものの、初期は宗教的テーマで作品が作られるものでした。しかし、ダヴィンチは世界一有名な絵画である「モナリザ」で表現したように、宗教とは関係がない一般人の絵を描きました。
このころから、教皇や貴族ではない一般人の絵画が描かれるようになったのです。
ダヴィンチの芸術的成果には、たとえば以下のものがあります。
- 中心を持つ統一感のある構図
ダヴィンチは、絵を見る人が実際に絵の中に入って状況を体験できるように、確固たる中心がある、明確な構図を持った絵画を描きました。絵を見る人は、自然にその中心に目が行くため、あたかも絵画の世界に入り込んだかのように感じられるようになるのです。 - スフマート
ダヴィンチは、薄い絵の具を何度も塗り重ね、ぼかした描き方をする「スフマート」を発明しました。これにより、実際に私たちが感じるような遠近感覚がより表現できるようになりました。
中心を持つ統一感のある構図は、特に「最後の晩餐」を見ると分かりやすいです。これは、キリストの頭の上に中心があります。
また、「三角構図」という全体が三角形の構造を持つように描かれたものもあり、分かりやすいのは「岩窟の聖母」です。聖母の頭上を頂点に三角形に近い構図になっていることが分かります。
3-2:ミケランジェロ
精巧なダビデ像や壮大な天井画で知られているのが、天才ミケランジェロ(Michelangelo di Lodovico Buonarroti Simoni/1475年-1564年)です。
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ミケランジェロも絵画、彫刻を中心に、詩人や建築家としても活躍した万能の人です。
この時期、イタリア北部はフランス軍が侵攻してきたため混乱し、芸術の中心地はフィレンツェからローマに移ります。ローマと言えばカトリック教会ですが、教皇はローマにて芸術を宗教的なものに再興しようと考え、サン・ピエトロ大聖堂を改築しました。
ミケランジェロはサン・ピエトロ大聖堂の改築に指名され、古典主義的な芸術が最大限に開花したのです。
ミケランジェロの代表作は、「最後の審判」や「システィーナ礼拝堂の天井画」などの壮大な絵画や「ダヴィデ像」に代表される彫刻などです。
ミケランジェロは、メディチ家が保有する古代の彫刻から学び、古典主義的な肉体美を表現しました。
ダヴィンチとは異なり、ミケランジェロは芸術のみを追求し神のごとき技術力、表現力を身に着けました。彫刻することで像を形作っているのではなく、石の中に眠っている姿を削り出してあげているだけだと言ったことでも有名です。
3-3:ラファエロ
ラファエロ(Raffaello Santi/1483年-1520年)は、ダヴィンチ、ミケランジェロよりも年下ですが盛期ルネサンスを代表する芸術家の一人です。画家、建築家として活躍しました
ダヴィンチ、ミケランジェロという2人の天才から芸術性を学習し、力強い肉体美や統一感のある構図などを取り入れて作品を作ったことが特徴です。二人の偉大な芸術家の成果を取り込んで盛期ルネサンスの芸術を完成させたとも言われます。
たとえば、代表作の「アテネの学堂」はダビンチ的な統一的な構図とミケランジェロ的な肉体美の両方を併せ持つ傑作です。他にも、聖母の絵画を多く作ったことでも知られています。
3-4:ヴェネツィア派
3人の偉人以外にも、盛期ルネサンスの一翼を担ったのがヴェネツィア派です。
その名の通り、海港都市ヴェネツィアで展開したルネサンスの流れで、デッサン→彩色というフィレンツェ的な絵画手法ではなく、最初から色彩をつけて描くという大胆な手法を用いました。
「デッサンしないと正確に描けないのでは?」
という疑問があるかもしれませんが、ヴェネツィア派の絵画は描きながら構図も変更していくような自由な描き方でした。そのため、デッサンを必要としなかったのです。
このような新しい描き方が生まれ、新しい流れを生み出していったのがヴェネツィア派の絵画なのです。
ヴェネツィア派の代表的な絵画を紹介します。
4章:後期ルネサンス(マニエリスム)の歴史・作品・人物
後期ルネサンス(マニエリスム)とは、1530年から1560年ごろまでのイタリアルネサンスのことです。
古典主義的、写実的、脱教義的なものとしてはじまったルネサンスでしたが、後期には写実よりも芸術的技巧にこだわり、現実をそのまま写し取るというよりも非現実的、不自然な表現が好まれました。
後期ルネサンス(マニエリスム)の特徴としては、
- 玉虫色などの明るい色
- ふわふわとした重量感のない非現実的な表現
- 不自然な体形、冷たい表情
- 寓意的で解釈に知的な解釈が必要
などです。初期、盛期ルネサンスと比べると大きく変化が起こっていることが分かると思います。
また、イタリアの外でも後期ルネサンスの影響があり、フランスではフォンテーヌブロー派と言われる流れが起こりました。
イタリアでは、ルターがはじめた宗教改革にカトリック教会が対抗する「対抗宗教改革」が起こっており、教義に反するエロティックな表現NGでしたが、フランスでは教義に縛られないエロティックな表現が開花しました。
後期ルネサンス(マニエリスム)の代表作を紹介します。
5章:イタリアルネサンスの歴史や作品が鑑賞できる本
イタリアルネサンスの歴史や代表作を紹介しましたが、ここで紹介したのはほんの一部に過ぎません。
この時代に生み出された芸術作品は非常に多いため、まずはぜひ芸術の書籍を手に入れて、じっくり鑑賞してみてください。
また、芸術的表現はその時代の歴史を理解することで、より深く味わうことができます。合わせて当時の社会や文化に関する書籍も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
オススメ度★★★リチャード・ステンプ『ルネサンス美術解読図鑑―イタリア美術の隠されたシンボリズムを読み解く』(悠書館)
本格的な本ですが、1冊持っておくとルネサンスの芸術を読み解くことができるでしょう。
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オススメ度★★視覚デザイン研究所『鑑賞のための西洋美術史入門』(視覚デザイン研究所)
この本では、西洋美術の歴史と共に代表的な作品が豊富な写真付きで紹介されています。概要的な歴史と有名作しか掲載されていませんが、入門書としてはおすすめです。
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オススメ度★★新井靖一『イタリア・ルネサンスの文化 』上・下 (ちくま学芸文庫)
イタリアルネサンスの文化について詳しく論じられた本です。上記の本と合わせて読むと、ルネサンスの文化を深く理解できるはずです。
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まとめ
この記事の内容をまとめます。
- イタリアルネサンスは、カトリック教会の権威の低迷、交易による経済発展、イスラム諸国からの古代ギリシャ・ローマ文化の逆輸入などによって起こった
- イタリアルネサンスは、統一的な構図、写実主義、古代ギリシャ的な肉体表現にはじまり、キリスト教の厳格な教義の影響から脱していった
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