特性理論(Characteristic theory)とは、リーダーシップ研究において、優れたリーダーに共通する個人的資質や属性を見つけ出し、個々人の気質や特性を把握することで、それを生かそうとする理論です。
人類がリーダーシップと言葉を定義するはるか以前から、人々の暮らしのあらゆる場面には常に数多くのリーダーが存在し、集団における中心的な役割を果たしていました。
地球上の部族のほとんどには長(おさ)がおり、そこから大規模な町や国を治める者が出てくるようになり、集団同士の戦いの際には必ず、隊を指揮する者が存在していました。
そして時々で、大きな成果を収めた優れたリーダーには最高の賞賛と名誉が与えられるようになり、人々は優れたリーダーであることに強い憧れを抱くようになります。
一方で、優れたリーダーとは果たしてどのようなリーダーなのか、というごく自然な疑問に対して、人類はその共通解をずっと持てずにいました。そんななかで、もっとも初期のリーダーシップ理論にあたるのが今回の特性理論です。
この記事では、
- 特性理論の歴史的背景や特徴
- 特性理論に関連する議論
などについて解説します。
好きな箇所から読み進めてください。
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1章:特性理論とは
まず、1章では特性理論を概説します。2章では特性理論を深掘りしますので、用途に沿って読み進めてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1:特性理論の歴史
特性理論とは、優れたリーダーに共通する特徴を人物の資質や特性に見出そうとする理論です。
特性理論の起源は古く、古代ギリシア時代の哲学者プラトンに遡ることができます。彼は自身の著書『国家』のなかで、以下のように指摘しています2グロービス経営大学院(2014)『グロービスMBAリーダーシップ』ダイヤモンド社 10頁。
統治者たる者は善のイデアを理解できる哲人であるべき
このように、優れたリーダーの条件を属人的な資質や特性から見出そうとした記述が伺えます。
※プラトンの『国家』に関してはこちらの記事が詳しいです。→【プラトンの『国家』とは】要約して内容をわかりやすく解説
また、中国の思想家である孫子は『兵法』のなかで、「将とは、智(知恵があること)、信(人から信頼されること)、仁(いたわりの心があること)、勇(勇気があること)、厳(厳しさがあること)なり」3グロービス経営大学院(2014)『グロービスMBAリーダーシップ』ダイヤモンド社 11頁。なお、()内は執筆者が補足と、リーダーの持つべき資質について触れています。
さらに19世紀に入ると、英国の哲学者トーマス・カーライルが、「世界の歴史は英雄によって作られる」と主張したことで知られる『英雄崇拝論』において、以下のような主張をします4グロービス経営大学院(2014)『グロービスMBAリーダーシップ』ダイヤモンド社 11頁。
- 過去のさまざまな英雄や偉人たちの人物像を列挙し、過去の英雄たちにも見られるいくつかの優れた特質を持つ人物こそがリーダーになりうるのだと論じた
- この偉人説こそが、その後長きにわたってリーダー論のベースとなった思想であると考えられている
ここまでのリーダー論とは科学的というよりは、どちらかというと哲学的または史学的側面が強く、そこに著者の主観的な経験論が付け足されているようなものがほとんどでした。
しかし20世紀に入り、心理学が新たな学問として大きな進歩を見せると、人間の能力差を測定可能な方法で計測し、個人の差異を科学的に明らかにしようとする研究が相次ぐようになります。
そして、その対象には人々を率いて優れた成果を出していた者、つまりはリーダーも含まれており、リーダーが共通して持つ資質や特性が科学的側面から明らかにできるようになりました。
1-1-1:代表的な研究
20世紀におけるもっとも代表的なリーダーシップの研究のひとつとして挙げられるのが、アメリカの心理学者、ラルフ・ストックディルによっておこなわれたリーダーの特性に関する大規模化な調査です5グロービス経営大学院(2014)『グロービスMBAリーダーシップ』ダイヤモンド社 12頁。
調査の概要
- 身長、体重、体格といった外見的なものから、知能、雄弁さ、判断力、持続力、ソーシャルスキルなど多くの特性が網羅され、124もの調査結果が収集された
- 分析の結果、知能、学力、責任遂行の信頼性、活動と社会的参加、社会経済的地位などにおいては、リーダーと認識される人の方がそうでない人よりも優れていることが認められた
しかし一方で、個人の特性からだけでは根源的なリーダーシップの発生を説明したり、その人がリーダーになれるかを予想するのに十分でないということも判明しました。
この調査の結果から、人の資質や特性だけではリーダーシップを説明できないと気づいた研究者たちは、その後、特性理論に代わる新たなリーダー論を模索していくことになります。
ちなみに、初学者にまず進めるのは『グロービスMBAリーダーシップ』です。実務的でもあるため、わかりやすく学ぶことができます。
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1-2:特性理論の特徴
特性理論は、リーダーシップ研究のもっとも初期にあたるものであり、いまや過去のものであると考えられがちですが、現在においても、リーダーシップをより深く理解するために非常に重要な理論です。
1-2-1:素朴理論と持論
金井(2005)は、リーダーシップ理論には「研究者の理論」と「実務家の理論」の2つのセオリーが存在しており、さらに実務家の理論は、「素朴理論」と「持論」の2つのセオリーに分かれると主張しています6金井壽宏(2005)『リーダーシップ入門』日本経済新聞社。
素朴理論とは、
人々の日常生活のなかで、ひとの行動や結果などについて直感的に判断している結果とも言えるもの
です。
たとえば、「あの人はやる気がある」「あの人は決断力がある」といった日常的な判断はほとんどの場合において科学的体系に基づく裏付けを持っていないとしても、人々は主観的な真実としてその事実を受けて入れています。
ゆえに、リーダーシップ研究における特性理論の多くは、まずこの素朴理論からスタートしていると考えることができます。そして、素朴理論は決して万人に共通する理論ではなく、個々人ごとに異なる理論であることを認識する必要があります。
次に持論とは、
「すぐれた内省的実践家自身が信じていて使用している理論」7金井壽宏(2005)『リーダーシップ入門』日本経済新聞社 97頁
です。
たとえば、書店には偉大な経営者や特出した運動選手が執筆した自伝本やハウツー本が数多く取り揃えていますが、このような素朴理論よりも整理され、体系だっているセオリーは持論である考えることができます。
持論は、素朴理論からスタートし、まだまだ不完全な個々のリーダー論を補強するのに役立ちます。そして持論は、素朴理論ではあくまでイメージや印象に過ぎなかったリーダー像を、自身の中で確信に変えていくために重要な働きをします。
1-2-2:パーソナリティ研究
パーソナリティ研究とは、ラルフ・ストックディルの調査以降にさらに進められた、個人の特有の性質を明らかにしようとする試みです8グロービス経営大学院(2014)『グロービスMBAリーダーシップ』ダイヤモンド社 12頁。
代表的なパーソナリティ研究のひとつとしては、1980年以降に研究が盛んとなったビックファイブパーソナリティ特性を挙げることができます。
ビックファイブパーソナリティ特性とは、パーソナリティ表現における5つの大きな基本的特性因子のことです。
人のパーソナリティの基礎には、
- 「外向性」
- 「人当たりの良さ」
- 「誠実さ」
- 「安定した感情」
- 「経験に開放的」
という5つの基本的な要素があると考えられています。
社交的な人や話し好きの人は「外向性」の要素を強く持つと捉えられ、同様に「気立てが良い、親切」などは「人当たりの良さ」、「責任感が強い、頼りになる」は「誠実さ」、「冷静、熱心」は「安定した感情」、「創造力が豊か、芸術的な感覚に富む」は「経験に開放的」の各要素に結び付けることができます9グロービス経営大学院(2014)『グロービスMBAリーダーシップ』ダイヤモンド社 13頁。
※より詳しくはこちらの記事を参照ください。→【ビッグ・ファイブ理論とは】心理学的な実験からわかりやすく解説
さらにビックファイブパーソナリティ特性の研究が進むにつれて、5つの基本的特性は職務成績との間にも関係があることがわかるようになりました。
具体的には「誠実さ」のスコアと職務成績には正の相関関係が見られ、セールスマンやマネジャーのグループでは、「外向性」のスコアが高いと職務成績が良いとの研究結果が報告されています。
- 特性理論とは、リーダーシップ研究において、優れたリーダーに共通する個人的資質や属性を見つけ出し、個々人の気質や特性を把握することで、それを生かそうとする理論である
- リーダーシップ理論には「研究者の理論」と「実務家の理論」の2つのセオリーが存在する
2章:特性理論に関わる議論
2章では、1章で解説した特性理論に関する派生的な理論を紹介します。
2-1:脱コンピテンシーのリーダーシップ
ミシガン大学の経営学教授であるデイブ・ウルリッチらは、従来の特性理論を発展させた「脱コンピテンシー10コンピテンシーとは行動特性のこと。これまでの「特性」とほぼ同義と考えてもらって問題ありません。のリーダーシップ(Results-Based Leadership)」11参考とした著書も同名。ここではリーダーシップ研究のひとつとして紹介しています。を提唱しています。
脱コンピテンシーのリーダーシップでは、従来の特性理論の活用に加えて、成果志向で組織を動かすことが重視されます。
ウルリッチらは、効果的なリーダーシップとは特性×成果の乗法によって求められると考えました。
そして、特性または成果のいずれかを軽視すると、リーダーシップの効果は大きく減少すると主張しています。ウルリッチはリーダーシップの特性は次の4つのグループにわけることができると述べています12デイブ・ウルリッチ、ジャック・ゼンガー、ノーム・スモールウッド著、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー訳(2003)『脱コンピテンシーリーダーシップ』ダイヤモンド社 18-20頁。
- 方向を設定する・・・将来に向けて企業を位置づける
- 個人的なコミットメントを引き出す・・・他者を巻き込んでビジョンを実現していく
- 組織のケイパビリティを生み出す・・・組織の価値を創造するプロセス、行動、実践を構築する
- 人格の表現・・・信頼でき、心が通い、革新を持ったリーダーになる
またウルリッチらは、上記のようなリーダーとしての特性ばかりに着目するのではなく、優れたリーダーには成果を重視するための次のような行動が求められるとも指摘しています13デイブ・ウルリッチ、ジャック・ゼンガー、ノーム・スモールウッド著、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー訳(2003)『脱コンピテンシーリーダーシップ』ダイヤモンド社 224頁。
- 成果に絶対的な重点を置くことから始める
- 自分のグループの成果に対して完全に、そして個人として責任をとる
- 自分のグループメンバーに対する期待と目標値を明確に、厳密に伝える
- 成果向上のための個人的な課題を設定する
- リーダーシップの継続的な実行に対するリトマス試験紙として、成果を用いる
- よい成果を生み出すため、能力開発の活動や機会を積極的に活用する
- グループの全メンバーの能力を知り尽くし、十分に活用する。さらにメンバーに能力開発の機会を提供する
- 自分が与えるすべての分野において、業績向上のため、新しい方法を常に追求・実験し、革新を試みる
- 正しい基準で測定し、より測定が厳格になるようにする
- 常に行動する。それなしには成果の向上はありえない
- グループのテンポをあげる
- 自分自身とメンバーの成果向上の方法について、組織のほかの人にフィードバックを求める
- リーダーとしてのモチベーションが自分自身のためや組織の政治的な勢力拡大のためではなく、適切な成果達成のために働いていることを部下や同僚が認識できるようにする
- 自分のグループが達成したいと欲している成果に対し、努力と方法のモデルをつくる
2-2:特性×成果
ウルリッチらは、リーダーのとるべき行動を上記のように明確に述べたうえで、特性と成果の連関を次の図のように説明しています。
図1 特性と成果の連関14デイブ・ウルリッチ、ジャック・ゼンガー、ノーム・スモールウッド著、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー訳(2003)『脱コンピテンシーリーダーシップ』ダイヤモンド社 255頁 一部著者改変
リーダーが成功するためには、何を成すべきで(成果)、何を知りどう行動するか(特性)の両者を理解したときに、リーダーは図1のような良循環を達成できるとウルリッチらは主張しています。
たとえば、ある企業のリーダーが、自社の製品の顧客満足度の向上を目標に掲げたときは、
- 「顧客満足度の向上(成果)を達成するために、組織のケイパビリティ(特性)を作り出す。」のように目的と手段を明確に結び付けることが重要である
- そして、「組織のケイパビリティ(特性)を高めたことによって、顧客との間に長期的な信頼関係を築くことができた(成果)」のように期待される成果を掴むための因果関係が明確になる
このように特性と成果の間に良循環を生むことができれば、企業には大きな成長が期待できます。
そしてウルリッチらは、この良循環は自然発生的に生まれるものではなく、リーダーが自らの意思でリーダーシップ特性の開発をおこない、そこから生まれる成果を念頭に置いた行動をすることによってのみ実現できると強調しています。
- ウルリッチらは、従来の特性理論を発展させた「脱コンピテンシーのリーダーシップ」を提唱した
- リーダーが自らの意思でリーダーシップ特性の開発をおこない、そこから生まれる成果を念頭に置いた行動をすることによってのみ実現できる
3章:特性理論について学べるおすすめ本
特性理論を理解することはできました?特性理論に少しでも関心をもった方のためにいくつか本を紹介します。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- 特性理論とは、リーダーシップ研究において、優れたリーダーに共通する個人的資質や属性を見つけ出し、個々人の気質や特性を把握することで、それを生かそうとする理論である
- リーダーシップ理論には「研究者の理論」と「実務家の理論」の2つのセオリーが存在する
- リーダーが自らの意思でリーダーシップ特性の開発をおこない、そこから生まれる成果を念頭に置いた行動をすることによってのみ実現できる
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