職能別組織とは、「営業、生産といった経営機能ごとに編成された組織形態のこと」1野村総合研究所(2008)『経営用語の基礎知識(第3版)』ダイヤモンド社 36頁です。
職能別組織は、一般的に企業の創業期から発展期において、機能の分化と効率性を追求する場合に適しており、大企業よりも中小企業での採用が多い組織形態です。
この記事では、
- 職能別組織の背景・特徴
- 職能別組織の研究
などをそれぞれ解説していきます。
好きな箇所から読み進めてください。
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1章:職能別組織とは
まず、1章では職能別組織を概説します。2章以降では職能別組織に関する研究を解説しますので、用途に沿って読み進めてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注2ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1:職能別組織の特徴
榊原(2002)によると、職能別組織とは「トップマネジメントの意思がミドルを経てボトムに伝達され作業者に至る、タテの命令系統が直線的に貫かれた組織形態」3榊原清則(2002)『経営学入門[上]』日本経済新聞出版社 128-129頁であると説明しています。
この説明をしっかり理解するために、図1の「職能別組織と事業部制組織」を用いながら職能別組織の特徴を説明していきます。
図1 職能別組織と事業部制組織4鈴木竜太(2018)『はじめての経営学 経営組織論』東洋経済新報社 86頁
職能別組織では、最高意思決定者をトップに研究開発や生産、販売といった職能(一般的には部署や部門という表現がなされる)が設けられており、それぞれの職能に機能や役割が振り分けられています。
そして職能別組織には、具体的に次の3点の特徴が挙げられます。
職能別組織では、企業全体の経済活動に対して、それぞれの職能が少数の機能や役割に特化することで、分業的な生産をおこなっています。
たとえば、図1のAという製品における研究開発部門の役割は、製品Aに関する機能やコンセプトを研究・開発することのみであり、実際の製造や販売といった役割は生産部門や販売部門が担うことになります。
職能別組織では、トップマネジメントの意思が、それぞれの部門長にあたるミドルマネージャーを経て、ボトムに伝達され作業者に至る垂直的な命令系統が確立しています。
また、職能別組織では、その組織構造上、ひとつの職能が生産におけるすべての活動を担うことも、他の職能を指導・指揮することも不可能であり、生産全体の調整や統合はトップマネジメントの役割となります。
職能別組織では、職務内容や命令系統が確立しているために、各職能の責任や権限も明確になります。
各職能の役割は基本的に職務として規定されていて、その職務を達成することに重点が置かれるため、それぞれの職能が必ずしも生産活動全体の事情を気にする必要はありません。
たとえば、生産した製品の在庫が過剰になってしまったとしても、販売部門が発注した数量通りの製品数を生産部門は製造したとしたら、その責任は販売部門に帰することになります。
1-2:事業部制組織との違い
職能別組織の特徴が理解できたところで、次に職能別組織に似た組織構造として頻繁に比較される事業部制組織との違いを見ていきましょう。
※この記事では事業部制組織の詳しい説明はおこないません。事業部制組織について詳しく知りたい方は「事業部制組織」の記事をご確認ください。
事業部制組織とは、
組織が目的ごとに部門化(事業部化)されており、1つ1つの事業部がすべての職能を持つことで、自律的に活動することができる組織構造
です。
図1の事業部制組織を見ても、基本的な構造は職能別組織とあまり変わりません。しかし、事業部制組織では職能別組織における各職能にあたる部分に事業部を設け、トップマネジメントの権限や責任の一部を各事業部に移管することで、より広域的なマネジメントを実現しています。
事業部制組織における職能別組織とのもっとも大きな違いは、以下の点にあります。
- 各事業部がすべての職能を持つことで、自律的に活動することができることであり、各事業部には生産活動全体を調整・統合できるミドルマネージャーが置かれること
- 職能別組織で置かれるマネージャーはあくまでひとつの職能を管理する権限しかもたないが、事業部のマネージャーは職能別組織で言うトップマネージャーに匹敵する権限と責任を有すること
つまり、事業部制とは、複数事業になった企業がまず事業部を分割し、その下で職能別に組織が分割される組織形態であるとみなすことができます。さらに言うと、大きくなった職能別組織を事業部ごとに小さくしたうえで、再度職能別組織を作るものであると考えることができます。
ゆえに、事業部制組織は組織の規模が拡大し、トップマネジメントひとりの管理では間に合わなくなる中規模以上の組織でよく採用される組織構造であり、日本で上場している多くの企業は事業部制組織を採用しています。
1-3:職能別組織のメリット
さて、ここからは職能別組織のメリットとデメリットを羅列していきますので、全体像を掴んでください。まずは、メリットの3点です。
職能別組織は、指揮・命令系統が一元的で単純であるためにトップマネジメントの意思が迅速にミドルやボトムに伝わるというメリットがあります。
また、生産全体の調整や統合はそもそもトップマネジメントの役割であることから、トップマネジメントが現場を常に把握・統制できる立場となることもメリットとして挙げられます。
職能別組織では、各部署が職能に特化するために職能に関する熟練の形成と活用が容易となります。
たとえば、研究開発部門であれば、研究開発部門に属するスタッフは研究開発のみに専念すればよいため、早期の研究ノウハウの蓄積やスタッフの熟練の形成が期待できます。
職能別組織は、トップダウン型の極めてシンプルな組織構造であるために組織の運営コストが相対的に低いというメリットがあります。
対する事業部制組織では、事業部間での職能の重複は避けられずに、組織の運営コストは職能別組織に比べて割高となります。
1-4:職能別組織のデメリット
そして、職能別組織のデメリットには、次のような3点が挙げられます。
職能別組織では、指揮・命令系統が一元的で、メンバーの責任や権限が明確であるために、現場からのフィードバックが機能しにくいというデメリットがあります。
一般的な職能別組織では、現場の作業がトップマネジメントによる命令や指示に基づいて実行されることがほとんどであるために、現場には指示待ちや受動的な姿勢が生まれやすく、組織的なイノベーションや改善が起こりにくいという弊害が生じます。
ゆえにトップマネジメントには、現場の創意工夫や改善提案などを引き出すような施策をおこなう姿勢が求められます。
職能別組織では、トップマネジメントが生産に関するすべての調整や統合をおこなわなければならないために、トップマネジメントの負担が大きくなりやすいです。
職能別組織ではあくまで各職能を指揮するだけの部門長が存在しているだけであり、トップマネジメントは必然的に企業全体のマネジメントに加えて、部門全体のマネジメントもおこなわなければなりません。
職能別組織では、増大するトップマネジメントの負担を軽減するために、トップマネジメントの補佐を務められるような人材を採用・育成したり、事業部制組織の採用を検討したりすることで、このデメリットの解消が求められます。
職能別組織では、メンバーの責任や権限が明確であるために、部門間の対立が起こりやすいデメリットがあります。
たとえば、生産した製品の在庫が過剰になってしまったケースを考えても、生産部門は販売部門が発注した数量通りの製品数を製造しただけであるから、在庫過剰の責任は販売部門にあるべきだと考えるはずです。
しかし、販売部門としては生産のコストを低減させるためには一定数以上の発注が必要であり、そもそもの生産のコストを抑えることができないのは生産部門の責任であると販売部門が主張するようなことがあれば、それぞれの部門の対立は深刻なものとなります。
どうでしょうか?職能別組織の全体像を掴むことはできましたか?それでは一旦、これまでの内容をまとめます。
- 職能別組織とは、「営業、生産といった経営機能ごとに編成された組織形態のこと」5野村総合研究所(2008)『経営用語の基礎知識(第3版)』ダイヤモンド社 36頁である
- 事業部制組織との違い:各事業部がすべての職能を持つことで、自律的に活動することができることであり、各事業部には生産活動全体を調整・統合できるミドルマネージャーが置かれること
2章:職能別組織に関する研究
2章では、組織構造に関する基礎的な概念である「複雑性」と「集権性」に関する解説をおこないます。
2-1:複雑性
複雑性とは、「組織を構成するその諸部分の異質性や多様性」6榊原清則(2002)『経営学入門[上]』日本経済新聞出版社 100頁のことを指します。複雑性には、「水平的複雑性」と「垂直的複雑性」の2つの構成要素が存在しており、それぞれの特性が組み合わさりひとつの組織を構成しています7複雑性には、この2つのほかにも、地理や所在地など物理的な差異が要因となる「空間的複雑性」が存在します。。
2-1-1:水平的複雑性
水平的複雑性とは、職位や部門など組織ユニット間の分化の程度を指します。
図1の職能別組織では「研究開発」「生産」「販売」のように部門にあたる部分が水平的複雑性に該当します。もし組織の部門が少なく、シンプルなものになれば水平的複雑性は低くなり、逆に部門が増えて、多様性が増すと水平的複雑性は高くなります。
水平複雑性が高い場合
- 組織の水平複雑性が高くなると、部門ごとに仕事の性質が異質になり、部門メンバーに必要なスキルや教育の内容も互いにユニークになり、メンバーの価値や志向性も部門間で大きく違うようになる
- 水平的複雑性の高い組織では、部門ごとにさまざまな業務や価値観が存在しているため、同じ組織であっても重視する目標や、普段使っている言葉が異なり、部門間のコミュニケーションや相互の調整や統合は難しくなる
逆に、水平的複雑性の低い単純な構造の組織では価値観や志向性などで類似のバックグラウンドをもったメンバーが増えるため、コミュニケーションや相互の調整や統合が容易となります。
水平的複雑性は、複数の人間が仕事を進めていくうえで必要不可欠な要素です。
- トップマネジメントには水平的複雑性のバランスを調整したり、部門ごとの交流を深め、部門間のコミュニケーションを深めたりといった工夫が必要となる
- 水平的複雑性は考え方によっては組織の多様性とも捉えることができ、これをうまく活用することができれば、これまでの組織の発想では生まれなかった革新的なイノベーションを起こす可能性が考えられる
2-1-2:垂直的複雑性
次に垂直的複雑性とは、階層上下のレベル数です。図1の職能別組織では「最高意思決定者」「部門ごとの部門長」「各部門に所属するスタッフ」にあたる部分が垂直的複雑性に該当します。
垂直的複雑性はピラミッドのようなものであり、階層上下のレベルが増えるほど垂直的複雑性が高くなります。
垂直的複雑性の特徴
- 一般的な職能別組織では、各部門のすぐ上に最高意思決定者が存在しており、垂直的複雑性はそれほど高くない
- 事業部制組織においては各部門の上に事業部が存在しており、事業部長を介して最高意思決定者に繋がるため、垂直的複雑性は職能別組織に比べて高くなる
垂直的複雑性は、そのほとんどが「管理の幅」によって規定され、組織に属する人数が増えれば垂直的複雑性も高くなる傾向があります。管理の幅とは、ひとりの上司が直接的に管理できる部下の人数のことであり、その人数には一定の限度があると考えられています。
ゆえに、組織の人数が増え、ひとりの上司の管理できるキャパシティに限界が生じると、「主任」「係長」のようなあらたな役職を設けることで、組織の垂直的複雑性は高くなっていきます。
2-2:集権性
次に集権性とは、「意思決定権限がどの程度上位に集中しているか」8榊原清則(2002)『経営学入門[上]』日本経済新聞出版社 106頁を指します。権限の集中度が高ければ集権的組織と呼ばれ、逆に低ければ分権的組織と呼ばれます。ここで言う権限とは、組織の職位に基づく公式的な権限を意味しており、人間関係などに基づく非公式な権限は考えません。
- 集権的組織
→一般的な職能別組織は、他のメンバーと比べてトップマネジメントに大きな権限が付与されており、極めて集権的な組織を形成している - 分権的組織
→事業部制組織では各事業部長に事業運営の権限や責任が委譲されており、最高意思決定者は全社的な管理に専念していることから、事業部制組織は職能別組織に比べて分権的な組織である
集権度の高い組織では、トップマネジメントによる迅速に意思決定が可能になるなどのメリットがあります。
しかし、上でも述べたようにひとりの上司が直接的に管理できる部下の人数が限られていること、また業務上の権限が少ない下位階層の人材育成やモチベーションの向上が期待できないことなどのデメリットも考慮すると、スムーズな組織運営を実現するために必要な権限移譲は進めていかなければなりません。
3章:職能別組織について学べるおすすめ本
職能別組織を理解することはできましたか?最後に、あなたの学びを深めるためのおすすめ書物を紹介します。
榊原清則『経営学入門』(上)(日本経済新聞出版社)
組織構造に関する基本的な論点が初心者にもわかりやすく理解できるようにまとめられています。組織論に関する基礎的な内容を一通り確認したい方にはおすすめの1冊です。
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伊丹敬之『ゼミナール経営学入門』(日本経済新聞出版社)
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- 職能別組織とは、「営業、生産といった経営機能ごとに編成された組織形態のこと」11野村総合研究所(2008)『経営用語の基礎知識(第3版)』ダイヤモンド社 36頁である
- 事業部制組織との違い:各事業部がすべての職能を持つことで、自律的に活動することができることであり、各事業部には生産活動全体を調整・統合できるミドルマネージャーが置かれること
- 組織構造に関する基礎的な概念に「複雑性」と「集権性」がある
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