心理学

【代表性ヒューリスティクとは】具体例・リンダ問題からわかりやすく解説

代表性ヒューリスティクスとは

代表性ヒューリスティク(Representativeness heuristic)とは、ある事例の起こりやすさを自身のもつ典型的な知識に類似している程度に基づいて判断するという、私たちの考える負担を減らすための判断方略の1つです。

代表性ヒューリスティクを利用することで誤った判断をしてしまう場面が多くあるため、しっかりと理解することが求められる概念です。

そこで、この記事では、

  • 代表性ヒューリスティックの意味・例
  • 代表性ヒューリスティックの心理学的実験

をそれぞれ解説していきます。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:代表性ヒューリスティックとは

1章では、代表性ヒューリスティックの意味・例を解説します。心理学的実験に関心のある方は、2章から読んでみてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1: 代表性ヒューリスティックの意味

まず、代表性ヒューリスティックを「代表性」「ヒューリスティック」に分解し説明していきます。

1-1-1: 代表性とは

代表性とは、

あるサンプルと母集団や実例とカテゴリーといった具体的に生じた結果とその典型例の間の類似性の程度のこと

を指しています。

たとえば、研究者というカテゴリーの人にはメガネの人が多いというイメージを持っていたとします。すると、メガネの研究者はそのイメージと合致するので代表性が高く、メガネをかけていない研究者はそのイメージと合致しないので代表性が低いと考えることができます。

つまり、自分自身がもっているある対象に対する典型的なイメージに、どのくらい類似しているかの程度を「代表性」といいます。

1-1-2: ヒューリスティク

ヒューリスティクとは、

直観に基づく、必ずしも正解が得られるわけではないが、正解に近い解が得られる方法のことのこと

です。

たとえば、以下の例を考えてみてください。

  • 「トランプのデッキから1枚カードを引きます。このときスペードのAを引く確率と、スペードのカードを引く確率どちらが大きいでしょうか?」と聞かれたとする
  • すると、私たちはほとんど考えることなくスペードのカードのほうが引く確率が高いと判断できる
  • よほど慎重な人ではない限り、スペードのAを引く確率は1/54、スペードのカードは12枚なので…と考えたりはしないでしょう

これは私たちが包含関係にある場合は中に含まれるもの(スペードのA)は、包括する集合(スペードのカード)より大きくなることはないというヒューリスティックを利用して、中身の計算をせずに判断を下している例です。

つまり、ヒューリスティックとは、経験に基づく素早い判断を行うための判断方略といえます。

このようにみると、冒頭の定義の意味がわかると思います。つまり、代表性ヒューリスティックとは、物事の起こりやすさを判断するときに、代表性を使ってショートカットするための方略ということです。



1-2: 代表性ヒューリスティックの日常例

私たちは日常の中で、この代表性ヒューリスティックを利用して、さまざまな判断を行っています。ここでは、いくつかの具体的な例をみていきましょう。

  • たとえば、Aさんが親切な行動をしているのを見て、Aさんが親切な人だと判断するときにも代表性ヒューリスティックを利用している
  • このような場面では、私たちが持っている親切な人のイメージと、Aさんの行った行動が類似しているため、Aさんは親切な人である(確率が高い)と判断している

他にも、「今日雨が降りそうだな」といった判断を下すときにも、雨の日のイメージと、今日の空模様の類似性を評価して、これが高い場合に雨が降るだろうと判断していると考えられます。

これらの判断は必ず正しい判断につながるわけではありません。親切な行動をしていても、大の悪人かもしれませんし、雨雲が見えていても急に晴れてくることもあります。

このように代表性ヒューリスティックは、多少のリスクを負いながらも、さまざまな判断を素早く行うための助けになっているのです。

1-2-1: 利用可能性ヒューリスティックとの違い

代表性ヒューリスティックの他にも多くのヒューリスティックが存在します。その1つが利用可能性ヒューリスティックです。

利用可能性ヒューリスティックは、

その出来事の頻度や確率を判断するときに、その出来事が思いつきやすいかどうかに基づいて判断するもの

です。

たとえば、Bさんが急性上気道炎とインフルエンザどちらの病気になりやすいかを判断する状況を考えてみましょう。このような状況では、インフルエンザのほうが起こりやすいと判断する人が多くなります。

なぜなら、この2つの病気を見たときに、インフルエンザは急性上気道炎よりも、すぐに症状や自身の罹患経験などを思い出しやすいためです。つまり、インフルエンザのほうがより利用可能性が高いため、インフルエンザのほうが起こりやすいと判断しやすくなるということです。

※より詳しくは次の記事を参考にしてください。→【利用可能性ヒューリスティックとは】心理学的実験から日常例までわかりやすく解説

ちなみに、急性上気道炎とはただの風邪ですので、急性上気道炎のほうが起こりやすいものとなっています。代表性ヒューリスティックと同様、必ずしも正しい解が得られるわけではないことを理解しておくことが重要です。

1章のまとめ
  • 代表性ヒューリスティックとは、物事の起こりやすさを判断するときに、代表性を使ってショートカットするための方略である
  • 代表性ヒューリスティックは、多少のリスクを負いながらも、さまざまな判断を素早く行うための助けになっている

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2章:代表性ヒューリスティックの心理学的実験

さて、2章では代表性ヒューリスティックを語る上で、欠かせない心理学的実験を紹介します。

2-1: リンダ問題と連言錯誤

心理学や行動経済学の研究分野では、代表性ヒューリスティックを利用することで誤った判断をしてしまう場面に着目して研究が進められてきました。

そのことを説明する前に、少し次の問題を考えてみてください。

リンダは31歳の独身で、はっきりものの言える非常に賢い女性である。彼女は大学時代に哲学を専攻していた。当時、彼女は差別や社会的公正の問題に関心があり、反核デモにも参加していた。

現在のリンダの状況について、下のA、Bのうち確率が大きいのはどちらでしょうか?

  • A・・・リンダは現在銀行の窓口係をしている
  • B・・・リンダは現在銀行の窓口係をしていて、フェミニズムの活動に積極的である

さて、どちらの選択肢を選びましたか?

実はこの問題、Aが正しい答えです。この問題では、Bの選択肢はAの選択肢の部分集合となっています。部分集合となっているというのは、銀行の窓口係をしている人の中に、銀行の窓口係をしていて、フェミニズムの活動に積極的な人がいるということです。

スペードのAとスペードのカードの関係と同じで、包含するものよりも包含されるものの方が確率が高くなることは決してありません。つまり、Bの確率がAの確率よりも大きくなることはないです。

この課題は、トベルスキーとカーネマンという心理学者によって考案されたもので、「リンダ問題」と呼ばれています。また、トベルスキーとカーネマンの実験では以下の点が明らかになっています2Tversky, A., & Kahneman, D. (1983). Extensional versus intuitive reasoning: The conjunction fallacy in probability judgment. Psychological Review, 90, 293-315.

  • 8割近くの人がAの選択肢よりも、Bの選択肢のほうが確率が高いという判断をしてしまうことが報告されている
  • このようなAでありBという関係を連言ということから、このような現象は連言錯誤(conjunction fallacy)と呼ばれている

連言錯誤は我々が陥りやすい判断の誤りの一種で、心理学ではバイアス研究の題材として広く利用されています。

では一体、なぜこのような誤りに陥ってしまうのでしょうか?その原因は、まさに代表性ヒューリスティックにあります3Tversky, A., & Kahneman, D. (1983). Extensional versus intuitive reasoning: The conjunction fallacy in probability judgment. Psychological Review, 90, 293-315. Kahneman, D., & Frederick, S. (2002). Representativeness revisited: Attribute substitution in intuitive judgment. In T. Gilovich, D. Grifin, & D. Kahneman (Eds.), Heuristics and biases: The psychology of intuitive judgment. New York: Cambridge University Press, pp.49-81.

リンダ問題において、我々はリンダについてのプロフィールを読んで、リンダのイメージを形成します。このリンダのプロフィールは、フェミニズムの活動をしている人のステレオタイプに類似するように作成されています。

そのため、多くの人が代表性ヒューリスティックにもとづいて、自身のリンダのイメージとの類似性の高さから、「フェミニズムの活動」が含まれる選択肢を選んでしまうのです。



2-2: そのほかの錯誤

その他にも代表性ヒューリスティックは、さまざまな判断の誤りを引き起こすことが知られています。次の問題を考えてみてください。

コインを投げるとき、出やすいのはどちらか?

  • C・・・ 表-表-表-表-表-表-表
  • D・・・表-裏-表-表-裏-表-裏

多くの人が、この課題を行うと、CよりもDのほうが起こりやすいと考えることが知られています。しかし、実はCもDも同じ確率で生じる(コインがこの順番で出る確率はどちらも、(0.5)となる)ためこの回答は誤りです。

このようなことが起こるのは、ランダムな現象の典型例にDのほうが類似しているため、代表性が高く、より起こりやすいと判断されたと説明出来ます。

また、Cのようなコインの出方をした後に、もう一度コインを投げたときに、次は裏の方が出やすいと考えてしまう(表と裏の確率は同じなのでこの考え方は誤り)ことを「ギャンブラーの錯誤(gambler’s fallacy)と呼びます。

このような判断も代表性ヒューリスティックによって説明されます。具体的には、表が8回連続で続くという結果よりも8回目で裏になるという結果のほうが、ランダムな出来事の典型例に類似しているため、裏が出やすいと考えてしまうということです。

もう1つ、問題を提示します。少し考えてみてください。

ある町に2つの病院があります。大きい病院では毎日およそ45人の赤ちゃんが生まれ、小さい病院ではおよそ15人の赤ちゃんが生まれます。

よく知られている通り、生まれる赤ちゃんの50パーセントは男の子ですが、毎日必ずこの比率になるわけではありません。50パーセントより多い日もあれば少ない日もあります。

各病院では一年にわたり、赤ちゃんの60パーセント以上が男の子だった日を記録しました。60パーセント以上の日が多かったのは、どちらの病院でしょうか?

  • E・・・大きい病院
  • F・・・小さい病院
  • G・・・どちらも同じ

この問題をといた大学生のうち、E、Fと回答したのは約25パーセントづつで、残りの約半数の人はGと回答しました4Kahneman、2002。しかし、この問題における正しい回答は、Fです。

多くの人が誤った判断をした理由を説明する前に、Fがなぜ正しい回答なのかを説明する必要があります。このことを説明するために、少し統計の話をしたいと思います。少し次のような状況を考えてみてください。

  • 日本人の20代の身長の平均は160㎝だとし、あなたは全国から無作為に10000人の20代の人の身長を測って平均を求めたとする。するとおそらく160㎝に非常に近い値になるでしょう
  • では、無作為に3人の20代の人の身長を測って平均を求めたとする。このとき160cmに近い値になると思いますか?おそらく160㎝から大きくずれることになるでしょう

この例における、日本人のような本当に知りたい集団全体のことを「母集団」といい、母集団を全体を測定する代わりに、実際に測定した集団を「標本集団」といいます。

この出生率の問題においては、この母集団と標本の関係について理解することが重要です。先ほどの例からもわかるように、より多くの標本を集めることで母集団の値(真値)に対する値のばらつきが小さくなるという性質を持ちます。つまり、標本数が小さいほど、真の値からズレた値をとりやすいです。

このことを前提に先ほどの問題を見てみましょう。これで、小さい病院が正解となる理由がわかるはずです。

  • 母集団における生まれる赤ちゃんが男性である割合は50パーセントです。それに対して、大きい病院は一日当たりの標本数は45人、小さい病院は15人
  • 先ほどの母集団と標本数の関係から、標本数が小さいほど、母集団の値(男の子50パーセント)に対してばらつきが大きくなる
  • つまり、60パーセント以上が男の子といったようなばらつきは、大きい病院よりも小さい病院において起こりやすい

では、この問題においてGを選択することと、代表性ヒューリスティックはどのように関係しているのでしょうか?このような問題では私たちは母集団の典型性に基づいて標本集団の特性を判断しようとします。

たとえば、この問題で10000人の赤ちゃんのうち50%が男の子であることは、どの程度起こりやすそうか?ということを判断するとします。この時、我々は母集団では男の子の出生率は50パーセントという知識を持っていますから、代表性ヒューリスティックに従いかなり起こりやすいと判断すると考えられます。

この判断の傾向は、生まれた赤ちゃんの数が100人でも、50人でも、10人でも変わりません。なぜなら、標本数は母集団との類似性の評価には影響を与えないためです。

つまり、このような錯誤は代表性ヒューリスティックに従って、母集団と類似している程度を考えると人数に関係なく、起こりそうだと評価されるため生じるのです。

1章のまとめ
  • 代表性ヒューリスティックを利用することで誤った判断をしてしまう場面に着目して研究が実施されてきた
  • トベルスキーとカーネマンという心理学者によって考案された「リンダ問題」が有名である

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3章:代表性ヒューリスティックを学ぶ本・論文

このように代表性ヒューリスティックは、さまざまな場面で私たちの判断がスムーズに行われるのを助けてくれています。

一方で、特定の場面では誤った判断につながってしまうことがあります。この文章を読んで少しでもこれらの研究に関心をもった方のためにいくつか本を紹介します。

おすすめ書籍

オススメ度★★★ ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか?』(早川書房)

ノーベル経済学賞を受賞したカーネマンが、人間の意思決定の特性について記述した本です。今回のテーマである代表性ヒューリスティックだけではなく、人間の判断の特性をさまざまな研究知見をもとに紹介してくれています。

文庫本サイズの訳書も出ていますので手が出しやすく、内容も平易です。この記事でも参考にしています。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 代表性ヒューリスティックとは、物事の起こりやすさを判断するときに、代表性を使ってショートカットするための方略である
  • 代表性ヒューリスティックは、多少のリスクを負いながらも、さまざまな判断を素早く行うための助けになっている
  • 代表性ヒューリスティックを利用することで誤った判断をしてしまう場面に着目して研究が実施されてきた

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