垂直統合(Vertical integration)とは、技術的には別々の生産、流通、販売、その他の経済行為を、一つの企業内にまとめることです。1(ポーター『競争の戦略』ダイヤモンド社 391頁を参照
具体的にいえば、垂直統合はユニクロやトヨタが実施するビジネスモデルのあり方です。しかし、垂直統合は極めて有益なビジネスモデルでありながら、実施することによるデメリットがあるのも事実です。
そのため、垂直統合目的からメリットとデメリットまでを深く理解する必要がある戦略です。
そこで、この記事では、
- 垂直統合の意味や目的
- 垂直統合のメリットとデメリット
- 垂直統合の事例
をそれぞれ解説します。
好きな箇所から読み進めてください。
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1章:垂直統合とは
1章では垂直統合を「意味」「目的」「メリットとデメリット」「水平統合との違い」といった項目から概説します。2章では垂直統合の具体例を提出しますので、関心に沿って読み進めてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注2ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1:垂直統合の意味
冒頭の確認となりますが、垂直統合とは、
技術的には別々の生産、流通、販売、その他の経済行為を、一つの企業内にまとめること
です。
具体的に考えてみましょう。私たちがメーカーというとき、大きく分けて以下のような生産プロセスと形態があります。
- ある製品を生産するメーカーが製品を生み出し、消費者の手に渡るまでには、製品自体の開発や原材料の調達、部品の製造、販売店への流通などのプロセスが存在する
- そして、企業はそれぞれのプロセスを市場で取引して調達するか、社内で管理された取引を利用するかを選択することができる
つまり、製造は社内で販売は他社に任せるといった企業もあれば、製造から消費者への販売までをすべて社内でおこなう企業も存在するのです。
こうした一連の経済活動は「価値連鎖(バリューチェーン)」と呼ばれ、企業がどのプロセスにおいて付加価値を生み出しているかの分析に活用されます(図1)。
(図1「価値連鎖(バリューチェーン)」を参考に、筆者作成)
極端な話をすれば、工場も事務所ももたずに、生産における経済活動のすべてを市場取引で調達することで、自宅で机ひとつ、経営者ひとりでメーカーを名乗ることも理論上では可能です。
しかし、たいていの場合は、自社製品の製造やサービスに必要な管理の大部分は自社内でおこなったほうが、いくつもの独立した企業と契約してやらせるよりも有利と考えられています。
垂直統合とは、こうした生産プロセスを市場取引による調達から、社内で管理された取引に変更することを指します。また、企業が生産に関わる売り手からの調達を「川上」、買い手への流通を「川下」と表現し、それぞれの特徴から取引を社内で管理するかを判断をしていくことになります。
1-2:垂直統合の目的
そして結論からいえば、垂直統合の目的は価値連鎖の総和を大きくすることです。
いままで、ひとつの事業でしか付加価値を創造できていなかった企業が、もし、垂直統合によって、川上や川下工程でも新しい付加価値を創造することができれば、企業の収益は拡大します。そこで前提となるのは、工程を「内製化」するべきか「市場で取引」するべきかの判断です。
1-2-1: 内製化
内製化とは、工程の管理を自社でおこなうことを指します。
一般的に内製化をおこなえば、工程間のモノや情報の融通は容易になり、生産管理上の優位性が生まれます。
しかし、企業がもつ経営資源の量は限られており、すべての工程を適切に管理できる保証はありません。もし、運営を誤ってしまった場合、統合した工程は大きな負債となってしまうリスクがあります。
1-2-2: 市場での取り引き
一方で、工程を市場で取引すれば、工程間の融通性は悪化します。なぜなら、独立した企業同士では、それぞれで別の意思決定がおこなわれるため、どちらかに有利な形での選択はされにくいからです。
しかし、管理する工程の数は少なくなり、経営資源に乏しい企業では負担は軽減するでしょう。また、市場取引では市場環境の変化次第で「生産をやめる」または「生産方法を変える」といった選択が容易になるメリットもあります。
内製化した工程の場合、市場変化にはすべて自社で対応しなければならなくなります。
このように、企業には常に工程の方法を選択する機会が与えられます。それぞれにメリットとリスクがあるため、経営者は自社の置かれた環境や業界の特徴をしっかり分析しながら、適切な選択をすることが求められます。
垂直統合における競争優位を提唱したポーターの原著は不可欠な書物ですので、ぜひチェックしてみてください。
1-3:垂直統合戦略のメリットとデメリット
では一体、具体的にどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?先に要点をまとめると、図2で示した内容となります。
(図2「垂直統合のメリットとデメリット」ポーター『競争の戦略』(ダイヤモンド社, 394-408頁)を参考に、筆者作成)
まず、垂直統合のメリットとして、大きく「攻めの要素」と「守りの要素」の2点を挙げることができます。
1-3-1: 攻めの要素
まず攻めの要素として、もっとも代表されるのが「統合の経済性」です。つまり、垂直統合により、企業の規模を拡大することができれば企業運営における経済性の向上が見込めます。
たとえば、以下のような具体的なメリットが発生する可能性があります。
- ある製品を製造するメーカーが、その製品に必要な部品を製造する企業を垂直統合した場合、メーカーはその部品の調達にかかる手間を大きく省くことができる
- また、別の事業の技術に精通することで、あたらしい技術を取得できる可能性も考えられる。工程間の情報共有が綿密になれば、そこに新しい発見が生まれることも多くなり、イノベーティブな新製品が開発されるかもしれない
- さらに、企業の差別化の力を強めることもできる。これまで既存の部品にはなかった性能を、その部品を使用するメーカー目線で開発することができれば、それは独自の技術力として評価されるはず
もしも、統合時点では技術的な関連度が低かったとしても、その技術が非常に先進的で、今後成長の可能性がある技術であれば、統合を検討する価値があります。それはすべての技術をイチから研究するには非常に大きなコストがかかるからです。
もし、統合をすることでそうした技術を手に入れることができれば、企業は大きな節約をすることができます。
1-3-2: 守りの要素
守りの要素としては、他社の脅威に対応できる手段を得られることです。
具体的には、
- 垂直統合によって、市場取引していたものを内製化することができれば、取引先からの圧力や一方的な要求から解放されることになる
- 取引先企業の都合に左右されることもなくなるため、生産や販売を安定しておこなうこともできる
- また、垂直統合によって価値連鎖の総和を大きくすることができれば、川上や川下に事業をもたない新規参入者や競合他社にとっては、ビジネスモデルを模倣することが難しくなり、大きな競争優位を生むことができる
といったメリットがあります。
1-3-3: コスト
一方で、垂直統合におけるデメリットもあります。こちらは「コスト」と「組織」の2つの視点からあげられます。
まずコスト面でのデメリットは、大きな費用が必要になることです。垂直統合では、本業とは離れた事業に進出しなければならず、先行投資が必要となります。もし、既存の企業を買収できたとしても、そのままでは垂直統合のメリットを最大限に生かすことは難しく、よりよい統合のための支出は必要不可欠と言えます。
また、垂直統合をおこなったとしても、その事業がうまくいくかどうかは別の話です。もし、事業が軌道に乗らずに、思うようなメリットを得られなかった場合、企業はその事業から撤退するための費用を負担しなければなりません。
1-3-4: 組織
次に「組織」面でのデメリットもあります。
具体的に、垂直統合では、
- 異なった特徴をもつ事業を同時に運営していかなければならない。特徴が異なれば、同じ経営方針で運営するわけにはいかず、それぞれの特徴を生かした経営方針や施策をおこなっていく必要がある
- ゆえに既存の組織体系では対応できないことが多く、組織変革が必須となる
- また、垂直統合は他社との接触が少なくなることにも留意しなければならない。独立した企業であれば、どこの企業と取引するのも自由だが、垂直統合をした場合、社内での取引をしていくことが原則となる
- ゆえに、他社に優れた技術があったとしても、そちらに取引を切り替えるのは難しくなり、技術面で後れを取ってしまうリスクがある
これらに加えて、企業間での需給のバランスも考慮しなければなりません。もし川上事業で製品を多く作りすぎてしまったとしても、その製品を他社に販売することはできないため、企業は在庫のリスクを抱えることになります。
このように垂直統合を実施する際には、こうしたメリットとデメリットの内容とバランスが非常に重要です。もしメリットを多く得られる統合であったとしても、それ以上のデメリットが発生する場合は、統合の内容をよく検討しなければなりません。
1-4:垂直統合と水平統合の違い
垂直統合に関連する用語に「水平統合」があります。水平統合とは、
企業合併や統合によって、同じ事業分野を運営する企業同士をまとめることで、事業の拡大を図ること
を指します。
つまり、垂直統合が異なる事業分野の統合であるのに対して、水平統合はM&Aといった手法を用いて、同業の事業を拡張します。それによって、規模の経済や範囲の経済を獲得することを目的としています。(図3)
(図3「垂直統合と水平統合の違い」を参考に、筆者作成)
このように、垂直統合が買い手や売り手の脅威に対処する戦略であるのに対して、水平統合は敵対企業との競争関係に対処する戦略といえます。
水平統合では、短期的な市場シェア拡大が期待できるため、市場に対する早急な競争優位性を獲得した場合によく用いられます。
- 垂直統合とは、技術的には別々の生産、流通、販売、その他の経済行為を、一つの企業内にまとめることである
- 垂直統合の目的は価値連鎖の総和を大きくすることである
- 垂直統合のメリットとして、「攻めの要素」と「守りの要素」が、デメリットとして、「コスト」と「組織」がある
- 水平統合とは、企業合併や統合によって、同じ事業分野を運営する企業同士をまとめることで、事業の拡大を図ることである
2章:垂直統合戦略の具体例
さて、2章では、垂直統合戦略を実践している日本企業を取り上げ、その特徴とアドバンテージを解説してきます。
2-1: ユニクロのケース
株式会社ユニクロは、衣料品の生産販売を一括でおこなう日本を代表するカジュアルウェア専門店チェーンです。
ユニクロのビジネスモデルは、
- SPA(Specialty store retailer of Private label Apparel:製造型小売業)と呼ばれる
- 小売業が製造の分野まで踏み込み、自社のオリジナル商品の開発を行い、自社で販売する手法
をとっています。
かつて、衣料品はメーカーが開発・生産をおこない、衣服専門店が販売をするのが一般的でしたが、SPAでは小売業者側が店舗で販売する衣料品を企画・開発・生産をする点に大きな違いがあります。
つまり、もっとも最終消費者に近い小売業者が川上事業である製造業と卸売業を垂直統合したモデルを形成しています。
ユニクロは、自らのビジネスモデルを以下のように、説明しています3株式会社ユニクロホームページ「ユニクロのビジネスモデル」https://www.fastretailing.com/jp/group/strategy/uniqlobusiness.htmlを参照, 最終閲覧日3月30日。
ユニクロは、企画・計画・生産・物流・販売までのプロセスを一貫して行うビジネスモデルで、他社には真似のできない独自商品を次々と開発しています。合繊メーカーとの協業で開発した画期的な素材や、高品質な天然素材を使用したベーシックなデザインのブランドとして、世界中でシェアを拡大しています。
そして、図解として以下のものを提示しています。
(図4「ユニクロのビジネスモデル」https://www.fastretailing.com/jp/group/strategy/uniqlobusiness.htmlを参照, 最終閲覧日3月30日)
ユニクロによると、このような徹底した一貫生産によって高い付加価値を生み出しています。
他の業種に比べても、圧倒的にトレンドの変化が激しいアパレル業界において、顧客のニーズに合わせた製品開発をスピーディに進めていくことは非常に重要です。
ユニクロでは、店舗にて顧客と直接接点をもつことができる強みを生かして、企画・生産・販売を顧客目線で進めることで、衣料品業界において大きなシェアを獲得しました。
2-2: トヨタ自動車株式会社
次は、製造業者が垂直統合をおこなったケースとしてトヨタ自動車株式会社を見ていきます。トヨタ自動車の場合、本業となるのはもちろん自動車製造ですが、グループ内の子会社や関連会社には15社にもわたる企業が存在します。(図5)
(図5「トヨタ自動車のグループ会社」https://global.toyota/jp/company/profile/links/を参照, 最終閲覧日3月30日)
トヨタ自動車では、自動車製造に必要となる原材料や部品の調達、自動車の販売にいたるまで自動車流通に関わるすべてのプロセスを自社のグループ会社で垂直統合しています。
たとえば、豊田通商株式会社では各種物品の国内輸出入・外国間取引をおこなっており、アイシン精機株式会社では、ドア部品やカーナビといった車載部品の製造をしています。またグループ会社には属しませんが、トヨタ製品を専門で販売する系列店を日本全国に保有しています。
自動車は非常に嗜好性が高く、高価な製品です。同業他社との競争に打ち勝つためには差別化された高品質な製品と顧客に対するブランド戦略が必要となります。トヨタ自動車では、自動車流通に関わるすべてのプロセスを自社グループで保持することで、他社に模倣されない圧倒的な差別化をしていると言えます。
3章:垂直統合戦略に関するおすすめ本
垂直統合について理解を深めることはできたでしょうか?
この記事で紹介した内容はあくまでもきっかけでしかありません。そのため、以下の書物を参考にして、あなたの学びをより深めていってください。
M.E.ポーター『競争の戦略』(ダイヤモンド社)
垂直統合における競争優位を提唱したポーターの原著です。豊富な事例と英知に富んだ推察はすべての経営者の教科書となる内容です。
中野明 『図解ポーターの競争戦略がよくわかる本』(秀和システム)
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- 垂直統合とは、技術的には別々の生産、流通、販売、その他の経済行為を、一つの企業内にまとめることである
- 垂直統合の目的は価値連鎖の総和を大きくすることである
- 垂直統合のメリットとして、「攻めの要素」と「守りの要素」が、デメリットとして、「コスト」と「組織」がある
- 水平統合とは、企業合併や統合によって、同じ事業分野を運営する企業同士をまとめることで、事業の拡大を図ることである
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