経営学

【テイラーの科学的管理法とは】背景・内容・問題点をわかりやすく解説

テイラーの科学的管理法とは

テイラーの科学的管理法とは、経営管理におけるもっとも初期の管理法のひとつであり、「計画と執行の分離」や「課業管理」などの施策によって、企業活動における特に労務管理を科学的に管理しようとする手法です。

フレデリック・W・テイラーは「科学的管理の父」とも呼ばれ、今日の資本主義社会の成り立ちにおいて、グローバル・スタンダードとしてのアメリカ式経営方式を築き、高度な産業社会の礎をつくった人物として高く評価されています。

一方で、労働を科学的に分析したことで、資本家と労働者という資本主義的搾取の体制を完成させたことで、大きな格差社会を生み出したと批判も受ける人物です。

この記事では、

  • テイラーの科学的管理法の背景・特徴
  • テイラーの科学的管理法への批判

などについて解説します。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:テイラーの科学的管理法とは

まず、1章ではテイラーの科学的管理法を概説します。2章以降ではテイラーの科学的管理法を深掘りしますので、用途に沿って読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:フレデリック・テイラーとは

 フレデリック・テイラーフレデリック・ウィンズロー・テイラー (Frederick Winslow Taylor、1856年 – 1915年)

フレデリック・テイラーは、1853年にアメリカのペンシルバニア州の裕福な名門家庭に生まれました。実業家として大きな成功を収めていた祖父の影響で、あくせく働かずとも生活を営むことのできる家庭の育ちました。

しかし、テイラーは18歳のときに地元の小さなポンプ工場に徒弟修業する道を選びます。

このとき、テイラーは名門ハーバード大学を受験し合格していましたが、その入学を断念したうえで、工場での無給の徒弟となった真の理由はいまでも謎に包まれています。

テイラーは1890年に徒弟として入社したポンプ工場を退職するまでに、スティーブンス工科大学で工学修士の学位を取得します。

つまり、機械技師の専門家でありながら、さらに経営管理について独自に研究を進めていたのです。このときには、後に発表するテイラーの科学的管理法の一部は完成していたと考えられています。

1-2:科学的管理法とは

テイラーの科学的管理法は、まず第一に、組織の計画と執行を分離することからはじまります。

  • 計画・・・いわば組織の頭脳的活動であること
  • 執行・・・実際の業務をおこなう肉体的活動のこと

テイラーは作業の計画と統制に関わる仕事は専門部署(計画部)に任せ、そこが立てた計画を個々の労働者に命令として伝えるとともに、その遂行を監督する職能的職長からなるところの管理組織を構築しました。

そして、計画部は次の3つの科学的管理法の原理に従って計画を立てることを主張しました。

  1. 課業管理・・・達成すべき最大限の作業量を決定し、管理する
  2. 標準的作業条件・・・時間研究に基づいて、作業の物的条件と作業動作を研究し、標準化する
  3. 差別出来高給・・・労働者の作業の成果によって、支給する賃金を差別する

特に、テイラーは、自身の論文にて「近代科学的管理においてもっとも重要な要素は、課業理念であろう」2経営学史学会監修、中川誠士編著(2012)『テイラー(経営学史叢書)』文真堂 99頁と述べています。これは課業を科学的に設定し、実施するシステムを考案することによってはじめて基礎が固められると指摘しています。

つまり、計画と執行の分離という前提のもと、労働者に与える課業をいかに科学的に分析し、提示できるかによって科学的管理法の有効性は大きく変化するのです。

このようなシステムを、標準的作業条件や差別出来高給は与えた課業を達成させるためのシステムであるとテイラーは位置づけています。



1-3:科学的管理法の誕生までの背景

技術者であったテイラーが機械工学の分野を超えて、経営管理の分野に本格的な関心をもつようになったのは、1885年に入会したアメリカ機械技師協会の研究発表会にて、経営管理に関する研究成果を聴講したからであると考えられています。

そもそも、当時、経営管理に関する問題は実業界でもそこまで重要視されていませんでした。テイラーが経営管理に関する発表に関心を示したのは、当時在籍していたポンプ工場で労務管理の職務に従事しており、自分なりの経営管理に対する問題意識があったためといわれています。

テイラーが働いていた頃の労務管理とは、いわゆる「成行管理」によっておこなわれていました。

成行管理とは

  • 成行管理とは、労働者が自身の判断でその日の生産量を決め、経営者が作業の量やスピード、方式や手順の決定を労働者任せにする管理方式である
  • 成行管理では、生産における主たる意思決定は労働者に帰属する
  • 内部請負人とも呼ばれる職人や親方らは、単純に生産した製品の品質と数量のみを基準として給与を受け取っていた

ところが、労働者任せの成行管理には「組織的怠業」を生み出すという問題がありました。

組織的怠業とは

  • 組織的怠業とは、労働者個々人が結束し、ひとつの集団として生産量をほどよいレベルにまで落とし、費やす労力を極力減らしていこうとする集団的特性のことである3明治大学経営学研究会(2009)『経営学の扉 第3版』白桃書房 45頁
  • 組織的怠業は「同じ賃金をもらえるのであれば、なるべく楽をしてもらいたい」という認識を集団全体で共有することで生まれる
  • そして、組織織的怠業では誰かが突出して高い成果を生み出したり、労働者側が持つ余力を経営者側に露見させることを嫌うという特徴がある

テイラーが目指したのは、成行管理と組織的怠業を解決し、それまで経験と勘をもとにおこなわれていた管理を科学に基づく管理へと変化させることにありました。

ここで注意したいのは、テイラーは労働者をただ馬車馬のように働かせたかったのではなく、労使の利害は一致するという信念の下に労使双方の最大繁栄を実現することを目指していたことです。

つまり、科学的管理法によって生産の能率が向上させることによって利益というパイそのものを大きく膨らませ、使用者と労働者双方の取り分を大きくしようとテイラーは画策したのです。

ちなみに、テイラーの議論をまとめ解説書としては、『テイラー(経営学史叢書)』がおすすめです。

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1章のまとめ
  • テイラーの科学的管理法とは、「計画と執行の分離」や「課業管理」などの施策によって、企業活動における特に労務管理を科学的に管理しようとする手法である
  • 科学的管理法によって生産の能率が向上させることによって利益というパイそのものを大きく膨らませ、使用者と労働者双方の取り分を大きくしようとテイラーは画策した

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2章:テイラーの科学的管理法の内容

さて、2章ではテイラーの科学的管理法の内容を深掘りしていきます。

2-1:課業管理

課業管理とは、

一日の作業量を労働者任せにするのでなく、作業を科学的に分析し客観的に公平な作業量を決めることで、管理者が労働者の課業を決定しようとするとするもの

です。

いわば成行管理のアンチテーゼとして生み出された管理制度です。

課業とは、公平な一日の作業量であり、労働者が一定の労働時間内で達成すべき作業量のことです。つまり、標準作業量のことを指します4明治大学経営学研究会(2009)『経営学の扉 第3版』白桃書房 47頁

課業管理において重要となるのは、以下の2点です。

  • 課業を漠然と決めるのではなくはっきりとさせること
  • 課業の指示は画一的なものではなく労働者の能力やスキルによって変化させるという視点に立つこと

ゆえに、その内容と輪郭とをはっきりさせておかなければならず、課業の達成が易しすぎてもいけないことに留意しなければなりません。

2-2:標準的作業条件

標準的作業条件とは、

労働者にその課業として充分な1日分の仕事を与え、その仕事のための標準的な条件と用具を与えること

です。

標準的作業条件を整えるうえで重要となるのは、課業を科学的に分析し、仕事に必要な動作を要素動作と呼ばれるレベルまで分解することです。

要素動作とは、移動する、ものを掴むなど仕事を構成する人間の動作のひとつひとつのことを指します。管理者はそれらの要素動作にどれくらいの時間を要するのかを観察することで、標準的な作業方法や時間を算出します。

ひとつのなんでもないように見える作業を厳密に科学的に分解・分析・計測していくことによって、労働の生産性、効率性は飛躍的に向上しました。

実際、テイラーが現場実験にて標準的作業条件を定め、労働者にその遂行を徹底させたところ、生産性は約3倍近くまで向上したという報告も残っています5明治大学経営学研究会(2009)『経営学の扉 第3版』白桃書房 49頁



2-3:差別出来高給制

差別出来高給とは、

「成功したら多く払う」「失敗すれば損をする」という2つの考え方に基づく動機づけを重視する給与体系のこと

です6経営学史学会監修、中川誠士編著(2012)『テイラー(経営学史叢書)』文真堂 19頁

差別出来高給では、課業を達成したものには報奨的なより高い賃率を、達成できなかったものには懲罰的な低い賃率を適用することで、労働者に対して是が非でも課業を達成しなければならないという動機づけをおこないます。

差別的出来高給は、一般的な出来高給では労働者の組織的怠業を防ぐことができないというテイラーの考え方から生み出された給与制度です。

テイラーは、一般的な出来高給制度が組織的怠業を生み出す原因となっているのは、使用者側が成果に対する報酬を決める客観的な裏付けを持っていないことであると指摘しました。

そして、課業管理を徹底し、適切な標準的作業条件を整備できているのであれば、差別的出来高給は労働者に納得性を持って労働意欲を与えることができると主張しました7経営学史学会監修、中川誠士編著(2012)『テイラー(経営学史叢書)』文真堂 103頁

2章のまとめ
  • 課業管理とは、一日の作業量を労働者任せにするのでなく、作業を科学的に分析し客観的に公平な作業量を決めることで、管理者が労働者の課業を決定しようとするとするものである
  • 標準的作業条件とは、労働者にその課業として充分な1日分の仕事を与え、その仕事のための標準的な条件と用具を与えることである
  • 差別出来高給とは、「成功したら多く払う」「失敗すれば損をする」という2つの考え方に基づく動機づけを重視する給与体系のことである
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3章:テイラーの科学的管理法の問題点

テイラーの編み出した科学的管理法は、近代的な産業社会において大量生産という新たな生産方式を可能とし、高度な産業社会の礎を築くものとなりました。

そして、この科学的管理法は単なる原理・法則を超えて「テイラリズム」とまで呼ばれるようになり、一種の社会思想として認識されるようになりました。

しかし、このテイラリズムはその功績の大きさと同じくらいに、罪過の大きさ、そして手法そのものの欠陥についても語られることの多い思想です。

3-1:社会思想としての批判

テイラーの科学的管理法は、企業の生産能率を大幅に向上させるものでした。しかし、一方で労働者に対しては、以下のように厳しい条件がありました。

  • 自己管理による労働を認めず、課業管理と差別出来高給によって懸命に働くことを半ば強制するものであった
  • その結果、労働者の権利を一部制限するような制度であった

事実、テイラーが科学的管理法を編み出して間もなくして、当時のアメリカの労働組合は労働者への管理を強めようとするテイラーを厳しく批判しています。

実際に労働争議に関する事件の公聴会にテイラー本人を召喚し、科学的管理法の有効性について長時間追求をおこなっています。

中川(2012)はテイラーについて、次のように指摘しています8経営学史学会監修、中川誠士編著(2012)『テイラー(経営学史叢書)』文真堂 ⅸ頁

20世紀でもっとも偉大なマネジメント・グル等の評価がある一方で、資本主義的搾取の方法の完成者、労働の衰退の元凶、アンチ・ヒューマニストの評価もある」と述べており、その評価の対比を「二人のテイラーがいたのかと思わせるほどである

このテイラリズムと反テイラリズムの対立はいまなお続いており、現在でもさまざまな学説が登場しています。

またトヨタ生産方式のようにテイラリズムを継承しながらも、新たな取り組みで生産能率を高めようとする新テイラリズムなども提唱されるなど、企業の生産能率と労働者の権利のバランスを探るような議論は続いています。



3-2:管理手法そのものに対する批判

次に、テイラーの科学的管理法自体を批判する意見もあります。代表的な欠点としては次の項目が挙げられます。

  1. 労働者のモチベーションの低下
  2. 計画部の情報処理負荷の直面
  3. 生産のフレキシビリティーの低下

3-2-1:労働者のモチベーションの低下

テイラリズムは、面白みのない労働を作業現場にもたらし、労働者のモチベーションを低下させる危険性があります9経営学史学会監修、中川誠士編著(2012)『テイラー(経営学史叢書)』文真堂 184頁

テイラリズムは労働者に対して、作業における「計画」に参画することを排除し、あたかもロボットのような「執行」に従事することを強いる性質を持っています。

そのため、単純作業のみをおこなわされる労働者のモチベーションは低下しやすく、ひいては労働者の離職の誘発を招く原因にもなると考えられます。

3-2-2:計画部の情報処理負荷の直面

テイラリズムでは、生産の頭脳に当たる「計画」はすべて計画部と呼ばれる専門部署でおこなわれ、生産におけるすべての情報は計画部に集中します。

そのため、計画部がその情報を適切に処理することができなければ、生産能率そのものが低下するというリスクがあります。

中川(2012)は、この状態を「中央集権的な計画と統制に伴って情報が中央計画部に集中する結果、かつての計画経済国家が経験したのと同じ種類の過大な情報処理負担に直面する」10経営学史学会監修、中川誠士編著(2012)『テイラー(経営学史叢書)』文真堂 183頁として、制度の構造的な問題点を指摘しています。



3-2-3:生産のフレキシビリティーの低下

テイラリズムでは、労働者は計画に参画できず、作業の執行に専念しなければならないため、生産途中における不測の事態やトラブルに適切に対応できないというリスクがあります。

たとえば、生産途中に機械トラブルが発生し生産計画に変更が生じても、計画に参画できない労働者は機械のように作業を停止せざるを得なく、生産計画の柔軟性が失われる可能性があります。

テイラリズムは、テイラーの没後100年が経ったいまでも、世界各地でさまざまな批判を受ける思想ですが、その批判に対してその時代に合わせた修正を繰り返しており、テイラーが生きていた頃のテイラリズムとは、その中身や形を変化させていまでも生き続けています。

最後に、テイラー自身は科学的管理法をどのような制度であると考えていたのかを紹介します。テイラーは先にも取り上げた公聴会において次のような発言をしています11経営学史学会監修、中川誠士編著(2012)『テイラー(経営学史叢書)』文真堂 173頁。()内の下線部は著者が補足した。また、引用部分はテイラーの発言そのままではなく、当時の資料をもとに、中川氏(2012)が編集している。

(課業管理や標準的作業条件といった)シクミは科学的管理の添え物であるにすぎず、労使双方における精神革命(「争いにかえて、兄弟のような心からの協働をもってすること」と「古い個人的な意見や判断を捨てて、正確な科学的研究と知識にかえること」)こそが科学的管理の本質である。

この発言から考えるに、テイラーの科学的管理法とは経営者優位、労働者劣位のような対立構造を望んだものではなく、あくまで共存共栄を意図して考案したものです。

当時の近代化が進んでいた世の中において、組織運営においても科学的思考が必要であるとの意見から生まれたものであると考える自然と言えるでしょう。

3章のまとめ
  • テイラーの科学的管理法とは、労働者の権利を一部制限するような制度であった
  • テイラーの科学的管理法自体を批判する者が多くいた

4章:テイラーの科学的管理法について学べるおすすめ本

テイラーの科学的管理法について理解が深まりましたか?

この記事で紹介した内容はあくまでもきっかけにすぎませんので、下記の書籍からさらに学びを深めてください。

おすすめ書籍

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経営学史学会によってまとめられたフレデリック・テイラーに関する解説書です。テイラーに関する国内外の主要な論点がまとめられており、テイラーの生涯から思想、そして科学的管理に対する批判までが書かれています。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • テイラーの科学的管理法とは、「計画と執行の分離」や「課業管理」などの施策によって、企業活動における特に労務管理を科学的に管理しようとする手法である
  • 科学的管理法によって生産の能率が向上させることによって利益というパイそのものを大きく膨らませ、使用者と労働者双方の取り分を大きくしようとテイラーは画策した
  • テイラリズムはその功績の大きさと同じくらいに、罪過の大きさ、そして手法そのものの欠陥についても語られることの多い

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