心理学

【正常性バイアスとは】例・原因・対策をわかりやすく解説

正常性バイアス

正常性バイアス(Normalcy bias)とは、危険や脅威が迫っていることを示す情報に対して、過小評価してしまう傾向のことです。

正常性バイアスは災害時や事故の際(最近では新型コロナ)の迅速な対応の妨げになるため、しっかりとした理解が必要です。

そこで、この記事では、

  • 正常性バイアスの意味・例・対策
  • 正常性バイアスの学術的な議論

をそれぞれ解説していきます。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:正常性バイアスとは

1章では、正常性バイアスを概説します。正常性バイアスの原因や対策に関心のある方は、2章から読んでみてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:正常性バイアスの意味

まず冒頭の確認となりますが、正常性バイアスとは、

危険や脅威が迫っていることを示す情報に対して、過小評価してしまう傾向のこと

です。

私たちは、日常的に今の状況がどの程度危険なのかということを評価しています。たとえば、道路を横切るような場面を考えるとわかりやすいでしょう。

道路を横切るような場面

  • 信号のある交差点で横断歩道を渡るとき、私たちはほとんど危険を感じずに道を横切ることが出来る
  • 一方で、非常に道幅の広い交通量の多い道路を横切るような場面では、危ないなと考え、十分な注意を払いながら横切ると思う

このように、私たちはさまざまな場面においてリスクを評価し、その評価に基づいた行動をとっているのです。このようなリスクを認識するような働きのことを「リスク認知」といいます。

一般的にリスクとは、その被害の発生確率と発生したときの被害の重大さに基づいて客観的に評価されます。ここで、「客観的に」と表現したのは、リスク認知といったときには必ずしも客観的なリスクと一致するわけではないからです。

例として、小学校において水泳に関する事故で死亡するリスクと、不審者によって死亡するリスクを比較するような場面を考えてみましょう。内田(2010)によれば、それぞれ客観的なリスクは以下のようになります2内田良 (2010)「学校事故の 「リスク」 分析」『教育社会学研究』86 201-221頁

水泳事故によって死亡するリスクは、不審者によって死亡するリスクの3942倍ある

みなさんが主観的に算出した数値は、どれくらいだったでしょうか?おそらく、不審者による死亡のリスクの主観的な数値が水泳による死亡のリスクの主観的な数値の1/4000になった人はそんなに多くないでしょう。

つまり、リスクを認知するといった際には、客観的に計算可能な確率などの指標とは異なる基準に基づいて評価が行われるというわけです。正常性バイアスは、このようなリスク認知におけるバイアスの1つです。

心理学におけるバイアス

  • 心理学におけるバイアスとは、主に判断や意思決定、評価や理解といった認知における偏りのことを指す
  • そのため、一般的な偏りという意味のバイアスと区別するために「認知バイアス」と呼ばれることもある

定義のところでも述べたように正常性バイアスは、危険や脅威が迫っていることを示す情報に対して、過小評価してしまうような傾向のことを指します。ここでいう過小評価とは、客観的に評価されるリスクに対して、主観的に小さく見積もってしまうという意味です。

たとえば、次のような例を挙げることができます。

  • 火災報知機が鳴っているにもかかわらず、誰かが誤って推してしまったんだろうと考えてしまうといったような経験は正常性バイアスである
  • これは火災報知機が鳴るというリスクを伝える情報があるにもかかわらず、それを過小評価しリスクだと認めないという正常性バイアスによるものだと説明できる

このようなリスクの過小評価は、災害時や事故の際の迅速な対応の妨げとなることが知られています。



1-2:正常性バイアスの日常的な例

たとえば、東日本大震災では、避難警報に対する非難行動の遅れが人命被害を拡大させたといわれています。菊池(2018)の報告によると、以下のような数値が提示されています。

東日本大震災以前の津波の警報に対する非難率

  • 2003年の十勝沖地震で55%
  • 2006年の千島列島東方地震で46.7%
  • 2007年の千島列島東方地震で31.8%
  • 2010年のチリ中部沿岸地震で37.5%

このような実際の非難率の低さは、警報が鳴ってもその危険度を過小評価する正常性バイアスによるものであるといわれています。

これらの災害時の行動は当事者の知識の欠如が非難されることがありますが、これは誤りです。認知バイアスはあくまで私たちの認知の特性であり、誰しもがこのような判断をする傾向があるのです。

そのため、このような災害時の判断には知識の周知だけではなく、このようなバイアスの存在を考慮した対策が求められます。

1章のまとめ
  • 正常性バイアスとは、危険や脅威が迫っていることを示す情報に対して、過小評価してしまう傾向のことを意味する
  • 災害時の判断には知識の周知だけではなく、このようなバイアスの存在を考慮した対策が必要となる
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2章:正常性バイアスの原因と対策

さて、2章では正常性バイアスの原因と対策を紹介していきます。

2-1:正常性バイアスの原因

このようなバイアスが生じる原因については「文脈に基づく説明」「心的な緊張状態の解消に基づく説明」という2つの観点で説明が行われます。3矢守克也(2009)「再論―正常化の偏見」『実験社会心理学研究』 48(2), 137-149頁

2-1-1:文脈に基づく説明

まず、文脈について説明します。私たちは、さまざまな現象を文脈を通して理解しています。

文脈による理解

  • たとえば、多くの日本人は、道端に拳銃が落ちていてもそれを本物だとは思わない
  • それは、日本において本物の拳銃がほとんど存在しないという前提(すなわち文脈)のもとその現象を知覚しているためである
  • 言い換えれば、私たちは普段「日常的文脈」という枠組みの中でさまざまな物事を認識しているということである

そのため、緊急事態であると認識するためには、一度その文脈から離れて、新しい文脈で現象をとらえることが必要です。しかし、私たちは日常的文脈で解釈が出来てしまうことに関しては、なかなか新しい文脈を作り直すことをしません。

なぜなら、道端に拳銃が落ちていたときに、「何か事件があって拳銃が投棄されたのだ」という緊急事態を認識するためには、「こんなところに本物があるはずがない」という日常的文脈による解釈を取り下げるだけの情報が必要になるためです。

たとえば、近所で銃撃事件があったという情報を加えて知っていれば、緊急事態だと判断されやすくなるでしょう。正常性バイアスは、この日常的な文脈の中で解釈しようとする傾向によって生じると説明されるのが、この文脈に基づく説明です。

危険な状況おける人間の行動は正常性バイアスだけでなく、同調効果などからも指摘されます。そのような社会心理学的概念は、以下の書物が詳しいです。

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2-1-2:心的な緊張状態の解消に基づく説明

心的な緊張状態の解消に基づく説明では、私たちの心の回復機能に着目した説明が行われます。私たちのこころには、緊張状態に陥ったときに心を平常な状態に戻そうとする機能がそなわっています。

たとえば、緊張したときにあくびが出るとか、笑ってしまうという経験はないでしょうか?これは、緊張状態を解消しようとするために生じる副産物であるといわれています。

  • この緊張状態の解消に基づく説明では、正常性バイアスは緊張状態を低減するために生じると説明される
  • 具体的には、緊急事態を示す情報にさらされたとき、その情報が私たちの対応能力を超える情報であり、ある程度解釈の幅がある場合には、緊張状態を解消するために、リスクが低く見積もられるとされる



2-2:正常性バイアスへの対策

私たちの判断にはさまざまな認知バイアスが存在しますが、これらのバイアスをなくすことは不可能です。なぜならこれらのバイアスは私たちの認知の特性であり、私たちが日常的に生活をしていくために欠かせないものだからです。

たとえば、正常性バイアスは私たちの、認知的な資源を節約と心の安定に役立っています。

  • 先ほども説明した通り、緊急事態を認識することは、文脈をとらえなおすという非常に労力がいる作業が必要ですし、緊張状態という心が安定しない状態に陥ってしまう
  • つまり、リスクを認識することは、認知的に非常に大変な作業なわけである

言い換えれば、リスクを過小評価する正常性バイアスとは、私たちの認知的な労力の削減や緊張状態の緩和といった心の安定の役に立っているのです。

一方で、災害時のような場面では、バイアスに対して対処することが求められます。このような正常性バイアスへの対策をするためには、まずはこのようなはバイアスの存在を自覚することが重要です。

  • 正常性バイアスが自身の判断にかかっているという認識が出来れば、いったん見積もったリスクに対して疑うきっかけになる
  • このような自身の認知の働きについて認知する働きを「メタ認知」といい、さまざまなバイアスに対処するためにも有用であることが知られている(→詳しくはこちら

もちろん、災害においてリスクに対する正しい行動をとるには避難訓練が重要です。何度も訓練を繰り返すことで、緊急事態が発生したときの行動を自動化することが出来ます。

地震が発生したら机の下に隠れるという行動がすぐにできるのは、まさに訓練の成果といえます。

このように自動化することで、私たちがどのようにリスクを評価しようとも、適切な行動を促すことが出来ます。学校や職場で行われている避難訓練には、しっかりと意味があるのです。

2章のまとめ
  • 正常性バイアスが生じる原因には「文脈に基づく説明」と「心的な緊張状態の解消に基づく説明」がある
  • 正常性バイアスの対策には、正常性バイアスへの対策をするためには、まずはこのようなはバイアスの存在を自覚することが大事である
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3章:正常性バイアスに関する学術的な議論

3章では正常性バイアスの学術的な議論を簡潔に紹介していきましょう。

3-1:正常性バイアスの起源

正常性バイアスということばの起源は、実は心理学ではありません。もともとは、災害社会学者が、災害時の人々の行動傾向に関して説明するときに用いたものであるといわれています。

その訳語としては、正常性バイアスのほかに「日常化バイアス」「正常化の偏見」といったようなことばがあてられる場合もあります。

3-2:集団の存在による正常性バイアス

一方で、このような現象は心理学においても実験的に検討されています。心理学においては、上記で説明したような正常性バイアスを引き起こす要因の説明やその背景にあるメカニズムについての検討が進められました。

その中でも、有名な実験として同調効果に着目した実験があります。この実験は、危険な情報が存在するときに、周りの人が日常的にふるまうことで、その人の行動がどのように変化するかを検討するために行われました。(→同調効果に関しては詳しくはこちら

実験概要

  • この実験では参加者は3つの条件に分けられた
  • 1つめの条件は、実験参加者が1人でアンケートに回答する条件であった
  • 2つめの条件は、実験参加者が2人でアンケートに回答する条件であった
  • 3つめの条件は、実験参加者が3人でアンケートに回答する条件であった
  • ただし、2つめの条件と3つめの条件では、1人の実験参加者以外は実験者が用意したサクラであった
  • これらのサクラはどのようなことがあっても日常的にふるまい、実験ではアンケートを開始すると部屋に煙を流入した

実験の結果、1の条件では55%の参加者が2分以内に異常を訴えたのに対して、2分以内に報告したのは12%にとどまりました。

つまり、他の人が異常を訴えないことで、リスクが過小評価されたのです。この結果は、リスクの過小評価が他の人への同調によって生じることを示唆しています。

ここまで示したように、文脈や緊張状態の解消、同町などリスクの過小評価はその状況によってさまざまな解釈がなされます。

これは、正常性バイアスがさまざまな原因によって生じる現象であることを意味しています。現在では、正常性バイアスが生じるさまざまな原因にスポットを当ててより具体的な研究が進んでいます。

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3章:正常性バイアスについて詳しく学べる本

正常性バイアスを理解することはできましたか?最後に、あなたの学びを深めるためのおすすめ書物を紹介します。

おすすめ書籍

亀田達也『図解 眠れなくなるほど面白い社会心理学』(日本文芸社)

社会心理学が扱うさまざまな現象を図解とともに非常にわかりやすく説明している良著です。内容は、実際に行われた実験の内容なども紹介しながら非常に簡潔にまとめられています。高校生や場合によっては中学生の方にもおすすめできる書籍です。

池田 謙一・唐沢 穣・工藤 恵理子・村本 由紀子『社会心理学(補訂版)』(有斐閣)

社会心理学に関する教科書です。同調(効果)に関する説明も詳細に紹介されています。社会心理学の基礎から、応用まできちんと網羅された良い教科書だと思います。大学生向けです。

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カーネマン. D『ファスト&スロー(上・下):あなたの意志はどのように決まるか?』(早川書房)

ノーベル経済学賞を受賞したD.カーネマンが執筆した人間が陥りやすいさまざまなバイアスについて、2つの思考という観点から議論した一般書です。正常性バイアスに関する直接の記載はありませんが、バイアス研究一般に関する知見を網羅的に学べる良書です。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 正常性バイアスとは、危険や脅威が迫っていることを示す情報に対して、過小評価してしまう傾向のことを意味する
  • 正常性バイアスが生じる原因には「文脈に基づく説明」と「心的な緊張状態の解消に基づく説明」がある
  • 正常性バイアスの対策には、正常性バイアスへの対策をするためには、まずはこのようなはバイアスの存在を自覚することが大事である

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参考文献

  • 内田良. (2010). 学校事故の 「リスク」 分析. 教育社会学研究, 86, 201-221.
  • 亀田 達也(2019). 図解 眠れなくなるほど面白い 社会心理学 日本文芸社
  • 菊池聡. (2018). 災害における認知バイアスをどうとらえるか. 日本地すべり学会誌, 55(6), 286-292.
  • 矢守克也. (2009). 再論―正常化の偏見. 実験社会心理学研究48(2), 137-149.