社会学

【記号消費とは】ボードリヤールの議論を具体例からわかりやすく解説

記号消費とは
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記号消費(semiotics of consumptionとは、

モノの生産と消費が飽和状態である現代社会において、モノは機能性や有効性によって需要されるのではなく、社会文化的な記号として消費されることを指します。

「記号消費」が議論されるとき、必ず参照されるのは哲学者であるジャン・ボードリヤールの『消費社会の神話と構造』(1970)です。

ボードリヤールの議論は消費社会を理解する上で、避けては通れないほど重要な視点を提供しています。

そこで、この記事では、

  • 記号消費の意味
  • ボードリヤールの『消費社会の神話と構造』の議論
  • 記号消費論に関する研究

をそれぞれ解説します。

あなたの興味関心にあわせて、読み進めてください。

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1章:記号消費とはなにか?

再度、記号消費とはなにかを確認しましょう。

記号消費とはモノの生産と消費が飽和状態である現代社会において、モノは機能性や有効性によって需要されるのではなく、社会文化的な記号として消費されること

を指します。

私たちの生きる社会でも、モノを機能性や有効性でなく、社会的な記号として消費するケースがあります。

記号消費の事例は後に紹介します。ここでは、記号消費がある社会における消費の多様化・個性化に直結した現象であることをおさえてください。

つまり、工業社会のような選択の幅が狭い社会では記号的な消費は起きません。記号消費が起きるのは現代社会の特徴なのです。



1-1: 記号消費の「記号」の意味

そもそも、記号消費の「記号」とは何を意味するのでしょうか?まず、その意味を解説します。

記号とは、

「能記(signifiant)」(モノのかたち・デザイン・ブランドアイコン)と「所記(signifie)」(モノが指す意味内容:地位や個性)の「総体」

を意味します。

この分野は「記号論(semiology)」と呼ばれており、ソシュールの言語学から影響を強い影響を受けています。

ボードリヤールは記号論を消費社会の分析に用いて、「モノが記号化する」と主張します。それが意味するのは、

  • モノが使用価値や機能性で消費されるものではないこと
  • 身分・階級と結びついた社会の要素ではないこと

です。

具体的に、ボードリヤールはこのような考えを『消費社会の神話と構造』(1970)で提示しました。

1-2: 記号消費とボードリヤールの『消費社会の神話と構造』

経営学者の平野は、『消費社会の神話と構造』で提示された現代社会における消費の特徴を以下のように述べます。

現代社会における消費の特徴

  1. 消費はもはやモノの機能的な使用や所有ではない
  2. 消費はもはや個人や集団の単なる権威づけの機能ではない
  3. 消費はコミュニケーションと交換のシステムとして,絶えず発せられ受け取られ再生される記号のコードとして,つまり言語活動として定義される

(平野 2005 三田商学研究 Vol.48, No.5,p.165- 185を参照

重要な点は、モノの意味が言語のように「差異」から生まれることです。

モノの意味が「差異」から生まれるとは、

  • モノの内容ではなく、記号としてのモノと他のモノ(記号)との間に「関係」が先に存在する
  • モノとモノ=記号と記号との「差異」(意味)が生じる

ことを指します。

平野がいうように、「人々が他人との差異=個性を追求する社会的活動であり、商品(モノ)という記号を介して自分の個性を他人に向けて主張する言語活動(コミュニケーション)」が現代社会の消費の特徴です。

  • 逆にいうと、消費されるモノ自体は希薄
  • 記号としてのモノと他のモノ(記号)には「差異」しかない
  • そのため、消費欲望は個人から発せられるものではなく、記号のシステムから発生する

1-3: 記号消費のモノの特徴

社会学者の宇城輝人によると、ボードリヤールは消費社会におけるモノの特徴を「キッチュなガジェット」と捉えました。

1-3-1: 記号消費におけるキッチュ

キッチュとは、

  • 民芸の置物
  • 安っぽい肖像画
  • まがい物の悪趣味

を意味する言葉です。

そして、ボードリヤールはキッチュなモノが「地位移動の可能な流動的社会」を示すといいます。

なぜならば、流動的な社会では身分や階級の象徴として「本物」のモノが求められますが、それは入手した瞬間にまがいモノになると考えられるからです。

言い換えると、機能性や有効性を超える消費は「本物」という差異を誇示しようとするものですが、そのように記号に囚われる時点でいくら消費をしても差異は現れません。

宇城が説明するように、キッチュとは「階級上昇の願望が決して叶えられないという予感と、上層階級文化への同化という幻想を表現」します。だからこそ、キッチュは現代社会のモノの特徴なのです。

1-3-2: 記号消費におけるガジェット

ガジェットとは、

モノの本来の用途からみて無用な遊びの機能や装飾が勝っているモノ

を意味します。

たとえば、工業社会は(有効性と機能性そのものである)機械が象徴するように、「遊び」の要素は少ない社会でした。

しかし、ポスト工業社会ではガジェット化したモノ、つまり本来の機能から遊離した付加価値という遊び性によって商品が規定されます。モノは遊びの幅において差異化のポテンシャルを獲得します。

家電や携帯電話が多機能となっているのはいい事例でしょう。

このように、高級で上質なモノであっても記号として消費されるならば、シャネルでさえキッチュなガジェットとなります。そのような記号消費が現代社会の特徴をボードリヤールは主張しました。

より詳しくは、以下の記事を参照ください。

→【消費社会の神話と構造とは】背景・内容を要約してわかりやすく解説

いったんこれまでの内容をまとめます。

1章のまとめ
  • 記号消費とはモノの生産と消費が飽和状態である現代社会において、モノは機能性や有効性によって需要されるのではなく、社会文化的な記号として消費されること
  • ボードリヤールは、記号論を用いて現代社会におけるモノの特徴を説明。つまり、モノの内容ではなく、記号としてのモノと他のモノとの間に「関係」がある。モノとモノ=記号と記号との「差異」(意味)から生じる
  • 高級で上質なモノであっても記号として消費されるならば、シャネルでさえキッチュなガジェット

これまでのボードリヤールの議論は宇城の「記号の消費」『メディア・情報・消費社会』にわかりやすく解説されています。手っ取り早く、ボードリヤールの議論を知りたい方にはこの解説本をオススメします。

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2章:記号消費論に関する研究

さて、「物の記号性」という概念はボードリヤール以前にもありました。特に重要なのはヴァルター・ベンヤミンとソースティン・ヴェブレンの議論です。

記号消費をさまざまな角度から理解するためにも、これから紹介する多くの研究を理解することは大事です。

ここからは、社会学者である白石哲郎の「記号消費社会の特性」(佛教大学大学院紀要 社会学研究科篇 第 39 号(2011 年 3 月))を中心に、代表的な論者による記号消費論を解説していきます。

2-1: ベンヤミンの記号消費

ベンヤミンは記号消費の芽生えを19世紀のパリ万国博覧会、パサージュ(織物取引の推進と鉄骨建築)、百貨店、芸術など幅広い領域で感じ取っていました。

ベンヤミンはそれぞれの領域における記号消費を次のように捉えます。

  • 19世紀のパリ万国博覧会・・・展示物は物神崇拝の対象となり、記号的価値をもつ
  • パサージュ・・・商品陳列は気晴らしの効果をもち、特産品への羨望は物の機能が副次的な要素になることの証明
  • 百貨店・・・顧客は主体的に商品の記号を読みこなす技術をもつ記号学者となる(モノの遊び性や装飾性からその記号価値を自発的に読み取らせる啓蒙と規律訓練の場)
  • 芸術・・・複製芸術の登場。たとえば、絵画は写真によって「複製」され、市場に流通することで,過去の芸術作品からオリジナルに宿る価値をなくす

このようにモノが機能から解放され、むしろ記号に象徴される現代社会の流れをベンヤミンの記号消費は捉えていました。

詳しい議論はベンヤミンの『パサージュ論 第1巻』(2003)を参照ください。難解と有名なベンヤミンの議論のなかでも、比較的に簡単です。文庫で読めるのでオススメ。

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2-2: ヴェブレンの記号消費

ヴェブレンの記号消費の議論は、「誇示的消費」に集約されています。

ヴェブレンが提示した「誇示的消費」とは、

生活上の利便性や商品の必要性を目的とした消費ではなく、社会的地位や威信を見せびらかす非生産的な消費活動

を指します。

誇示的消費のポイントは、誇示的な消費から自らの社会経済的な名声や地位を得ることです。そのような消費から自分と他者の差異化がされていきます。

  • 注意点として、ボードリヤールの「記号消費」とヴェブレンの「顕示的消費」と同一視しないこと
  • ヴェブレンの議論は初期の消費社会を分析したもので、単線にのびる社会階層の差異化を示している(社会進化論に強く影響をうけたため)
  • ボードリヤールの議論は多様化する現代の消費社会の分析。単線にのびるものではなく、ヨコに幅広くのびる記号消費の差異化を示している

白石が指摘するように、「自らが所有する物をつうじて、社会的属性の面で他者との差異を図らんとする19 世紀から20世紀初頭にかけての濫費の慣行こそ、後期近代の記号消費の趨勢を決めた」といえるでしょう。

ヴェブレンの誇示的消費はその点を詳細に捉えていました。

ヴェブレンの誇示的消費論は原著を読むことをオススメします。興味のある方はぜひトライしてください。こちらも文庫で読めます。

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2-3: ボードリヤールの記号消費

ボードリヤールの記号消費はこのような議論の蓄積の上にあります。『消費社会の神話と構造』の目的を確認すると、単なる記号消費論の提示ではなく、記号的な消費をとおした資本主義と民主主義の分析です。

それぞれの要点は宇城によって次のように説明されています。少し長いですが確認しましょう(「記号の消費」『メディア・情報・消費社会』2009/世界思想社)。

消費に焦点を置くことが資本主義を説明するというのは、1960年代のポスト工業化が、富の源泉を財の生産から情報(差異)の生産へと、そして生産から消費へと移動させたからである。また、民主主義を説明するというのは、両大戦期に胚胎し1950年代アメリカに開花した大衆社会状況と大衆的消費をする中間層により、近代的階級構造の象徴秩序が掘り崩され、人間の集団的・個人的生活が深く変容したからである。

「記号消費とはなにか?」を理解することは当然大事ですが、さらに重要なのは「記号消費という概念を用いて、何を分析したのか?」という点を理解することです。

ボードリヤールの議論が展開された時代背景や社会を考慮にいれて、これから紹介する原著にあたってみてください。

これまでの内容をまとめます。

2章のまとめ
  • ベンヤミンは記号消費の芽生えを19世紀のパリ万国博覧会、パサージュ(織物取引の推進と鉄骨建築)、百貨店、芸術など幅広い領域から捉える
  • ヴェブレンの記号消費は誇示的消費論
  • 『消費社会の神話と構造』の目的は記号的な消費をとおした資本主義と民主主義の分析

この記事は次の論文も参照しています。興味のある方はぜひ読んでみてください。

  • 白石哲郎 2011「記号消費社会の特性」佛教大学大学院紀要 社会学研究科篇 第 39 号
  • 平野隆 2005 「日本における小売業態の変遷と消費社会の変容」三田商学研究 Vol.48, No.5

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3章:記号消費の学び方

どうでしょう?記号消費に関して理解を深めることはできました?

消費とは人間社会に不変的に存在する活動ではなく、記号的な意味が加えられていることが理解できたと思います。

ボードリヤールの議論は記号消費を理解するために必須ですので、これから紹介する書籍を参考にさらに理解を深めてください。

おすすめ書籍

オススメ度★★★ ジャン・ボードリヤール 『消費社会の神話と構造』(新装版)(紀伊國屋書店)

この記事で紹介した記号消費論が議論された書物。原著にあたることは理解を深めるための第一歩です。

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オススメ度★★ ジャン・ボードリヤール 『物の体系』(新装版)(法政大学出版局)

『消費社会の神話と構造』に先立ち、消費社会の議論がされた書籍。ボードリヤールの記号論の議論が集約されています。ボードリヤールを深く理解したい方にオススメ。

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まとめ

この記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 記号消費とはモノの生産と消費が飽和状態である現代社会において、モノは機能性や有効性によって需要されるのではなく、社会文化的な記号として消費されること
  • ボードリヤールは、記号論を用いて現代社会におけるモノの特徴を説明
  • これまでの研究の蓄積の上に、ボードリヤールは『消費社会の神話と構造』で記号的な消費をとおした資本主義と民主主義の分析をした

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