ファイブフォース分析(Porter’s five forces analysis)とは、アメリカの経営学者マイケル・ポーターによって提唱された、産業の競争状態、ひいてはその産業に所属する企業の収益性に影響を及ぼす5つの要因をモデル化したものです。
ファイブフォース分析は当時複雑化しすぎていた経営戦略の議論に対して、企業経営の実態、実務家の問題意識に即したシンプルな答えを提供しました。それによって、ビジネスの最前線で活躍していた実務家たちから圧倒的な支持を得た理論です。
この記事では、
- ファイブフォース分析の考え方・要素
- ファイブフォース分析の具体的手法
- ファイブフォース分析の事例
をそれぞれ解説していきます。
関心に沿って読み進めてください。
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1章:ファイブフォース分析とは
1章では、ファイブフォース分析の「考え方・要素」「具体的手法」を解説します。2章でファイブフォース分析の事例を紹介しますので、好きな箇所から読み進めてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1: ファイブフォース分析の考え方・要素
さっそく、ポーターの言葉からファイブフォース分析の考え方を紹介します2マイケル・ポーター(1982)『競争の戦略』(ダイヤモンド社, 17頁)を参照。
競争戦略を作る際の決め手は、会社とその環境との関係を見ることである。(中略)業界構造の在り方は、会社が今後取りうる戦略に大きな影響を及ぼすだけではなく、競争ゲームのルールを大きく左右させるのである。
このように、企業が競争戦略を考える場合、企業内部の資源にだけ目を向けるのではなく、外部要因も分析したうえで戦略を策定することが大きな収益につながることを指摘しています。
また、企業が繰り広げる競争とは、一般的に、業界内の競合企業として捉えがちです。しかしポーターは、競争を同業者間の争いと限定するのではなく、次の5つの競争要因を広義の敵対関係と名付けることで、産業構造全体を分析する視座を持つことの重要さを述べました。
- 新規参入者の脅威
- 代替品の脅威
- 買い手の交渉力
- 売り手の供給力
- 競争業者間の敵対関係
これら5つの要因を理解することで、単に相対的シェアや市場成長率などのマクロな指標のみで産業の特性を理解するよりも、自社の置かれた経営環境を精緻に理解することができるようになります。
また、その産業構造を受動的に受け入れるだけではなく、産業構造への理解をとおして、それぞれの要因に作用する適切な打ち手を能動的に設計することができるようになります。その結果、自社の直面する競争環境をより優位なものにできる可能性があります。
以下でファイブフォース分析を解説しますが、詳細は原著を当たりください。
1-2: ファイブフォース分析の具体的手法
具体的には、ファイブフォース分析では、1-1で述べた5つの競争要因を調査することで、企業を取り巻く環境を明らかにします。その際、用いられるのが以下の図です(図1)。
(図1「ファイブフォース分析」筆者作成)
それぞれの要因を解説していきます。
1-2-1: 新規参入者の脅威
新規参入者とは、
業界にすでに参入した企業のみならず、今後参入する可能性のある企業までを指す用語
です。
一般に、新規業界に進出する動機として、進出する先の業界には「超過利潤」が発生していることがあげられます。経営思想家である青島・加藤は『競争戦略論』(東洋経済新報社)で、そのポイントを以下のように述べています3青島矢一・加藤俊彦(2012)『競争戦略論』(東洋経済新報社, 47頁)を参照。
事業にうまみがある状況であれば、その分け前にあずかろうと新たな企業が参入してくる、(中略)簡単に参入できるのであれば、事業を展開するうまみがまったくなくなる点まで、参入しようとする企業が続いてくるということである。
つまり、新規参入者は進出先に事業を展開するだけの経済的なメリットがあると判断すると、相次いで新規参入を図ってくることを指摘しています。
簡単に言えば「タピオカ屋は儲かるらしいから、うちもタピオカ屋をやろう!」と考え、新規参入が増えるということです。
当然ですが、だれでも事業を展開できるような業界であれば、おのずと業界内の生き残りのための競争が激化し、事業を展開する収益性は低下していくことになります。この現象を、ポーターは「新規参入者の脅威」と呼びました。
加えて、新規参入者の脅威がどれくらいあるのかは、「参入障壁」「既存業者の報復」という2つの要素で決まるとしています。
参入障壁とは、
新規参入者があらたな業界で事業を展開するにあたってのハードル
と解釈されます。具体的な参入障壁は、図2で示したとおりです4(図2「参入障壁」マイケル・ポーター(1982)『競争の戦略』(ダイヤモンド社, 22-30頁)をもとに著者作成)。
ポーターは図2で示した7つの参入障壁について、より強固なものであればあるほど、新規参入を抑制することができ、既存の業者は収益の維持できると主張しました。
また、もうひとつの脅威である「既存業者の報復」とは、
その業界にいる既存の業者が新規参入者に対してとる敵対行動
を指します。
たとえば、新規参入者が新規市場で顧客を獲得するために低価格でキャンペーンをおこなったときに、既存の業者がまったく同じか、あるいは新規参入者を下回る価格のキャンペーンをおこなうことがあります。
簡単に言えば「新規参入してきたA社はタピオカを500円で売っているから、うちは450円で売ってA社を撤退させよう」という施策のことです。
こうした反発は、既存業者が十分な経営資源を有するか、その業界への執着が強い場合、より大きくなると言われています。
1-2-2: 売り手(供給業者)の交渉力
そして、売り手の交渉力が高くなる場合として、ポーターは「売り手の業界が少数の企業によって牛耳られていて、買い手の業界よりも集約体制になっている」ときを挙げています(同書, 47頁)
たとえば、パソコン市場を見たとき、パソコンの頭脳部分にあたるCPU(中央演算処理装置)市場で大きなシェアをもつインテル社やOS市場で大きなシェアを持つマイクロソフト社は、交渉力の高い代表的な売り手の例となるでしょう。
売り手の交渉力が強ければ、業界における価格の主導権を供給業者側に握られることになり、業界の収益は悪化します。
加えて、ポーターは売り手の交渉力が高まる他のケースとして、次のような要因があると指摘しています。
- 買い手業界が供給グループにとって、重要な顧客ではないとき
- 供給業者の製品は、買い手の事業にとって重要な仕入れ品であるとき
- 差別化された製品のため、他の製品に変更すると買い手のコストが増すとき
- 供給業者が今後確実に川下統合に乗り出すという姿勢を示すとき5※供給業者が、供給業者にとっての買い手の業界、つまりは既存業界への新規参入を示唆している状態のこと
こうした供給業者の交渉力の脅威に対抗する方法のひとつが共同購買事業です。共同購買事業とは、
供給業者より製品を必要とする企業群が仕入れ、購買に特化した連合体を形成し、強い交渉力を持って取引をおこなうことのできる体制をつくること
です。
コンビニのフランチャイズ契約などは、このメリットを活用した店舗形態のひとつと言えます。
1-2-3: 買い手の交渉力
買い手とは業界から製品やサービスを購入する主体であり、企業にとっては存続のために大事にすべき顧客です。しかし、その買い手が業界に対して強い力を行使できるとき、脅威のひとつとなりえます。
ポーターは買い手の交渉力が高まるケースとして、次のような要因があると指摘します。
- 買い手が集中化していて、売り手の取引総量にとってかなり大量の購入をするとき
- 買い手の購入する製品が、買い手のコストまたは購入物全体に占める割合が大きいとき
- 取引先のコストを変えるのが安いとき
- 売り手の製品が、買い手の製品やサービスの品質にとってほとんど関係ないとき
- 買い手が十分な情報をもつとき
- 消費者が購入決定に影響力を行使できるとき
これらの要因が強くなると、業者に対して値引きを強要したり、業者同士を競わせたりするようになり、業界内の競争は激しくなります。
こうした買い手の交渉力の脅威に対抗する方法として、ポーターはよりよい買い手を選択することを推奨しています。実際に、市場には価格に敏感な買い手もいれば、価格をあまり気にしない買い手も存在します。こうした価格敏感度の低い買い手を市場から見つけることができれば、企業は買い手の交渉力の脅威に悩まされることはなくなります。
また価格ではなく、機能やサービスを重視する買い手を見つけることも方法のひとつです。企業が購入後のアフターサービスを強化したり、買い手からの注文過程を簡略化したりすることが出来れば、買い手は価格以外のメリットから取引先を選ぶことになります。この結果、企業の収益は維持されやすくなるでしょう。
1-2-4: 代替品の脅威
代替品の脅威とは、
既存の業界で生産されている製品の機能を、違う製品によって満たされることで、製品に対する需要を取って代わられてしまうこと
を指します。
たとえば、携帯電話のカメラ機能が高性能化したことにより、カメラ市場の需要は大きく低下したことを思い出してみてください6顧客はカメラで写真を撮るという機能を、携帯電話で代替できるようになったため。
この点に関して、ポーターは以下のように主張してます7同書, 42-43頁。
- 「いちばん注意しなければならない代替品とは、①現在の製品よりも価格対性能比がよくなる傾向をもつ製品、②高収益をあげている業界によって生産されている製品、である」と述べる
- 特に後者の場合、「その代替製品にちょっとした改良が加えられて、業界の競争が激化し、値下げや性能向上が起こるなら、急速に既存の業界へのかく乱要因となる」と指摘している
代替品は全く異なる業界から突如として登場することも多く、分析をするのは大変困難です。他業界より脅威となる代替品が登場した場合、企業は速やかにその代替品を迎撃するような戦略を取るか、あるいは避けられない強敵として対処するかの選択を取らなければならないとされます。
対応が遅れれば、企業は再生不可能な痛手を負う事態にもなりかねません。
1-2-5: 競争企業との敵対関係
企業は常に業界内での地位向上を目指して活動しており、競争企業の敵対関係の度合いが強いほど業界内の競争は激しくとなります。
具体的には、ポーターは業界内の競争が激しくなる要因として次の8つを列挙しています。
- 同業者が多いか、似た規模の会社がひしめいている
- 業界の成長が遅い
- 固定コストまたは在庫コストが高い
- 製品差別化がないか、取引先を変えるのにコストがかからない
- キャパシティが小刻みに増やせない
- 競争業者がそれぞれ異質な戦略を持つ
- 戦略が良ければ成果が大きい
- 撤退障壁が大きい
たとえば、ガソリンスタンド業界は競争企業の敵対関係が非常に強い性質をもっています。ガソリンスタンド業界は市場シェアこそ大手3社で約80%のシェアを占める寡占業界ですが、
- ④にあてはまるようにガソリンという単一の性質を持つ製品を取り扱っている
- なおかつ国道沿いには数百メートルおきにガソリンスタンドが設置されていることも珍しくなく、店舗間競争では①も当てはまる
- さらに、ガソリンスタンドではガソリンという在庫を常に大量に抱えなければならないという点で③も大いに当てはまる
- ガソリンスタンドの設備はガソリンスタンドでしか利用することしかできずに、もし競争から撤退するとしてもコストが高くなることから⑧の特徴ももっている
といった特徴があります。
そのため、ガソリンスタンド業界では、ポイントカードを発行することで顧客の囲い込みをしたり、洗車といった給油以外のロードサービスを充実させたりことで他社との差別化をしています。
- ファイブフォース分析とは、アメリカの経営学者マイケル・ポーターによって提唱された、産業の競争状態、ひいてはその産業に所属する企業の収益性に影響を及ぼす5つの要因をモデル化したものである
- 企業が競争戦略を考える場合、企業内部の資源にだけ目を向けるのではなく、外部要因も分析したうえで戦略を策定することが大きな収益につながる
- 「新規参入者の脅威」「代替品の脅威」「買い手の交渉力」「売り手の供給力」「競争業者間の敵対関係」を広義の敵対関係として位置づける必要がある
2章:ファイブフォース分析の事例
2章ではパソコン業界を例に挙げ、上述したそれぞれの項目を具体的にみていきます。
結論からいえば、2020年現在のパソコン業界は図3のようなファイブフォースになっていると考えられます。
(図3「2020
年におけるパソコン業界のファイブフォース」筆者作成)
それぞれの項目を解説していきます。
2-1: 新規参入者の脅威
パソコン業界自体は、だいぶ成熟した産業であるため大手の新規参入は少ないのが現状です。
しかし、部品自体はほとんどが汎用化されており、個人でも自作のパソコンを組み立てることができることから、規模を問わないのであれば新規参入することは難しくない業界であると言えます。
実際に、コアユーザー向けにネットゲームに特化したパソコンを開発することで新規参入したケースなども見られ、今後もニッチなターゲットに向けた新規参入は増えるかもしれません。
2-2: 代替品の脅威
パソコン業界の最も脅威となっている代替品は、スマートフォンやタブレット端末です。パソコンと性能や機能や非常に類似しており、パソコンでおこなわれていたあらゆる業務を代替できるまでに進化をしています。
代替品の市場の拡大にともない、既存のパソコン業界のメーカーもこぞってスマートフォンやタブレット端末を開発しています。韓国のサムスン電子などパソコン業界では目立った活躍をしていなかった企業が、代替品市場では大きなシェアを持っていることから、既存のパソコン業界のメーカーでは苦戦を強いられているところも目立ちます。
2-3: 買い手の交渉力
部品自体が汎用化されている影響で、パソコン自体での製品差異はどのメーカーにおいても差異は少なく、デザインや操作性で数多くの差別化が図られている状態であると言えます。
また、製品を購入するための顧客の選択肢も非常に多く、家電小売店などは低価格を売りにした販売もよく見かけます。その結果、どのメーカーのパソコンであっても、パソコンの機能自体に差がないため、激しい価格競争になっている傾向があります。
一方で、アップル社のように独自のOSやハードウェアを開発している企業は、こうした価格競争に巻き込まれず独自の価格設定をできており、高い収益を得ています。
2-4: 売り手の供給力
上記したように、パソコンの中心的な性能となるCPUやOSは特定の企業がほぼ独占して開発・製造しています。
そのため、各社はパソコン製造において、こうした特定の企業への依存を強めざるを得ない構図となっています。その結果、最終製品であるパソコンに対しても価格主導権を握る存在となっており、パソコン業界の収益を大きく左右する売り手と言えます。
2-5: 競争業者間の敵対関係
世界的に標準化が進んでいるパソコンは、国による製品差異も少なく、日本国内においても日本、中国、アメリカなどのあらゆる企業が市場を争っています。
パソコン業界は規模(※)の経済が働きやすく、生産量増加がコスト減少に直結するため、各社は積極的な価格競争をおこない、市場シェアを獲得しようとします。その結果、業者間の競争はより一層激しいものとなり、収益に苦しんでいる企業も見られます。
※規模の経済とは、生産数を増大させるほど製品1つ当たりの生産コストが下がる(安く作れる)ことです。
このようにパソコン業界は、特に成熟した産業によく見られるように、新規参入はそれほど見られず、既存業者の争いが激しい様相が分析できます。また、パソコンという製品特性から、売り手の交渉力が非常に強く、いまは代替品の脅威が課題となっていることがわかりました。この分析を前提として、パソコンメーカー各社は自らの生存戦略を模索していくことになります。
ファイブフォース分析で明らかになった業界構図は決して固定されたものではありません。業界の変化とともに競争関係も絶えず変化していきます。その変化に対応し、企業の方向性を適切に定めることができれば、企業の収益性はより強固なものになるでしょう。
3章:ファイブフォース分析について学べるおすすめ本
ファイブフォース分析に関して理解を深めることはできたでしょうか?
以下の書物を参考にして、あなたの学びをより深めていってください。
中野明 『図解ポーターの競争戦略がよくわかる本』(秀和システム)
ポーターの競争戦略がわかりやすく図解されており、はじめてポーターに触れる方におすすめの一冊です。
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M.E.ポーター『競争の戦略』(ダイヤモンド社)
ポーターの原論の日本語訳です。30年以上前の書籍であるため古い例が多く読むのは大変ですが、ポーターの競争戦略がしっかりと理解できます。中・上級者向けの一冊です。
一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- ファイブフォース分析とは、アメリカの経営学者マイケル・ポーターによって提唱された、産業の競争状態、ひいてはその産業に所属する企業の収益性に影響を及ぼす5つの要因をモデル化したものである
- 企業が競争戦略を考える場合、企業内部の資源にだけ目を向けるのではなく、外部要因も分析したうえで戦略を策定することが大きな収益につながる
- 「新規参入者の脅威」「代替品の脅威」「買い手の交渉力」「売り手の供給力」「競争業者間の敵対関係」を広義の敵対関係として位置づける必要がある
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