心理学

【心的回転とは】例やトレーニングを心理学的にわかりやすく解説

心的回転とは

心的回転(Mental rotation)とは、心の中で行う心的なイメージの回転のことです。

心的回転は聞き慣れない言葉ではありますが、カーナビやマップアプリの地図表示など日常的に実践している場合があります。そのため、しっかり理解することが大事です。

そこで、この記事では、

  • 心的回転の意味・例
  • 心的回転の学術的な議論

をそれぞれ解説していきます。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:心的回転とは

1章では、心的回転を概説します。心的回転の心理学的な実験に関心のある方は、2章から読んでみてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:心的回転の意味

まず、冒頭の確認となりますが、心的回転とは、

心の中で行う心的なイメージの回転のこと

です。

私たちは、さまざまなものを見るだけではなく、頭の中で思い描くことが出来ます。今皆さんの目の前には、この記事を表示しているデバイス(スマホやPC)があるかと思います。

それを観察し、目を閉じてそのデバイスがどんなものだったかをイメージしてみてください。すると、ある程度の形や色を伴ったイメージとして思い描けるのではないでしょうか?これが心的回転の定義的説明のところで述べた心的なイメージに当たります。

このような心的なイメージには、さきほどのデバイスについてのイメージのような記憶を想起するようなイメージと、経験したことないものを想像するようなイメージがあります。これらのイメージは絶対的に分けられるものではありません。

たとえば、宇宙人のイメージを頭に思い描いてください。

  • 宇宙人は実際に遭遇したことがある人はいないと思うので、経験したことのないものをイメージすることになる
  • しかし、皆さんが思い描いた宇宙人は100%想像といえるか?
  • おそらく宇宙人と聞いた段階で、典型的な宇宙人のイメージ (こんな感じの👽)が記憶から想起され、それに基づいて想像したのではないではないだろう?

一方で、先ほどのデバイスを想像したとき、写真のように現実のままイメージしたでしょうか。おそらく違いますよね、あの辺にマークがあった気がする…といったように想像で付け加えたりしましたかと思います。

このように、心的イメージとは記憶の情報と想像の両方によって形成されるわけです。

心的回転とは、このような心的なイメージの性質の1つです。私たちは、ある対象について、このようなイメージを作ることで、同じものかどうかを判断することができます。以下の画像を見て覚えてください(図1)。

記憶する画像図1 記憶する画像

覚えましたか?では、次のa、b、cのうち、記憶したものと同じ形のものをこたえてください。正解は1つとは限りません。

心的回転のイメージ図2 イメージと同じものを探してください

 

わかりましたか?正解は、aとcです。どちらも、同じ形ですが、aに比べてcのほうが同じだと判断するのが難しかったと思います。

  • aは元の画像と全く同じだが、cは元の画像に対して約100度程度回転している
  • つまり、私たちはイメージに対して、対象が回転していると同定するのが難しくなる

このように、イメージと特定のものが同じかどうかを判断するときには、その対象の回転角が大きいほど時間がかかることが知られています。

このことは、イメージを頭の中でその対象とのずれた角度の分だけ回転させて、同定判断をしているように見られることから、この性質を心的回転というようになりました。



1-2:心的回転の例

心的回転を利用した例としては、カーナビやマップアプリの地図表示があります。私たちはこれらのアプリを使用して、案内を行ってもらうときに、どのような認知的な処理を行っているかを考えてみましょう。

マップアプリの例

  • マップアプリが進行方向を教えてくれている場合、地図を記憶に保存する
  • そして、その記憶が現在自分が歩いている実際の道と同じかどうかを判断して、同じであれば表示されている方向に進む

この過程は、先ほど皆さんにやってもらった画像の同定と同じです。これらのアプリは案内を行うときに、上が進行方向になるようにマップが回転してくれます。

もし、これらのアプリケーションが常に上方向が北を向くように設定されている場合、私たちはその都度頭の中の地図を回転させて、現実の道と一致しているかを確かめなければいけません。

つまり、心的回転という私たちの心的イメージを行うときの性質に合わせて開発されているわけです。

「心的イメージ」に関しては、日本認知心理学会が刊行するハンドブックがより詳しい説明をしています。

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1-3:心的回転のトレーニング

このような心的回転には、3次元的な空間把握能力が関連しているといわれています。このような能力は、進化的に狩猟を営んできた男性のほうが高いと言われる場合がありますが、科学的に証明されているわけではありません。

一方で、トレーニングによって、心的回転を伴うような作業の速度や正確性を上げることも可能です。たとえば、次のことを考えてみてください。

  • 工場などで、壊れた部品や商品を人の目ではじくといった作業を行う人は、非常に早く対象の部品を同定することが出来る
  • この場面では、それぞれの部品は同じ向きに整っていないことも多いため、非常に多くの心的回転が要求される
  • しかし、こうした作業に熟達した人は、回転の角度によって生じる時間の遅れは非常に小さくなる
  • このような熟達は、特定の部品や商品が同じかどうか判断するということを繰り返すことで、獲得することが出来る

このトレーニングの成果は、空間把握能力の熟達とともに、この角度でこの形なら同じものだというパターンを記憶することによって生じます。つまり、作業している部品や商品以外のものでこのようなことを行う場合、この熟達の効果は減少します。

このように心的回転がうまくできるかどうかというのは、普段から慣れ親しんでいるものかどうかというのも重要な1つの要因になります。

1章のまとめ
  • 心的回転とは、心の中で行う心的なイメージの回転のことである
  • 心的イメージとは記憶の情報と想像の両方によって形成される
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2章:心的回転の心理学的実験

さて、2章心的回転の心理学的な実験を紹介していきます。

2-1:心的回転の実験に関する背景

心理学において、このようなイメージの性質を明らかにするためには、その人の主観に頼らざるを得ませんでした。なぜなら、その人がどんなイメージを持っているかは外部から観察不可能だからです。

たとえば、ドーナツをなるべくリアルに頭の中で想像してくださいという問いを出したような場面を考えてみてください。

  • 多くの人が真ん中に穴の開いたドーナツを想像するかもしれない
  • しかし、サーターアンダギーのような穴の開いていないものや、クリームが挟まっているもの等、人によって、さまざまなイメージを想起するとかんがえられる
  • これは、ドーナツのチェーン店に羅列されている種類などを考えれば明らかである

このように、特定の場面でどのようなイメージを持っているかは、その人の報告に頼らないとわからないというわけです。

しかし、このような主観的な報告に頼った方法は、科学的ではないという批判を受けます。なぜなら、主観的な報告は、その人が思い描いているイメージを正しく報告しているという保証がないからです。

科学的な結果には再現性が大切です。再現性というのは同じ手続きで同じ実験を行ったら同じ結果になるということです。

たとえば、次の違いを考えてみてください。

  • 物理学の成果は非常に再現性が高いといわれている。手に持っているリンゴは手を離したら必ず重力に従って下に落ち、水は100度で蒸発する
  • 一方で、主観的な報告は全く同じ人が行ったとしても同じ結果を繰り返すことができないようなものがほとんどである

このような批判の中、視覚的なイメージの性質について、主観的な方法に頼らずに明らかにする実験が行われました。それが、シェパードとメッツラー(1971)の心的回転の実験です。



2-2:シェパードとメッツラーの実験

シェパードとメッツラー(1971)の実験では、図形の回転角度によって、2つの画像が同じものだと判断する速さがどのように異なるのかを検討するために行われました2Shepard, R. N., & Metzler, J. (1971). Mental rotation of three-dimensional objects. Science, 171(3972), 701-703.

実験概要

  • 画像は、10個の立法体を組み合わせて作られた立体画像が使用された
  • 実験では、2つの画像が提示され、その画像が回転された画像なのか鏡に映った画像なのかを判断するという実験を行った
  • 実験に使用された立体画像は非対称のものだったので、鏡に映った形が図形を180度回転させたときの形と一致することはなかった

実験では、実験参加者は出来るだけ早く正確に判断するようにと教示を受けていました。そして、画像を提示してから、判断を行うまでの時間が測定されていました。

実験の結果、画像の回転角が大きくなるにつれて、判断を行うまでの時間も長くなることが示されました。このことは、心的イメージを使って同じかどうかを判断するときに、心的イメージを回転させていることを示唆しています。

つまり、以下の点が明らかになりました。

  • 回転角が小さいときには心的イメージの回転も少しでいいので判断を行うまでの時間が短い
  • 反対に回転角が大きいときには、心的イメージの回転を多く行わなければいけないので判断を行うまでの時間が長くなった

上述したように、この実験はイメージの研究を客観的な指標で扱うことが出来ることを示唆したという点でも、研究の1つとしてイメージ研究における重要な成果であるといえます。

この実験はさまざまな追試が行われており、再現性も非常に高いことが知られています。



2-3:ウェクスラー、コスリン、ベルトーズ(1998)の実験

このような心的回転がなぜ生じるのかということについて検討した実験として、ウェクスラー、コスリン、ベルトーズ(1998)を紹介します3Wexler, M., Kosslyn, S. M., & Berthoz, A. (1998). Motor processes in mental rotation. Cognition, 68(1), 77-94.。この実験は、心的回転が実際に運動として、心的イメージを回転させているかどうかを確かめるために行われました。

実験概要

  • 実験では、実験参加者はシェパードとメッツラーの実験と同じような心的回転の課題を行った
  • この時、参加者は2つの条件に分けられていた
  • 1つが、課題中に心的回転と同じ方向にレバーを回すことを求められる条件、もう1つが課題中に心的回転と異なる方向にレバーを回すことを求められる条件である

もし、頭の中で心的イメージを運動として回転させることで同じかどうかを判断しているのだとすれば、それとは異なる運動を行うことで干渉し、判断が難しくなると考えられます。

対して、頭の中で心的イメージを運動として回転させているわけではなく、そのほかの理由で角度による反応時間の遅れが生じているのであれば、レバーをどちらに回転させようが関係ないですので、どちらの条件でも同じ結果になると考えられます。

実験の結果は次のとおりです。

  • 心的回転と同じ方向にレバーを回転させた条件のほうが、異なる方向に回転させた条件に比べて、判断までにかかる時間が短く、間違いも少ないことが示された
  • このことは、シェパードとメッツラーの実験で示されたような図形の回転角と判断までの時間の間の比例関係が、頭の中で心的イメージを運動として回転させることによって生じていることを示唆している

このような、「頭の中で心的イメージを運動させてみる」ということを言い換えると、心的イメージがある運動をしたらどのようになるかをシミュレーションしてみるということが出来ます。

このような点から、心的回転は私たちの運動についての内的シミュレーションに関与する機能といわれています。今回の心的回転の例のように同じかどうかを判断するだけではなく、このボールはどこに落ちるだろうとか、このまま歩くとぶつかるからよけようといったような私たちの日常的なさまざまな判断に使われています。

つまり、心的回転についての知見は2つのものが同じかどうかを判断するときに、それが回転してると判断が難しいということだけではなく、私たちが頭の中で運動をシミュレーションしているということを示している知見ともいえるのです。

2章のまとめ
  • シェパードとメッツラーの実験ででは心的イメージを使って同じかどうかを判断するときに、心的イメージを回転させていることが示唆された
  • 心的回転についての知見は2つのものが同じかどうかを判断するときに、私たちが頭の中で運動をシミュレーションしているということを示している
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3章:心的回転を学ぶ本・論文

心的回転を理解することはできましたか?最後に、あなたの学びを深めるためのおすすめ書物を紹介します。

おすすめ書籍

菱谷晋介『認知心理学ハンドブック』(有斐閣)

日本認知心理学会という、認知心理学についての学会が刊行しているハンドブックです。用語ごとにそれについての非常に詳しい説明が、紹介されています。今回扱った心的回転についても「心的イメージ」の章で、他の諸概念と関連付けながら説明されています。心的イメージについてもっと詳しいことが知りたいという方におすすめです。

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Shepard, R. N., & Metzler, J. (1971). Mental rotation of three-dimensional objects. Science, 171(3972), 701-703.

心的回転について示した代表的な論文です。英語の論文ですが、3ページ程度にまとめられていますので、心的回転に関心を持った方はチャレンジしてみてもいいかと思います。しっかりと読み込むのは困難でも、図や結果のグラフはさまざまな教科書に記載されていますのでこれが教科書で見た図形の出典かということを確認するだけでも意味があると思います。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 心的回転とは、心の中で行う心的なイメージの回転のことである
  • 心的イメージとは記憶の情報と想像の両方によって形成される
  • シェパードとメッツラーの実験ででは心的イメージを使って同じかどうかを判断するときに、心的イメージを回転させていることが示唆された

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参考文献

  • 菱谷晋介「心的イメージ」『認知心理学ハンドブック』日本認知心理学会(編)有斐閣。 62-63頁
  • Shepard, R. N., & Metzler, J. (1971). Mental rotation of three-dimensional objects. Science, 171(3972), 701-703.
  • Wexler, M., Kosslyn, S. M., & Berthoz, A. (1998). Motor processes in mental rotation. Cognition, 68(1), 77-94.