経営学

【専制型リーダーシップ・民主型リーダーシップとは】特徴をわかりやすく解説

専制型リーダーシップ・民主型リーダーシップとは

専制型リーダーシップ・民主型リーダーシップとは、リーダーの行動スタイルをいくつかに分類することで、有効なリーダーシップを行動の側面から研究した理論です。

ドイツ出身の社会心理学者クルト・レヴィンによって提唱されたリーダーシップモデルで、アイオア研究とも呼ばれ、リーダーシップ研究の非常に重要な論点のひとつである行動理論の礎ともなっているものです。

この記事では、

  • 専制型リーダーシップ・民主型リーダーシップの背景や特徴
  • 専制型リーダーシップ・民主型リーダーシップに関連する研究

などについて解説します。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:専制型リーダーシップ・民主型リーダーシップとは

まず、1章では専制型リーダーシップ・民主型リーダーシップを概説します。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:特製理論から行動理論へ

人類の歴史のなかには、常に時代をリードし、人々を先導してきた数多くのリーダーが存在していました。そうした優れたリーダーに共通する特徴を人物の資質や特性に見出そうとしたのが、リーダーシップ研究のもっとも初期の理論にあたる特性理論でした。

→特性理論についてより詳しくはこちら

しかし、特性理論では、根源的なリーダーシップの発生を説明したり、その人がどうすれば優れたリーダーになれるかを予想するのに不十分であることが判明し、リーダーシップ研究では新たな手法の開拓が求められるようになりました。

そこで登場したのが、リーダーの属人的な資質や個性に着目するのではなく、リーダーのとる行動に優れたリーダーシップを見出そうとする行動理論でした。

→行動理論についてより詳しくはこちら

特性理論と行動理論の適用上の違いは、それぞれの根本的な前提の違いに根差しています。経営学者のロビンスは、この点を次のように述べています2スティーブン P.ロビンス著、高木晴夫訳(2009)『組織行動のマネジメント : 入門から実践へ』ダイヤモンド社 259頁

特性理論が有効であれば、リーダーは生まれながらにしてリーダーであり、リーダーシップの有無は生まれつき決まっているはずだった。一方、リーダーの証明となる特定の行動があるなら、リーダーシップを教えることが可能であり、有能なリーダーになることを望む人々にこうした行動パターンを教え込むプログラムを企画することができるはずだった。

このように、リーダーシップ研究の行動理論への進展が、社会に対して優れたリーダーを継続的に供給するための具体的な方策になり得た可能性を指摘しています。

行動理論はその後のコンティンジェンシー理論など多くの発展的なリーダーシップ研究の基本となっており、欠かすことのできない論点であると言えます。

→コンティンジェンシー理論についてはこちら

しかし、実際のところは行動理論だけでは妥当性が高く、かつ実践的なリーダーシップモデルを構築することはできませんでした。



1-2:レヴィンのリーダーシップ論

リーダーが集団や組織に及ぼす影響をそのリーダーの持つ素質や特性ではなく、そのリーダーがどんな行動をとったかという視点で分析したのが、ドイツの著名な社会心理学者であり、集団力学の専門家でもあったクルト・レヴィンです。

レヴィンは、管理者のリーダーシップスタイルには次の3つのタイプがあると提示しました。

  • 専制型リーダーシップ・・・独裁者タイプのリーダーシップで、有無を言わさずに自分の考えたことを部下に命じてやらせようとするスタイル
  • 放任型リーダーシップ・・・管理的行為をおこなわずに、部下を放任するタイプのスタイル
  • 民主型リーダーシップ・・・部下とよく話し合い、合意をもとに物事を進めていくスタイル

レヴィンは集団的意思決定のプロセスにおいて、複数の実験や実証を重ねることで、どのリーダーシップスタイルが組織に好影響を与えるかを調査しました。

その結果、組織の権限階層において、底辺に位置する構成員による意思決定への参加を拡大する参加的意思決定こそが、複数の結果(生産性、職場に対する満足度など)を改善に導くことが示されました3杉万俊夫「集団における意思決定とリーダーシップに関する研究」博士論文, 大阪大学 https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/24559/07772_%E8%AB%96%E6%96%87.pdf

この結果は、その後の多くの研究でも支持され、集団的意思決定において構成員が意思決定に参画する参加的意思決定方法、ひいてはその実現を試みる民主型リーダーシップの有効性が示されました。



1-3:アイオア児童福祉研究所での研究

アイオア研究において、もっともよく引き合いに出されるのがアイオア児童副研究所での実験です。

この実験では、児童クラブに所属する少年男女を対象に、それぞれリーダーによる専制的雰囲気と民主的雰囲気の2つの異なる管理法を持つ集団にわけることで、各集団に属した児童の行動が観察されました。

民主的雰囲気と専制的雰囲気の違い図1 民主的雰囲気と専制的雰囲気の違い4クルト・レヴィン『社会的葛藤の解決』ちとせプレス 77頁

これら2つの集団には共通のタスクが与えられ、それぞれのリーダーの指揮のもと、そのタスクがどのように遂行されていくかが観察されました。その結果、民主的雰囲気と専制的雰囲気にある集団において、次のような違いがみられました。

1-3-1:集団内でのタスクの遂行プロセスの違い

専制的雰囲気の集団では、タスクの遂行プロセスは主に専制型リーダーによって決められ、児童らはリーダーによって決定されたやり方に従うだけでした。

一方で、民主的雰囲気の集団では、仕事の協力はすべて児童らの自発的な下位集団化によって成し遂げられました。

レヴィンは、専制的雰囲気下では仕事のグループの32%がリーダーからの働きかけによるものであったのに対し、民主的雰囲気下ではそのような例は皆無であったと述べています5クルト・レヴィン著、末永俊郎訳(2017)『社会的葛藤の解決』ちとせプレス 79頁

1-3-2:集団内の雰囲気の違い

専制的雰囲気の集団では、児童らは他人の注意を引こうとする要求が強く、敵意ある批評も多かったのに対して、民主的雰囲気の集団では、協働と他の成員への賞賛がはるかに頻繁に認められました。

このことは「私」感情に対する集団感情または「われわれ」感情の大きさにもはっきりと現れており、「われわれ中心」の供述は民主制が専制の2倍ほど頻繁に起こりましたが、「私中心」の供述では民主制より専制のほうがはるかに大きかったと指摘しています6クルト・レヴィン著、末永俊郎訳(2017)『社会的葛藤の解決』ちとせプレス 79頁

これらの研究結果から、レヴィンは「リーダーが先鞭をつけた『思考および生活の様式』が児童たちの関係を支配するということができるだろう」7クルト・レヴィン著、末永俊郎訳(2017)『社会的葛藤の解決』ちとせプレス 79頁と述べており、それぞれのリーダーシップスタイルが児童とリーダーの関係を形作るだけなく、児童と児童の関係にも大きな影響を及ぼしたことを指摘しています。

1章のまとめ
  • 専制型リーダーシップ・民主型リーダーシップとは、リーダーの行動スタイルをいくつかに分類することで、有効なリーダーシップを行動の側面から研究した理論である
  • 組織の権限階層において、底辺に位置する構成員による意思決定への参加を拡大する参加的意思決定こそが、複数の結果(生産性、職場に対する満足度など)を改善に導く

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2章:行動理論に関するその他の代表的な議論

さて、2章では「オハイオ州大学のリーダーシップ研究」と「ミシガン大学のリーダーシップ研究」というリーダーシップ研究の歴史においても重要な2つの理論を紹介します。

2-1:オハイオ州大学のリーダーシップ研究

オハイオ州大のリーダーシップ研究とは、1940年代後半にアメリカのオハイオ州立大学で実施されたリーダーの行動に関する研究です。

研究概要

  • リーダーはどのように自分たちの行動を展開するのかを描写するための「リーダー行動描写質問票」と呼ばれるデータを集めることで、リーダー行動のそれぞれ独立した要素の特定が試みられた
  • リーダー行動描写質問票では、合計1000以上にわたるリーダー行動の要素が収集された
  • 最終的には部下が描写するリーダーシップ行動の大部分を実質的に説明する2つの大枠のカテゴリーに絞られた

2つの大枠のカテゴリーとは、「構造づくり」と「配慮」です。

構造づくり(構造主導)とは、「リーダーが目標達成を目指す中で、自分と部下の役割を定義し構築すること」8スティーブン P.ロビンス著、高木晴夫訳(2009)『組織行動のマネジメント : 入門から実践へ』ダイヤモンド社 259頁です。構造づくりには、業務や業務関係、目標を組織的にまとめようとするリーダーの行動があてはまります。

配慮とは、「ある人物が相互信頼、部下のアイデアの尊重、部下の感情への気配りを特徴とするような職務上の関係を持つ程度」9スティーブン P.ロビンス著、高木晴夫訳(2009)『組織行動のマネジメント : 入門から実践へ』ダイヤモンド社 259-260頁のことです。配慮には、フォロワーの居心地のよさ、健康、地位、満足に関心を示すリーダーの行動があてはまります。

この研究結果から、「構造づくりと配慮のいずれも高い程度を示したリーダー(「高-高」リーダー)の下では、これらのいずれか、あるいは両方において低い程度を示したリーダーの下で働くよりも、部下の業績と満足度が高まる可能性の高い」10スティーブン P.ロビンス著、高木晴夫訳(2009)『組織行動のマネジメント : 入門から実践へ』ダイヤモンド社 260頁ことがわかりました。

オハイオ州大のリーダーシップモデル

図2 オハイオ州大のリーダーシップモデル11P.ハーシィ, K.H.ブランチャード, D.E.ジョンソン著 山本成二, 山本あづさ訳(2000)『行動科学の展開 -人的資源の活用 入門から応用へ-』生産性出版 106頁



2-2:ミシガン大学のリーダーシップ研究

オハイオ州大の研究とほぼ同時期にミシガン大学の調査研究センターにおいて実施されたリーダーシップ研究も、その研究目的はオハイオ州大のものと同様でした。

ミシガン大の研究もまたリーダーシップ行動には2つの側面が存在しており、これらを「生産指向型」「従業員指向型」と名付けました。

  • 生産指向型・・・リーダーの仕事の技術的あるいはタスク上の側面を重視する行動を指す
  • 従業員指向型・・・リーダーの部下のニーズに対する個人的関心や、メンバー間の個性の違いといった人間関係の側面を重視する行動を指す

ミシガン大の研究は、オハイオ州大の研究と非常に類似した研究結果であり、並んで語られることが多い研究ですが、次のような違いも指摘されています。

【オハイオ州大のリーダーシップ研究】

  • 「高構造-高配慮」の行動スタイルが部下の業績と満足度をもっとも高める可能性が高い
  • ルーチン・タスクが多い労働環境下では、高構造の行動スタイルは部下の満足度を低下させる可能性がある

【ミシガン大のリーダーシップ研究】

  • 従業員指向の行動スタイルをとるリーダーがグループの生産性や仕事への満足度を高める可能性が高い
  • 生産指向型の行動スタイルはグループの生産性や労働者の満足度を低下させる可能性がある

2つの研究結果のもっとも大きな違いは、以下の点にあります。オハイオ州大の研究が「高構造-高配慮」の行動スタイル、すなわち仕事に対する取り組みも、人間関係に対する取り組みも高い水準にあるリーダーの行動が最適であると考えました。

しかし、ミシガン大の研究は「従業員指向型」、すなわち人間関係に対する取り組みが高い水準にあるリーダー行動が最適であり、仕事に対する取り組みの高さは必ずしも業績や部下の満足度に好影響を与えないと考えていることです。

もっとも、ロビンスはオハイオ州大の研究結果についても「『高-高』の行動スタイルは一般的に好結果を生むものの、例外も多く、状況要因をこの理論に組み込み必要性があることがわかった」12スティーブン P.ロビンス著、高木晴夫訳(2009)『組織行動のマネジメント : 入門から実践へ』ダイヤモンド社 260頁と補足しており、ともに理論の精度を高めるためにはさらなる研究が必要であることを指摘しています。

2章のまとめ
  • 構造づくりと配慮のいずれも高い程度を示したリーダー(「高-高」リーダー)の下では、これらのいずれか、あるいは両方において低い程度を示したリーダーの下で働くよりも、部下の業績と満足度が高まる可能性の高い
  • 「高-高」の行動スタイルは一般的に好結果を生むものの、例外も多く、状況要因をこの理論に組み込み必要性があることがわかった

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3章:専制型リーダーシップ・民主型リーダーシップについて学べるおすすめ本

専制型リーダーシップ・民主型リーダーシップを理解することはできました?少しでも関心をもった方のためにいくつか本を紹介します。

おすすめ書籍

クルト・レヴィン『社会的葛藤の解決』(ちとせプレス)

グループ・ダイナミクス研究所の創設者でもあるクルト・レヴィンによる集団力学の解説書です。国家社会から企業、小規模組織に至るまでの集団心理が実例とともに解説されています。

P.ハーシィ、K.H.ブランチャード、D.E.ジョンソン『行動科学の展開 -人的資源の活用 入門から応用へ-』(生産性出版)

リーダーシップ研究全体がわかりやすくまとめられた良著です。タイトル通りに入門者から応用を学びたい方までおすすめの1冊です。

スティーブン P.ロビンス『組織行動のマネジメント : 入門から実践へ』(ダイヤモンド社)

組織行動論の全般がまとめられた入門書です。論点はリーダーシップだけではないですが、行動科学全体を学びたい方はぜひ持っておきたい1冊です。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 専制型リーダーシップ・民主型リーダーシップとは、リーダーの行動スタイルをいくつかに分類することで、有効なリーダーシップを行動の側面から研究した理論である
  • 組織の権限階層において、底辺に位置する構成員による意思決定への参加を拡大する参加的意思決定こそが、複数の結果(生産性、職場に対する満足度など)を改善に導く
  • 「高-高」の行動スタイルはよい結果を生む場合が多い

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