司法権(Judiciary)とは、立法権、行政権と並ぶ国家の権力の一つで、裁判を通じて判決を下す機能を持っています。
司法権は裁判所や検察を深い関わりをもち、三権分立を理解する上で不可欠な概念です。
そこで、この記事では
- 司法権の意味
- 日本における司法権
- 三権分立と司法権
- 司法権における学術的な議論
をそれぞれ解説していきます。
興味のある所から読んでみてください。
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1章:司法権とは
1章では司法権を概説します。三権分立における司法権の立場は2章で、学術的議論は3章で解説しますので、関心に沿って読み進めてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1: 司法権の意味
そもそも「司法」とは法を用いて裁判で判決を下す機能のことです。より具体的にいえば、紛争・訴訟に関して、裁判を通して法を適用し宣言することで、裁定を下す機能のことです2司法権の概念に関して詳しくは、たとえば、小堀裕子「司法権の概念と裁判所の権限の関係に関する試論」『法政治研究』5 巻, 103-122頁。
すなわち、司法とは社会の中で起きるさまざまな争い事を、法という誰に対しても平等に適用される客観的なルールに忠実に基づいて裁定を下すものです。
したがって、司法権が扱う内容は以下のように限定されてきます。
- 司法権は、法律上の争訟のみを取り扱う
- 抽象的である、または法律的には結論が出せない争い事(宗教等)を司法は取り扱うことはない
この点から、司法は文字通り、「法を司る者」と言われることがわかると思います。
では、なぜ司法は必要なのでしょうか?
司法は国民や国家権力(立法権=国会、行政権=内閣)を法という客観的なルールによって規定しています。この法というルールによって、
- 社会秩序の維持
- 国家権力の暴走を防ぐ
- 法に違反したものには裁定を下す(→裁判所の役割)
といった役割を持っており国家には欠かせないものなのです。
このような理由から、司法権は独立していなければなりません。司法権が独立していることには下記の意義があります。
- 司法権が立法機関や行政機関等その他の権力からの干渉を受けることなく、裁判所(裁判官)が公正中立な立場で独自に判断できる
- また、司法の独立は、どれだけ多数派が存在していようと、少数派の意見が法的に正しければ少数派の立場の人間を尊重する(国会や内閣といった他の統治機関では、基本的に多数決の考えが用いられている)
1-2: 裁判所・裁判官とは
司法権を具体的に行使するのが、裁判所です。裁判所は社会での争い事を憲法や法律に照らし合わせ公平な裁判を通して、解決を導く機関です。
それでは「裁判」とはどのようなものなのでしょうか?
裁判所で行われる裁判は、主に民事裁判と刑事裁判に分かれます。
民事裁判とは、金の貸し借りや契約の履行不履行等、日常生活で一般的に起こる法的な争いを取り扱うものである
- 訴える原告側と訴えられた被告側双方の主張を確かめて、証拠を調べたうえで法律に照らし合わせて、どちらの言い分が認められるか判決を下す
- また場合によっては、裁判官が主導して、判決を下すのではなく話し合いによる円満解決を図る和解や調停で決着することもある
刑事裁判とは、詐欺や窃盗、傷害や殺人等重大な罪を犯した疑いで起訴された人が、有罪か無罪か、有罪ならばどの程度の重さの刑を科すかを判断する裁判である
- 刑事裁判では、起訴する側の検察と、起訴された被告とその弁護人双方の主張が確かめられて、それぞれの側から出される証拠も検証された上で、裁判官が罪の有無と刑の重さを判決で言い渡します。
その他にも、家事審判や少年審判等の裁判があります。しかし、これらは裁判といっても判決が言い渡されることはありません。
- 家事審判・・・後見人の選任や養子縁組等で発生した家庭内での争いを扱うもの。裁判官が法に照らし合わせながら、事情を加味し、適切な判断を下す。
- 少年審判・・・罪を犯した少年に対して、非行について反省を促し本人の更生を目指すことを目的とした手続き。
家事審判や少年審判は、プライバシーが守られる権利が認められるため、原則非公開で行われます。
1-2-1: 裁判所と裁判官の独立
加えていえば、裁判所と裁判官の独立も独立しています。
裁判所の独立とは、
- 裁判所が内部規律を自主的に定めることができる規則制定権を有していること
- 下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名名簿に基づいていること
を意味します。
規則制定権は、日本国憲法80条で定められています。通常ならば、立法機関たる国会が裁判所の規律を定めるはずですが、司法の独立性を高めて、立法機関から恣意的な操作を受けないようにこの規律が憲法に明記されました。
また、下級裁判所の裁判官は内閣が任命しますが、これはあくまで形式的なものです。内閣は任命する際、最高裁判所の出した指名名簿に基づかなければなりません。
では、裁判官の独立とはどのようなものでしょうか?
裁判官の独立とは、以下のようなことを意味します。
- 裁判官の身分が保障されていること
→行政機関によって懲戒処分を受けないこと、報酬が不当に減額されないこと、罷免される場合がごく少数のケースに限られるといったこと等 - 裁判官の職権行使の独立が認められていること
→政治的干渉等の権力や世論に裁判官の判断は配慮する必要がないこと。これは憲法76条で定められている
1-3: 日本の司法権
さて、日本の裁判所は最高裁判所を頂点としてさまざまな種類があります。この裁判所の種類についてここでは簡単に解説していきます。
公正で慎重な裁判を行い、誤りを防いで人権を最大限尊重するために、日本では「三審制」というシステムが導入されています。これによって、裁判所の判断に納得がいかない場合、被告は原則二回まで上級の裁判所の不服申し立てをすることができます。
第一審は原則として、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所で行われます。それぞれの裁判所は、以下のものを取り扱います。
- 地方裁判所・・・民事裁判や刑事裁判
- 家庭裁判所・・・家事審判や少年審判
- 簡易裁判所・・・比較的小規模の民事裁判や刑事裁判
第二審は原則、第一審で不服申し立てを取り扱い、主に高等裁判所で行われます。そして、第三審は、第二審の判決にも納得がいかず、不服申し立てされた際に行われます。最高裁判所で原則は行われ、最高裁の判決を覆すことはできません。
1-4: 検察とは
ここでは、行政機関の一員でありながら政治とは距離を置き、準司法権的性格を持つ検察についてみていきましょう。
検察とは、
- 罪の取り調べを行い犯罪の捜査をする、または警察から送られてきた容疑者を裁判にかけて有罪を目指すか否か(起訴するか否か)を判断する法律の専門家
- 警察と協力をするものの、独自の判断で(法的な立場から)起訴するか否かを判断するのが特徴
です。
警察官が警察庁や警視庁といった官庁に属しているのと同様に、検察官も法務省管轄の検察庁に属し、行政機関の一員とされています。
しかし、検察官は裁判にも出席し、被告の刑の求刑も行うことが知られているように、刑事司法手続に大きく関わることから準司法的性格を有するとされています。
実際のところ、検察庁は法務省からの一定の独立が認められています。ロッキード事件では時の首相である田中角栄氏を起訴する等、行政機関に属しながら司法権を持つかのように動き、時には政権に刃を向くことさえあります。
- 司法権とは、裁判を通じて判決を下す機能を持つ、立法権、行政権と並ぶ国家権力を構成する一つ
- 裁判所で行われる裁判は、主に民事裁判と刑事裁判である
- 検察は行政機関の一員でありながら、政治とは距離を置き、準司法権的性格をもつ
2章:司法権と三権分立
さて2章では、三権分立において司法権がどのように立法権や司法権と関わっているのかを説明します。
まず、三権分立の制度を軽く確認しておきましょう。三権分立とは、
- 国の権力を三つの機関に分散させることで、権力の一極集中を避け、国家が権力を濫用するのことを防ぐもの
- 三機関はそれぞれがお互いを監視し、抑制しあっている
というものです。
具体的には、司法権は以下のように立法権と行政権を監視・抑制することができます。
- 立法権(国会)に対しては、違憲立法審査権を行使する
→国会で成立した法律が憲法に違反してないかを裁判所がチェックする機能のこと - 行政に対しては、行政事件裁判権を行使する
→行政が訴える・訴えられる裁判を、裁く権利を持つこと。これは、証拠や権力等で明らかに有利な行政と、明らかに不利なもう一方を可能な限り公正に裁くことができるように考えられた権利である
一方、司法権は次のように立法権や行政権からの監視を受けています。
立法権(国会)は弾劾裁判所を設置することができる
→弾劾裁判所では、不適切な言動をとった、または不正をはたらいた裁判官を国会議員が裁き、裁判官をやめさせることが可能である
→立法機関に本分である法律の制定は、法律に従って裁きを下す裁判所を拘束しているともいえる
行政権(内閣)は最高裁判所の長官を指名し、ある程度裁判官の人事に関与することができる
→つまり、司法権は人事権によって行政権からの監視を受けている
より詳しくは、以下の記事で解説していますので、ぜひ読んでみてください。
→【三権分立とは】権力はいかに独立し監視しあっているのかわかりやすく解説
3章:司法権に関する学術的な議論
3章では、日本の司法に関する研究者の批評や問題点をみていきましょう。
3-1: 司法の消極性
東京大学大学院教授の宍戸常寿は、日本の司法が諸外国に比べて弱く、消極的であると主張しています3ヤフー政策企画 「第五回 司法の抱える課題と目指すべき役割とは。」https://publicpolicy.yahoo.co.jp/2018/05/1420.html(最終閲覧日 2020年6月29日)。それは各国と比較すると、一目瞭然です。
- アメリカの連邦裁判所が2014年の時点で、177の連邦法に違憲判決を出した
- ドイツの連邦憲法裁判所が2013年の時点で、476もの法律や命令を違憲とした
- 戦後70年のなかで日本の最高裁が出した法令違憲判決は、わずか10である
ただ、一方で宍戸は司法権が実際に違憲審査を強めることは、三権分立と憲法に関わる問題であるとして、容易ではないことも指摘しています。ここから、日本の司法権が諸外国に比べて存在感が薄いものの、その解決は簡単ではないことがわかります。
これは、他の学者の中でも問題視されています。実際に憲法に違反している法律を見逃しているのではないか、さらには司法権の存在感が薄れることで、三権分立の均衡が崩れているのではないかと危惧している研究者も少なくありません。
たとえば、専修大学大学院教授の棟居快行氏は、日本の付随審査制(事件の解決を通して違憲判決を出し、それが社会的影響力を持つというもの)の問題を指摘しています4ヤフー政策企画 「第五回 司法の抱える課題と目指すべき役割とは。」https://publicpolicy.yahoo.co.jp/2018/05/1420.html(最終閲覧日 2020年6月29日)。この制度では訴訟がない限り審査が行われないので、「違憲」なものが残り続ける制度として問題化されました。
白鴎大学法学部教授の村岡啓一は、このような違憲判決の少なさを問題視し、三権分立制の中での司法の独立性、司法の憲法の番人としての役割が守られているとは到底言えないと指摘しています5nippon.com 「「同調圧力」に晒され、独立の危機にある裁判官」 https://www.nippon.com/ja/in-depth/a06803/ (最終閲覧日2020年7月3日)。
村岡氏はこの原因として、裁判官を任官時から定年まで続ける官僚的なシステムを挙げています(→官僚制に関して、詳しくはこちらの記事)。
- 官僚的なシステムによって、裁判官も官僚のように均一化し、積極的に憲法判断をしたがらない実像がある
- 日本の伝統的な官僚制が裁判官の没個性化を招いており、結果的に司法権が行政の圧力に屈し、三権分立(並びに司法の独立性)が崩壊しかねない状況を招いている
では、三権分立が崩れることにどのような問題があるのでしょうか?2章の冒頭でも確認しましたが、三権分立は一つの機関に国家権力が集中するのを防ぐ仕組みです。
もし、一つに機関に権力が集中すれば、中央集権的に政治が進み、効率が上がるという利点もある一方で、その弊害として国家の利益が個人に利益に優先され、少数の意見が無視されてしまう可能性があります。
その結果、日本国憲法で規定された個人の尊厳が失われてしまうかもしれないことが危惧されます6神谷和孝 1989「権力分立制に関する一考察 -その変容と日本国憲法における諸問題を中心として」『東海女子短期大学紀要』(15), 21-29頁。
3-2: 裁判官の数
そもそも、日本の裁判官の数は諸外国に比べて、人口あたりの人数が非常に少ないです。
2016年に日本弁護士連合会が発表しているデータによると、「裁判官一人当たりの国民数」が日本では、約4万6千人であるのに対し、他の4国(アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス)では約1万8千人です7日本弁護士連合会 公式サイト https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/statistics/data/white_paper/2016/1-3-5_tokei_2016.pdf(最終閲覧日 2020年7月3日)。
この理由から、日本では多くの裁判では判決まで持ち込まれず、手間を省くために裁判官が主導してなんとか和解や調停に持ち込むことが一般的です。
こうしたことから、明治大学政治経済学部の西川伸一が言うように、日本において司法の充実がなされているとは、到底言えないと考えられます8西川伸一「裁判官増員の現状と課題」 http://www.nishikawashin-ichi.net/oral-reports/oralreports-53-1.pdf(最終閲覧日 2020年7月3日)。
ただし、現在の日本で司法機能を強化する必要があるとしても、それは現状の制度を量的に拡大するだけではなく、これまでになかった要素を司法関係の制度に導入するべき、という議論もあります9飯尾潤『日本の統治構造』224頁。
つまり、単に裁判官を増やすというだけでなく、質的に異なる制度を取り入れる視点も重要なのです。
- 一つに機関に権力が集中すれば、日本国憲法で規定された個人の尊厳が失われてしまうかもしれない
- 日本の裁判官の数は諸外国に比べて、人口あたりの人数が非常に少ない
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4章:司法権について詳しく学べる本
司法権を理解することはできましたか?
基礎的な内容だったかもしれないですが、以下の書物を参考に学びを深めていってください。
オススメ度★★★ 森炎『裁判所ってどんなところ?- 司法の仕組みがわかる本』(ちくまプリマー新書)
司法権の独立、三審制、三権分立の制度における司法権について分かりやすく解説している本です。専門性の高い本ではないのでとても手に取りやすい一冊だと思います。
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オススメ度★★ 郷原信郎 『検察の正義』(ちくま新書)
刑事司法の正義を世の中に体現していると思われていた検察の内部で、揺れ動いていた正義に関する考え方を記した名著です。少し難しいですが、検察の仕組みだけでなく、社会と検察の関わりまでわかる本なので是非読んでみてください。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- 司法権とは、裁判を通じて判決を下す権力のことで、立法権、行政権と並ぶ国家権力の一部
- 三権分立において、司法権は立法権や司法権と関わりながら機能する
- 一つに機関に権力が集中すれば、日本国憲法で規定された個人の尊厳が失われてしまうかもしれないことが危惧される
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引用・参考文献
政府広報オンライン 「公平な裁判を通じて、国民の権利と自由を守る「裁判所」の仕事を見に行こう!」https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201204/4.html(最終閲覧日 2020年6月29日)
田村公伸 2010「刑事司法と検察」『立法と調査. (311)』参議院https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2010pdf/20101201002.pdf (最終閲覧日 2020年6月29日)