国際政治学

【日本の難民問題とは】受け入れ現状・課題・支援策をわかりやすく解説

日本の難民問題

難民とは、1951年の「難民の地位に関する条約」によって「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れた」者と定義されています。

ただし今日では、武力紛争の被害を避けるために他国に逃れた人々など、上記の理由に含まれていない場合でも、広義の難民ととらえる考え方が広まっています。

そして、日本社会には年間1万人以上の難民申請者がやってきています。

ですが難民というと、どこか遠くの話と思われがちです。報道の場においても移民と難民を混同するケースが目立つほか、最近では「帰宅難民」や「買い物難民」のように、難民という言葉が定義とはほど遠い使われ方をされることも少なくありません。

そこでこの記事では、

  • 日本の難民受け入れのデータ
  • 日本の難民認定の流れ
  • 日本の難民受け入れの課題
  • 日本で行われている難民支援

について詳しく説明します。

ぜひ興味のある所から読み進めてみてください。

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1章:日本の難民受け入れの現状

日本の難民受け入れ体制は海外の基準とは異なる点が多く、日本の難民問題を理解するためには、現状を詳しく知っておく必要があります。

そこで1章では日本の難民受け入れに関するデータを紹介しながら、日本の難民受け入れの基本的知識と、その特徴的な点について説明していきます。

1-1:日本の難民受け入れ数

前述のように、現在日本には年間1万人以上の難民申請者が訪れていますが、そのなかでいったい何人が難民として認定されているのでしょうか?

平成30年度のデータによると、日本で難民として認定された人数はわずか42人。難民認定率は0.4%という低さです。難民申請者の人数から考えると、非常に少ない数となっています。なぜこれほど日本の難民認定が厳しいのかについては、のちほど説明します。

では、どこから難民はやってくるのでしょうか?

平成30年度の日本における難民申請者の国籍は74か国にわたり、ネパール、スリランカ、カンボジア、フィリピン、パキスタンが申請者数の上位5か国となっています。

実際に難民として認定された者の国籍の内訳は、以下の通りです。

■日本の難民認定の内訳

  • コンゴ民主共和国13人
  • イエメン5人
  • エチオピア5人
  • アフガニスタン4人
  • 中国4人
  • イラン3人
  • シリア3人
  • ウガンダ1人
  • エリトリア1人
  • コロンビア1人
  • ブルンジ1人
  • 無国籍1人

また日本では、難民として認定されなかった者が「人道的配慮による在留特別許可」を与えられることがあり、40人がこのケースに該当しました。

つまり、「人道的配慮による在留特別許可」も含めると、難民認定の手続きの結果日本が受け入れた外国人は、合計82人(平成30年)ということです。

人道的配慮による在留特別許可は、難民申請が認められなかった人に対し、「人道上の観点から日本に在留することを特別に許可する」という日本特有の制度ですが、日本語教育や就職あっせん等の支援を受けられないなど、正規の難民とは大きな差があります。

また、許可の基準は公になっておらず、法務省の裁量に任されており、本来正規の難民として認定されるべき人が人道的配慮による在留許可で済まされているという批判があります。

参考:根元かおる『日本と出会った難民たち――生き抜くチカラ、支えるチカラ』(英治出版)

1-2:日本と主要国の受け入れ数比較

日本における難民認定の厳しさに驚かれた方も少なくないと思います。では、他国ではどうなっているのでしょうか?

ここでは主要先進国と日本を比較してみましょう。

日本と主要先進国における難民認定数と認定率

国名 難民受入数(人) 難民認定率
ドイツ 56,583 23.0%
アメリカ 35,198 35.4%
フランス 29,035 19.2%
カナダ 16,875 56.4%
イギリス 12,027 32.5%
イタリア 6,448 6.8%
韓国 118 3.1%
日本 42 0.3%

(参考:「G7+韓国の難民認定数と認定率」難民支援協会 https://www.refugee.or.jp/jar/report/2019/07/17-1200.shtml最終閲覧日2019年12月12日)

このデータを見ると、やはり日本の難民認定率が突出して低いことがわかります。日本の難民認定は他国に比べて非常に厳しいものであるといえるでしょう。

よく知られていることではありますが、ヨーロッパの難民問題は日本とは比べものにならない規模のものです。詳しくは以下の記事で解説しています。

【ヨーロッパの難民問題とは】原因・問題・解決策をわかりやすく解説

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1-3:日本の難民認定が厳しい理由

難民認定率の極めて低い日本ですが、不思議なことに2010年から2017年までの間に難民申請者数は増え続けました。2010年には1200人程度だった申請者が2017年には2万人近くにまで増加したのです。いったいなぜでしょうか?

1-3-1:偽装難民の問題

その理由として挙げられるのが、日本での就労を目的として難民申請を行う「偽装難民」の存在です。

たしかに難民申請者の国籍を見ると、大量に難民が発生するとは考えにくい国の名前が目立ちます。

従来の難民認定制度では難民申請者は申請から半年で就労が可能とされていました。そのため、所得格差の大きい東南アジア諸国などからこの制度を利用しようとした人々が大量に難民申請をするようになったといわれています(ただし、このような国の出身者でも難民の定義に当てはまる者が一定数いるため、一概に出身国で難民としての妥当性を問うことはできません)。

明らかに難民とはいえない申請者数の増加は難民審査の遅延を招き、難民についての誤解や偏見を生み出すなど、本当に難民と認定されるべき人に不利益を生じさせます。

2018年以降、明らかに難民に該当しないと判断される者は就労が許可されないようになりました。

しかしこれらの事実を踏まえても、日本の難民認定制度は世界的な基準から見て不当に厳しいと言わざるを得ません。他国では多くの場合難民として認められているシリア内戦から逃れた人々やロヒンギャ族の人々も、日本では難民として認定されないことが珍しくないのです。

いったいなぜでしょうか?

1-3-2:日本政府の難民の定義は限定的

その理由は、日本政府による難民の限定的な解釈にあるといわれています。ここでもう一度難民の定義を思い出してみましょう。

1951年の「難民の地位に関する条約」により、難民とは「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れた」者と定められていました。

日本は、この狭義の難民の定義をもとに、紛争のみを理由に逃れた人々を難民として認めていません。また迫害に関しても、難民申請者自身が個人的に激しい迫害の対象とされていることを具体的に証明する必要があるとしています。

こうした難民の解釈の仕方は世界的に見て異例であり、海外諸国から批判を浴びています。

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1-4:日本の難民認定の流れ

では、日本における具体的な難民認定の流れはどうなっているのでしょうか?

日本の難民認定制度は基本的に2つの段階に分かれています。

■段階①

  • 入国管理局の難民調査官によって行われる1次審査ではまず、現地での迫害の状況を申請者からのインタビューで聞き取る
  • その後、申請者の出身国の情報と照らし合わせて申請者の証言の信憑性を判断する。そして、申請者が難民に該当すると判断した場合、難民として日本での在留資格が認める
  • また、難民に該当しないもののやむを得ない理由で出身国に帰ることができないと判断した場合、人道的配慮による在留特別許可が下される

■段階②

  • そのどちらにも当てはまらなかった申請者は、難民不認定の通知から7日以内に限り、異議を申し立てて審査請求を行うことができる
  • この第2段階では、有識者の難民審査参与委員によって再審査が行われる
  • そこでは1次審査と同様に、難民認定、不認定、人道的配慮による在留特別許可のいずれかの判断が下されます。再び不認定となった申請者は訴訟を起こさない限り、国外退去を命じられる

(参考:『世界の難民をたすける30の方法』(滝沢三郎 編著))

1-5:難民の収容について

日本の難民認定の厳しさも問題ですが、それだけでなく難民の収容方法も非人道的であると批判されています。

難民申請の審査は平均10か月と言われており、再申請や訴訟の期間を含めると、審査はさらに長期間に及びます。

その間に在留資格の期限が切れて不法滞在者となってしまった難民申請者は、入国管理局の施設、通称「入管」に収容されることがあります。

日本では、不法滞在者は難民申請中の人も含めて、その理由に関係なく全員収容することができるという「全件収容主義」が原則となっています。さらに、法律上では彼らの収容可能期限が定められておらず、こうした現状は人権侵害であると問題視されています。

また、日本の入管では外部との連絡手段が制限されており、被収容者にインターネットの使用が許されていません。そのため、難民申請に必要な証拠資料を集めたり、翻訳者を探したりすることは非常に困難だといいます。

そのうえ、入管内の医療も不十分で、心身を病んでしまう被収容者が後を絶ちません。

近年でも入管では自殺や衰弱による死亡事件や、一時的な収容の停止を意味する仮放免を求めたハンガーストライキが繰り返し起こっている状況で、国内外からの批判が高まっています。

1章のまとめ
  • 日本の難民申請者は1万人いる一方、認定されたのは42人(平成30年)と、世界に比べて突出して低い
  • 難民認定が少ないのは、日本には「偽装難民」が多いこと、政府による難民の定義が限定的であることがあげられる
  • 日本は、難民の収容についても批判されている
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2章:日本で行われている難民支援

難民受け入れ体制に多くの課題が存在する一方、日本中で様々な形の難民支援が行われています。ここでは、政府による難民支援、NPOや企業等の政府以外の団体による難民支援、さらに制度面での難民支援について説明します。

2-1:日本政府による支援

難民の受け入れに関しては遅れているといわれる日本ですが、資金援助の面では難民問題に大いに貢献しています。

平成30年度には、日本政府は約7250万米ドルを、2019年の国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の活動に拠出しており、これは世界で5番目に大きな金額です。

さらに日本政府は長年、アジア福祉教育財団難民事業本部に事業を委託して難民の暮らしを支援しています。難民事業本部では、難民が日本に定住して自立的な生活を送れるようになるために、以下のような事業が行われています。

  • 難民とその家族が日本社会で自立できるようになるための日本語教育
  • 最大半年間の宿泊施設の無料提供
  • 生活援助費、就職促進のための援助金、教育援助費等の支給
  • 日本の社会制度や生活習慣、文化、保健衛生等に関するガイダンスの実施
  • 難民の就職先や職場適応訓練のあっせん
  • 難民の生活に関する相談の実施

(参考:「難民事業本部のプロフィール事業」(公財)アジア福祉教育財団難民事業本部 http://www.rhq.gr.jp/japanese/profile/business.htm(最終閲覧日2019年12月12日))

2-2:その他の団体による支援

日本にいる難民や難民認定申請者の支援には、政府関連団体以外の存在も欠かせません。

現在その柱となっているのが、認定NPO法人難民支援協会です。同協会は、難民認定申請手続きをサポートする法的支援や、避難所の提供等の生活支援に加え、就労支援まで幅広い活動を行っており、これまでに数多くの人々の命を救ってきました。

その他にも、難民のための日本語教室や難民の子供のための学習教室、難民と地域住民の交流会など、難民が尊厳を持って生活できるようになるための取り組みが、数多くのボランティア団体によって行われています。

さらに、難民支援に貢献する日本企業も存在します。例えば、衣料品メーカーのUNIQLOは難民支援に積極的に取り組んでいる企業のひとつです。

同社は、衣料を回収、リサイクルして世界中の難民に届ける衣料支援や、難民に職業訓練プログラムを提供する自立支援を行うほか、難民を自社で雇用する取り組みも進められているといいます。

このように、政府だけではなく様々な団体が難民や難民認定申請者の支援に関わっているのです。

2-3:第三国定住制度

日本で難民として暮らす人の中には、他国で難民と認定された者もいます。祖国から他国へと逃れた難民を第三国が再び受け入れるという、第三国定住制度を利用した難民です。

日本では2010年からこの取り組みが進められており、これまでにタイやマレーシアに一時滞在しているミャンマーからの難民を150人以上受け入れてきました。

第三国定住制度は、新しい難民受け入れの制度として期待されており、すでに第三国定住制度を利用して数万人の難民受け入れを実現している国もあります。

日本政府も第三国定住制度の拡大に前向きで、将来的に年間100人以上の受け入れを目指しているといいます。

2章のまとめ
  • 日本政府は約7250万米ドルをUNHCRに拠出している(世界で5番目の大きさ)
  • 日本政府はアジア福祉教育財団難民事業本部に事業を委託し、難民の生活支援をしている
  • 認定NPO法人難民支援教会や、UNIQLOのような民間企業も難民を支援している
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3章:日本の難民問題について学べるおすすめ本

日本の難民問題について理解を深めることができたでしょうか?

最後に日本の難民問題をもっと詳しく理解するための書籍を紹介します。

オススメ書籍

オススメ度★★★ 滝沢三郎 (編著)『世界の難民をたすける30の方法』(合同出版)

難民とは誰かという説明から、難民認定の詳しい仕組み、世界中の難民支援の取り組みまで、幅広い内容が百数十ページに凝縮されています。読みやすく、多くを学べるので、難民問題を新たに知りたい方にもオススメです。

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オススメ度★★★根本かおる(著)『日本と出会った難民たち――生き抜くチカラ、支えるチカラ』英治出版

UNHCR事務所で15年間の勤務経験をを持つ著者が、日本の難民の現実を映し出した一冊。日本の難民受け入れの課題が浮き彫りにされているとともに、新たな難民支援の形も描かれており、今後の可能性が感じられます。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 日本への難民申請は1万人いる一方、認定は42人(平成30年)と厳しい上、収容方法などにも問題が指摘されている
  • 日本政府は難民受け入れには厳しい一方、資金の拠出などで大いに貢献している
  • 日本ではNPOや民間企業も難民を支援している

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