日本政治

【無党派層とは】増加傾向にある背景や経緯をわかりやすく解説

無党派層(Independent voter)とは、支持する政党のない有権者のことです。

現代の日本では無党派層が有権者の多数を占めており、選挙でも無党派層の票をいかに獲得するかが勝敗の分かれ目とも言われています。

そこで、この記事では、

  • 無党派層の政治への影響
  • 無党派層の割合
  • 無党派層が増大する背景・経緯

について詳しく解説します。

ぜひ読みたい所から読んで勉強に役立ててみてください。

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1章:無党派層とは

1章では無党派層を概説します。無党派層が誕生する背景・経緯に関心のある方は2章から読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:無党派層の政治への影響

最初に述べたように、無党派層は「支持する政党のない有権者」を指します。政治学者の田中愛治によれば、60年代まで無党派層は政治に無関心で投票にも行かないから、選挙の際に意味をもたないと考えられていました2久米・田中ほか『政治学』(有斐閣)392頁

しかし、1-2で見ていくように、70年代以降、無党派層は増加していき、存在感を増していきます。以下は、田中が日本の無党派層を政治的関心度によって分類した結果を表にしたものです31976年-1991年の学術調査・世論調査の結果を元に田中が作成したものを、筆者が再構成。田中愛治「選挙・世論の数量分析―無党派層の計量分析」(日本オペレーションズ・リサーチ学会論文誌1998年7月号)370頁

政治的関心あり 政治的関心なし 合計(全体における無党派層の割合)
1976年 7.2% 13.8% 20.7%
1983年 11.8% 17.0% 28.6%
1987年 20.6% 15.3% 36.0%
1991年 20.7% 16.1% 36.9%

政治的関心度による無党派層の分類とその割合

この表を見ると、日本における無党派層の割合は増えていることがわかります。また、1983年までは無党派層の中でも政治的関心がない人の割合のほうが多かったですが、1987年にはその割合が逆転していることも示唆されています。

つまり、無党派層のなかでも特に、「政治に関心はあるが支持政党はない人々」の割合が増えていったのです。言い換えれば、1980年代後半以降の無党派層は支持政党が無いからといって政治に関心が無いわけではないため、選挙でも無視できない存在となってきたのです。

田中によれば、このような「政治に関心はあるが支持政党はない人々」は、細かい政策内容や自民党の派閥の問題などの、いわゆる「永田町」の動向には関心を示さず、自分の生活に関連する政策争点や国際政治に関心を示します4田中愛治「無党派層のこれまでと現在」nippon.comを参照

政党側は永田町の動向に関心を示さない人々を「政治的無関心層」としてひとくくりにしがちですが、「政治に関心はあるが支持政党はない人々」は経済の危機や生活の危機を感じた場合に、政党の側が予測できないような投票行動をするようになるのです。

※投票行動に関してはこちらの記事を参照ください。→【投票行動とは】社会学・心理学・経済学の研究からわかりやすく解説

一方、政治学者のエリス・クラウスとロバート・ペッカネンによると、日本の内閣の支持率や選挙の結果は無党派層の増加に伴って、テレビでの党首個人や内閣のイメージに左右されるようになったと分析しています5Ellis S. Krauss and Robert J.Pekkanen “The Rise and Fall of Japan’s LDP” Cornell University Press 229-230頁

80年代以降は「ニュースステーション」などの報道番組が人気を博し、テレビで描かれる党首・内閣のイメージが無党派層の支持率に大きく影響を与えるようになりました。テレビで人気を得て、無党派層の票をより多く獲得した政党が選挙で勝つようになったのです6Krauss and Pekkanen 前掲書 227-229頁

ちなみにクラウスとペッカネンは、中曽根康弘や細川護熙をテレビを利用して成功した政治家、宮沢喜一をテレビ利用に失敗した政治家と評しています7Krauss and Pekkanen 前掲書 228-229頁。特に中曽根のテレビ戦略は巧妙だったようで、当時の社会党の広報部長を務めた岩垂寿喜男は以下のように語っています8岩垂寿喜男・伊藤陸雄「社会党とテレビジョン」『放送批評』1986年10月号(逢坂巌『日本政治とメディア』(中公新書)より重引)

中曽根さんは防衛問題などではむしろマイナスイメージがある。経済の面でも決して甘い点数ではない。どこで成功しているんだというと、虚像の部分。座禅組んだり、水泳やったり、テニスしたり、英会話がお得意(?)とか。それがお茶の間にしっかり定着してる。中曽根さんは見事にテレビや週刊誌というメディアを利用していると言えます。

このように、テレビでのイメージを利用して無党派層の支持を集めることが、政治家や政党の成功に直結する時代になっていることがわかります。

また、クラウスとペッカネンが時事通信の世論調査データを分析したところ、内閣の支持率は党の支持率よりも振れ幅が大きいことが分かりました9Krauss and Pekkanen 前掲書 230頁。このことからも、内閣の支持率が、その時々の首相や内閣のイメージに大きく影響を受けることが示唆されます。

以上のように、無党派層は当初、政治情勢に影響を与えない無関心層と捉えられていましたが、近年では選挙の結果を左右する重要な存在となっていることがわかります。



1-2:無党派層の近年の数・割合・特徴

では、実際、日本には無党派層とよばれる人々がどのくらいいるのでしょうか?データから確認していきましょう。

NHK放送文化研究所が行っている「日本人の意識調査」では、「あなたは、ふだん、どの政党を支持していますか」という質問があります。この質問に対して、「特に支持している政党はない」と答えている人々が、この記事で言うところの「無党派層」を指します。

その集計結果を、グラフにまとると以下のようになります10NHK放送文化研究所『現代日本人の意識構造[第9版]』(NHK出版)99頁を元に筆者作成

支持政党推移

このグラフから、日本における無党派層の割合は上昇傾向にあり、同時にそれぞれの政党の支持率は減少傾向にあることがわかります。ただし、割合の変化の幅は一定ではなく、調査年によってまちまちです。このことから、無党派層の割合は、それぞれの時代の影響を受けていると考えられます。

さらに、「日本人の意識調査」の結果をまとめた『現代日本人の意識構造[第9版]』では、無党派層の年層別の比較を行っています11NHK放送文化研究所 前掲書 100頁。それによれば、自民党は高年齢層の支持を集めているのに対し、無党派層は若い世代ほど多いという特徴があるようです。よって、無党派層の割合には、世代の影響もあると考えられます。

以上より、無党派層の割合の変化には、時代や世代の影響が無視できないことが理解できます。それぞれの背景については、2章でくわしくみていきましょう。その前にいったんこれまでの内容をまとめます。

1章のまとめ
  • 無党派層とは、支持する政党のない有権者のことである
  • 無党派層は当初、政治情勢に影響を与えない無関心層と捉えられていたが、近年では選挙の結果を左右する重要な存在となっている
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2章:無党派層増大の背景・経緯

さて、2章では無党派層が増大する背景や経緯を解説します。

2-1:無党派層増大の背景:世代の影響

まず、無党派層増大における、世代の影響について考えていきましょう。ここで言う「世代の影響」とは、生まれた年があたえる影響のことを指します。

「政治の世界についての知識、感情、評価といった政治的志向性を個人がそれぞれ獲得するプロセス」12awson, Richard E., Kenneth Prewitt, and Karen S. Dawson “Political Socialization 2nd edition”(=加藤秀治郎・青木英実・中村昭雄・永山博之訳『政治的社会化:市民形成と政治教育』芦書房 69頁)のことを「政治的社会化」といいますが、個人が支持する政党もその過程で決まっていきます。

政治学者の田中愛治は、この政治的社会化の過程で支持政党を決めない、つまり無党派層になる人々が現れるのは、支持政党を決めたところで、選挙でどの候補者に投票するかを決める手助けにならなくなっているからだと述べています13久米・田中ほか前掲書 395頁

これは、近年の日本において、各政党の政策があまり変わらないことに起因します。たとえば、以下の例を考えてみてください。

  • 1996年の衆議院選挙では共産党を除くすべての政党が「行政改革」を政策目標に掲げる
  • 1998年の参議院選挙と2000年の衆議院選挙ではすべての政党が「景気の回復」を謳った
  • 2001年の参議院選挙では共産党と社民党以外のすべての政党が経済の「構造改革」を主張した

田中はこれらの例から、どの政党も政策が似通っており、支持政党を持つことが投票先を決めるのに役立たないため、「政党拒否層」としての無党派層が生まれたと分析しています14久米・田中ほか前掲書 395頁

この記事執筆時点(2020年10月)での主要な国政政党(国政選挙に出馬する政党)の政策を見比べても、社会保障や経済などの重要な争点において、内容の重複があります。

  • 連立政権を維持している自民党と公明党は経済・社会保障・災害対策などの政策が似通っている15自由民主党「重点政策」や公明党「重点政策」を参照
  • 社会保障や災害対策は、与野党を問わず重要な政策として挙げられている16立憲民主党「綱領」

もちろん、それぞれの政策に関する細かい主張は異なっています。そのため、選挙のたびに、詳細を確認しながら投票する政党を決めるか、直感的なイメージで投票先を決める必要が出てくるのです。

こうして、政党名で投票先を判断しない、田中が言うところの「政党拒否層」が生まれていきます。そして、このような傾向は近年に顕著であるため、政治的社会化の真っ只中にいる現代の若者ほど、政党拒否層が多いことになります。

1-2でも述べたように、「日本人の意識調査」の結果で若者ほど無党派層が多いのは、このためと考えられます。



2-2:無党派層増大の背景:時代の影響

次に、無党派層増大の背景として、時代の影響について考えていきましょう。ここで言う「時代の影響」というのは、その時代特有のきっかけが無党派層の増大に与えた影響のことを指します。

政治学者の逢坂巌は、日本で無党派層が増大した転機として、自民党・社会党・新党さきがけの連立政権誕生を挙げています17逢坂巌『日本政治とメディア』(中公新書)239-41頁。社会党や新生党に政権を譲り渡しており、政権への復帰を第一の目標としていた自民党は、社会党の村山富市を擁立し、社会党・新党さきがけと連立することで政権に返り咲きました。

しかし、これに対する世論は冷ややかでした。逢坂は、当時の東京新聞が行なった映画監督山田洋次への政治に関するインタビューを、市井を代表する意見として取り上げています18東京新聞1994年7月30日(逢坂前掲書 240頁より重引)

東京新聞:自社連立政権は?

山田洋次:何て言うのかな、日本人の気持ちを非常に深く傷つけたんじゃないんですかね。

東京新聞:深く傷つけた?

山田洋次:だって、もともと基本的に対立する党としてあったわけでしょ。そういう形であり続けることが当然だし、自民党が与党の時は社会党が野党としてがんばり、時としてそれがひっくり返ってもいい。その二つがくっつくということは、社会党、自民党をそれぞれ支持してきた人たちにとって、大きな裏切りであったと言うか…。

東京新聞:政治的な裏切り

山田洋次:恋人に裏切られるのは人間の悲しいさがとして仕方がないが、政治の裏切りは人間の心の奥底に染み込んでいき、退廃的な気持ちにしていく…というのかな。(自社連立政権は)とても現実とは思えない。夢だったら早く覚めてほしいというか…。

このように山田は、村山政権の誕生を自民・社会両党の支持者への「大きな裏切り」と表現し、有権者として落胆の意を示しています。

時事通信社の世論調査によれば、細川・羽田・村山内閣期に無党派層は最低45%から最高67%に増加しており、有権者全体としても両党への信頼の揺らぎが見て取れます19前田幸男「時事世論調査に見る政党支持率の推移(1989-2004)」(中央調査社「中央調査報(No.564)」)

田中愛治は2-1で述べたような「政党拒否層」とは別に、「脱政党層」とも言える無党派層の存在を指摘しています20久米・田中ほか前掲書 395-6頁。これは、政党への不満などにより、それまでの支持政党を失った人々を指します。

前述の山田の例のように、90年代後半は自民党・社会党双方への不信感が日本全体で広がり、脱政党型の無党派層が増加したのだと推測できます。

以上で見てきたように、無党派層の増大には世代と時代、2つの背景があり、それぞれが有権者の合理的な判断の結果であることが分かります。無党派層はもともと政治に無関心な人々と考えられ、今でもそうみなされることがあります。

しかし、無党派層の多くは有権者として投票先を決める過程で、無党派層にならざるを得ない状況に追い込まれているとも言えるでしょう。「日本人の意識調査」を行っているNHK放送文化研究所は、今後も無党派層の増大傾向が続くと推測しています21NHK放送文化研究所前掲書 100頁。近年の国政選挙で勝ち続けている自民党でさえも、その支持率は80年代に比べて減少しています。

この記事を読んでいる皆さんも無党派層の1人かもしれません。クラウスとペッカネンが指摘したように、無党派層はメディアにおける党首や内閣のイメージに沿って投票先を決める傾向にあります。それぞれの政党がどのような政策を推し進めようとしてるのか、投票に行く際は改めて考える必要があるかもしれません。

2章のまとめ
  • 無党派層の割合の変化には、時代や世代の影響がある
  • 無党派層の多くは有権者として投票先を決める過程で、無党派層にならざるを得ない状況に追い込まれている
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3章:無党派層に関するおすすめ本

無党派層について理解を深めることはできましたか?

この記事で紹介した内容はあくまで概要です。無党派層をしっかり学ぶために、これから紹介する本をあなた自身で読んでみることが重要です。

おすすめ書籍

オススメ度★★★ 久米郁男、川出良枝、古城佳子、田中愛治、真渕勝(著)『政治学』(有斐閣)

第19章で、日本の投票行動研究の第一人者である田中愛治が、無党派層について詳しく解説しています。政治学のさまざまなトピックについて網羅的に解説されている本なので、一冊持っておくとレポートや論文を書く際にとても便利です。

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オススメ度★★ 逢坂巌『日本政治とメディア』(中公新書)

テレビやインターネットなどのメディアと、日本政治の関係について、時系列に沿って丁寧に解説されています。新書ですがとても読み応えがあるため、関心のある時代について書かれた章から読むのも良いかもしれません。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 無党派層とは、支持する政党のない有権者のことである
  • 無党派層は当初、政治情勢に影響を与えない無関心層と捉えられていたが、近年では選挙の結果を左右する重要な存在となっている
  • 無党派層の多くは有権者として投票先を決める過程で、無党派層にならざるを得ない状況に追い込まれている

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