経営学

【カンパニー制とは】独立性が高い?メリットや日本の事例をわかりやすく解説

カンパニー制とは

カンパニー制(In-House Company System)とは、「事業部制組織における事業部門よりも、自立性・独立性が高い事業部門(カンパニー)を配置した組織形態」1野村総合研究所(2008)『経営用語の基礎知識(第3版)』ダイヤモンド社 41頁のことです。

英語のカンパニーが日本語で会社と訳されることからもわかるように、カンパニー制はひとつのユニット(カンパニーと呼ばれる)が、企業の内部組織にもかかわらず、あたかも独立した会社のように自立的な経営がなされることを狙った擬似的な分社型組織です。

このカンパニー制は、多様な内部組織の自立的な経営を促すことから、事業の発展が成熟期を迎えた大企業でよく見られる組織形態です。

この記事では、

  • カンパニー組織の背景・特徴
  • カンパニー組織の研究

などをそれぞれ解説していきます。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:カンパニー制とは

まず、1章ではカンパニー組織を概説します。2章以降ではカンパニー組織に関する研究を解説しますので、用途に沿って読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注2ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:カンパニー制の組織構造

カンパニー制の組織構造を「特徴」「事業部制」「分社化との違い」から説明していきます。

1-1-1:カンパニー制の特徴

冒頭で説明したように、カンパニー制とはひとつのユニット(カンパニー)が、企業の内部組織にもかかわらず、あたかも独立した会社のように自立的な経営がなされることを狙った擬似的な分社型組織です(図1)。

カンパニー制の組織構造のイメージ図1 カンパニー制の組織構造のイメージ3著者作成

カンパニー制は、法制度上で規定された概念ではなく、運用実態はさまざまです。ですので、企業によっては従来からの事業部制組織を単にカンパニー制と呼び換えただけというケースも存在します。

しかし、一般的なカンパニー制とは、企業内部に極めて自立性・独立性の高いカンパニーをもっている企業形態であり、次の3つの特徴があります。

  1. 組織としての自己完結性が高い
  2. カンパニーのトップが極めて大きな権限を持つ
  3. 独立した会計制度を持つ

【組織として自己完結性が高い】

カンパニー制では、労務管理や会計処理といった本社機能を除くバリューチェーン4バリューチェーンとは、日本語で「付加価値連鎖」と訳され、開発や生産、販売など付加価値の源泉となる企業活動のことを指す。の大部分をカンパニー内部に取り込むことで、自立性・独立性の高い運営を可能としています。

つまり、図1のように研究開発や生産、販売のような企業の活動に必要なほとんどの機能をカンパニー内部に保有することで、他の内部組織の力を借りず独立採算ができる運営を実現しています。

【カンパニーのトップが極めて大きな権限を持つ】

カンパニー制では、カンパニーのトップがあたかもひとつの企業の社長のような大きな権限を持ちます。

カンパニーのトップには、マーケティング計画や生産計画など経営戦略上必要な意思決定権だけでなく、カンパニー内部の人事権や、設備投資等に関する投資権まで与えられています。その結果、細かな社内決済を必要としないスピーディーな意思決定を実現しています。

【独立した会計制度をもつ】

カンパニー制では、カンパニーごとの独立性を担保するために、ほかの組織形態には見られない独自の会計制度を持ちます。

  • 一般的な企業・・・貸借対照表や損益計算書といった会計報告書は企業全体の活動を統括して、ひとつの報告書のみが作成される
  • カンパニー制・・・カンパニーごとに個別の資産と負債の配分がおこなわれ、損益だけでなく、資産効率などについてもカンパニーのトップの管理責任が発生する



1-1-2:カンパニー制と事業部制

事業部制とは、組織が目的ごとに部門化(事業部化)されており、1つ1つの事業部がすべての職能を持つことで、自立的に活動することができる組織構造です。

事業部制の組織構造図2 事業部制の組織構造5著者作成

図2からもわかるように、事業部制はカンパニー制と極めて似た組織構造を持ちます。しかし、事業部はあくまで企業の持つ職能を運営の効率化のために、製品ごと、あるいは地域ごとにまとめたユニットに過ぎず、一般的にはカンパニーほどの意思決定の権限や責任を持ちません。

事業部制とカンパニー制の違いをまとめると、次の図3のようになります。

カンパニー制と事業部制の違い図3 カンパニー制と事業部制の違い6著者作成

より詳しくはこちらの記事を参照ください。→【事業部制とは】特徴・成立の歴史・具体例をわかりやすく解説

1-1-3:カンパニー制と分社化の違い

事業部制以外にも、カンパニー制と似た組織構造を持つ組織形態に分社化があります。分社化とは、事業の内容や地域などのユニットで切り分けて、独立した子会社や関連会社を設立することです。

  • 分社化では、事業部やカンパニーなど組織の持つ既存のユニットを切り離し、新たに会社として設立する
  • 事業部制やカンパニー制のような組織内部の垂直的な主従関係にはならず、分社化した会社(親会社)が分社化された会社(子会社または関連会社)の株式を取得することで、分社化された会社を支配する

分社化された会社は、カンパニーと同等かそれ以上の意思決定権や責任の範囲を持つと言われています。

しかし、分社化された会社は法律上で認められた正規の会社であるのに対して、カンパニーはあくまで擬似的な分社型組織であり、カンパニー単独では法律上の会社の権利や義務を持ちません。



1-2:カンパニー制のメリット

カンパニー制のメリットとしては次のようなことが挙げられます。

1-2-1:責任と成果の所在の明確化

カンパニー制は擬似的な分社型組織で、独立した会計制度を持つため、業務に対する責任の所在が明確になるというメリットがあります。

一般的な職能別組織や事業部制組織では、ひとつのユニットができることや決められることは限られており、特に成果に対する評価を公平におこなうことできないという問題がありました。

しかし、カンパニー制ではあらゆる意思決定をカンパニー内でおこなうことができるため、成果に対する評価や責任の追求においてわかりやすい組織運営が実現します。

1-2-2:意思決定の迅速化

カンパニー制では、カンパニーのトップが大きな権限を持っているため、迅速な意思決定が期待できるというメリットがあります。

一般的な職能別組織や事業部制組織では、それぞれのユニットのトップには一定の権限しか与えられておらず、彼らが重大な意思決定をおこなうためには社長ないし取締役会の承認が必要でした。

しかし、カンパニーのトップはカンパニー内に関することであれば幅広い裁量を有しており、細かな決済や承認を必要としないため、急激なマーケットの変化や不測の事態に迅速に対応できるようになりました。

1-2-3:次世代経営者の育成

カンパニー制では、カンパニーのトップにひとつの疑似的な会社を運営する経験を積ませることで次世代経営者の育成ができるというメリットがあります。

また、カンパニーのトップを務めさせることは、次世代の経営者にふさわしい能力や度量をもっているかどうかを見極めるテストの役割を果たすことにもなります。



1-3:カンパニー制のデメリット

カンパニー制のデメリットとしては、次の3点が挙げられます。

1-3-1:経営資源の重複による組織の肥大化

カンパニー制では、企業活動に必要なほとんどの機能をカンパニー内に保有するため、経営資源の重複が生まれるというデメリットがあります。

たとえば、異なるカンパニー間で同じ生産設備を導入したいと考えても、独立した会計制度のもとでは、それぞれのカンパニーで同じ設備を購入する必要があるため、資源の余剰や非効率が生まれるリスクがあります。

1-3-2:企業統治(コーポレート・ガバナンス)の見直しが必要

カンパニー制では、ひとつの企業にあたかも複数の企業が存在しているような状況になるため、職能別組織や事業部制組織とは異なる企業統治(コーポレート・ガバナンス)を定める必要があります。

たとえば、極めて大きな権限をもつカンパニーのトップが自らの利益だけを追求してしまうような暴走を防ぐためにどのような監視が必要であるのか、またカンパニーのトップに対する評価や報酬はどのような基準で与えるのかを公式的に決めることで、カンパニー制の導入に際して発生しうる問題を事前に解決する対応が求められます。

1-3-3:カンパニー間の交流や連携が生まれにくい

カンパニー制は擬似的な分社型組織であり、それぞれのカンパニーが独立して運営ができるためカンパニー間の交流や連携が生まれにくいというデメリットがあります。

カンパニー間の交流や連携が少ないことで、会社全体に新たな価値を生み出すイノベーションが生まれにくくなったり、それぞれのカンパニーが同一市場でシェアを奪い合ってしまうカニバリゼーションが起きる可能性があります。

1章のまとめ
  • カンパニー制とは、「事業部制組織における事業部門よりも、自立性・独立性が高い事業部門(カンパニー)を配置した組織形態」7野村総合研究所(2008)『経営用語の基礎知識(第3版)』ダイヤモンド社 41頁のことである
  • カンパニー制には、組織としての自己完結性が高い、カンパニーのトップが極めて大きな権限を持つ、独立した会計制度を持つという特徴がある

 


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2章:カンパニー制に関する事例

2章では、日本で初めてカンパニー制という組織形態を採用したソニー株式会社を紹介します。

2-1:営業不振とカンパニー制の導入

もともとソニーは事業部制組織を採用していましたが、1990年代に入り単独決算で創業以来初の営業赤字を記録したことで、企業を再建するためにカンパニー制の導入も含めた大規模な組織改革をおこなっています。

ソニーの当時の経営業務室のメンバーであり、カンパニー制の導入にも関わった西村氏は1990年代のソニーの業績不振について次のように分析しています8西村茂 1997「カンパニー制と取締役会改革 −ソニーの組織戦略−」『オペレーションズ・リサーチ』Vol.42 No.10,  641頁

  1. 構造的な要因として、AVエレクトロニクス事業の既存ビジネスモデルの成熟化
  2. 短期的な環境要因として、円高と日本の景気低迷
  3. 内部的な要因として、組織の過度の細分化・多層化による効率の低下と組織活力の低下(いわゆる「大企業病」)

上記の問題を解決し、さらなる成長を実現するためにソニーは1994年4月に日本ではじめてとなるカンパニー制を導入します。



2-2:カンパニー制導入の目的

その導入の目的についてソニーは次のように発表しました9西村茂 1997「カンパニー制と取締役会改革 −ソニーの組織戦略−」『オペレーションズ・リサーチ』Vol.42 No.10,  641頁

  1. 中核ビジネスの一層の強化と新規事業の育成
  2. 市場対応型組織の導入による、マーケットの要請への製販一体となった対応
  3. 事業責任の明確化と権限の委譲による、外部変化に迅速に対応できる組織の構築
  4. 階層の少ないシンプルな組織の構築
  5. 起業家精神の高揚による21世紀に向けたマネジメントの育成

ソニーのカンパニー制図4 ソニーのカンパニー制10西村茂 1997「カンパニー制と取締役会改革 −ソニーの組織戦略−」『オペレーションズ・リサーチ』Vol.42 No.10,  641頁

カンパニー制を導入したことが大きな原動力となり、ソニーの業績は急激に回復し、1997年3月期では当時の最高業績を達成します。その背景には、次の3つの成功要因があったと考えられます。

  1. 経営システム面の改善
    →カンパニー制の導入によって権限以上の一層の範囲拡大がおこなわれたことで、現場によるスピーディな意思決定が可能となった
  2. 管理会計・業績評価面の改善
    →管理会計・業績評価面では、カンパニーのトップは組織の損益表(PL)の責任だけではなく、貸借対照表(BS)の責任を負うことになり、企業全体の業績指標と財務指標が大幅に改善した
  3. 分社的経営環境の実現
    →カンパニー制の導入によって、本社は全社的な意思決定や中長期的な事業計画の策定に注力することができ、本社の効率的な運営が可能になった

カンパニー制導入のさきがけであったソニーも、2005年に特定製品分野への経営資源の集中と重要領域における事業本部間の連携の強化を目指して、カンパニー制を廃止し、ふたたび事業本部制を復活させています。

これはすべての組織形態に共通して言えることですが、あらゆる環境変化に適応する万能の組織形態は存在しないです。

企業が持続的な成長を続けていくためには、過去の成功体験に縛られず、その時々の組織の戦略や外部環境に応じた組織形態を柔軟に選択していくことが必要であり、企業のリーダーにはリスクを恐れない大胆な判断力が求められます。

2章のまとめ
  • ソニーは1990年代に入り単独決算で創業以来初の営業赤字を記録したことで、企業を再建するためにカンパニー制の導入も含めた大規模な組織改革をおこなった
  • カンパニー制が役に立つ場面もあるが、あらゆる環境変化に適応する万能の組織形態は存在しない

 

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3章:カンパニー制について学べるおすすめ本

職能別組織を理解することはできましたか?最後に、あなたの学びを深めるためのおすすめ書物を紹介します。

おすすめ書籍

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • カンパニー制とは、「事業部制組織における事業部門よりも、自立性・独立性が高い事業部門(カンパニー)を配置した組織形態」11野村総合研究所(2008)『経営用語の基礎知識(第3版)』ダイヤモンド社 41頁のことである
  • カンパニー制には、組織としての自己完結性が高い、カンパニーのトップが極めて大きな権限を持つ、独立した会計制度を持つという特徴がある
  • カンパニー制が役に立つ場面もあるが、あらゆる環境変化に適応する万能の組織形態は存在しない

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