第4次産業革命(Fourth Industrial Revolution)とは、近年の急速な技術革新(AI、IoT、ビッグデータ等のデジタル技術を中心としたもの)による社会の変革のことです。
20世紀後半から、ICTによって生産の自動化・効率化を推進する第三次産業革命が起こりましたが、IoTやビッグデータ、AI、ロボットなどの技術の発展は、さらに1つ上の次元で社会の構造を根本的に変革しています。
技術的ブレークスルーによって、あらゆる産業分野が「デジタル化」「コンピューター化」「ネットワーク化」「オートメーション化」され、今までにない革新的な製品やサービスが創出されるようになったのです。
そこで、この記事では、
- 第四次産業革命の意味
- 第四次産業革命での社会の変化
- 日本での取り組み
をそれぞれ解説します。
関心のあるところから読んでみてください。
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1章:第四次産業革命とは
まず1章では、産業革命の歴史的な位置付けを確認した後、第四次産業革命の意味を説明していきます。
2章では第四次産業革命による生活の変化を、3章では日本の取り組みを紹介しますので、好きな箇所から読み進めてください。
1-1:産業革命の歴史
さっそく、第一次産業革命から第三次産業革命までの要点を確認しましょう。
- 第一次産業革命・・・18世紀末、人間の労働力に変わり、水・蒸気を動力源とした機械を使った製造が導入(機械化)された。工場制という新しいシステムにより、社会が急速に工業化。
- 第二次産業革命・・・20世紀初頭、工場内に電気という動力源が導入された。作業の分業とベルトコンベアの流れ作業のシステムによって、大量生産が可能になる。
- 第三次産業革命・・・1970年代、工場内に産業用ロボットや工作機械が人間に変わって導入された。ICT技術を通じて急激な情報処理の発展が行われ、精巧な自動化が可能に。
産業革命とは急速な技術革新とそれに伴う社会の大きな変革のことで、上記のように、かつて3つの段階があったと論じられます。つまり、技術革新は一定の速度で起こるのではなく、あるタイミングで急速なスピードで起こるものなのです。
そして、私たちも生活の中で実感していることですが、現代もそのような急速な技術革新と時代の変化の真っただ中であり、それが「第四次産業革命」と呼ばれています。
日本政府は具体的に、第四次産業革命を下記のように説明しています。
- 実社会のあらゆる事業・情報がデータ化・ネットワークを通じて自由にやり取り可能になること(IoT)
- 集まった大量のデータを分析し、新たな価値を生む形で利用可能になること(ビッグデータ)
- 機械が自ら学習し、人間を超える行動や判断が可能になること(人工知能)
- 多様かつ複雑な作業についても自動化が可能になること(ロボット)
つまり、冒頭で説明したように、あらゆる産業分野が「デジタル化」「コンピューター化」「ネットワーク化」「オートメーション化」されると同時に、革新的な製品やサービスが登場している現代の産業の変化が、「新たな産業革命である」と考えられているのです。
1-2:第四次産業革命とsociety5.0
第四次産業革命は、もはや止めることのできない社会現象と言えます。
それでは、私たちは第四次産業革命とまとめられるさまざまな革新的技術を、社会の中で実際にどのように活用していくべきなのでしょうか?それを考えるために、まずは第四次産業革命とセットで語られる「society5.0」を理解する必要があります。
「society○.0」とは社会の発展段階を指す用語で、日本政府は第5期「科学技術基本計画」で、以下のような発展段階を示しています。
- 狩猟社会(society1.0)
- 農耕社会(society2.0)
- 工業社会(society3.0)
- 情報社会(society4.0)
- 超スマート社会(society5.0)
引用:内閣府資料(最終閲覧日2020年1月12日)
これはいわば、日本政府が描いた、第四次産業革命の時代における理想的な社会です。
この「society5.0」という段階においては、
- 「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」
- 「必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細やかに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といった様々な違いを乗り越え、生き生きと快適に暮らすことのできる社会」
という未来生活が想定されています。(第6回地域魅力創造有識者会議議事次第「Society5.0と第4次産業革命について」を参照)
引用:同上
日本政府はなぜわざわざ「society5.0」という言葉を定義して、未来的な生活を描いているのでしょうか?
結論をいえば、日本では少子高齢化や労働人口の現象など様々な社会課題が山積みになっており、第四次産業革命による技術革新が、これらの課題の解決に有用であると考えられているからです。
社会課題が山積みである中で、日本社会が持続的な社会として維持されていくためには、第四次産業革命で起こっているイノベーションを加速させて、その成果を経済成長や人々の生活の豊かさにつなげていくこと。つまり、society5.0の実現が重要だと考えられているのです。
第四次産業革命では、今までのように生産性を向上させるだけでなく、今までにない新しい価値を創出することが期待されています。
- 第四次産業革命は、IoT、ビッグデータ、AI、さらなるロボットの活用など、近年急速に進んでいる技術革新と、それによる社会の変革のこと
- 第四次産業革命は日本の社会課題の解決に結びつき、その成果がsociety5.0という理想社会を実現されると期待されている
2章:第四次産業革命による社会・テクノロジーの変化
では、あらゆる領域を根本的に変革しつつある第四次産業革命は、いったい現実社会をどのように変化させているのでしょうか?
ここでは「生活の変化」「金融の変化」「医療・介護の変化」「教育の変化」から浅く広く説明していきます。参照した書物を提示しますので、詳しく知りたい方は参考にしてください。
2-1:生活の変化
第四次産業革命は、かつての産業革命が生活の質を一変させたように、私たちのライフスタイルや生活に関する固定観念に大きな影響を与えつつあります。
ここでは「家庭」「サービスの変化」「通信の変化」の場面を紹介します。
2-1-1:家庭
過程における第四次産業革命の影響として、
「お掃除ロボット」「スマートスピーカー」「スマートロック」「スマート洗面台」といったスマート家電の浸透
が挙げられます。
これまでの家電も生活を十分に便利にしてきましたが、それは時間や手間の短縮が主な役割でした。しかし、スマート家電は、個人の家電の使い方やライフスタイルに最適化した形で機能する点に、かつての家電と大きな違いがあります。
第四次産業革命によって
- 精密でかつ小さなセンサーが、安いコストで家電に内蔵される
- 家電がネットワークでつながり、個人の行動がデータとして蓄積・共有される
- AIによって機能がパーソナライズ(個人に最適化)される
といったことが実現できるようになりました。
その結果、私たちの暮らしがより便利になり、多様なライフスタイルがスマート家電によってサポートされるようになっています。
2-1-2:サービスの変化
第四次産業革命によって、過去にはなかったさまざまなサービスが生まれています。
代表的なものとしては、
UberやAirbnbのようなシェアリングサービス
があります。
ご存じの通り、Uberは個人による配車サービス、Airbnbは個人が部屋を他人に提供できるサービスです(残念ながら日本では、規制によってUberの個人の配車サービスは実現されていませんが)。
かつて、配車サービスはタクシー事業者、部屋の提供はホテル業者の事業として「サービス提供者」と「サービス利用者」が明確に分けられていました。
しかし、手軽な決済手段やマッチング機能のついたアプリが作られ、あらゆる人がスマホを持つようになったことから、「サービス提供者」と「サービス利用者」の垣根が小さくなりました。
また、さまざまなシェアリングサービスが生まれたことから、人々の観念も変化し、モノを所有する社会からモノをシェアする社会へ徐々に移行しています。
このような社会をシェアリングエコノミーと言います。
日本でも、
- 空間のシェア(シェアオフィス、シェアスペースなど)
- カーシェアリング
- 洋服や日用品のシェア(メルカリ、airclosetなど)
- スキルのシェア(クラウドソーシング、ココナラなど)
- お金のシェア(クラウドファウンディングなど)
などのさまざまなサービスが広がっています。
第四次産業革命によって、モノ、スキル、お金などさまざまなものの提供が個人でも手軽にできるようになったことから、シェアリングエコノミーはより広がっていくことが予想されます。
2-1-3:通信の変化
特に最近話題になっている通信の変化に、
「5G」によってで大容量の通信が可能になること
があります。
簡単いえば、「5G」とは第5世代移動通信システムのことで、現在の4Gと比較すると通信速度は100倍、容量は1000倍になると言われています。
4Gの通信では、動画や3次元空間の共有など膨大な情報量を送受信する場合、遅延や断絶などの問題があります。しかし。5Gは膨大な情報をやり取りできるため、こうした問題が解決されると考えられています。
4Gや3Gではスマホの時代でしたが、5Gではホロレンズのようなゴーグル型のデバイスが中心になるかもしれません。
2-2:金融の変化
第四次産業革命による金融の変化は、「フィンテック」という言葉から説明されます。ここでは、「融資」と「保険」の分野を簡単に説明します。
フィンテックとは「Finance」と「Technology」を組み合わせた造語で、ITの金融への応用のことを指します。その他にも、人事×テクノロジーのHRテック、広告×テクノロジーのアドテック、教育×テクノロジーのエドテックなども知られています。
2-2-1:融資
融資の分野では、
信用度を評価するAIスコアリングという手法によって、融資の審査がより正確になる
と期待されています。
AIスコアリングとは、
- 貯金や借金・ローンの額、過去の返済歴などの信用履歴
- 保有する不動産、資産
- 支払い能力(収入)
- SNSや個人の人脈
- 消費行動
などさまざまなデータから、AIの力で個人の信用力を明らかにするテクノロジーのことです。
AIは大量のデータの蓄積があって初めて有効に機能するため、現在、金融機関はどれだけビッグデータを集められるかに焦点を当てています。
ちなみに、すでに中国ではモバイル決済トップのアリペイのアプリに芝麻(ゴマ)信用という機能があることが知られています。
2-2-2:保険
保険の分野では、
自動車に搭載されたセンサーからの運転状況のデータを分析することによって、保険料を細かく個別に調整するテレマティクス保険
が登場しています。
個別の状況を判別する保険の意義は、従来の保険が抱えていたモラルハザードという問題が解消されることにあります。なぜならば、保険があることを理由に十分な安全策を講じない乱暴な運転者をあぶり出し、優良運転者の保険料を安く設定できるからです。
より詳しくは次の書物を、参照ください。
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2-3:医療・介護の変化
医療・介護の変化は、端的に言えば、
- 医療との接点が医療機関以外にも広がる「多角化」
- 個人個人に応じたオーダーメイド化が進む「個別化」
- 医療の主体が患者自身に変わっていく「主体化」
が特徴です。
たとえば、ウェアラブルのセンサー技術やAI、5G、VR、ARの技術により、継続的な問診やセルフケアのサポートなど、これまで医療機関に行かなければ不可能だったことも自宅でできるようになるとされています。
大量かつ正確かつリアルタイムの生体情報を継続的に得て、AIで個別最適化されたモノ・サービスを提供できるようになるため、予防医療にも繋がります。
また、介護では、パワードスーツのHALによる移乗支援や、超音波で膀胱の大きさを観測して排尿を予測するDFreeによる排泄支援など、それぞれの用途に適した技術が開発されています。
さらに、5Gの特徴である、遅延なくリアルタイムで触覚を再現できる点を活かして、遠隔医療・遠隔介護も可能になりつつあります。これは現場を効率化させて時間のコストを大幅に下げることで、人手不足を補うことができるため、高齢化社会においてますます重要になるとされています。
参考になる書物として、以下のものがあります。
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2-4:教育の変化
教育の変化は、「エドテック」と「STEAM教育」から説明できます。
日本政府が2019年6月に発表したAI戦略では、これからの時代に必要な能力として「数理・データサイエンス・AIに関する知識・技能と、人文社会芸術系の素養をもとに、新しい社会のあり方や製品・サービスをデザインする能力」が提示されました。
しかし、現在いまだに主流である、画一化・標準化された「劇場型の教育」では、そうした能力を育むことは困難な状況です。
ここでは、そのような状況を打開する可能性を持ち、近年話題になっているエドテックとSTEAM教育という概念を説明します。
2-4-1:エドテック
端的にいえば、エドテックとは、
生徒の学習効果と進行過程、新しい学習方式などを、データを基に分析し、1対1教育と同じような完全教育を追求したもの
です。
これまでもオンラインのe-ラーニングなどがありましたが、先端ICT技術を活用したエドテックは教育を根本から変革する可能性を持っています。
こうした教育方法は、暗記を前提に紋切り型の答えを要求する伝統的な教育に変わるものとして、英米を中心に急速に広がっています。
2-4-2:STEAM教育
STEAM教育とは、
科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、アート(Arts)、数学(Mathematics)を包括した教育
です。
もともとは、アートを除いた理数系のみの「STEM」という概念でしたが、芸術や人文を含めたアート・デザインの領域の重要性が再認識され、「STEAM」となりました。
STEAM人材の根底には「人間を大切にする」という思想があり、彼らはデザイン思考でイノベーションを起こそうと試みています。そうした新たな理想の人材を追求するものとして、STEAM教育が存在します。
もちろんSTEAM教育には、教育の目的が「テクノロジーを発展させ、国際競争力を持つ人材を育成すること」「即物的に社会の役に立つこと」に偏りすぎていないか?理系偏重ではないか?という批判は付きまといます。
とはいえ、日本社会を発展させたい政府、優秀な人材が欲しい経済界、そしてグローバル化する社会で生き抜き活躍したいと考える多くの個人や親にとって、STEAM教育は魅力的です。
これから、さらに注目が集まっていくと考えられます。
より詳しくは、以下の書物を参考してください。
- 生活の変化はあらゆるモノ・コトがスマートになること
- 金融の変化はITの金融への応用がされること
- 医療・介護の変化は、多角化、個別化、主体化すること
- 教育の変化は、「エドテック」と「STEAM教育」に示される
3章:第四次産業革命に関する日本の取り組み
最後に、日本政府が第4次産業革命に関して掲げている3つの戦略を簡潔に概観します。
大ざっぱで構いませんので、日本政府の取り組みに触れてください。
①日本再興戦略
- 構想実現に向けた司令塔として「第4次産業革命官民会議」を設置したり、研究開発・産業戦略の具体化や規制・制度改革のための施策などを立てている
- 有望市場創出部門の戦略分野で第4次産業革命が明示されて、関連重点施策されている
②科学技術イノベーション総合戦略
- 安倍政権が推進している重要な成長戦略で、2014年から毎年「総合科学技術イノベーション会議」で発表している戦略
- 政府レベルのIoT、ビッグデータ、AI、ロボットなどを活用した新たな製造システムの構築を目指している
③ロボット新戦略
- ロボット強国として競争優位を持続し、IoT技術との連携で社会課題を解決する方策
- ①日本をロボットイノベーションの拠点にすること、②世界一のロボット利活用社会を実現すること、③世界をリードするロボット新時代の戦略を打ち立てることを目指している
4章:第四次産業革命について学べるおすすめ本
第四次産業革命について、理解を深めることができたでしょうか?
この記事では、第4次産業革命について浅く広くお伝えしました。もう一歩踏み込んで学習してみたい方は以下の本を読んでみることをお勧めします。
オススメ度★★★ エリック・ブリニョルフソン, アンドリュー・マカフィー『ザ・セカンド・マシンエイジ』(日経BP社)
読み応えのある本ですが、「人間と機械の共存」という視点で、第四次産業革命の動向を把握することができます。
オススメ度★★★ コンスタンツェ・クルツ、フランク・リーガー『無人化と労働の未来』岩波書店
ドイツのインダストリー4.0の実態を詳しく説明している本です。第四次産業革命の最前線にいるドイツの製造現場を知ることで、具体的なイメージをつかめるはずです。
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一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- 第四次産業革命は、IoT、ビッグデータ、人工知能、ロボットなどのテクノロジーの発展により、生活やビジネス、教育などあらゆる分野が変質する現象のこと
- 「生活」「金融」「医療・介護」「教育」などの場面で、実際に新たなサービスや手法が生まれて、利用が進んでいる
このサイトでは、他にも国際問題や時事的な問題について広く解説していますので、ぜひブックマークしてください。
参考文献
- 野口悠紀雄(2018) 『「産業革命以前」の未来へ』NHK出版新書
- 加藤浩晃(2018) 『医療4.0ー第4次産業革命時代の医療』日経BP社
- 成 耆政 (2017)「第4次産業革命と未来の教育システムの変革」『教育総合研究』創刊号 67-90頁