行政権とは、決められた公共政策を実行する国家の機能のことで、立法権、司法権と並ぶ国家作用(統治権)の一つです。
ニュースでよく聞く「内閣」や「(狭義の)政府」と言われるのは、具体的な政策を実行する行政権のことを指しています。
行政権について詳しく知っておくことは、ニュースをより深く理解することに繋がります。また、社会科学系の勉強をしている方には必須の知識と言えます。
そこで、この記事では、
- 行政権の意味
- 日本における行政権
- 三権分立と行政権
- 行政権における学術的な議論
をそれぞれ解説します。
興味のある所から読んでみてください。
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1章:行政権とは
1章では行政権を概説します。2章では三権分立との関係を、3章では学術的な議論を紹介しますので、用途に沿って読み進めてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1: 行政権の意味
そもそも行政とは、
- 制定された法や条例にしたがって、その決められた中身を実行する(国民に公的サービスを提供する)こと
- 諸外国と外交し条約を締結したりすること
といった政府の統治作用の一つです。
では、日本ではどのような機関が行政を担うのでしょうか?確認となりますが、日本では「内閣」という組織と「官庁」が国家の行政の役割を果たします。
- 内閣・・・国会で選ばれた内閣総理大臣と、総理大臣に指名された複数の国務大臣から成る
- 官庁・・・国家事務を受け持ち、それを執行する機関のこと。(例:国土交通省や文部科学省といった省庁)
そして、国家行政の流れは、以下の通りです。
- 内閣の構成員全員が出席する閣議で方針を決定する
- それに基づいて、国務大臣が各省庁(官庁)に指示を出す
- 官庁の職員(いわゆる官僚)が職務を執行する
当然ですが、内閣の構成員十数名のみで国家の行政業務全てを行うことが不可能です。そのため、内閣は行政に関する判断を下すのみで、その決定された業務を執行するのは官公庁の職員(いわゆる官僚)となります。
さらに、具体的な公的サービスは官公庁の職員だけでなくさまざまな外部の組織、民間企業とも連携して行われます(たとえば、道路を作るのは政府ではなく発注された民間企業です)。
では、地方行政はどのような組織が行なっているのでしょうか?結論からいえば、地方公共団体(公庁)が地方行政を担っています。地方公共団体は、地方議会や国家の方針に従って、それぞれの地域で職務を執行しています。
1-2: 日本における行政権
行政サービスが施行されるまでの流れをみていきましょう。
まず、内閣が法律の執行、条約の締結、政策の執行等を決定します。しかし前述したように、内閣はそうした業務の決定を下し、官公庁に指示を出す役割に留まります。
実際に、法律や条約、政策に基づいて業務を執行するのは官公庁です。たとえば、次ような例を考えてみてください。
- 小学校給食を無料とする法律(あるいは政策)が内閣によって執行される
- その場合、内閣は文部科学省に小学校給食を無料にする手続きを開始するよう指示し、文部科学省の職員によってその手続きが取られる
- このような過程を通して、小学校給食がようやく無料になる
実際に執行される具体的な行政サービスの例として、マイナンバー制度、道路整備、森林保護などがあります。
1-3 行政権の種類と特徴
さて、世界を見渡してみると、さまざまな政治制度が見られますが、大きく分けて「議院内閣制」と「大統領制」に分けられます。それぞれ解説していきます。
1-3-1: 議院内閣制の場合
まず、議院内閣制とは、「内閣」が議会の信任によって選ばれる制度のことです。つまり、議会によって政府が作られる体制のことです。
議院内閣制の特徴として、
- 内閣総理大臣は議会から選出される議員である
- 議会は内閣不信任案を提出できる
などが挙げられます。
また、行政府が行使できることや行政府の業務の内容も後述する大統領制と異なります。たとえば、内閣は以下のようなことを行使できるパワーをもちます。
- 内閣は議会に法案を提出できる
- 内閣は議会に対して連帯して責任を負わなければならない
- 内閣を構成する内閣総理大臣や国務大臣は議会に出席する権利がある
- 内閣には議会の解散権がある
このように、議院内閣制においては、三権分立制度の中で独立しているはずの立法府と行政府が非常に密接な関係を持っているのが特徴です。
議院内閣制に関して、詳しくはこちらの記事を参照ください。
→【議院内閣制とは】イギリス・日本の歴史から大統領制との違いまで解説
1-3-2: 大統領制の場合
一方で、大統領制とは、行政権力のトップである大統領と立法権力である議会の国会議員が、ともに国民から直接選ばれる制度のことです。つまり、大統領選挙と議会選挙は完全に別物です。
ここから大統領制は、立法府と行政府が完全に独立していて、立法府と行政府の意思が異なることもある政治体制であるとわかります。
大統領制の特徴として、
- 行政府に属する大統領や各大臣は議会に議席を持つことができない
- 議会は大統領に対して不信任案を決議することはできない
などが挙げられます。
この特徴から行政府の行使できることや業務も議院内閣制とは、異なることが理解できるはずです。
- 大統領は議会に法案は提出できないが、大統領令という行政立法権(行政府が独自に法を定めることができる)をもつ
- 大統領は、軍事面、外交面で議会から独立した行動を取りやすく、非常事態等には非常権限という大権を掌握できる
- 大統領は議会を解散することはできない
各国で大統領制には違いがあるため、一部の国では上記の権限が当てはまらない場合もあります。しかし、議院内閣制と比べて、三権分立を厳格に遵守し、立法府と行政府が独立している点は共通しています。
ちなみに、大統領制の代表はアメリカですが、アメリカでは議会が先に作られ、その議会の力を抑制する役割から作られたのが大統領という立場でした。
大統領制に関して、詳しくはこちらの記事を参照ください。
→【大統領制とは】議院内閣制との違いやアメリカ・フランス・韓国の特徴を解説
- 行政権とは、決められた公共政策を実行する国家の機能のことで、立法権、司法権と並ぶ国家作用(統治権)の一つである
- 日本では「内閣」という組織と「官庁」が国家の行政の役割を果たす
- 行政権の種類には、大きく分けて「議院内閣制」と「大統領制」がある
2章:行政権と三権分立
さて、2章では三権分立という仕組みの中で行政権がどのように立法権や司法権と関わっているのかを説明していきます。
まず、三権分立の制度を軽く確認しておきましょう。三権分立とは、
- 国の権力を三つの機関に分散させることで、権力の一極集中を避け、国家が権力を濫用するのを防ぐ働きを指すもの
- すなわち、三機関はそれぞれがお互いを監視し、抑制しあっているもの
です。
つまり、行政権は、立法権と司法権を抑制する役割を持つと同時に、立法権と司法権から監視もされています。これについて具体的に見ていきましょう。
まず、行政権(内閣)は、次のように立法権と司法権を監視・抑制することができます。
- 立法権(国会)に対しては衆議院の解散をする
- 司法権(裁判所)に対しては最高裁判所長官の任命、その他の裁判官の任命をする
一方、行政権は次のように立法権や司法権からの監視を受けています。
- 立法権は内閣不信任案の決議、内閣総理大臣の指名、国政調査権の行使をする
- 司法権は命名・規則・処分の適法性の調査、行政事件裁判権の行使をする
より詳しくは、以下の記事で解説していますので、ぜひ読んでみてください。
→【三権分立とは】権力はいかに独立し監視しあっているのかわかりやすく解説
→【司法権とは】その意味・裁判所や検察との関係をわかりやすく解説
3章:行政権に関する学術的な議論
さて、3章では日本の行政権の問題点を「縦割り行政への批判」と「安倍政治と議院内閣制」から解説します。
3-1: 縦割り行政への批判
行政組織の縦割とは、効率的な組織運用や施策のチェック機能を維持するために機能別に組織を設計することを意味します。つまり、官庁で言えば、財政を担当するのは財務省、教育を担当するのは文部科学省等のように、役割を組織ごとで分担することを指します。
しかし、組織を縦割り化すると、部署間で緊密な連携が取れず、同様の業務を二重で行ってしまう、問題の責任のなすりつけ合いが起きるといった問題があります2菊池彰 2005「行政組織における部門間関係と部門文化の対立構造」『日本経学会誌』第15 巻 , 15-28頁。
一方で、組織の縦割り化は民間企業も同様に行っています。ではなぜ、行政の縦割り構造が際立って批判され、問題視されるのでしょうか?
- 第一の理由・・・行政の業務は種類が多岐にわたるため。大手の民間企業が事業を多角化していても、ある程度分野に特化している場合が多く、行政ほど業務の幅は多くない3松田隆利 2001「政策調整で縦割り行政の弊害の排除を」(特集 新世紀の行政改革(2)新体制における政策決定システム)『経済政策情報today & tomorrow』 (194), 33-36頁
- 第二の理由・・・行政はあくまで一つの組織であるため。すなわち、民間企業のように事業を細分化し、新たに子会社を作ってそこに特定の分野の責任を与えることが困難である
子会社が起こした不祥事を、子会社は親会社の責任にすることは難しいですが、あくまで一つの組織である行政は責任のなすりつけ合い、業務のたらい回しが行われてしまう構造なのです。
菊池彰は、行政組織において縦割り組織特有の上からの圧力を恐れるあまり、各セクションが縄張りを形成し、責任を転嫁する、あるいは責任を転嫁しやすいように決定事項に曖昧な部分を残す部門文化が行政組織にあると言います44菊池彰 2005「行政組織における部門間関係と部門文化の対立構造」『日本経学会誌』第15 巻 , 15-28頁[/mfn]。
松田隆利は、行政を横断的組織にする試みはあるものの、伝統的なセクショナリズム(部門文化)がそうした挑戦を困難なものにしていると言います5松田隆利 2001「政策調整で縦割り行政の弊害の排除を」(特集 新世紀の行政改革(2)新体制における政策決定システム)『経済政策情報today & tomorrow』 (194), 33-36頁。
すなわち、行政組織の縦割り状態を是正し、効率化を図るには長い時間が必要であると示唆しています。
3-2: 三権分立の問題
法政大学法学部教授の山口二郎によると、現在の安倍政治は議院内閣制の持っている問題点が非常に鮮明に・明確に表れているといいます6論座 山口二郎「議院内閣制の問題点が鮮明に表れた安倍政治」 https://webronza.asahi.com/politics/articles/2017060900003.html (最終閲覧日 2020年6月24日)。これはどういうことなのでしょうか?
まず、議院内閣制の特徴として、立法府の多数派が政権を握る、すなわち与党が内閣たる行政府を掌握するということが挙げられます。これは三権分立で独立しているはずの立法権と行政権が融合しているような状態と言えます。
確かに、この特徴を有する議院内閣制では、国会が内閣をチェックする機能(国政調査権、議員立法権)は制度上確立しており、政局が安定し、政治が進めやすいという長所もあります。
しかしながら、議院内閣制において国会が内閣をチェックする機能を働かせることは非常に難しいのが実態です。
- たとえば、野党が国政調査権を発動し政権の問題点を指摘しても、与党が国会の場で多数決の力で退けてしまえば、野党議員の努力は水の泡となる
- つまり、議院内閣制において、国会が内閣を統制する役割は半分建前である
実際は、与党の政治家が内閣を正当化し、問題が起きても揉み消される可能性があるわけです。
- 決定事項に曖昧な部分を残す部門文化が行政組織にある
- 議院内閣制において国会が内閣をチェックする機能を働かせることは難しい
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4章:行政権について詳しく学べる本
行政権を理解することはできましたか?
基礎的な内容だったかもしれないですが、以下の書物を参考に学びを深めていってください。
オススメ度★★★ 金井利之『行政学講義- 日本官僚制を解剖する』(ちくま新書)
日本の行政のあり方を官僚制との関係性を中心に批判的に解説している本です。やや難しい本ではありますが、深く行政について学ぶことができる名著です。
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オススメ度★★ 高安健将『議院内閣制-変貌する英国モデル』(中公新書)
日本と同じく議院内閣制を導入しているイギリスが近年取り組む国家構造の改革について取り上げた本です。読んでいけば、首相主導の政治問題が日本だけでなくイギリスでも起きているということがわかります。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- 行政権とは、決められた公共政策を実行する国家の機能のことで、立法権、司法権と並ぶ国家作用(統治権)の一つである
- 日本では「内閣」という組織と「官庁」が国家の行政の役割を果たす
- 議院内閣制において国会が内閣をチェックする機能を働かせることは非常に難しい
このサイトは人文社会科学系学問をより多くの人が学び、楽しみ、支えるようになることを目指して運営している学術メディアです。
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参考文献
内閣官房 「行政機構図」https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/satei_01_05.html (最終閲覧日 2020年6月24日)
待鳥聡史『代議制民主主義- 「民意」と「政治家」を問い直す』(中公新書)