バランス・スコアカード(Balanced Scorecard)は、ビジョンと戦略を複数の要素に分けてアクションに落とし込み、企業を成功に導くマネジメントシステムです。ロバート・キャプランとデビット・ノートンによって、企業変革のための経営指標として提唱されました。
企業はコストを削減したり、品質を改善したり、納期を短縮するなど、いわゆる既存のプロセスの業績を改善するために多くの業務評価指標を用いています。
しかし、多くの企業で、そうした業務評価指標が企業全体の戦略的プロセスを成功に導くためのものとして活用できていないケースが存在します。
バランス・スコアカードではこうした現状に対処すべく、作られたマネジメントシステムです。
この記事では、
- バランス・スコアカードの意義
- 4つの視点
- バランス・スコアカードの導入方法
をそれぞれ解説していきます。
好きな箇所から読み進めてください。
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1章:バランス・スコアカードとは
まず、1章ではバランス・スコアカードの「意義」「4つ視点」を中心に解説していきます。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1:バランス・スコアカードの意義
バランス・スコアカードは、現代の情報化時代の競争に対応すべく考案された経営指標です。
情報化時代以前の工業化時代における経営指標の基礎は、財務的資本と物理的資本の効率分配とモニターにありました。つまり、限られた経営資源をいかにトップダウンで効率的に分配するかが中心的な議論でした。
しかし、情報化時代においては、
- 顧客との関係性をいかに深め、顧客のニーズに基づいた製品やサービスをスピーディに提供できるかどうかが企業の競争力に直結する
- そのため、マネジメント層のみならず現場ひとりひとりのスタッフが企業の方向性を正しく理解すること
- そして、適切なフィードバックを得ながら仕事を進めていくことが非常に重要
という変化が生まれているです。
バランス・スコアカードを用いたマネジメントシステムは、次の4つのプロセスを戦略的にマネジメントすることで企業に貢献します。
- ビジョンと戦略を明確にし、わかりやすい言葉に置き換える
- 戦略的目標と業績評価指標をリンクし、周知徹底させる
- 計画、目標設定、戦略プログラムの整合性を保つ
- 戦略的フィードバックと学習を促進する
こうしたプロセスを適切に組織に周知させ、目標達成に導くためのフレームワークがバランススコアカードです。バランス・スコアカードでは4つの視点をもとに、経営目標の達成度を評価します。
1-2:バランス・スコアカードの4つの視点
バランス・スコアカードはビジョンと戦略を基本として、「財務的視点」「顧客の視点」「業務プロセスの視点」「人材と変革の視点」の4つの視点があります。
すべての視点は独立しておらず、相互に影響をもたらしながらビジョンと戦略の成功のために運用されます。(図1)
1-2-1: 財務的視点
財務的視点とは、
収益性や生産性などの日経経営指標をベースに、企業の財務面に着目した業績評価指標が設定されるもの
です。
具体的には、企業の安定性をはかるキャッシュフローや、収益の向上を目指す売上高利益率、成長力を付ける増収・増益率、生産性の向上をはかる労働生産性といった指標が候補にあげられます。
1-2-2: 顧客の視点
顧客の視点とは、
企業のマーケティング面に着目した業績評価指標が設定されるもの
です。
具体的には、顧客から好まれる企業になるための顧客定着率や、顧客から認知されるためのブランド認知率、魅力的な製品を提供するための顧客満足度といった指標が候補にあげられます。
1-2-3: 業務プロセスの視点
業務プロセスの視点とは、
企業の生産管理面に着目した業績評価指標が設定されるもの
です。
具体的には、納期短縮のための製品リードタイムや、コストダウンのための製品1個あたりの製造コスト、品質の安定化のための不良品率といった指標が候補にあげられます。
1-2-4: 人材と変革の視点
人材と変革の視点とは、
企業の人材管理面に着目した業績評価指標が設定されるもの
です。
具体的には、従業員のコミットメントをはかるための従業員満足度、前向きな組織風土をはかるための1人あたりの提案件数といった指標があげられます。
1-3:4つの視点のポイント
いずれの視点においても、採用される業績評価指標は企業全体の戦略に整合するものでなければなりません。競合他社で一般的に採用されている指標であるからといって、自社でその指標を業績評価指標として採用するのは必ずしも得策とは言えません。
たとえば、以下の例を考えてみてください。
- 同一市場においても、市場シェアトップのリーダー企業と、新規参入したてのチャレンジ企業では重視すべき指標も異なる
- リーダー企業であれば、市場でのポジションを強固なものにしていくために労働生産性やキャッシュフローといった指標を重視するのに対して、チャレンジ企業では市場でのポジションを拡大していくために増収・増益率といった指標を重視するかもしれない
加えて、企業の掲げる目標が上にあげた4つの視点に該当するものでなかった場合は、新たな視点を追加することも時には必要です。
いずれの数値目標も、いわば企業変革を達成するための中長期的な目標に繋がる数値です。ゆえに現在の延長線上にある見込みの数値でなく、チャレンジ精神に溢れた挑戦的な数値を設定することが求められます。
そして企業は、この挑戦的な数値をクリアするためにも、これらの数値目標を組み込んだ事業計画や年度予算を作成する必要があります。
- バランス・スコアカードは、ビジョンと戦略をアクションに落とし込み、成長力と競争力を付けることで、企業を成功に導く戦略的にマネジメント・システムである
- バランス・スコアカードはビジョンと戦略を基本として、「財務的視点」「顧客の視点」「業務プロセスの視点」「人材と変革の視点」の4つの視点がある
2章:バランス・スコアカードの導入方法
さて、2章ではバランス・スコアカードの導入のステップや戦略マップ等の知識を解説していきます。
2-1:バランススコアカードの導入
冒頭でも述べたように、バランス・スコアカードは多様な業務評価指標と企業全体の経営戦略が深く結びついているのが大きな特徴です。ゆえに、企業全体のビジョンと戦略が明確になっていなければ、バランス・スコアカードを有効に活用することはできません。
企業がビジョンと戦略を明確にし、バランス・スコアカードを導入するためには、次の3つのステップを踏む必要があります。
- 自社の環境と状況を認識し、将来性と役割を具現化する
- 重要成功要因を分析する
- 戦略目標の設定と重要成功要因の洗い出し
それぞれ解説していきます。
2-1-1: 環境と状況を認識および将来性と役割の具現化
自社のビジョンと戦略を設定するにあたって、自社が所属している業界の現状だけでなく、国際社会や経済について、組織内でコンセンサスを得ることが基本です。
その上で自社の置かれているポジショニングと役割を明確にすることで、自社のビジョンと戦略を設定するために必要不可欠な基本方針を作成することができます。
自社の環境と状況を認識するために一般的に用いられる代表的な方法に「SWOT分析」です(図2)。
(図2「SWOT分析」筆者作成)
SWOT分析では、自社の強みと弱み、自社の置かれた機会と脅威の4つの視点から分析することで自社の置かれた立場を客観的に把握することができます。
SWOT分析によって、自社の持つスキルや技術が、絶えず変化する市場でどのように活かせるかのヒントを得ると同時に、ビジョンと戦略の基礎のデータとなります。
2-1-2: 重要成功要因の分析
ステップ①では自社についての様々なデータを得ることができましたが、経営資源が限られている企業において、すべてに対応した戦略を設定することは不可能です。
そこで、得られたデータに優先順位を付け、ビジョンと戦略を成功に導くために本当に必要な対策を決めることが求められます。このときに用いられる分析の切り口が、1章で説明した4つの視点です。
つまり、「財務的視点」「顧客の視点」「業務プロセスの視点」「人材と変革の視点」から、SWOT分析をさらに深掘りすることで、得られた方向性を有効な戦略目標へと進化させます。
また、このステップでは分析の視点を全社レベルから事業部や部門、課のようにレベルダウンさせていくことも必要です。企業の経営陣と現場のスタッフでは、業務も責任も大きく異なります。ゆえに、経営陣と現場スタッフで同じ重要成功要因を設定しても大きな効果は得られないでしょう。
2-1-3: 戦略目標の設定と重要成功要因の洗い出し
階層別の重要成功要因の分析を終えたら、いよいよ企業にとっての具体的なビジョンと戦略を作成する段階になります。このステップでは、分析した重要成功要因の洗い出しと戦略マップの作成の2つの作業がおこなわれます。
その際、以下のようなポイントに注意する必要があります。
- ステップ②まではビジョンと戦略が多少なりとも抽象的であっても問題ないが、ステップ③では、この次の業績評価指標を作成するためにも、ビジョンと戦略はより具体的であることが求められる
- もし、具体化の作業をおこなわなければ業績評価指標も曖昧な設定となってしまい、バランススコアカードの効果は大きく低下してしまう
加えて、重要成功要因を全体戦略に組み込む戦略マップ作成段階では、すべての視点の重要成功要因が水平的かつ垂直的に矛盾なく理路整然としていなければなりません。
たとえば、顧客の視点と業務プロセスの視点での戦略が、それぞれは適切な分析に基づくものであったとしても、それぞれが対立するコンセプトとなってしまっている場合、再考すべきである判断されます。もちろん、全社の戦略と事業部の戦略が対立してしまっている場合も見直しが求められます。
上記の3つのステップは、参加し得るなるべく多くのスタッフが検討作業に参加すべきとされています。
一般的に戦略策定のプロセスは、大きな意思決定権を持った経営陣によって独断で決められることが多いですが、ボトムアップの発想をもとに作られるバランススコアカードでは、すべてのスタッフの意見を集約し、戦略に反映することが成功の秘訣となります。
ゆえに、一般的な戦略策定プロセスより決定に多くの時間を要しますが、完成した戦略はトップダウンによって作られた戦略よりも、はるかに早く現場に浸透することになり、結果として高い効果を発揮します。
2-2:バランス・スコアカードの実行
最後に、実際にバランススコアカードを実行するプロセスについて確認します。
結論からいえば、バランススコアカードの実行にあたって、次の3点を留意しなければなりません。
- バランススコアカードを落とし込む
- 実行結果の分析と報告
- 結果のフィードバック
それぞれ解説していきます。
2-2-1: バランススコアカードの落とし込み
繰り返しになりますが、バランススコアカードは経営陣のみの取り組みではなく、全社的な取り組みでなければなりません。
ゆえに、スタッフ全員がバランススコアカードをもとに日々の業務に取り組めるような支援体制を整える必要があります。具体的にはIT環境を整備し、スタッフが業務中であっても、すぐに情報にアクセスできるような状態が理想的です。
2-2-2: 実行結果の分析と報告
バランススコアカードは、業績の測定と評価が前提となっているマネジメントシステムです。そのため、目標に対する結果である業績の分析と報告を必ず実施しなければなりません。
つまり、
目標の設定、目標と実績の比較、両者の差異の分析を経た上で、次期のために対策を講じるという一連のマネジメントを確立することが重要
となります。
また、この結果の分析と報告は経営陣のみでの共有になってはいけません。
バランススコアカードは全てのスタッフを巻き込むマネジメントシステムであるからこそ、現場一人ひとりのスタッフに対してもアカウンタビリティ(説明責任)が要求されます。
もし、設定した目標が未達になった場合は、関わるスタッフ全員で目標未達の原因追及と改善策の提案をおこなわなければなりません。
2-2-3: 結果のフィードバック
バランススコアカードの一連のマネジメントを通して、バランススコアカードの内容は継続的にブラッシュアップされていくのが理想です。
バランススコアカードに組み込んだ重要成功要因や業績評価指標は適切であったか、バランススコアカードは既存の4つの視点で十分であったか、フィードバックのプロセスに問題はなかったかなど、それぞれの改善点を追求し、よりよい形を築き上げていくことが求められます。
- ボトムアップの発想をもとに作られるバランス・スコアカードでは、すべてのスタッフの意見を集約し、戦略に反映することが成功の秘訣となる
- 目標の設定、目標と実績の比較、両者の差異の分析を経た上で、次期のために対策を講じるという一連のマネジメントを確立することが重要である
3章:バランス・スコアカードについて学べるおすすめ本
バランス・スコアカードについて理解が深まりましたか?
さらに深く知りたいという方は、以下のような本をご覧ください。
ロバート・キャプラン, デビット・ノートン『バランススコアカード』(生産性出版)
バランススコアカードの開発者による原論の日本語訳です。バランススコアカードが豊富な事例とともに紹介されており、深く学びたい方におすすめの1冊です。
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吉川武男『バランススコアカード入門』(生産性出版)
初学者向けバランススコアカードが非常にわかりやすくまとまっています。原論を読む前にこちらの入門書を一読することをおすすめします。
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一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- バランス・スコアカードは、ビジョンと戦略をアクションに落とし込み、成長力と競争力を付けることで、企業を成功に導く戦略的にマネジメント・システムである
- バランス・スコアカードはビジョンと戦略を基本として、「財務的視点」「顧客の視点」「業務プロセスの視点」「人材と変革の視点」の4つの視点がある
- ボトムアップの発想をもとに作られるバランス・スコアカードでは、すべてのスタッフの意見を集約し、戦略に反映することが成功の秘訣となる
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