ユングのペルソナ(persona)とは、人間が社会生活において、求められた役割を演じる機能やその一面を指す概念です。
ペルソナはユング心理学を理解するために不可欠な概念の一つですが、定義だけではわかりにくいですよね。
この記事では、
- ユングのペルソナの意味
- ユングのペルソナと夢分析
- ユングのペルソナのシャドウ
- ユングのペルソナとアニマとアニムス
について解説します。
好きな箇所から読んでみてください。
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1章:ユングのペルソナとは
1章ではユングのペルソナを「意味」「由来」「夢」「シャドウ」から概観します。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1: ペルソナの意味
まず、冒頭の確認となりますが、ユングのペルソナとは、
人間が社会生活において、求められた役割を演じる機能やその一面を指す概念
です。
たとえば、普段は無頓着で大らかな人が会社では生真面目な人物になったり、普段はお調子者のクラスメイトが教師の前では礼儀正しく振舞ったりする場面を見たことはありませんか?
簡単にいえば、ペルソナとは、上述のような本来の自分そのものではない、他者と交流する際に見られる振る舞いのことを指します。
スイスの精神科医であるカール・ユング(Carl Jung)は人間が他者と接するときに社会的に求められる役割を演じようとする機能をもつ生物であると考えました。それはユング心理学に、次のような心の仕組みの前提があるためです。
- 人間は自分では意識できない部分とできる部分がある
- 意識できる部分、つまり自分の自覚し得る一面のことを「意識」と呼ぶ
- 意識できない部分、つまり、無自覚だが心の奥底に存在する自分の一面を「無意識」と呼ぶ
- 人間は意識・無意識の両方を持つ表裏一体な存在であり、心の中に相反する2つの要素をもつ
- また、人間の心は意識・無意識という2つの領域は「どちらも本当の自分」である
つまり、ペルソナとは意識・無意識という観点でいえば、無意識の中に存在する人間の社会的な側面のことです。(→ユング無意識に関して詳しくはこちら)
また、ユング心理学をはじめとする人文科学に関する解説本を多数執筆していることで知られる長尾剛によると、人間は他者と関わる中で、自分がどんな人物であるべきなのか、関わりの場でどんな役割を求められているのかを学習する能力をもっています2(長尾『手にとるようにユング心理学がわかる本』(かんき出版)。
たとえば、以下のビジネスの場面を想定してみてください。
- ビジネスの場面において、真面目で誠実な人物が信頼されやすい傾向がある
- ある人が、周囲から「真面目で誠実な人物」であることを求められていると察した場合、その人は本来の怠惰な性格から生じる行動を慎み、「真面目で誠実な人物」の仮面(ペルソナ)を被って行動をするようになる3同じビジネスの現場であっても、「明るく親しみやすい人物」「優しく穏やかな人物」など役割が求められることがあるでしょう
- また、その人が上司(指導する立場)なのか、部下(指導する立場)なのかによっても、求められる役割が異なることがあり得まる
- そういった意味で、部下のあなたからは、上司が威圧的な人物に見えたとしても、その上司は「威厳のある上司」というペルソナを演じているに過ぎず、休日は温厚な人物であるという可能性もある
他にも、事例をあげるならば、母親は「愛情深い」「働き者で、細かいところに注意が向く」という典型的な母親像を求められており、それがペルソナによって実践されている場合があります。そのような場面では、服装やメイクが演じているペルソナを体現したりすることもあります。(*わかりやすさを重視した例です)
このように、ペルソナはビジネスにおける役割のみならず、夫や妻、子どもといった家庭内での役割においても表れます。
再度、長尾によると、あまりにも元の性格とペルソナがかけ離れていた場合、葛藤を抱えることがあるといいます。また、反対に過度にペルソナ化が進むことによって、自分の個性とは何かがわからなくなり、葛藤を抱えることもあるといわれています4(長尾『手にとるようにユング心理学がわかる本』(かんき出版)。
1-2: ペルソナの由来
そもそも、「ペルソナ(persona)」という言葉は古代ローマで上演された劇で用いられた仮面のことです。
古代ローマでは、役者が舞台に上がるとき、ペルソナと呼ばれる仮面を付けて演技を行っていました。この仮面の意味から、ユングは社会生活においての振る舞いなどに現れる外的意識として、「ペルソナ」という言葉を用いました。
1-3: ペルソナと夢分析
加えて、心理学者の渋谷昌三と小野寺敦子によると、ユングは夢分析に強い関心を向けており、人間の見る夢はその人の無意識に潜むイメージを体現すると考えていたことを共著で挙げています。
つまり、人間は夢の中で自身のペルソナについて、自分は求められる振る舞いができているかどうか、ペルソナが自分に合ったものかどうかなど、検討しているとユングは考えたのです。
たとえば、以下のような事例を考えてみてください。(*ユングの主張をわかりやすく伝えることを追求した例ですので、医師がおこなう診断のように、科学的な実証性または根拠がある例ではありません)
- 進路に悩んでいる子どもは、常日頃から「物わかりの良い優しい子」をペルソナとして演じている
- しかし、ペルソナに従っているばかりでは、希望通りの進路を叶えることができなくなってしまうかもしれない
- そんなとき、「ペルソナを求める人=親」が、怪物やテロリストなどの脅威として夢に描き出される
- その脅威と戦ったり、逃げたりすることを通して、自分がペルソナに合った人生を送れているかどうかを判断することができる
ユングの主張を簡素化した例から、ペルソナと夢の関係を理解することはできたと思います。
1-4: ペルソナとシャドウ
そして、シャドウとは、
ペルソナを演じるとき、求められる役割にそぐわない自分の一面が抑圧されること
を指します。
渋谷と小野寺によると、ユングはシャドウがペルソナの反対に位置する概念であり、ペルソナを演じる以上必ず生ずるものと考えていたことを指摘しています5(渋谷・小野寺『手にとるようにユング心理学がわかる本』(かんき出版)。
ペルソナは多くの場合、社会的に期待された役割で、道徳的、倫理的に正しく、一般的に良い事とされる役割といえるでしょう。一方でシャドウは、その役割と反対の性格をもつ要素で、道徳的、倫理的に正しくない要素が多く、悪い事と評価されるものです。
たとえば、「優しく穏やかな人物」がペルソナである場合、私利私欲に走りたいと思う感情や怒りなどはシャドウといえます。ペルソナと正反対の要素をもつシャドウは、無意識下に抑圧され、人間が認識することはなくなります。しかし、ペルソナを演じているときに葛藤に晒されると、無意識下に眠ったシャドウが顔を出し、不安感や迷いを生じさせる場合があります。
ペルソナとシャドウの解説を読んで、シャドウは人間にとって悪いものだと感じた人もいるかもしれません。しかし、シャドウは人間が心のバランスを取る上で重要な役割を果たしています。
それは無意識下に抑圧されたシャドウに気が付くことで、自分のペルソナとの付き合い方を考えることができるからです。そのため、精神を健康に保つためには、ペルソナとシャドウがバランスを保った状態であることが重要なのです。
- ユングのペルソナとは、人間が社会生活において、求められた役割を演じる機能やその一面を指す概念である
- ユングは人間の見る夢はその人の無意識に潜むイメージを体現すると考えた
- シャドウはペルソナの反対に位置する概念であり、ペルソナを演じる以上必ず生ずるものである
2章:ユングのペルソナとアニマとアニムス
さて、ユングのペルソナを深掘りするためには、アニマとアニムスを理解する必要があります。2章ではそれぞれを解説していきます。
2-1: アニマ
まず、アニマとは、
男性が持つ女性的な元型のこと
です。
数あるペルソナの中でも、多くの人に共通して、性別に則ったペルソナがあります。性別によるペルソナとして、
- 男性・・・「力強い」「頼りになる」
- 女性・・・「優しい」「包容力のある」
などのペルソナが挙げられます。(一般的に、前者は「男性らしい」、後者は「女性らしい」という言葉で表現されます)
人間は相反する2つの要素をもつと考えたユングは、人間は性別から求められるペルソナとのバランスを保つため、無意識下に異性の性格を備えていると解釈しました。
つまり、男らしい振る舞いを求められる男性は、無意識下に女性的な性格を、女性は男性的な性格をもっていると考えたのです。心の中に描きだされる性格のことを、ユングは「元型」と呼んでいます。
そして、男性が持つ女性的な元型である「アニマ」は、優しさや美しさ、包容力を持った女性の姿で男性の夢に表れることがあります。アニマの姿は男性の精神的な成熟度に伴って変化するといわれており、全4段階に分けることができます。
- 生物学的アニマ・・・女性の肉体性が表現されたアニマ。抱きしめられるなどの身体的な関わりを持つことが多い。娼婦など、肉体的な関わりを持つ女性が現れる。
- ロマンティックなアニマ・・・女性の精神性が表現されたアニマ。言葉とのコミュニケーションを含む、精神的な関わりが描かれることが多い。お姫様やヒロイン的性格を持つ女性が現れる。
- 霊的なアニマ・・・女性の包容力や、女性から与えられる癒しのイメージが表現されたアニマ。聖母マリアに代表されるような、霊的なイメージから生ずる人物や神が現れる。
- 叡知のアニマ・・・女性的なイメージを抜け出した、中性的な性格を持つアニマ。仏教美術の観音菩薩像に代表されるような、神と一体になった人物が現れる。
ユングは、叡知のアニマに到達することによって、男性の精神的な発達は完了すると考えました。自分の夢にどのような女性が出てくるのかによって、男性の成熟度を測ることができるといえます。
また、女性の他にも、猫や船、水や洞窟などの周辺風景として表れることがあるといわれています。
2-2: アニムス
一方で女性がもつ男性的な元型を、「アニムス」といいます。アニムスは、力強さや行動力の高さなどを持った男性の姿になって、女性の夢に表れることがあります。アニマ同様、アニムスも女性の成熟度に伴って4段階に分けることができます。
- 力のアニムス・・・男性の肉体的な強さが表現されたアニマ。スポーツ選手やアニメ・漫画のヒーローのような力強さを持つ男性が現れる。
- 行為のアニムス・・・男性の勇ましさ、行動力の高さが表現されたアニマ。強い意思を持って行動したり、向上心の高い男性が現れる。
- 言葉のアニムス・・・男性の指導力や、合理的な考え方が表現されたアニマ。演説をするリーダーや、他者を励ますことのできる男性が現れる。
- 意味のアニムス・・・男性的なイメージを抜け出した、中性的な性格を持つアニマ。他者を理解し、自分から見て精神的に頼ることができる男性が現れる。
女性の場合も、意味のアニムスに至ることによって、精神的に発達が完了したといえます。
自分の夢にどのような男性が出てくるのかによって、女性の成熟度を測ることができるといえます。女性のアニムスには、男性のイメージの他にも、鷲やライオン、武器などの姿を持って表れることがあるといわれています。
- アニマとは、男性が持つ女性的な元型のことである
- アニムスとは、女性がもつ男性的な元型である
3章:ユングのペルソナの学び方
ユングのペルソナについて理解することはできたでしょうか?
最後に、さらに理解が深まる書籍を紹介します。どの書籍も読みやすい一冊ですので、ぜひトライしてみてください。
長尾剛『手にとるようにユング心理学がわかる本』(かんき出版)
ペルソナやシャドウのようなキーワードをはじめ、ユング心理学の用語をわかりやすく解説した本です。平易な言葉で説明されているため、初学者におすすめです。
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福島哲夫『図解雑学ユング心理学』(ナツメ社)
図や絵が多く用いられた、ユング心理学の入門本です。視覚的な理解がしやすく、心理学の予備知識を持たない人でも読みやすい構成になっています。
山中康裕『臨床ユング心理学入門』(PHP新書)
ユング心理学を臨床場面で用いている著者が、実際の活用法を交えてユング心理学を紹介した一冊です。専門用語が多いため、ユング心理学をより深く知りたい人におすすめです。
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一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- ユングのペルソナとは、人間が社会生活において、求められた役割を演じる機能やその一面を指す概念である
- ユングは人間の見る夢はその人の無意識に潜むイメージを体現すると考えた
- シャドウはペルソナの反対に位置する概念であり、ペルソナを演じる以上必ず生ずるものである
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