根本的な帰属の誤り(Fundamental attribution error)とは、他者の行動を説明する際、個人的な特徴や性格などの内的な要因を過剰に重視してしまうことです。
たとえば、交通事故を見た時に、雨で滑りやすくなっている道路や不明瞭な視界よりも、運転手のせっかちな性格に事故の原因があると考えてしまうことはありませんか?
そのように内的要因を重視し過ぎてしまうことは、原因を正しく理解することを困難する場合があるため、注意が必要です。
この記事では、
- 根本的な帰属の誤りの意味
- 根本的な帰属の誤りの例
- 根本的な帰属の誤りの心理学的実験
- 根本的な帰属の誤りの対策
をそれぞれ解説していきます。
関心に沿って読み進めてください。
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1章:根本的な帰属の誤りとは
1章では、根本的な帰属の誤りの「意味」と「例」を解説します。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1: 根本的な帰属の誤りの意味
まず、冒頭の確認となりますが、根本的な帰属の誤りとは、
他者の行動を説明する際、個人的な特徴や性格などの内的な要因を過剰に重視してしまうこと
です2*翻訳者によって、「根本的帰属エラー」「基本的帰属錯誤」と呼ばれることもある。
簡単にいうと、他者のあらゆる行動は、その人の内的な要因(性格や癖など)から生じるものと推測してしまうことです。
日常生活や社会生活などの場面において、人間がどのような行動を選択するのかは、その人の置かれている環境や選択行動に干渉する他者の有無、その人の性格などさまざまな要素が複雑に絡み合っています。
多くの場合、人間はあらゆる要素を慎重に検討して、自分にとって最適な選択をしています。しかし、選択をしている本人は最も重視した要素を理解していますが、他者がその要素を理解していることは稀です。
そして、なぜ他者がその行動をとったのかがわからないとき、人間は他者のもつ個人的な「性格」や「思想」といったものに原因を帰属してしまいがちだといわれています。たとえ他者がある行動をとった原因が、その人の置かれた環境や事情にあったとしても、その人の個人的な要素に原因を求めてしまう恐れがあるのです。
- 社会心理学的な用語として、「根本的な帰属の誤り」と似た用語に「対応バイアス」があります。
- 「根本的な帰属の誤り」とはアメリカの社会心理学者であるリー・ロス(Lee Ross)が、「対応バイアス」はロスよりも後世の心理学者であるダニエル・ギルバート(Daniel Gilbert)が同じ現象に対して用いた用語です。
- ギルバートは、対応バイアスは根本的な帰属の誤りよりも広い範囲における帰属の誤りを指すとしていますが、現在の社会心理学において、対応バイアスは根本的な帰属の誤りの別称として用いられています。
1-1-1: 根本的な帰属の誤りが生じる原因
では一体、なぜ根本的な帰属の誤りが起きるのでしょうか?結論からいえば、根本的な帰属の誤りが生じる原因については定説が存在せず、現在でも多様な意見が交わされています。
たとえば、人間が物事を認識するときに生じる「行為者ー観察者バイアス」という認知バイアス(解釈するときに生じる偏見)が影響しているという説があります。それは具体的に以下の意味を指します。
- 自分が「行為者」の場合は外的要因に、自分が「観察者」である場合は他者の内的要因に帰属してしまうことを指す認知バイアス
- 自分が「行為者」である場合、思い浮かべる視界に自分自身はおらず、状況のみが広がっている。そのため、行動の原因について考えるとき、自分の起こした行動の原因は外的な要因(置かれた状況など)にあると考えてしまいがち
- 反対に、他者の行動の原因を考えるとき、すなわち自分が「観察者」である場合には、行動を起こしている他者を含めた風景を想像する。このとき、観察者である自分の風景の中で最も目立っているのは、行動を起こしている人になりがち
このように、他者の行動の原因を考えるときには、想像する風景の中で焦点となるその人に目を引かれ、その人のもつ内的要因に原因を帰属してしまう可能性があることが指摘されています。
1-2: 根本的な帰属の誤りの例
さて、根本的な帰属の誤りは、日常生活のさまざまな場面で見ることができます。
たとえば、電車にお年寄りが乗ってきたとき、近くの座席にいた高校生が席を譲らずそのまま座っていたという場面を例に挙げることができます。第三者であるあなたは、電車の揺れに耐えながら立ち続けるお年寄りと、席に座ったまま動かない高校生の両方を視界にとらえています。そのとき、あなたは高校生に対してどのように感じるでしょうか?
根本的な帰属の誤りに惑わされていた場合、
- あなたは「お年寄りに席を譲らないなんて、思いやりのない人だ」と考える可能性がある
- 「思いやりのない人」という考えは、高校生の性格という個別な要素に、行動の原因を帰属しているため
です。
しかし、冷静に状況を捉えてみると、高校生にも席を譲らなかったなんらかの理由があったという可能性があります。たとえば、高校生が体調不良のため立ち上がることができなかった場合や、高校生がそのお年寄りは膝の痛みのために座ることを好まない人だということを知っていた場合が考えられます。
第三者の視点からみたとき、そもそも、高校生やお年寄りがどのような人物であり、どのような行動をとる人なのかをよく知らないはずです。知らないにも関わらず、行動の原因を個人の性格や特徴に帰属してしまうことは、根本的な帰属の誤りを起こしているといえるでしょう。
- 根本的な帰属の誤りとは、他者の行動を説明する際、個人的な特徴や性格などの内的な要因を過剰に重視してしまうことである
- 根本的な帰属の誤りが生じる原因については定説が存在しない
2章:根本的な帰属の誤りと心理学的実験
前述のように、「根本的な帰属の誤り」はリー・ロスによって1977年に提唱されました。
しかし、ロスが根本的な帰属の誤りを提唱する10年前である1967年に、他者の行動の原因をその人の内的要因に求めてしまう現象を初めて確認した心理学研究がありました。
それが、1967年にアメリカの社会心理学者であるエドワード・ジョーンズ(Edward E. Jones)とビクター・ハリス(Victor A. Harris)によって実施された「カストロ実験」です。
2-1: カストロ実験の概要
まず、カストロ実験の概要は以下のとおりです。
- デューク大学の心理学を専攻する学生51名(男性36名、女性15名)が参加した
- 被験者は、キューバの指導者であるフィデル・カストロ(Fidel Castro)に関する2つの文章を読むように指示される
- 文章は、カストロ政権への賛成派と反対派のものが1つずつ用意された
- 加えて、文章の書き手に関する情報として「書き手が賛成・反対の立場を自由に選択できる状況だったか否か」の2つの条件が加えられた
実験者は被験者に、文章の内容を読むことによって文章の書き手の性格を想像できるかどうかに関する実験である、と説明しました。続いて、文章に関して、ある学生が政治学の試験で書いたものであると説明をします。
その上で、参加者を2つのグループに分け、一方のグループには「書き手は本人の自由に文章を書いた」と伝え、もう一方のグループには、「書き手は教師によって賛成(あるいは反対)の意見を書くよう指示されていた」と伝えました。
2つのグループは書き手の状況に関しての説明を受けた上で、文章を読み「賛成の意見を書いた人物は、実際にカストロ政権に賛成しているか」について評定するよう指示されました。
2-2: カストロ実験の結果
実験の結果、カストロ政権に対して賛成の文章を書いた人物は実際にカストロに賛成していると評価が下されます。具体的にみていきましょう。
- 「書き手は本人の自由に文章を書いた」と伝えられたグループには、文章の作者は自由意思に基づいて文章の内容を決定していると被験者に伝えられているため、被験者たちが、書き手がカストロに賛成していると推察することは理にかなっている
- しかし、「書き手は教師によって賛成(あるいは反対)の意見を書くよう指示されていた」グループにおいても、賛成の文章を書いた人物は実際にカストロに賛成している、と多くの学生に評価された
つまり、書き手は教師の支持のためやむを得ずに(彼がカストロに反対しているとしても)カストロに賛成的な意見を書いたという背景を説明されたにもかかわらず、被験者は「書き手はカストロに賛成している」と捉えてしまうことが示されました。
この実験結果から、ジョーンズとハリスは、
- 人間は他者の行動の原因について検討するときに、その人の置かれた状況(外的要因)よりもその人の性格や思想(内的要因)に原因を求めてしまう性質をもっているのではないか?
- 言い換えれば、他者の行動については、第三者から見てもその行動が状況や環境によって生じた行動とわかり得る場合であっても、その行動の原因は内的要因に帰属されてしまう
- つまり、人間は他者の行動の原因を、正確に推測することが苦手である
と考えたのです。
この実験から根本的な帰属の誤りに犯されると、他者を正しく理解せず、見かけで理解してしまうことに繋がることを指摘したのです。
- 1967年に、他者の行動の原因をその人の内的要因に求めてしまう現象を初めて確認した「カストロ実験」があった
- カストロ実験では、他者の行動については、第三者から見てもその行動が状況や環境によって生じた行動とわかり得る場合であっても、その行動の原因は内的要因に帰属されてしまう可能性が指摘された
3章:根本的な帰属の誤りの対策
根本的な帰属の誤りを低減する方法として、「対応バイアス」を提唱したダニエル・ギルバート(Daniel Gilbert)は、以下の3つの方法を紹介しています3たとえば、Daniel Gilbert (1989) 「Thinking lightly about others: Automatic components of the social inference process」『Unintended thought』 189–211頁など。
- 評価対象者と同じ状況に自分がいたら、どのような行動をするかを考える
- 評価対象者がとった行動の原因として考えられるものの中で、本人以外からはわかりにくい原因や目立たない要素がないかを慎重に検討する
- 評価対象者の他に、同じ行動をとった者が周辺にいたかどうかを確認する。同じ行動をとった人が多い場合、評価対象者は状況に従い、自分の意に沿わずともその行動を選択した可能性がある
ギルバートの示した3つの方法には、他者の視点に立って行動の原因を探るということという共通点があります。それは第三者である自分の視点から、他者の行動の原因を探ることとは大きな異なる認識の仕方です。
ギルバートの示した方法は、特に他者を評価する立場の人や支援を行う立場の人にとって有効です。自分以外の誰かについて評価するときには、その行動の原因について過度に内的要因を重視しないよう注意しましょう。
4章:根本的な帰属の誤りを学ぶ本
根本的な帰属の誤りについて理解を深めることはできたでしょうか。
これから紹介する書物・論文を参考にして、さらにあなたの学びを深めていってください。
守屋智敬『「アンコンシャス・バイアス」マネジメント 最高のリーダーは自分を信じない』(かんき出版)
他者を評価する立場にあるリーダーが、根本的な帰属の誤りのような偏見に惑わされずに判断を下すにはどうすべきかについて解説された、実用的な内容の本です。
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原田純治『社会心理学 対人行動の理解』(ブレーン出版)
根本的な帰属の誤りのような、対人関係における社会心理学について詳しく解説されている本です。社会心理学のキーワードについてより詳しく理解したい人におすすめです。
一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- 根本的な帰属の誤りとは、他者の行動を説明する際、個人的な特徴や性格などの内的な要因を過剰に重視してしまうことである
- カストロ実験では、他者の行動については、第三者から見てもその行動が状況や環境によって生じた行動とわかり得る場合であっても、その行動の原因は内的要因に帰属されてしまう可能性が指摘された
- ギルバートは、他者の視点に立って行動の原因を探るということを対策として提案している
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