経済史

【商業資本主義とは】歴史からその特徴ををわかりやすく解説

商業資本主義とは

商業資本主義(Commercial capitalism)とは、本格的な資本主義の時代の前に現れた、遠隔地貿易を行う商人たちによる、資本主義に近い形態の現象のことです。商人資本主義とも言われます。

私たちが生きる現代の時代は、言うまでもなく資本主義の時代です。しかし、最初から現在のような資本主義の仕組みを持つ社会だったわけではありません。

中世の封建制の時代から、商業資本主義、産業資本主義といった時代を経て、現代に至っているのです。

この記事では、

  • 商業資本主義の意味や産業資本主義との区別
  • 商業資本主義の歴史や、社会における変化(会社の誕生など)

について詳しく説明します。

関心のあるところから読んでみてください。

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1章:商業資本主義とは

もう一度整理しますが、商業資本主義とは、

  • 商人による活動(商業)が中心となった
  • 本格的な工業による資本主義の、前段階として現れた

資本主義的現象のことです。

1章では商業資本主義の意味や特徴を、2章では商業資本主義の詳しい歴史を解説します。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:資本主義とは

商業資本主義について理解するために、まずは「資本主義」の意味を理解する必要があります。

そもそも「資本主義」とは何でしょうか?実は、資本主義の定義は過去に繰り返し論争されてきており、簡単に定義できるものではありません。

しかし、以下の特徴を持つ社会の仕組みである、とまずは大雑把に押さえておきましょう。

  • 資本家が蓄積した利益を元にして、より利益を拡大するために活動する(資本が自己増殖していく)
  • 交易や農業ではなく、本格的な工業の時代になると同時に誕生した
  • 資本家が労働者を集めて雇用し労働させることで製品を作り、利益を生みだす労使関係が生まれると同時に誕生した

キーワードとなるのは、「工業化」「資本家と労働者」「利益の蓄積・拡大」という点です。

そして何より大事なのが、上記の特徴を持つ資本主義という社会の仕組みが、社会の隅々まで行き渡ったのが「資本主義」の時代であるということです。

1-2:商業資本主義の特徴

くり返しになりますが、商業資本主義は本格的な資本主義の前段階として現れた現象です。

そのため、商業資本主義の時代は「工業化」「資本家と労働者」「利益の蓄積・拡大」という特徴がまだ生まれていないものの、その要素を備える特徴が徐々に出てきた時代なのです。

簡単に要点を整理すると、商業資本主義は以下の特徴を持ちます。

  • 工業ではなく交易(遠隔地貿易)を行った商人が利益を蓄積した
  • 利益は再投資されるよりも、奢侈品(ぜいたく品)の購入などの消費に使われることが多かった
  • 明確に分かれ、雇用契約によって結ばれる「資本家と労働者」という関係はなかった

一方で、特にヨーロッパの商業資本主義では「会社」という仕組みや、金融の仕組みなど、その後の資本主義の時代を作る上で重要なものも誕生しています。

そのため、単なる封建制の時代や中世としてひとくくりにせず、商業資本主義の時代として区別して理解することが大事なのです。

経済学者は「資本主義とは何か」というテーマを避けて通ることはできません。特に代表的な古典派経済学者について、以下の記事も参考にしてください。

【アダムスミスの『国富論』とは】重要概念のすべてを徹底解説

【リカードの思想とは】『経済学および課税の原理』から徹底解説

【マルクス経済学とは】史的唯物論から『資本論』の世界まで解説

1章のまとめ
  • 商業資本主義は、「工業化」「労使関係」といった本格的な資本主義の時代の前に現れた
  • 商業資本主義は、商人による交易、商業による利益の蓄積を特徴とする
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2章:商業資本主義の歴史

商業資本主義は、

  • インドやアラブ世界との交易によって富を蓄積した、10世紀から14世紀ごろまでの中国
  • ヨーロッパ、アフリカ、アジアとの交易を行った、7世紀以降の中東世界

でも発達しました2ユルゲン・コッカ『資本主義の歴史』人文書院35-45頁

しかし、その後の本格的な資本主義につながったのは、中国や中東に比べるとむしろ遅くに商業資本主義がはじまったヨーロッパです。

ヨーロッパにおける商業資本主義の時代は、いわゆる「中世」の時代、12世紀頃からのことです。中世というと古代ギリシャ・ローマのような華やかな文明からの、「停滞」「後退」であるとか、自給自足の生活に逆戻りしていた、などと言われることがあります。

しかし、実は一部では活発な交易が行われ、そこから資本主義の萌芽が生まれていたのです。

ヨーロッパにおける商業資本主義の歴史を説明します。

2-1:遠隔地交易の発達

古代ヨーロッパではイスラム教徒の侵入などによって商業、交易が一度衰退したのですが、完全に衰退してしまったわけではありませんでした。商業、交易も一部では続けられ、また中世の間に徐々に復活してきたのです。

2-1-1:南方交易と北方交易

南方交易は奢侈品中心で、十字軍の遠征とも伴って発達しました。北方交易はヴァイキングの侵略とともに発達し、徐々に平和な交易になり、奢侈品とともに日用品の取引も拡大していきました。

■南方交易:奢侈品中心

12世紀ごろから、ヨーロッパとアジアとの交易が活発になり、イタリア、南フランス、スペインなどの沿岸の都市から、アフリカやシリア、ビザンティン帝国へ、そしてさらに東方(アジア)へと交易路が拡大します。

主にヨーロッパの貴族らの需要により、奴隷や香料、宝石などの奢侈品(ぜいたく品)が取引されました。

さらに、11世紀には十字軍の遠征が始まります。十字軍の遠征は、一般的に聖地奪還の軍事的行為と考えられていますが、実は多くの商品が遠征に参加し、略奪行為と表裏一体の商業・交易が行われたのです。

つまり、十字軍の遠征によっても交易が発達しました。

■北方交易:奢侈品→日用品

南方の航路とは別に、バルト海、北海を中心としてロシア、ポーランド、スカンディナビア半島(現在のノルウェーらの半島)とイギリスやフランドル(現在のフランス・ベルギー)地域をつなぐ北方交易も中世に発達しました。

きっかけはヴァイキングによる侵略でしたが、10世紀以降に平和な通商が拡大し、貴金属、宝石、絹、葡萄酒、毛皮などが取引されました。

10世紀半ばごろからは、フランドル地方で分業が発達し、農産物、酪農製品、毛織物などの日用品の交易が発達し、また取引をする「市場町」が形成されていきます。

こうした南方・北方の海路と陸路が形成されていき、またその途中には市場町などが形成され、徐々に結びつきを強めました。

2-1-2:商人のリスク回避策

商人たちにとって、長い時間と略奪や事故などが起こりえる遠隔地交易はリスクの高いものでした。一度の取引で大きな富が得られる可能性がある一方で、失敗もつきものだったのです。

そこで商人たちは、下記のような工夫をしました3ユルゲン・コッカ、前掲書46-47頁など

  • 船隊を組み武装する:海賊の略奪などから身を守るため
  • 隊商を組む:同じく略奪などのリスクへの対策
  • 商人らによる自治:都市内で独自の自治権などの特権を持った

つまり、商人たちは交易のリスク回避のために集団でまとまって活動をはじめたのでした。

こうした組合、同盟的な集団の多くは一時的なものだったようです。しかし、中には長期的でかつ大規模に広がり、大きな力を持つようになったものもあります。

その代表例が「ハンザ同盟」です。

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2-2:ハンザ同盟(商人ギルド)形成

ハンザ同盟とは、遠隔地交易を行う商人が中心となって形成した同盟で、複数の都市を強く結合させ、交易や都市の自治について特権を持ちました。

ハンザ同盟に代表される商人ギルドは、以下の経緯で形成されました。

  • ヨーロッパでは13世紀頃から、大商人らによる自治的な都市が形成されるようになる
  • 国王や貴族にとって、遠隔地交易によって貴金属などの貴重品をもたらす商人らの存在は重要
  • そこで、国王は、一部の組織化された商人(=商人ギルド)に外国との取引の自由や商業における特権を与えた

こうして特に力を持ったのが、イングランド・フランドル間の交易・商業を独占した「ロンドン・ハンザ」やバルト海・北海の交易・商業を独占した「ドイツ・ハンザ」です。

ハンザ同盟の商人たちは、下記のように組織的に交易・商業を行いました。

  • 数年程度の期間限定の会社を設立し、協力して事業を行い利益を分配した
  • 取引は現金を直接やりとりするのではなく、「手形(※)」で取引した
  • ハンザ同盟としての政策は、ハンザ総会で決められた

※手形とは、一定の期日で決められた金額を支払うことを約束する証券のことで、昔は紙や板などが使われました。

しかし、ハンザ同盟についてここまで読んでも、それが後の資本主義につながるとはイメージしづらいかもしれません。

資本主義の萌芽となったのは、会社組織による富の蓄積、継承や、金融の仕組みの発達です。



2-3:会社組織の発達

12世紀~15世紀の北イタリアの都市や、南ドイツの都市では、遠隔地交易を柱にした商業資本主義がより発展していきました。

遠隔地交易は、1度の交易が半年から1年以上もかかり、より大規模でお金のかかるものになっていったため、「会社」組織が使われるようになります。もちろん現代のような会社とは異なるものですが、素朴な形態から徐々に発展していきました4中村勝巳『世界経済史』講談社学術文庫180-182頁など

  • まずは1回~数回程度の交易のために当座的「組合」が作られた
  • さらに一時的なものではなく、交易事業への参加者が資本と労力を提供し、協同で利益や損失を分担する「合名会社」も作られるようになった
  • 12世紀頃から、会社を次の世代の家族に継承し、富を蓄積し、事業を発展させるようになる
    例えば、後にアウクスブルク(ドイツ地方)で強い影響力を持ったフッガー家は、遠隔地交易によって富を築き、会社を発展させることで富を蓄積した
  • 13世紀~15世紀になると、会社は「法人」としての性格を持ち、会社が経営者やオーナーから切り離されて、時にはオーナーを変えることもあった
  • 取引のために「複式簿記」が使われるようになり、出資者の「有限責任(※)」などのルールが適用される場合もあった

有限責任とは、会社に資金を提供した出資者が、事業が失敗した場合も出資額以上の責任を負わない仕組みです(逆に無限責任だと、事業が失敗し会社が倒産した場合に、出資額だけでなく個人的な資産まで使って責任を負わなければなりません)。

資本主義の特徴の一つが「富の蓄積」です。富を蓄積することで資本家が生まれ、富を持たない人々を労働者として雇用し、労働させることで利益を生み出していったのです。

商業資本主義の時代には、すでに交易と「会社」という仕組みによって、世代を超えて富を蓄積する仕組みが発達していったことが分かると思います。

さらに、商業資本主義の時代には金融の仕組みも発達し、金融をなりわいとして富を蓄積する人々も生まれました。

2-4:金融の発達

金融、つまり資金の貸し借りや両替、為替などの業務は、もともと商人が自ら行っていました。商業を行う上で、金融の仕組みは不可欠だったからです。

しかし、遠隔地交易の規模が拡大し、商業資本主義が発達するとともに金融の規模や仕組みが複雑になり、一部の商人の中から金融の専門家が生まれてきました。

  • 商業が発達したイタリアの諸都市(ジェノヴァ、ヴェネツィア、トスカーナ)では、12世紀から14世紀にかけて「銀行」が生まれた
  • 当初、銀行は親族をベースにした会社であったが、徐々に支配人や職員を持つ大銀行になっていった
  • さらに、銀行は為替や資金の貸借だけでなく、預金された資金や自己資本を用いて融資(資金の貸出)を行い、利息で収益を拡大するようにもなった

こうして商業資本主義から、金融資本主義とも言える形態が生まれました5ユルゲン・コッカ、前掲書55-58頁など

特徴的なのが、この時代の銀行は貴族や王族、教会の権力者らにも資金の貸付を行ったことです。

この時代の権力者たちは戦争のための資金や税収の減少などから、資金不足の者が少なくなかったため、権力者は大銀行家から資金を借りていたのです。

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2-5:手工業

12世紀以降には、都市に移住した農民の中から手工業をなりわいとする人々が生まれました。

手工業とは、大規模な設備を持たず手作業で製品を作る工業のことです。職人的な仕事とイメージしてください。

手工業者は材料や製品の販売について商人と取引することが多かったため、利益を守るために「手工業ギルド」を形成しました。

当初の手工業者たちは、数人の弟子と親方で構成される小規模なものでしたが、やがて一部の商人は手工業者たちに材料を前貸しして注文したり、道具を提供するようになります。

  • 材料や道具を借りている手工業者は、経営が安定する一方で、必ず受注した商品を作らなければならず、それは賃金をもらって労働者に近いものになる
  • 商人は「問屋(卸売業者)」になった

こうした形態は、特に商業が発達していた北イタリアの毛織物業などで生まれていたようです。

「この商人らが資本を蓄積して、後の資本家になっていったということ?」と思われるかもしれませんが、それは少し早とちりです。この時代の商人たちはそれほど急速に資本蓄積したわけではなく、また、再投資された資本は利益の一部に過ぎなかったからです。

本格的な資本主義の時代には、利益が設備投資や雇用に向かったのですが、この時代の商人たちは利益を奢侈品(ぜいたく品)への消費に向けることが多く、継続的な再投資はまれでした。

2-6:商業資本主義と本格的な資本主義の違い

このように、商業資本主義とその後の本格的な資本主義との違いは、主に以下の2点です。

  1. 工業が未発達だったこと
    この時代、利益の蓄積は交易、商業、金融などで、本格的な工業は未発達でした。工業が発達することで、資本家は急速に利益を蓄積し、大規模な設備を作り、大量の労働者を雇えるようになります。そのため、この時代の資本主義の発達は限定されていたのです。
  2. 利益追求に対する道徳観
    キリスト教の道徳観では、利益を追求し続けることや利子をとって融資することを制限していました(そのため、利益は教会に寄進したり、金融はユダヤ人が行っていました)。この時代の道徳観は、資本主義的な活動を制限していたのです。

とはいえ、商業資本主義の発達は中世封建制的な社会を壊し、資本主義の時代に不可欠の「会社」「金融」といった形態を発達させたことも重要です。

2章のまとめ
  • 商業資本主義的な活動は、中国や中東で早い時期に生まれていたが、その後の資本主義につながったのは後発だったヨーロッパにおいてだった
  • ヨーロッパでは、アジア、中東、アフリカなどの世界との遠隔地交易が拡大する中で、力を持つ商人や銀行家が生まれた
  • 商人は交易によって富を蓄積し、中には問屋のような事業を行うものも現れた
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3章:商業資本主義に関するおすすめ本

商業資本主義について理解を深めることができたでしょうか?

商業資本主義は本格的な資本主義の時代の前段階の時代です。そのため、その後の時代とのつながり、資本主義の全体の流れとともに理解することが大事です。

下記の本は資本主義を理解する上でとても良い本ですので、ぜひ読んでみてください。

オススメ本

ユルゲン・コッカ『資本主義の歴史ー起源・拡大・現在ー』(人文書院)

この本は、資本主義の歴史を広く概観した読み物で、資本主義について前提知識なしに学ぶのにおすすめです。教養として学ぶ分には十分な内容です。

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小野塚知二『経済史ーいまを知り,未来を生きるためにー』(有斐閣)

上記の本は詳細な歴史が省かれているため、より詳しい資本主義の歴史を学ぶにはこちらの本をおすすめします。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 商業資本主義は、本格的な資本主義の時代の前に生まれた
  • 商業資本主義は、商人による交易、商業によって資本を蓄積する中で、会社や金融の仕組みを発展させた

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