方法論的個人主義(Methodological Individualism)とは、個人の性質、選択、選好などの総和として社会現象は把握できるという立場です。
「方法論的個人主義」とそれに対立する「方法論的集合主義」は社会学で頻繁に議論されますが、決して難しい話ではありません。
簡単にいうと、「社会をどう把握するか?」という疑問に対して、「個人」に重点を置くのか「集合体」に重点を置くのかといった立場の話です。
つまり、「方法論的個人主義」と「方法論的集合主義」を理解することで、社会科学全般に共通する基本的な立場を理解することができます。
そのため、この記事では、
- 方法論的個人主義と意味とウェーバーの議論
- 方法論的個人主義と方法論的集合主義との相違点
- 方法論的個人主義と方法論的集合主義の具体例
をそれぞれ解説します。
あなたの関心に沿って、ぜひ読んでみてください。
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1章:方法論的個人主義とはなにか?
1章では、方法論的個人主義・集合主義を概説します。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1: 方法論的個人主義とウェーバー
まず、冒頭の確認となりますが、方法論的個人主義とは、
個人の性質、選択、選好などの総和として社会現象は把握できるという立場
です。
言い換えると、「個人の集積からどう社会が形成されるのか」といった疑問の立て方をして、ある社会を理解しようとする立場です。社会とはなにか?を議論する際に、「集合体」よりも「人びと」に焦点を当てた議論を展開することが特徴です。
社会学の父であるマックス・ウェーバーは方法論的個人主義的な立場を代表する人物です。方法論的個人主義的な立場を理解するために、彼の議論をみていきましょう。
社会学でもっとも有名な学者の一人であるウェーバーは方法論的個人主義の立場をとり、社会分析を進めていきました。
1-1-1: ウェーバーの社会学の目的
ウェーバーの議論を理解するためには、ウェーバーが提示した社会学の目的を理解することが大事です。この点から解説を始めます。結論からいうと、ウェーバーは社会学の目的を次のように提示しました2片桐新自「社会学の基本概念」『基礎社会学』(世界思想社)から参照。
社会的行為を意味解明的に理解し、それを通じてその経過と結果とを因果的に説明しようとする科学
ウェーバーの理論的部分は「理解社会学」といわれたりします。そして、ウェーバーが提示した社会学の目的には社会現象を個人の行為に分解して理解しようとする姿勢が反映されています。
ウェーバーが社会学の目的を上述のように定義したのは、次のように考えたからです。
- 社会を把握することは、基本単位となる個人的行為を把握するべきである
- 個人の社会的行為を理解するためには、行為者の主観的な意味の理解が必須である
このように、ウェーバーは「個人」をより基本的な軸として議論を出発させます。
1-1-2: 方法論的個人主義の代表例としてのウェーバー
ウェーバーが「方法論的個人主義」を代表するとしたら、エミール・デュルケームは「方法論的集合主義」を代表する論者です。
デュルケームの方法論的集合主義は2章で詳しく解説しますので、ここでは簡単に二つの立場の相違点を紹介します。
- 方法論的個人主義・・・社会を把握するためには、基本単位となる個人的行為を把握するべき
- 方法論的集合主義・・・分析の単位を個人ではなく社会とする立場。つまり、社会を個人の単なる集まりではなく、あるアイデンティティをもった集合体と考える
両者の違いは大まかにこのようなものです。ここでは、ウェーバーの方法論的個人主義をさらに詳しくみていきましょう。
社会学者の大澤は、ウェーバーの特徴を以下のように説明しています3大澤真幸『社会学講義』(ちくま新書)。
- 「世界についての敬啓の究極的な座は個人である」と考えるもの
- 「ウェーバーの議論が原理的には、個人を核とした社会についての説明」である
- 「行為は究極的には個人の意味的な思念の内にある」とみている
ウェーバーの議論が社会学の内部でさらに精緻化されると、それは「方法論的個人主義」と呼ばれるようになりました。それが冒頭で提示した方法論的個人主義の定義です。
再度繰り返すと、方法論的個人主義とは、個人の性質、選択、選好などの総和として社会現象は把握できるという立場です。その個人に焦点化した方法論は経済学といった社会科学の分野の基礎となっています。
1-2: 方法論的個人主義とウェーバーの社会的行為
では一体、ウェーバーは個人のどのような社会的行為を分析したのでしょうか?
そもそも、ウェーバーの社会的行為とは、個人の主観的な意味を含ませた振る舞いで、その主観的な意味が他者に向かっているものを指します。
たとえば、読者を想定していない日記を書くことは社会的行為ではありませんが、誰かに手紙を書くことは社会的な行為となります。
ウェーバーはこの社会的行為を4類型に分けました。
社会的行為の4類型
- 目的合理的行為・・・行為者の目的に対して合理的なもの
- 価値合理的行為・・・宗教などの価値に沿って、行為自体が目的となるもの
- 伝統的行為・・・ある社会における伝統的で、身についた習慣的なもの
- 感情的行為・・・行為者の感情や気分によるもの
このような社会的行為を相互におこなう行為者間の関係は「社会関係」といわれます。そして、社会関係である意味内容が認められることで、「秩序」が生まれます。
大まかに、ウェーバーは個人から社会現象の説明は以上のようなものでした。いったんこれまでの内容をまとめます。
- 方法論的個人主義とは、個人の性質、選択、選好などの総和として社会現象は把握できるという立場
- 社会学の父であるマックス・ウェーバーは方法論的個人主義的な立場を代表する人物
- 方法論的個人主義に対立するのは、方法論的集合主義
2章:方法論的個人主義と方法論的集合主義の相違点
さて、方法論的個人主義と対立する立場があります。先ほどから登場しているように、その立場は「方法論的集合主義(methodological holism)」と呼ばれます。
他の言い方としては、「方法論的社会主義」「方法論的全体主義」といわれたりもします。ここでは「方法論的集合主義」の理解を深めることで、「方法論的個人主義」との相違点を探っていきましょう。
2-1: 方法論的集合主義とは
まず、「方法論的社会主義」「方法論的全体主義」という言葉の注意点を解説します。
先ほどもいったように、この立場は「方法論的社会主義」「方法論的全体主義」ともいわれます。このときの「社会主義」や「全体主義」という言葉に注意が必要です。
一般的に、「社会主義」「全体主義」は次のような意味で使われます。
- 社会主義・・・個人の自由と平等よりも社会的な紐帯と相互扶助を支持する社会観(→より詳しくはこちら)
- 全体主義・・・個人は全体社会への奉仕者として意味をもち、全体の利益のために個人の自由は犠牲にしてもよいとする社会観(→より詳しくはこちら)
しかし、「方法論的社会主義」「方法論的全体主義」といわれるとき、一般的な「社会主義」「全体主義」という意味をもちません。
「方法論的社会主義」「方法論的全体主義」とはあくまでも、社会科学の分野において分析の基本単位を個人ではなく(方法論的個人主義)、社会とする立場を指します。
たとえば、「全体主義」は英語で「totalitarianism」と表記されますが、「方法論的全体主義」の「全体主義」とは「holism」です。
「方法論的社会主義」であれ、「方法論的全体主義」であれ、意味は同じです。この記事では混同を避けるために、これ以降は「方法論的集合主義」と呼びます。
2-2: 方法論的集合主義とデュルケーム
さて、方法論的集合主義の代表的な論者はフランス人社会学者のデュルケームです。彼の『自殺論』は方法論的集合主義の立場に立ったものです。まず、この立場の要点を確認しましょう。
方法論的集合主義の要点は以下のとおりです。
- 社会現象を個人の行為に還元するのではなく、「社会的な事実」として捉えること
- たとえば、法律、宗教、道徳観等を個人の行為に還元するのは無理があり、外在的なものとして捉える必要性がある
- 「社会的な事実」は単に外在的なだけではなく、個人を拘束する役割も担う
方法論的集合主義の要点を簡単にいうと、「社会が個人に対して優越する」といえるでしょう。
2-2-1: デュルケームの『自殺論』
方法論的集合主義のマニフェストとなるのが、デュルケームの『自殺論』です。
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デュルケームの『自殺論』とは、一見個人的な問題ともみえる自殺を、社会連帯の強度という「社会的な事実」から実証的に研究したものです。
具体的に、デュルケームは以下のように議論を組み立てます4大澤真幸 『社会学史』講談社。
- 国別や集団別の自殺率に着目し、それらの相違を検討する
- そのなかでデュルケームは「自己本位的自殺」「集団本位的自殺」「アノミー的自殺」を3類型を提示する
- たとえば、プロテスタントの国はカトリックの国よりも自殺率が高いことを発見し、その理由を教会統制と集団凝集性の弱さに求める
- この弱さの結果、「自己本位的自殺」がプロテスタントの国では高いと結論づける
このように、コミュニティの連帯は一つの社会的な事実として存在します。それは個人から独立しているだけでなく、一見個人的な行為にみえる選択を方向づけるのです。
2-3: 方法論的個人主義と方法論的集合主義の具体例
ここから方法論的個人主義と方法論的集合主義の具体例を確認します。社会学者の稲葉は、演劇から方法論的個人主義と方法論的集合主義の相違点を指摘しています5稲葉振一郎『社会学入門』NHK出版。
まず、演劇には前提として次のような人がいます。
- 実際の上演に先立って台本がある
- その台本を書いた脚本家とそのとおりに演じる俳優・女優がいる
- 台本をもとに演劇を組み立てる演出家がいる
この前提をもとに、演劇を「分析」すると次のようになります。
- 方法論的個人主義・・・どんなに複雑なものでも個人の即興の集積として演劇が組み立てられる
- 方法論的集合主義・・・演劇は個人の即興の集積ではなく、台本のようにすでに社会的に共有されたコンテキストという前提がある
どうでしょう?両者の相違点を理解することはできましたか?
よく考えると演劇だけではなく、私たちは必ずある社会的コンテキストが先行した世界に生まれ落ちます。つまり、ある国のある村の誰かの子どもとして生まれるということです。
方法論的集合主義の立場を取る社会学者は、個人的行為の集積から社会現象を説明するのではなく、すでに先行する社会的な水準からある現象を分析するのです。
- 方法論的集合主義とは社会科学の分野において分析の基本単位を個人ではなく、社会とする立場
- 方法論的集合主義の代表的な論者はフランス人社会学者のデュルケーム。『自殺論』では方法論的集合主義的な分析をした
3章:方法論的個人主義の学び方
どうでしょう?方法論的個人主義、そして方法論的集合主義に関して理解を深めることはできましたか?最後に、あなたの学びを深めるためのおすすめ書物を紹介します。
稲葉振一郎『社会学入門』(NHK出版)/『社会学入門・中級編』(有斐閣)
社会学に興味があるという方に読んでもらいたい本。内容は初学者を対象に書かれているため、非常にわかりやすいです。稲葉は『社会学入門・中級編』を2019年に出版しており、続けて読み進めることができるのでオススメ。
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酒井 千絵, 永井 良和, 間淵 領吾(編)『基礎社会学』(世界思想社)
社会学の広大な研究領域をうまくカバーしています。社会調査という方法論から現代グローバル社会まで網羅的に理解できるため、初学者にオススメ。
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まとめ
最後に今回の内容をまとめます。
- 方法論的個人主義とは、個人の性質、選択、選好などの総和として社会現象は把握できるという立場
- 方法論的集合主義とは社会科学の分野において分析の基本単位を個人ではなく、社会とする立場
- マックス・ウェーバーは方法論的個人主義的な立場を代表する人物であり、方法論的集合主義の代表的な論者はフランス人社会学者のデュルケーム
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