心理学

【選択的注意とは】事例・心理学的な実験からわかりやすく解説

選択的注意とは

選択的注意(Selective attention)とは、多くの情報の中から、特定の情報に対して選択的に注意を向けることです。

あなたがどのような情報を処理して、どのように意味づけをしているのかを理解するために、選択的注意を理解することは大事です。

そこで、この記事では、

  • 選択的注意の意味・例
  • 選択的注意の心理学的実験

をそれぞれ解説していきます。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:選択的注意とは

1章では、選択的注意を概説します。選択的注意の心理学的実験に関心のある方は、2章から読んでみてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:選択的注意の意味

私たちは、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚といった感覚器官によって外界のさまざまな情報を取得しています。その情報は非常に膨大なため、私たちはその情報のすべて処理をしているわけではありません。

たとえば、視覚情報を考えてみましょう。

  • 本を読んでいるときおそらくあなたの視野の中には、ページ全体が含まれているでしょう
  • 一方で、そのすべての文字が読めるかというとそうではありません
  • 読み取りたい文字にフォーカスを当てて、限られた範囲の情報だけをもってくるということをします

このように、入力される情報とフォーカスをあてて処理される情報は異なっているのです。この必要な情報を取捨選択する働きを支えているのが「注意(attention)」です。

この情報の取捨選択をする注意の機能の中でも、多くの情報の中から、特定の情報に対して選択的に注意を向けることを選択的注意といいます。選択的注意とは、特定の情報に注意を向けることと、それ以外の情報を無視するという2つの機能からなっています。



1-2:選択的注意の事例

選択的注意の例として、視覚と聴覚に関連するものに着目して具体的な例を交えながら説明したいと思います。

1-2-1:視覚の例

まずは、視覚に関する選択的注意の例を紹介したいと思います。ぜひこの先の文章を読む前にYouTubeの「selective attention test」という動画を視聴していただきたいです。

さて、ここでは、1999年にダニエル・シモンズという人が行った実験について紹介したいと思います。この実験は非常に有名なため、心理学に関心を持っている読者の方はご存知かもしれません。

動画が視聴できない方のために実験の概要を説明すると、次のようになります。

実験概要

  • 白い服を着た3人のチームと、黒い服を着た3人のチームが入り乱れてボールのパスを行っている動画を視聴し、白い服を着た人がパスを行った回数を数えるという実験である
  • この実験を行うと多くの参加者が、正しくパスの回数を数えることに成功する
  • しかし、実は、動画の途中でゴリラの着ぐるみが、画面を横切っているのですが、約半分の人はそのことに気が付かなかった

このことは、私たちが選択的に注意を向けていない情報が排除もしくは無視されているということを示しています。

さて、この現象は非常に有名なため知っていた方もいたのではないでしょうか。そんな方には、「The Monkey Business Illusion」という動画の視聴をお勧めます。

この動画もダニエル・シモンズの実験にもとづいているもので、これは2010年のものです。

実験概要

  • 状況は1999年の実験と同様で、白い服を着た3人のチームと黒い服を着た3人のチームがそれぞれパスをする状況を観察するというものである
  • そして、参加者が求められることも同様で、白い服を着た3人のチームがパスをする回数を数えるというものである
  • 先ほどの実験と同様にゴリラがパスを行っている人の間を横切る

ここまで文章を読んだ皆さんは、ゴリラの存在を知っていますから当然ゴリラに気づきます。このことは、選択的に注意を向けていない情報もすべて完全に排除されているわけではないことを示しています。

実はこの動画、一点だけ、前の動画と異なる部分があります。それは、黒い服を着た人の人数が動画の最後には2人になっていることです。ほとんどの参加者は、このことに気が付きませんでした。このことは、注意を向けていること以外のこと(今回ではゴリラ)に気が付くことでそちらに注意が向き、そのほかのものへの注意が向けられなくなったということです。



1-2-2:聴覚の例

ここからは、聴覚における選択的注意についてです。ショッピングモールなどのがやがやした状況を想像してください。

聴覚における選択的注意の例

  • ショッピングモールなどの状況では、注意して耳をすまさない限り、がやがやざわざわといった雑音が常に耳に入ってくる
  • だが、ひとたび注意を向ければそのような状況でも話相手の会話の内容を聞き分けることができる
  • これが聴覚において注意を向けるということになる

一方で、そのほかの耳に入っているはずの音は基本的に意識的には処理が行われず、後から思い出そうとしても「がやがやしていたな」といった程度のことしか思い出すことができません。これが、注意を向けていない情報を排除したり無視するということです。このように、私たちは多くの情報の中から関心のある情報にだけ選択的に注意を向けているというわけです。

先ほどのゴリラの実験を思い出してください。私たちは選択的に注意を向けていても、一度そこにゴリラがいることが分かると無視するのが難しいということでした。このことは視覚に限った話ではありません。

このような注意を向けていない聴覚から入力される情報が、完全に無視されているわけではないことを示す現象の1つが「カクテルパーティー効果(cocktail party effect)」というものです。

カクテルパーティー効果とは

  • ざわざわした状況の中で、特に注意を向けてたわけではないのに、ふいに自分の名前が耳に入ってくるという経験はしたことありませんか?
  • このように、ざわざわしたカクテルパーティーのような状況の中でも、自身が関心のあることについては、選択的に聞き取ることができることをカクテルパーティー効果と呼びます
  • 名前の由来は、カクテルパーティーのようなざわざわした場所でも自分の名前には素早く反応できるということからきています

このカクテルパーティー効果の存在は、雑音の中でも選択的注意によって自特定の情報にアクセスすることができることをしめしています。また、注意を向けていない情報についても、自身の名前のような自分に関連が深い情報については、注意が向きやすいことを示しています。

1章のまとめ
  • 選択的注意とは、多くの情報の中から、特定の情報に対して選択的に注意を向けることである
  • 選択的注意とは、特定の情報に注意を向けることと、それ以外の情報を無視するという2つの機能からなっている

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2章:選択的注意の心理学的実験

1章では選択的注意の以下の特徴を確認しました。

  • 選択的注意によって多くの情報の中から、本当に欲しい情報を選択できていること
  • それ以外の情報については無視されていること
  • 無視されている情報も完全に排除されているわけではないこと

これに引き続き、2章ではそのような選択的注意がどのように行われているのかを検証した心理学の実験を紹介します。

2-1:チェリーの両耳分離実験

チェリーは選択的注意を研究するために両耳分離実験と呼ばれる実験を行いました2Cherry, E. C. (1953). Some experiments on the recognition of speech, with one and with two ears. The Journal of the acoustical society of America, 25(5), 975-979.

実験概要

  • この実験では、ヘッドホンを使用して左右の耳に異なる音声刺激を聞かせた
  • 実験参加者は、片方の耳の音声だけに注意を向けて、そちらのヘッドホンから聞こえてきたことを復唱することを求められた

この実験で重要なのは左右で異なる音声が流れていることです。もし選択的注意が行うことが出来なければ、それらの音声を区別して聞くことはできないと考えられます。

実験の結果は以下のとおりです。

  • 実験参加者は、両耳に異なる音声刺激が与えられていても、注意を向けるように指示された側のヘッドホンから流れてくる音声を問題なく復唱することが出来た
  • このことは、私たちはそのような音声刺激が複数入ってくるような状況下で、特定の音声刺激に注意を向けることができることを示している
  • また、実験後に注意を向けなかった耳にどのような音声が流れていたかを聞いたところほとんど再生することはできなかった
  • このことから、注意を向けなかった情報は、失われ意味の解釈などの処理は行われないと考えられていた

このような注意を向けなかった情報は初期に失われ、注意を向けた情報だけが意味の処理であったり、記憶の処理であったりといった高次の処理が行われるという考え方は「注意の初期選択説(early-selection theory)」といいます。

この考え方の重要な点は、無視された情報は、意味的な処理が行われないという点です。



2-2:マリー(1959)の実験

このような、初期選択説の考え方に基づくと、注意を向けていない情報は意味の処理が行われないので、その意味内容に関係なく排除されると考えられます。しかし、そのように考えると説明できないのがカクテルパーティー効果です。

  • カクテルパーティー効果は、ざわざわとした雑音の中で、選択的に注意を向けて会話をしていても、雑音の中の自分に関係のある言葉に注意を向けることができるというものであった
  • つまり、注意を向けていないはずの雑音の意味内容によって無視される情報と注意が向く情報にわかれるということである
  • このことは無視した情報が意味処理まで行われないという考え方に反している

このことを説明するために、マリー(1959)は、チェリー(1953)の実験を少し改変した実験を行いました。

実験概要

  • この実験では、参加者はチェリー(1953)の実験と同様に両耳に異なる音声が流れるヘッドホンを装着させ、片方の耳から聞こえてくる文章を復唱させた
  • チェリー(1953)と異なるのは、注意を向けさせないほうのヘッドホンから聞こえる音声に実験参加者の名前を含ませた

実験の結果、実験参加者の30%程度がこの注意を向けていない方のヘッドホンから聞こえてきた自分の名前を報告することが出来ました。このことは、注意を向けていない方の情報も、意味的な処理まで行われていることを示唆しています。

このように、すべての情報がいちど意味的な処理が行われた後で、注意の配分を決定するという説を「注意の後期選択説(late-selection theory)」といいます。



2-3:感覚情報と記憶

注意を向けなかった情報がどうなるのかを記憶の面から説明することもできます3Sperling, G. (1960). The information available in brief visual presentations. Psychological monographs: General and applied, 74(11), 1.。ここでは感覚記憶についての実験を紹介します。感覚記憶とは視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、といった感覚器官ごとに存在する、非常に保持時間の短い記憶のことです。

今から紹介する実験では以下のような刺激が参加者に提示されました(図1)。

心理学者スパークリングの実験で使用された刺激の例図1 実験で使用された刺激の例

実験概要

  • 参加者は文字や数字を含む文字列を図1のように並べた刺激を記憶することを求められた
  • この時、刺激は非常に短い時間(50ミリセカンド)のみ提示された(1000ミリセカンドで1秒ですので、この50ミリセカンドというのは本当に瞬きのような時間です。このように一瞬画像などの刺激を呈示するすることをフラッシュ呈示と呼びます
  • 実験では、参加者に全体を報告させるのではなく、「上の段」「真ん中の段」「下の段」といったような位置を画像を呈示した後で指示を出して報告させまた

その結果、参加者は指示された段の単語を報告することが出来ました。ここで重要なのは、画像が提示された後で、このような指示がなされたことです。このような方法を「部分報告法」といいます。

このような状況で、指定された段の文字を正確に報告できるということは、少なくとも指示を受けるまでの間は、文字全体を保持しておく必要があります。つまり、情報が一度入力されるととても短い間記憶され、注意を向けることでその情報にアクセスすることができるような状態にあったということを示しています。

またこの実験では、文字刺激の呈示から時間がたてばたつほど、 部分報告法でも正しい回答が出来なくなることを示しています。このことは、感覚器官から入力された情報は一時的に記憶され注意が向けば参照できますが、注意が向かないと時間とともに減衰していくことを示唆しています。

※感覚記憶に関しては、次の記事を参照ください。→【感覚記憶とは】短期記憶・長期記憶との関係からわかりやすく解説

2章のまとめ
  • マリーの実験では注意を向けていない方の情報も、意味的な処理まで行われていることが示唆された
  • 情報が一度入力されるととても短い間記憶され、注意を向けることでその情報にアクセスすることができるような状態にあった

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3章:選択的注意を学ぶ本・論文

選択的記憶を理解することはできましたか?最後に、あなたの学びを深めるためのおすすめ書物を紹介します。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 選択的注意とは、多くの情報の中から、特定の情報に対して選択的に注意を向けることである
  • 選択的注意とは、特定の情報に注意を向けることと、それ以外の情報を無視するという2つの機能からなっている
  • マリーの実験では注意を向けていない方の情報も、意味的な処理まで行われていることが示唆された

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参考文献

  • Cherry, E. C. (1953). Some experiments on the recognition of speech, with one and with two ears. The Journal of the acoustical society of America25(5), 975-979.
  • 箱田 裕司・都築 誉史・川畑 秀明・萩原 滋(2016) 認知心理学 有斐閣.
  • Simons, D. J., & Chabris, C. F. (1999). Gorillas in our midst: Sustained inattentional blindness for dynamic events. perception28(9), 1059-1074.
  • Simons, D. (2010). The monkey business illusion. Retrieved June12, 2015.
  • Sperling, G. (1960). The information available in brief visual presentations. Psychological monographs: General and applied74(11), 1.
  • 下條 信輔 (1996) サブリミナル・マインド―潜在的人間観のゆくえ 中公新書.
  • 和田 万紀(2017). Next 教科書シリーズ 心理学 弘文堂.