国際問題

【マイクロファイナンスとは】仕組みから問題点までわかりやすく解説

マイクロファイナンスとは

マイクロファイナンス(Microfinance)とは、貧困層や低所得層に対して、その貧困緩和を目的に行われる、小学資金の貸付や貯蓄、保険などの小規模金融サービスを総称したものです。

国際社会で最も解決すべき問題の1つに貧困問題があります。その解決方法として期待されているものがマイクロファイナンス(MF)です。

MFは貧困削減のための方策ですが、国際機関や政府の政策ではなく、ある開発途上国の民間による取り組みから始まったものである点に大きな特徴があります。

このMFがどのような仕組みで、どのように始まり発展してきたのかを知ることは、これから私たちが貧困問題の解決に取り組むためのヒントになります。

この記事では、

  • MFの仕組みと意義
  • MFの歴史
  • MFの問題点

について解説します。

このサイトは人文社会科学系学問をより多くの人が学び、楽しみ、支えるようになることを目指して運営している学術メディアです。

ぜひブックマーク&フォローしてこれからもご覧ください。→Twitterのフォローはこちら

Sponsored Link

1章:マイクロファイナンスとは

1章では、マイクロファイナンス(MF)の仕組み、その意義と役割、どのような金融機関が取り組んでいるのか、について解説します。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:マイクロファイナンスの仕組み

MFはもともとマイクロクレジットと呼ばれる小規模の融資サービスからスタートしました。しかし、そのサービスは次々と拡大していき、最近では以下のような金融サービスを総称してMFと呼ばれています。

  • 小規模融資(マイクロクレジット)
  • 保険
  • 預金
  • 送金

しかし、MFを実施している機関によってその形態はさまざまで、一口にマイクロファイナンスと言っても多様なサービスが展開されているのが現状です。

したがって、ここではマイクロファイナンスの生みの親と言われ、多くの機関がロールモデルとして参考にしたグラミン銀行の仕組みについて解説します。

グラミン銀行の概要

  • 一般的な金融機関の目的は利益の最大化にあるが、グラミン銀行の理念はあくまで貧困削減が最大の目的である
  • グラミン銀行の資本については、設立当初は援助金などの外部資本に依存していた
  • 現在、一部の政府や政府系銀行の出資も受けているが、資本の8割は借り手による返済金と利子で成り立っている
  • 融資の対象は、通常の銀行が対象にしないような貧困層に限定しており、主に人口の下層25%の貧困層にいる女性が90%以上を占めている
  • 融資額は、小額で短期のローンの貸付であり、金利については借り手の経済状況によってさまざまな金利が用意されている

グラミン銀行の最大の特徴として、無担保で融資が受けられる代わりに借り手が5人1組のグループを形成してから、融資を受けなければいけない点があります。

しかしこれは、いわゆる連帯保証のような仕組みではなく、あくまで与信として条件付けされているものです。この仕組みについては1−2で詳しく解説します。返済については、基本的に短期で完済できるように組まれており、毎週一定額(2%程度)を返済していきます。

そしてグラミン銀行の返済率は、なんと98%にものぼっています(2014年12月時点)。この返済率の高さが、マイクロファイナンスを持続させる上で大きなウエイトを占めることになるのです。



1-2:マイクロファイナンスの意義・役割

さて、マイクロファイナンスの意義は貧困削減・撲滅にあります。そのために、さまざまな工夫がなされています。ここでは、再びグラミン銀行の取り組みを例に解説していきます。

上述の通り、グラミン銀行では、融資を受けるために借り手5人で1組のグループを形成しなければなりません。このグループは借り手同士で自主的に形成しなければなりません。

グループには1世帯から1人しかメンバーになることができず、グループ長を決め、全員で有料の研修を受け、グラミン銀行の規則を理解することを求められます。そして、その内容を問う試験を全員が合格しなければ融資を受けることができません。

このような仕組みによって、以下のような効果が期待されています。

  • 借り手1人ひとりに競争意識や仲間意識が生まれ、それが貧困から抜け出すための後押しになること
  • 融資後は返済の責任はあくまで借りた個人にあり、他のメンバーが連帯保証人のようになることはないが、返済に対して他のメンバーが責任を持たなければならない

実際、メンバーの1人の返済が滞れば、他のメンバーも融資を新たに受けることができません。また、1人が新たに融資を受けたい場合は他のメンバーの許可が必要になります。

さらに、グラミン銀行は毎週集会を開いており、借り手は必ずその場に参加しなけれななりません。そこでは、行員がグラミン銀行のルールの確認や生活指導、ビジネスについて指導しており、貧困撲滅のための教育の場として機能しています。

このようにして、定期的に借り手に「返済」を意識させ、返済の意欲を高めさせるための取り組みを行うことで高い返済率を実現し、貧困の削減・撲滅を目指しているのです。



1-3:マイクロファイナンスの現状

MFを行っている機関には、以下のようなものがあります。

  • 銀行
  • ノンバンク(政府のMF実施認可を受けた組織)
  • NGO ・NPO
  • 信用組合

このようにMF実施機関は銀行だけに限らず、現在ではNGOやNPO、信用組合なども増えています。2018年、世界のMF機関は、1億3990万人の人々に1241億ドルもの融資を行い、その事業規模は過去5年間で年率11.5%もの勢いで成長しています。

地域で見ると、南アジア地域が最も大きい市場であり、2018年には8560万人もの人々がMFを利用しました。中でもインドはMFで世界をリードしており、2017年の借り手は5,090万人にものぼりました。これは2016年に比べて5.8%も増加していることになります2MICROFINANCE BAROMETER 2019を参照

また、アジア地域を除くと、サブサハラ・アフリカ地域におけるMF機関が急激に増加しています。MFを活用した地域開発が盛んに行われており、その規模はアジアに迫る勢いとなっています。

1章のまとめ
  • マイクロファイナンスとは、貧困層や低所得層に対して、その貧困緩和を目的に行われる、小学資金の貸付や貯蓄、保険などの小規模金融サービスを総称したものである
  • マイクロファイナンスの意義は貧困削減・撲滅にある

Sponsored Link

2章:マイクロファイナンスの発展の経緯

2章では、マイクロファイナンス(MF)がどのように成立・発展し現在に至るのか、その経緯について解説します。

2-1:MF成立に至るまでの背景

MFが登場したきっかけは、1960年代にアジア諸国で始まった緑の革命にあります。

緑の革命とは、

当時アジアで起こっていた食糧難を解決するために、灌漑設備の整備や害虫駆除の技術向上、農作業機械や化学肥料の導入などにより、穀物などの大量生産を可能にした出来事

です。

この農業革命はそれまでの農業の手法を一変させ、農家は多額の資金が必要となりました。そのため、タイの農業・農協銀行(BAAC)やインドネシアの庶民銀行(BRI)、フィリピンのフィリピン開発銀行などの政府系金融機関が農家に対して融資を行なうようになります。

しかし、銀行による融資は大農家に集中し、担保を持っていない小農家は融資対象から外れ、農家間の格差が広がっていきました。さらに1970年代になると、各国政府は工業化の推進による近代化を目指すようになったことで、農家への融資はますます縮小されていくことになります。

経済発展が進むにつれて大量の単純労働者や土地無し農民を生み出したことにより、旧植民地国は貧困や経済格差の拡大という社会問題を抱えていくようになっていきました。そのような中、NGOによる貧困者向けの融資が世界各地で始まっていきました。これが現在に続くMFの始まりとされています。



2-2:MFの世界的な広がり

MFの発展に大きく貢献した人物の1人に、バングラデシュでグラミン銀行を創設したムハマド・ユヌスがいます。

ユヌスの貢献

  • ユヌスがはじめたマイクロクレジット事業は、貧困層や社会的弱者の人々に無担保で、返済能力の審査を行わずに融資を行い、高い返済率を維持することでMFをビジネスとして確立させた
  • 前章で紹介したグラミンの呼ばれる独自の仕組みは、世界中のMF実施機関のロールモデルとなり、アジアや中南米だけでなく、アフリカ諸国への広がりも見せた

アフリカにおけるMFの普及について池見(2015)は次のように述べています3池見真由(2015)「アフリカの地域開発とマイクロファイナンスの現状」『地域経済経営ネットワーク研究センター年報』第4号,61-65頁

これまでの先進国ドナーや政府主導のトップダウンではなく,民衆主導のボトムアップによる開発プロセスを理想とする内発的発展を目指す方向に,開発援助政策が進められていくようになったという流れが,アフリカでのMF普及の一背景にある

1980年代に世界銀行やIMFを中心に行われた「構造調整プログラム」による途上国開発の失敗により、人々に焦点を当てた住民参加型の開発を通した「内発的発展」を目指す世界の潮流と、MFの理念が合致したことが要因と考えられています。

※それぞれのキーワードについて詳しくは、こちらの記事を参照ください。

→【構造調整計画とは】意味・特徴・問題点をわかりやすく解説

→【内発的発展とは】背景・意義・具体例からわかりやすく解説

このようにMFが発展していく中で、国連は2005年を「国際マイクロクレジット年」と定め、マイクロクレジットを通して、開発途上国の貧困撲滅と自立を支援する取り組みを推進しました。

さらには、2006年にはムハマド・ユヌスがノーベル平和賞を受賞し、MFは世界中に広がっていきました。



2-3:MFの問題点

このように世界中に広がった MFは多くの貧困者を救った一方で、その問題点も指摘されるようになっていきました。その問題の1つが、多重債務者の増加です。

MFを活用してお金を借り入れるとすぐに、週ごと、または半月毎など短いスパンで小額ずつ返済をスタートさせることになります。しかし、その返済額が家計を上回ってしまうと、途端に返済を続けることが苦しくなります。

1つのMF機関に返済を行うために、他のMF機関からさらに借入を行うようになり、その結果として多重債務者となり、余計に貧困のスパイラルから抜け出すことが難しくなるケースも少なくありません。

この原因について鈴木ら(2011)は、以下のように述べています4鈴木久美、松田慎一、佐藤綾野(2011)「マイクロファイナンスにおける新たな潮流−ASAによるグループ貸付の実例から−」『日本政策金融公庫論集』第10号 102頁

このような多重債務問題が発生するのは、MF機関が貧困削減を目的とし、貧困層への貸し付けをできるだけ行おうとするため、借り手の返済能力に対して審査をせず、後述するように現在では形骸化しているグループ間のピアセレクションやピアモニタリングにのみ期待をしていること、そして何よりもMF機関同士の情報交換が行われていないことによると考えられる

また、内田(2018)は、多重債務の原因には借入限度額の低さもあるとし、次のように指摘しています5内田智広(2018)「貧困問題に関するマイクロファイナンスの役割と課題」『人権を考える』第21巻 49頁

問題点は、借り入れ限度額が少なすぎて十分な設備投資ができないことである。その結果、借り手は必要な資金を調達するために複数機関からの借り入れ、同じMF機関からの逐次的な借り入れ、他人名義での借り入れをせざるを得ない

さらに、これらの問題は貸付側であるMF機関にとっても、事業の持続性という点で影響を与えます。返済期間の短さゆえに、MF機関の職員は債務の取り立てに奔走することになります。

また、貸付額が少ないということは、利益を上げるために多くの顧客を確保する必要も出てきます。つまり、MF機関は事業の継続のために多くの人員が必要となり、人件費がかさむことになるわけです。

たしかに、これによってMF機関同士の市場原理が生まれ、多くの顧客を集めるためにサービスの質が向上するなどのメリットが生まれる場合もあります。

しかし、同時に「貧困層のMF市場からの排除」が発生される懸念もされています。これについて高野・高橋(2011)は以下のように言及しています6高野久紀、高橋 和志(2011)「マイクロファイナンスの現状と課題 貧困層へのインパクトとプログラム・デザイン」『アジア経済』第52巻(6)59頁

MFIsの間で競争が強まり,利潤が減少してくるようになると,MFIsは赤字になることを回避するために,債務不履行リスクが高くコストのかかりがちな貧困層への融資を縮小して,利潤の上げやすい層への融資を拡大しようとするインセンティブが働く。その結果,MFIs 間の過当競争が,貧困層のMCへのアクセスを減らしてしまう可能性がある

本来、貧困層を救うために生まれたMF機関(MFIs)が、結果として貧困層にリーチできなくなることは、本末転倒です。

このように、MFの発展は多くの貧困を削減してきた一方で、まだまだ解決すべき課題が多くある発展途上の仕組みであると言えるでしょう。

2章のまとめ
  • MFが登場したきっかけは、1960年代にアジア諸国で始まった緑の革命にある
  • MFには多重債務者の増加という問題があり、その仕組みはさらに発展していかなければならない

Sponsored Link

3章:マイクロファイナンスに関するおすすめ本

マイクロファイナンスについて、理解できましたか?さらに深く知りたいという方は、以下のような本をご覧ください。

おすすめ書籍

オススメ度★★★ ムハメド・ユヌス『貧困のない世界を創る』(早川書房)

グラミン銀行の創業者でありマイクロファイナンスの生みの親と呼ばれるユヌスが考える「マイクロファイナンス」や「ソーシャルビジネス」の在り方について知りたい方におすすめの一冊です。

created by Rinker
¥2,750
(2024/11/20 19:11:17時点 Amazon調べ-詳細)

オススメ度★★★ 菅正広『マイクロファイナンスのすすめー貧困・格差を変えるビジネスモデル』(東洋経済新聞社)

マイクロファイナンスを丁寧に解説した一冊。開発途上国だけでなく日本の社会問題の解決という視点でもマイクロファイナンスの可能性を感じることができます。

オススメ度★★ 駒崎弘樹『社会を変えたい人のためのソーシャルビジネス入門』(PHP研究所)

マイクロファイナンスだけでなくソーシャルビジネス全般に関心がある人におすすめの一冊。日本の社会課題に取り組む実践的方法を解説しています。

学生・勉強好きにおすすめのサービス

一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。

最初の1冊は無料でもらえますので、まずは1度試してみてください。

Amazonオーディブル

また、書籍を電子版で読むこともオススメします。

Amazonプライムは、1ヶ月無料で利用することができますので非常に有益です。学生なら6ヶ月無料です。

Amazonスチューデント(学生向け)

Amazonプライム(一般向け) 

数百冊の書物に加えて、

  • 「映画見放題」
  • 「お急ぎ便の送料無料」
  • 「書籍のポイント還元最大10%(学生の場合)」

などの特典もあります。学術的感性は読書や映画鑑賞などの幅広い経験から鍛えられますので、ぜひお試しください。

まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • マイクロファイナンスとは、貧困層や低所得層に対して、その貧困緩和を目的に行われる、小学資金の貸付や貯蓄、保険などの小規模金融サービスを総称したものである
  • マイクロファイナンスの意義は貧困削減・撲滅にある
  • マイクロファイナンスには多重債務者の増加という問題があり、その仕組みはさらに発展していかなければならない

このサイトは人文社会科学系学問をより多くの人が学び、楽しみ、支えるようになることを目指して運営している学術メディアです。

ぜひブックマーク&フォローしてこれからもご覧ください。→Twitterのフォローはこちら