社会学

【若者の政治意識とは】調査結果・学術的議論からわかりやすく解説

若者の政治意識とは

若者の政治意識とは、若者がもっている政治についての関心・意見・態度のことです。

「若者は政治に無関心」と言われます。しかし、本当にそうなのでしょうか?仮に本当だったとして、その原因はどこに求められるのでしょうか?

この記事では、

  • 若者の政治意識に関する調査
  • 若者の政治意識の学術的議論

をそれぞれ解説していきます。

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1章:若者の政治意識に関する調査結果

1章ではデータをもとに、若者の政治意識がどのような現状にあるのか示していきます。若者の政治意識に関する研究は2章で解説しますので、用途に沿って読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:日本の若者の政治意識

ここでは、日本の若者の政治意識について、データを参照しながら概観していきます。まず、政治意識の1つである「政治への関心度」を測る尺度としてしばしば用いられる、国政選挙の投票率を見ていきましょう。

総務省のデータを見てみると、近年の国政選挙の有権者全体の投票率は50~60%で推移しています(図1・図2)。

国政選挙における投票率の推移図1 衆議院議員総選挙の有権者全体の投票率2総務省「国政選挙における投票率の推移」

国政選挙における投票率の推移図2 参議院議員総選挙の有権者全体の投票率3総務省「国政選挙における投票率の推移」

一方、年代別に見てみると、20代の若者の投票率は30~40%で推移していることがわかります(図3・図4)。

衆議院議員総選挙の年代別投票率図3 衆議院議員総選挙の年代別の投票率4総務省「国政選挙の年代別投票率について」

参議院議員総選挙の年代別投票率図4 参議院議員総選挙の年代別の投票率5総務省「国政選挙の年代別投票率について」

この結果から、若者の政治への関心度は他の年代に比べて低いと言われることがわかると思います。

そもそも、若者に限定されたことだけでなく、近年では日本人全体の政治への関心度が低下しています。NHK放送文化研究所が行っている政治意識調査では、以下のような調査結果が出ています6HK放送文化研究所『現代日本人の意識構造 第九版』(NHK出版)81頁

  • 「国の政治に関心がある」と回答している人々の割合は、2009年には84%であったが、2018年には74%まで減少した
  • 事実、上述の図からわかるように、有権者全体の投票率は衆院選・参院選ともに減少傾向である

しかし、特に衆院選においては、若者の投票率の減少が極めて顕著です。総務省が公表している「常時啓発事業のあり方等研究会」の報告書からも、このような若者の低投票率の問題を国が認識していることがうかがえます。

たとえば、報告書では以下のような指摘がされています7総務省「常時啓発事業のあり方等研究会 最終報告書」2-3頁

特に、若い有権者の投票率は、いずれの選挙においても他の世代に比べて低く、しかもその差が拡大してきている。例えば衆議院議員総選挙における20歳代の投票率は全体の投票率に比べ、昭和50年代は10ポイントほど低かったが、その差は徐々に拡大し、現在は20ポイントほどの差になっている。若い有権者の投票率が低いのは、他の世代に比べて、政治的関心、投票義務感、政治的有効性感覚が低いからであると考えられ、これまでの各種意識調査がそのことを物語っている。

このように、若者の政治への関心度が他の年代に比べて低いことは、現代社会における問題の一つとして認知されているといえるでしょう。



1-2:日本と世界の若者の政治意識の比較

では、世界の若者と比べてみると、日本の若者の政治意識はどのような状況なのでしょうか?

内閣府は2018年に、日本・韓国・アメリカ・イギリス・ドイツ・フランス・スウェーデンの若者に対して意識調査が行っています。この調査は「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」8内閣府「特集1 日本の若者意識の現状~国際比較からみえてくるもの~」としてまとめられており、上述の問いに答える重要な資料となっています。

具体的には、この調査では「今の自国の政治にどのくらい関心があるか?」という質問がなされ、以下のような回答がされています(図5)。

  • 「非常に関心がある」「どちらかといえば関心がある」と答えた日本の若者の割合は43.5%であった
  • これは調査対象の7ヶ国のなかでは最下位であり、最も割合が高かったドイツとは25%以上の差がついている

自国に対する意識:国際比較図5 政治意識の国際比較9内閣府「特集1 日本の若者意識の現状~国際比較からみえてくるもの~」

加えていえば、以下の項目において「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した者の割合は、諸外国の若者と比べて最も低いです。(図表6)

政策決定過程への関与:国際比較図6 政策決定過程への関与に関する国際比較10内閣府「特集1 日本の若者意識の現状~国際比較からみえてくるもの~」

このように、国際比較からも、日本の若者の政治への関心度は必ずしも高くないことがわかります。

1章のまとめ
  • 若者の政治意識とは、若者がもっている政治についての関心・意見・態度のことである
  • 若者の政治への関心度は他の年代に比べて低い
  • 国際的に、日本の若者の政治への関心度は必ずしも高くない

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2章:若者の政治意識の学術的議論

さて、2章では若者の政治意識に関する学術的議論を紹介していきます。

2-1:なぜ若者の政治への関心は低いのか?

では、なぜ日本の若者の政治への関心度は低いのでしょうか?2-1では日本に限定されない要因を、2-2では日本特有の要因について説明していきます。

まず、日本に限らず、若者の政治への関心度が低い要因として「政治的社会化がなされていないこと」が指摘されています。政治的社会化とは「政治の世界についての知識、感情、評価といった政治的志向性を個人がそれぞれ獲得するプロセス」11Dawson, Richard E., Kenneth Prewitt, and Karen S. Dawson “Political Socialization 2nd edition”(=加藤秀治郎・青木英実・中村昭雄・永山博之訳『政治的社会化:市民形成と政治教育』芦書房 69頁のことです。

加えて、アメリカの政治学者エリック・プラッツァーは、パネルデータの分析に発達理論(developmental theory)のフレームワークを用いて、どのような要因が人々の投票行動に影響を与えるのかを調べました12Plutzer, Eric “Becoming a Habitual Voter: Inertia, Resources, and Growth in Young Adulthood” The American Political Science Review 51-55頁。調査の概要は以下のとおりです。

調査の概要

  • 若い有権者が初めての投票に行くかどうかを決める大きな要因は、親の社会経済的地位や、親の政治的知識などの「親の資源」が重要であった
  • しかし、年齢が上がるにつれて、親の資源が投票行動に与える影響は小さくなっていき、学歴や結婚状況など「その人自身の資源」の影響が大きくなっていく
  • こうして、親の資源があろうとなかろうと、多くの人が加齢に伴って習慣的棄権者(habitual nonvoters)から習慣的投票者(habitual voters)になっていく

つまり、多くの人が加齢によって政治的社会化がなされるため、若者ほど政治への関心度も低く、投票もしにくいということなのです。

事実、このような加齢と政治参加の関係は、日本でも実証されています。政治学者の蒲島郁夫は、日本人の政治参加についての実証研究の中で、投票参加と年齢の関係について考察しています13蒲島郁夫『政治参加』東京大学出版会 124-128頁

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調査の概要

  • 蒲島は「明るい選挙推進協会」が実施した全国意識調査の結果をもとに、年齢をふくめたさまざまな変数を投入したモデルによる要因分析をおこなった
  • これによって、年齢が政治参加経験にどの程度影響を与え、同時にどのような変数が政治参加経験に影響を与えているのかを明らかにした
  • この分析結果によれば、年齢が上がるにつれて投票へのコスト感覚が弱まり、かつ政治的関心、政治的義務感、政党支持強度、地域愛着度が高まる
  • これらは人々を投票に誘う要因となるため、加齢とともに投票率も上がる

これらの研究に純粋に従えば、人々は加齢による政治的社会化を経て投票などの政治参加に至るため、加齢を重ねていない若者が政治に無関心なのは、ある種必然とも言えるかもしれません。



2-2:日本の若者の政治的無関心の要因

次に、若者の政治的無関心の、日本特有の要因についてみていきましょう。社会学者の西田亮介は、日本人の政治的無関心の原因を政治の「わかりにくさ」に求め、その要因を主に「メディア」「教育」の2点に分けて論じています14西田亮介『なぜ政治はわかりにくいのか―社会と民主主義をとらえなおす』春秋社

2-2-1: メディア

我々を取り巻くメディアの状況は、刻一刻と変化しています。西田は、情報媒体としてのインターネットの影響力の増大による情報の質と量の変化に着目しました。

ネット空間においては、あまりに多くの情報があふれ、かつそれらの信憑性を十分に担保できていない現状にあります。それに加え、新聞やテレビなどの既存のメディアにおいても、虚偽報道やいわゆる「やらせ」疑惑など、情報の信頼が揺らぐことがあります。

その一方で、我々はしばしば情報を「疑う」ことが「情報リテラシー」だと教わります。そのような現状について西田は以下のように述べて、現代の政治状況を適切に把握することは困難であると主張しています15西田 前掲書 139頁

情報量が激増し、真実を調べようとしてたどり着いた先の情報が毀損しているかもしれない状況のなかで、個人がそれを担うのは、理念的にはともかく、実践的には現実味を感じません

2-2-2: 教育

加えて、西田は政治の「わかりにくさ」は現在の日本の教育制度にも起因していると論じています。日本の教育基本法制定時の規定では、政治教育で教えられる政治的教養は、次の3つとされています16文部科学省「昭和22年教育基本法制定時の規定の概要 第8条(政治教育)」https://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/004/a004_08.htm

  1. 民主政治、政党、憲法、地方自治等、民主政治上の各種制度についての知識
  2. 現実の政治の理解力及びこれに対する公正な批判力
  3. 民主国家の公民として必要な政治道徳、政治的信念

西田はこの中でも、特に②「現実の政治の理解力及びこれに対する公正な批判力」が現在の日本の教育には不足していると指摘しています。

そもそも、日本では、教育基本法第14条第2項(法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。)17文部科学省「教育基本法」https://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/mext_00003.htmlの存在によって現実に即した政治教育をしにくい状況下にあります。

また、社会科の各分野は、どれに重点を置くかが教員の裁量に任されており18西田 前掲書 152-153頁、このような状況では、若者が現実の政治に全く馴染みがないまま社会に出ても不思議ではありません。

  • 「歴史」分野においては、現在の政治を理解する上での前提知識ともなる戦後史・現代史を学ぶ時間が少ない
  • 「公民」分野は原理原則と理論が中心で現実政治に即していない
  • 「現代社会」分野においては、さまざまな主題で構成されている

先に触れた総務省の「常時啓発事業のあり方等研究会」最終報告書でも、若者と現実世界との接点を増やし、社会参加を促すことが大事と考えられています。そのために、ボランティアやインターン、その他の若者グループへの参加を若者に促すことを方策の1つとして挙げています。

しかし、若者の投票率が改善していない現在の状況から、この方針に沿った対策はまだ十分に行われていないことが示唆されます。

以上のように、西田はメディア・教育の2点から、若者の政治的無関心を分析しています。

※投票行動に関しては次の記事で詳細に解説しています。→【投票行動とは】社会学・心理学・経済学の研究からわかりやすく解説



2-3:日本の若者の政治的関心は本当に低いのか?

さて、これまでの内容から、日本の若者は政治への関心度が低く、それにはいくつかの理由があることが示唆されてきました。しかし、本当に日本の若者は政治に無関心なのでしょうか?

政治学者の松本正生は、複数の世論調査の結果から、中学生から高齢者までの政治意識や投票率の比較を行いました19松本正生「子どもから大人へ、政治意識と社会化環境―中学生・高校生・有権者調査」(『政策と調査』第12号)

調査の概要

  • この調査によれば、2016年時点の中高生の現在の政治への満足度は、満足層と不満足層で比率がほぼ二分されている20松本 前掲論文 9頁
  • また、2016年時点の中高生は「友人と政治の話をする」比率はほとんどゼロである一方、「家族と政治の話をする」比率はほぼ二分されている21松本 前掲論文 13頁
  • さらにこれらの結果と、2016年参院選での投票有無とでクロス集計を行っても、その比率はかなりばらいついており、はっきりとした傾向は見えてこない22松本 前掲論文 16-17頁。ただし、家族との政治についての会話頻度と投票有無にはわずかな正の相関が見られるため、家族関係が投票行動に影響を与えることが類推される。

この分析結果から、現代の日本の若者の政治意識や、それを取り巻く環境、そして実際に投票に行くかどうかはかなり多様化していることが分かります。

社会学者の浅野智彦は『若者の溶解』と題した著書の中で、「若者の◯✕離れ」のような若者をひとくくりにするような語りが意味をなさなくなっていると指摘しています23川崎賢一・浅野智彦編著『〈若者〉の溶解』(勁草書房)ⅰーⅸ頁

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これはバブルの崩壊や産業構造の変化によって、学校教育から労働市場にスムーズに移行していくような単線的なライフコースからこぼれ落ちる若者が増加し、同世代の若者を1つにまとめて論じることがもはや不可能になっているためです。

つまり、松本や浅野が論じたように、現代の日本の若者をひとくくりにして「若者は政治に無関心」ということ自体、あまり意味のないことなのかもしれません。それでは、日本の若者の政治への関心度を高め、投票率を上げることも不可能なのでしょうか?

政治学者の秦正樹は、2016年の参院選に伴う読売新聞の世論調査の、18~19歳の67%が政治に関心があるという結果に注目し、投票率の低迷を根拠に「若者の政治離れ」を主張してきたこれまでの言説に疑問を呈しています24秦正樹「「新しい有権者」における政治関心の形成メカニズム―政治的社会化の再検討を通じて」『選挙研究』32巻2号, 45頁

調査の概要

  • 秦は、政治に接触する機会が少ない若者の中でも、なぜ政治に関心を持つ者と持たない者がいるのかを明らかにするために、18~19歳の「新しい有権者」がいかにして政治への関心を形成するのかを明らかにすることを試みた
  • この研究では、サーベイ実験という、アンケートと実験を組み合わせた方法を用いて、政治に関する情報を与えることで「新しい有権者」の政治への関心を高めることができるかどうかを検討した
  • その結果、「新しい有権者」の中でも民主主義の大切さを説くような規範的な情報を与えられた人々は、政治への関心度が高まることが明らかになっている

このことから、2-1で紹介したような加齢による政治的社会化を待たずとも、効果的な学習法をとれば若者の政治への関心度を高められることが示唆されます。

すべての若者の政治意識を論じる理論や、すべての若者の政治的関心を高める魔法のような方法はありません。しかし、「新しい有権者」「中高生」など、より限定された範囲の若者を研究対象とし、それぞれの集団に対して適切な施策を行うことが、日本全体の若者の政治的関心を高めることにつながるのかもしれません。

2章のまとめ
  • 多くの人が加齢によって政治的社会化がなされるため、若者ほど政治への関心度も低く、投票もしにくいことが指摘されている
  • 社会学者の西田はメディア・教育の2点から、若者の政治的無関心を分析した
  • 現代の日本の若者をひとくくりにして「若者は政治に無関心」ということ自体、あまり意味のないかもしれない

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3章:若者の政治意識に関するおすすめ本

若者の政治意識について理解を深めることはできましたか?

この記事で紹介した内容はあくまで概要です。若者の政治意識をしっかり学ぶために、これから紹介する本をあなた自身で読んでみることが重要です。

おすすめ書籍

オススメ度★★★ 西田亮介『なぜ政治はわかりにくいのか』(春秋社)

現代日本の政治の「わかりにくさ」に注目し、なぜ人々が政治を避けてしまうのかを論じた一冊です。平易な語り口調で書かれており、とても読みやすいです。

オススメ度★★★ 藤村正之・浅野智彦・羽渕一代編『現代若者の幸福―不安感社会を生きる』(恒星社厚生閣)

青少年研究会の調査結果に基づいて、現代日本の若者の意識についてさまざまな視点から論じられている本です。自分の関心に沿って、章を選んで読むのがおすすめです。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 若者の政治意識とは、若者がもっている政治についての関心・意見・態度のことである
  • 多くの人が加齢によって政治的社会化がなされるため、若者ほど政治への関心度も低く、投票もしにくいことが指摘されている
  • 現代の日本の若者をひとくくりにして「若者は政治に無関心」ということ自体、あまり意味のないかもしれない

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