社会学

【アノミーとは】デュルケームやマートンの議論からわかりやすく解説

アノミーとは

「アノミー(anomie)」とは、

社会の無規範や無秩序を意味する用語で、フランス人社会学者のエミール・デュルケームが『自殺論』で提唱した概念です。

アノミーは近代社会とそれ以前の伝統社会を分析する際、デュルケームが用いた概念として有名です。その後はマートンといった社会学者がこの概念を援用し、さまざまな社会の分析に利用されてきました。

「近代社会に特有の無規範や無秩序がどのように登場したのか」を理解することは、あなたの暮らす社会を再考するきっかけになるため、社会学を専攻しない方にも大事な概念です。

この記事では、

  • アノミーとデュルケームの『自殺論』
  • アノミーと近代社会論
  • マートンのアノミー論

をそれぞれ解説します。

あなたの関心に沿って、読み進めてください。

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1章:アノミーとデュルケーム

最初に「アノミー」という用語の意味を詳しく説明し、その後デュルケームの『自殺論』を解説します。

1-1: アノミーの意味

まず、再度確認しますが、

アノミーとは、社会の無規範や無秩序を説明する用語

です。

デュルケームがこの概念を唱えたとき、近代社会は伝統社会と比べてさまざまな側面で社会秩序に混乱が起きていると考えていました。

具体的に、伝統社会において人びとが生きる頼りにしていた伝統、慣習、道徳の拘束力や説得力が意味を失いかけていたのです。

  • アノミーは単純に社会秩序の混乱を説明する概念ではない
  • 近代社会に特有の構造的な要因をもった混乱を捉えようとする概念である



1-2: アノミーとデュルケームの『自殺論』

社会学者のエミール・デュルケーム(Émile Durkheim 1858年−1917年)は『社会学的方法の規準』(1895年)『宗教生活の原初形態』(1912年)といった有名な著作があります。

しかし、デュルケームの数ある著作の中でも一番有名なのは『自殺論』です。『自殺論』では自殺という現象を「人生それぞれ」と考えるのではなく、統計的に分析・考察されています。

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自殺は一見非常に個人的な理由や事情があるようにみえますが、デュルケームはバラバラにみえる具体的な個人の事情に共通する事項を探し出します。

つまり、個々の自殺にある背景と多くの自殺をしなかった人びとが共有する社会問題が『自殺論』では分析されているのです。

  • 『自殺論』は非社会的な要因が否定されていく構図になっている
  • たとえば、気象的な要因(季節による自殺率の変化)、人種的な要因(人種による自殺率の変化)等々が本質的な要因でないことを統計的に示す
  • そして残った要因は「社会的な要因しかありえない」という主張がされる

これらの統計的な分析の結果、デュルケームは「自己本位的自殺」「集団的本位的自殺」「アノミー的自殺」という社会的自殺の3類型を提示します。ここで自殺の要因を説明するものとして「アノミー」が出てきます。

それぞれの自殺の種類を簡単に説明してきます。

1-2-1: 社会的自殺の3類型:自己本位的自殺

自己本位的自殺とは、

社会統合が弱体化して、個人化が進行したことによる自殺

を意味します。

たとえば、デュルケームはプロテスタントとカトリックの自殺率の違いを検討します。すると、プロテスタントの方が圧倒的に自殺が多いことがわかりました。

プロテスタントの方が自殺率が高いのはなぜでしょうか?デュルケームによると、

  • プロテスタントは個人主義であることが特徴
  • たとえば、プロテスタントは聖書の自由な解釈が可能であるが、カトリックは聖書の解釈を個人がすることはできない
  • すると、個人が共同体から離れやすい状況がプロテスタントでは形成されやすく、個人は自己自身と孤独に向き合う時間が多い
  • その結果、プロテスタントは社会との絆が弱体化して、個人化が進行したことによる自殺が起きやすい

と考えました。

1-2-2: 社会的自殺の3類型:集団的本位的自殺

集団的本位的自殺とは、

近代社会にはほとんど見られないもので、しばしば義務的な自殺

を意味します。

集団的本位的自殺の特徴は、近代社会よりも伝統社会によくある自殺のあり方であるということです。たとえば、宗教的な理由による集団自殺を、デュルケームは集団的本位的自殺と呼びます。

集団の大義などの自殺ですから、現代においてしばしば軍隊などで集団的本位的自殺が行われます。

1-2-3: 社会的自殺の3類型:アノミー的自殺

アノミー的自殺とは、

近代社会特有の無規範や無秩序が引き起こす自殺

です。

アノミーとは社会秩序が不安定化しており社会に無規範・無秩序が蔓延している状態ですから、つまり、社会の「無規制状態」を意味します。

デュルケームは、伝統社会とは異なり社会変動が激しい近代社会では人間の欲望を抑制する枷がなくなっていると考え、アノミー的自殺が起きると指摘しました。

■ 自己本位的自殺とアノミー的自殺

すると、

自己本位的自殺とアノミー的自殺はどのように違うの?

と疑問をもつ方がいると思います。そう思ったあなたは鋭いです。

デュルケームは「自己本位的自殺とアノミー的自殺の相違が不明確である」と批判されました。個人化が進行した社会における自殺とアノミー的自殺はたしかに不明確です。

そこで、ここでは自己本位的自殺とアノミー的自殺を比較してみましょう。

自己本位的自殺の特徴

  • 自己本位的自殺とは要するにエゴイズム(利己主義)
  • 人の迷惑など顧みず自分の利益を追求してながら、個人の自我が過度に肥大化している状態
  • 人間は個人を超えた対象(社会)に結びついていないため、自殺がおきやすい

一方でアノミー的自殺の特徴は次のようになります。

アノミー的自殺の特徴

  • 動物と異なり、人間の欲求は肉体に縛りつけられていない。つまり、人間の欲求は外部から煽られる
  • 普通の場合は社会が人間の欲求に規制をかけている(階級や身分によって、何が可能か人間は自らの「分際」を学習する)
  • しかし、近代社会では個人が解放されて、規制が失われるため無規制状態になる(アノミー)
  • 伝統社会が急激に解放されることは一見無限の可能性を示しているようだが、個人の欲求を充足する手段が存在しないため、欲求不満はたまる
  • その結果、生への意欲は衰え、自殺が発生しやくなる

つまり、エゴイズムが「個人が社会に結びつく」ものだとしたら、アノミーは「社会が個人を規制する」ものという違いがあります。自殺を引き起こすのは社会的な要因ですが、両者にはこのような異なった軸があると覚えておいてください。

これまでの内容をいったんまとめます。

1章のまとめ
  • アノミーとは、社会の無規範や無秩序を説明する用語
  • デュルケームは『自殺論』でアノミーという概念を用いて、近代社会における自殺を考察した
  • 『自殺論』では「自己本位的自殺」「集団的本位的自殺」「アノミー的自殺」という社会的自殺の3類型を提示された

ちなみに『自殺論』における議論は、『自殺論』に先だって発表された『社会分業論』で提出された論点を具体的な事例から考察したものです。『自殺論』と『社会分業論』をセットで読むと、より深い理解ができます。

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2章:アノミーとマートン

さて、これまでデュルケームの『自殺論』を中心にアノミーを解説してきましたが、2章ではデュルケームのアノミー論がどのように展開されたのかを説明します。

2-1: デュルケームとマートンの共通点

アノミー論はさまざまな社会学者によって援用され、社会を分析する一つ方法となっています。そのなかでも、アメリカ人社会学者のロバート・マートン(Robert Merton 1910年ー2003年)の議論は有名です。

マートンはアメリカ社会における金銭的目標の普遍性とそれを達成するための制度が不等に分配されていることを『社会理論と社会構造』で議論しました。

マートンのこの議論は次の点でデュルケームのアノミー論を継承しています。

  • 欲求を社会文化的に規定されたものと捉える点
  • 欲求と手段の適合を問題としてる点

マートンの議論を詳しくみていきましょう。

2-2: アノミーとマートンの『社会理論と社会構造』

マートンは1930年代のアメリカ社会における逸脱行動の構造的原因をアノミーの概念を用いて説明しました。

マートンによると、当時のアメリカ社会の状況は次のようなものでした。

1930年代のアメリカ社会

  • 「アメリカン・ドリーム」といわれるように、金銭的成功という文化目標の普遍的に共有された社会である
  • 逆に、金銭的な成功ができないと道徳的に欠陥があると信じられるほど、普遍的な文化目標であった

マートンが問題視したのはさまざまな社会階層の人びとがアメリカン・ドリームを達成するために努力をする一方で、目標を達成する制度的な手段は均等に配分されていないことでした。

たとえば、高等教育はいつの時代も社会的・金銭的目標を達成する有効な手段ですが、すべての階層にそのチャンスが配分されていたわけではありません。

すると、社会の下層の人びとは不法な手段を用いてでも目標を達成しようとします。これをマートンはアノミーの一つのケースと考えました。



2-3: アノミーと近代社会

アノミーとは(架場久和「近代社会とアノミー」『基礎社会学』(119頁)を参照し、筆者作成)

ここからは、上記の図からアノミーの特徴をみていきましょう。

この図に従うと、文化体系が個人のパーソナリティに内面化されないときに、アノミーが起きるのではありません。むしろマートンの事例からわかるのは、人びとが社会の文化的価値を強く信じたときにこそ、つまり十分に文化的目標を内面化したときにアノミー状態になります。

すると、混乱の原因は文化体系が内面化されるとき、その文化体系を達成するための社会体系が制度化されていないことです。ここに近代社会の特徴があります。

つまり、近代社会では、

  • 伝統社会と異なり、社会階層の移動が可能であるという(希望的な)観測がある
  • たとえば、農家の家に生まれ落ちても、ブルジョアになる「夢」をみることができる
  • その夢は文化的目標にとして社会において普遍的に共有されている
  • しかし、社会体系はその文化的目標を達成させる制度をもっていない

といった特徴があります。

そのため「近代社会はあまりにも普遍的な文化体系をもっているが、社会体系はその性質上常に個別具体的な制度にすぎない」といえます。

アノミーがおきる近代社会はこのような不安定なバランスの上に成り立っているのです。

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2章のまとめ
  • アノミー論はさまざまな社会学者によって援用され、社会を分析する一つ方法となっている。そのなかでも、アメリカ人社会学者のマートンの議論が有名
  • マートンは欲求を社会文化的に規定されたものと捉える点、欲求と手段の適合を問題としてる点でデュルケームのアノミー論を継承
  • 近代社会はあまりにも普遍的な文化体系をもっているが、社会体系はその性質上常に個別具体的な制度にすぎない
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3章:アノミーの学び方

どうでしょう?アノミーを理解することはできましたか?

アノミーは近代社会に特有の構造的な原因があったとわかるはずです。そういった意味でも、私たちに関係のない話ではありません。私たちが無自覚に共有してる文化的価値がいつのまにか私たちを縛り付ける要因になっている可能性があるからです。

そういった社会の「無規制状態」を深く理解するためにもこれから紹介する書物を参考に、アノミーやデュルケームの議論を理解しましょう。

オススメ書籍

オススメ度★★ 酒井 千絵, 永井 良和, 間淵 領吾(編)『基礎社会学』(世界思想社) 

社会学の広大な研究領域をうまくカバーしています。「アノミー論」がわかりやすく紹介されているので、初学者にオススメ。

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オススメ度★★★ 大澤真幸『社会学史』(講談社現代新書) 

社会学の成り立ちから現代社会学の現状まで、解説されています。デュルケームの議論がウェーバーの議論と比較されながら、解説されているのでわかりやすいです。ある特定の章だけを読むことはできない構成ですが、時間をかけて読む価値のある本です。

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まとめ

最後に今回の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • アノミーとは、社会の無規範や無秩序を説明する用語
  • デュルケームは『自殺論』でアノミーという概念を用いて、近代社会における自殺を考察した
  • マートンは欲求を社会文化的に規定されたものと捉える点、欲求と手段の適合を問題としてる点でデュルケームのアノミー論を継承
  • 近代社会はあまりにも普遍的な文化体系をもっているが、社会体系はその性質上常に個別具体的な制度にすぎない

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