世界銀行(World Bank)とは、国際連合の専門機関の一つで、世界の開発途上国の経済発展のために融資や技術援助を行う機関です。
世界銀行は、これまで開発途上国の経済発展に対して大きな貢献をしてきた国際機関です。その援助は、戦後の日本の経済復興のためにも行われました。
そういった意味で、世界銀行の仕組みや歴史を知ることは、国際機関を通じた開発途上国の援助の仕組みを知ることに繋がるためとても大事です。
そこで、この記事では、
- 世界銀行の仕組み・目的・役割
- 世界銀行と日本の関わり
- 世界銀行のこれまでの変遷
について解説していきます。
好きな箇所から読み進めてください。
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1章:世界銀行とは
1章では、世界銀行の目的や役割、仕組み、そして日本との関係について解説していきます。
1-1:世界銀行の概要
冒頭の確認となりますが、
世界銀行とは、国際連合の専門機関の一つで、世界の開発途上国の経済発展のために融資や技術援助を行う機関
です。
世界銀行に加盟している国は現在189カ国に及び、以下のような理念のもとで活動をしてます。
- 貧しい国々、いわゆる開発途上国と呼ばれる国々の経済を強化することによって世界の貧困を削減すること
- そして、その国の経済成長と開発を促進することで人々の生活水準を改善すること
つまり、世界銀行の役割は、世界中の開発途上国にとって必要不可欠な「資金源」と「技術」を援助することとなります。それぞれ解説していきます。
1-1-1: 資金援助
資金援助では、低金利での貸付や無利子での融資、無償での贈与などによって提供した資金を活用し、開発途上国への投資支援を行っています。
その分野は、
- 教育
- 保健
- 行政
- インフラ、
- 金融/民間セクター開発
- 農業
- 環境・天然資源管理
など多岐に渡ります。
また、これらプロジェクトの一部は、各国政府、他の多国間機関、民間金融機関、民間投資家など、様々なドナーとの共同出資という形でも実施されています。
1-1-2: 技術援助
一方、技術援助として、政策面での助言、研究、分析、技術支援を通じた支援などを途上国に提供しています。
とくに、分析業務においては、世界銀行がどのように効果的な援助を行なっていくかを判断するための情報としても役立てられます。
さらには、支援対象国の能力開発にも力を入れており、多くの開発関連の会議やフォーラムを主催・後援し、開催しています。
現在、世界銀行グループは、2030年までに達成すべき2つの目標を掲げています。
- 極度の貧困を撲滅・・・1日1.90ドル未満で暮らす人々の割合を2030年までに3%以下に減らす
- 繁栄の共有を促進・・・各国の所得の下位40%の人々の所得を引き上げる
1-2:世界銀行の貢献
では一体、どのような取り組みが実施されてきたのでしょうか?ここではを代表的なものをいくつか紹介していきます。
ケニア・キベラ地区電力供給プロジェクト
- ケニアの国家公益事業であるケニアパワーを、世界銀行の援助によって、ケニアの貧困層が暮らす最大のスラム居住区キベラで、安価で安定した電力を供給することを可能としたプロジェクト
- 2015年に、それまでの約30倍の電力接続を増加させた
パキスタン・バロチスタン州の少女教育促進プロジェクト
- 女子の教育へのアクセスが課題パキスタンで、特に児童の就学率が低いバロチスタン州で、649の学校を設立し、トイレや電気、黒板、机などを設備が不足している学校に提供したプロジェクト
- 33,414人の少女を含む、約39,000人の児童を学校に就学させた
1-3:世界銀行の組織的構成
そして、世界銀行グループは、以下の5つの機関から構成されています。
- 国際復興開発銀行(IBRD)
→国際復興開発銀行は、1944年に設立され、中所得国および信用力のある低所得国の政府に融資(貸出)や技術協力、政策助言を行います - 国際開発協会(IDA)
→国際開発協会は、1960年に設立され、最貧国の政府に無利子の融資(クレジット)や贈与、技術協力、政策助言を行います - 国際金融公社(IFC)
→国際金融公社は、1956年に設立された民間セクター支援を行う世界最大の開発機関です。主に、民間企業への株式投資や長期融資、助言サービス業務を行うことで、途上国の持続可能な成長を支援しています - 多数国間投資保証機関(MIGA)
→多数国間投資保証機関は、1988年に設立されました。MIGAは経済成長、貧困削減、生活向上のために、途上国に対する外国直接投資を促進すべく、投資家や貸し手に政治リスクへの保険(保証)を提供しています - 投資紛争解決国際センター(ICSID)
→投資紛争解決国際センターは、1966年に設立され、国際投資紛争の調停と仲裁を行う場を提供しています
ここで気を付けて欲しいのは、「世界銀行グループ」といった場合は、上で紹介した5つを指しますが、単に「世界銀行」と言った場合は、一般的に国際復興開発銀行(IBRD)と国際開発協会(IDA)の2つを指す点です。
つまり、この2つが、上で述べた世界銀行の役割である「世界中の開発途上国にとって必要不可欠な資金源と技術を援助」を主に担っている機関と考えてください。他の3つの機関は、世界銀行の補助的・補完的な役割を果たしています。
加えていえば、世界銀行の全権限は世界銀行総務会という組織が持っています。
世界銀行総務会の概要
- 各加盟国から1人ずつ選ばれた総務によって構成される
- 総務会は年に一度開かれ、加盟国の承認、純益の分配、資本総額の変更などを決定している
一方、その他の決定については理事会によって行われます。理事会に所属する理事はアメリカ合衆国ワシントンDCにある本部に常勤し、その任務を遂行しています。
理事会は通常週2回開催され、25名の理事のうち5名は、最も世界銀行に出資している国からそれぞれ1名任命され、残りの理事はその他の加盟国により2年ごとに選任されます。
1-4:世界銀行と日本の関わり
世界銀行と日本の関わりも、簡単に触れていきましょう。
その始まりは、1951年に日本が調印したサンフランシスコ平和条約に求めることができます。この頃、日本は第二次世界大戦後の復興に、必死に取り組んでいた時代でした。
この条約により、翌年1952年に世界銀行(国際復興開発銀行、IBRD)に加盟した日本は多額の資金を借り入れ、復興へと歩みを進めることになります。
これらの資金は、具体的に以下のような目的のために使われました。
- 当初は、鉄鋼、自動車、産業、造船、電力開発に使われた
- 1960年代に入ると、名神高速道路や東海道新幹線などの道路・輸送セクターへの使われた
これによって日本は高度経済成長を実現し、この目覚ましい発展は「東洋の奇跡」とよばれました。
そして1966年、日本は最後の借入に調印し、世界銀行からの卒業国となりました。ちなみに、日本が世銀から借入れた総額はおよそ8億6,300万ドル、31件の事業に使われ、1990年にこれらの借入を完済しました。
1970年代以降の日本は、これまでとは逆に、世界銀行への出資国として重要な役割を果たしていくことになります。1984年からは世界第2位の出資国となり、中心となって開発途上国の援助を進めてきました。
- 世界銀行とは、国際連合の専門機関の一つで、世界の開発途上国の経済発展のために融資や技術援助を行う機関である
- 「世界銀行」とは、一般的に国際復興開発銀行(IBRD)と国際開発協会(IDA)の2つの機関を指す
- 日本との関わりは、1951年のサンフランシスコ平和条約から存在する
2章:世界銀行の現在までの変遷
さて、2章では、世界銀行が設立されてから現在に至るまでの歴史を見ていきます。
2-1: 世界銀行の設立
世界銀行の設立されたのは、1944年7月のブレトン・ウッズ会議がきっかけでした。
当時の世界は、第二次世界大戦により経済が混乱・疲弊していました。この状況を立て直すためには、世界中が協力体制による通貨価値の安定や貿易の振興だけでなく、開発途上国の開発の推進を通して、自由で多角的な貿易ができることが必要でした。
そこで設立されたのが、国際通貨基金(IMF)と現在の世界銀行である国際復興開発銀行(IBRD)です。両者は以下のような意味で、相互に補完しあう関係にありました。
- 当時の国際通貨基金(IMF)・・・国際収支の危機にある国に短期的な資金供給を行う機関
- 当時の世界銀行・・・第二次世界大戦後の先進国の復興と発展途上国の開発を目的とした、社会インフラ建設などの長期的な資金の供給を行う機関
しかし、フランスをはじめとする第二次世界大戦で戦災を受けた西ヨーロッパ諸国に対する復興支援は多額の資金が必要であるため、設立間もない世界銀行の資金力で賄えるものではありませんでした。
そのため、1947年のアメリカ合衆国によるマーシャル・プランでヨーロッパ諸国への多額の援助が決まったことで、世界銀行は開発途上国の開発資金援助に特化した機関へと役割を変えていきます。(→マーシャル・プランに関してはこちら)
2-2: 1950年代から60年代
その後、1950年代から60年代の世界銀行は、実施する融資の大部分を主に開発途上国のインフラ整備に注いでいきます。
世界銀行の業務が拡大するにつれ、それを補完する機関も必要となっていきます。たとえば、以下のような機関が設立されていきました。
- 1956年・・・世界銀行では融資できない民間企業に融資を行う国際金融公社(IFC)が設立された
- 1960年・・・世界銀行からの借り入れもできない貧しい発展途上国向け融資を目的とした国際開発協会(IDA)が設立された
- 1966年・・・発展途上国と外国投資家との紛争が発生するようになり、それを仲裁する国際投資紛争解決センター(ICSID)が設立された
ちなみに、この頃の主要貸出国の一つが日本でした。前章で言及したように日本は1966年に借入から卒業しますが、その背景には目覚ましく発展しながら融資を受け続ける日本に対する批判があったとも言われています。
そして、1968年にロバート・マクナマラが第5代世界銀行総裁に就任すると、世界銀行の方針は一変します。
それまでの世界銀行の融資規模は大きいものではありませんでしたが、マクナマラ就任後、融資額は急速に増加していきます。その額は、設立から22年間の総融資額よりも、マクナマラが就任してからの4年間の方が大きいほどでした。
加えて、マクナマラはそれまで世界銀行の財源の中心であった各国の拠出金だけに依存せず、世界銀行債を積極的に発行することで資金を調達するようにし、世界銀行の影響力を拡大させていきました。
この方針転換は、援助範囲の拡大にもつながっていきます。
- それまでの世界銀行の融資対象は、橋や道路、学校の建設など社会インフラのプロジェクトに対する融資が基本であった
- しかし、融資の拡大により、それまで対象に含まれていなかった教育や経済システムなどの社会分野にも援助を始めるようになった
2-3: 1980年代〜
1980年代になると、社会分野への援助はより顕著になってる一方で、融資を受けてきた開発途上国の債務返済の停滞も問題になりました。
つまり、世界銀行の融資拡大は、各途上国の経済を拡大させる一方で、借金をどんどん増大させ苦しめていっていたのです。中には、経済危機に陥ってしまう国が出てくるようになり、その対策として経済システムを対象とした援助「構造調整融資」が行われるようになります。
「構造調整融資」とは、肥大化した公的セクター(国や地方自治体の公的組織)の縮小や、各種補助金・公務員の給与の削減を行い、その国の支出の削減を行うとともに、経済を自由化させて自由競争の下で経済を成長させようというもの
この転換によって、世界銀行は開発途上国の開発に対してより影響力を高めていくことになりました。
しかし、公的セクターの縮小によって失業率が増加し、教育や医療などの質も低下するなどの悪影響が大きく、特にアフリカ地域の多くの国では経済の停滞や悪化が起こってしまうなどの問題も起こっています。
また、世界銀行を通した先進国の融資が、開発途上国の経済システムに影響を与える、つまり先進国の意向が開発途上国の経済を左右してしまうこの構造は、「ある国家の政治に、他国が干渉してはいけない」という内政不干渉の原則に外れるとの批判の声も上がりました。
それでも、世界銀行はこれまで70年以上にわたって、世界中の国々のさまざまなセクターを支援してきました。
とくに、
- 1つの問題を解決するために、多様なセクターに横断的にアプローチし、連携しながら多角的に解決に向けた行動をするためのシステムを持っている点
- 170カ国以上の国籍で構成される職員が、それぞれの国や地域の知見や経験を共有しながらプロジェクトを推進できるネットワークを持っている点
は効果的な開発を実現させることができる強みを言えるでしょう。
- 世界銀行が設立されたのは、1944年7月のブレトン・ウッズ会議がきっかけである
- 1950年代から60年代の世界銀行は、実施する融資の大部分を主に開発途上国のインフラ整備に注いでいった
- 世界銀行の融資拡大は、各途上国の経済を拡大させる一方で、借金をどんどん増大させ苦しめていっていたといいう側面もある
3章:世界銀行について学べるおすすめ本
世界銀行について理解を深めることはできたでしょうか?
世界銀行についてもっと知りたい方はこちらの本がおすすめです。
井出穣治・児玉十代子『IMFと世界銀行の最前線―日本人職員がみた国際金融と開発援助の現場』(日本評論社)
国際機関の仕事とは何かについて、世界銀行での勤務経験をもとに解説してくれる一冊です。日々の職務内容に興味がある方におすすめです。
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松本悟・大芝亮『NGOから見た世界銀行: 市民社会と国際機構のはざま』(ミネルヴァ書房)
国際機関が推進する政策や事業の実施に、NGOがどのように関与しているか知ることができる一冊です。
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本間雅美『世界銀行と開発政策融資』(同文館出版)
現代の国際開発協力の問題点や世銀の開発政策についてまとめた一冊です。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- 世界銀行とは、国際連合の専門機関の一つで、世界の開発途上国の経済発展のために融資や技術援助を行う機関である
- 「世界銀行」とは、一般的に国際復興開発銀行(IBRD)と国際開発協会(IDA)の2つの機関を指す
- 世界銀行の融資拡大は、各途上国の経済を拡大させる一方で、借金をどんどん増大させ苦しめていっていたという側面もある
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引用・参考文献
- 世界銀行HP「世界銀行の概要」(最終閲覧日:2020年6月7日)
- 世界銀行HP「世界銀行について」(最終閲覧日:2020年6月7日)
- 世界銀行と日本(最終閲覧日:2020年6月7日)
- IDAのHPより(最終閲覧日:2020年6月7日)
- 伊藤成朗「世界銀行グループ」『国際開発協力問題の潮流』121-159頁,アジア経済研究所