組織文化(Organizational culture)とは、「ある特定のグループ外部への適応や内部統合の問題に対処する際に学習した、グループ自身によって、創られ、発見され、または発展させられた基本的パターン」1大月博・高橋正泰(2003)『経営組織』学文社, 171頁です。ここでの「組織」とは、ある目的を目指し、幾つかの物とか何人かの人とかで形作られる、秩序のある全体のことを指します。
組織はある目的を達成するために、組織が持つあらゆる資源を用いて活動をおこないます。一般的にこれらは経営資源と呼ばれ、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」の4つが代表としてあげられます。
しかし多くの実証的な研究において、これら経営資源が充実していても十分な成果を出せない企業も存在すれば、逆に経営資源が不足していても突出した成果を出せる企業が存在することが明らかになってきました。
そこで注目されたのが組織文化という側面です。後に、組織文化は第5の経営資源とも呼ばれるようになっていきました。
この記事では、
- 組織文化の歴史・フレームワーク
- 組織文化の組織変革
などをそれぞれ解説していきます。
好きな箇所から読み進めてください。
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1章:組織文化とは
1章では組織文化を概説します。具体的な例などに関心のある方は、2章以降から読み進めてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注2ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1:組織文化の歴史
組織文化の研究の歴史は浅く、組織文化が注目されたのは1980年前後にアメリカで出版された『エクセレント・カンパニー』と『シンボリック・マネージャー』の2冊の名著がきっかけであったと言われています。
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これらの本が出版される以前の経営学において、組織研究は組織構造といったハードの部分が主な研究テーマでした。そのため、組織文化のようなソフトの部分に注目が集まることはありませんでした。
しかし、両著とも固有の組織文化が優れた成果を生み出す要因であると共通した結論を導いたことから、これ以降はさまざまな「組織文化」に関する研究がおこなわれるようになりました。大まかにいえば、以下のような展開がされていきます。
- 初期の組織文化論では、組織の一枚岩的な結束こそが優れた経営成果を生み出すと考えられていた
- しかし、その後、①強い組織文化が必ずしも優れた経営成果ばかりを生むとは限らないこと、②同一の組織内にも複数の組織文化が存在することが明らかになった
- その結果、組織文化に関する研究はより複雑で多様なものとなった
特に、近年では経済のグローバル化が急速に進んでいることから、組織内の多様性もこれまでに見られないペースで拡大しており、かつての組織文化論では説明できないような事例も多く見られるようになっています。
1-2:組織文化が大事な理由
では一体、なぜ組織文化が重要なのでしょうか?結論からいえば、組織に課題や目標が生まれたとき、共通の価値観に基づいて組織の意思そのものが決まるからです。
この点を理解するために、たとえば、以下の例を考えてみてください。
- 安価で迅速なサービスを志すA社と、高級で丁寧なサービスを志すB社という同じ飲食店のカテゴリーに属する2つの企業がある
- 売上や客数を伸ばすための目標に対する意思決定は全く異なる
- 「グループ自身によって、創られ、発見され、または発展させられた基本的パターン」によって各社の意思決定が定まるのであれば、A社は安価で迅速なサービスを磨くべく、原価の削減による値下げや会計システムの効率化などを検討するであろう
- B社は高級で丁寧なサービスを磨くべく、こだわりのある原材料の調達や接客サービスの向上に向けた従業員トレーニングなどを検討するであろう
このように組織文化は、組織の行動や価値観を示す鏡のような存在であると言えます。
もし組織文化が明確になっていない、もしくは組織全体に浸透していないのであれば、組織全体で目標に向けて取り組むことはとても難しくなり、生み出される成果も小さいものとなるでしょう。
1-3:組織文化のフレームワーク
ひとえに組織文化と言っても、なにがその組織の文化であるのかを明らかにするのは実はとても難しいことです。
一般的には、組織のトップが語る価値観や方針が組織文化であると考える場合もありますが、その価値観や方針が現場に浸透していなければ、それは到底、組織文化とは呼べません。
1-3-1: 組織文化の3つのレベル
組織文化研究の第一人者であるエドガー・シャインによると、組織文化には次の3つのレベルと相互作用があると言われています。
- 人工的に創造されたもの
→オフィスのレイアウトや社訓・社是、社長のメッセージなど「目に見える」もの。人工的に創造されたものは任意に作り上げることのできる組織文化だが、目に見えていたとしても理解できないものも多く存在し、必ずしも社員に根付くものではないとされる - 価値
→組織の雰囲気や人間関係など組織に対する基本的な認識を含めた「価値観」。明文化はされていなくても、組織に属している限り認識はでき、組織内においても共有可能なものだとされる - 基本的仮定
→当たり前に受け入れられており、対立にも議論にもならないまま組織の前提条件となっているもの。目にも見えず、認識もできないほど組織の常識となっており、重要な意思決定にも無意識的に影響を及ぼすレベルであるとされている
それぞれのレベルは、組織に新たに加入する人の立場に立つと、とてもわかりやすいです。
「人工的に創造されたもの」は経営理念や募集要項にあたるものです。その組織がどんな人材を求めていて、どんな方向性を目指しているのか観察可能であるため表面上はもっともわかりやすい文化であると言えます。
次に、「価値」は入社後に仕事を進めていくうえで培われていくものです。組織内で成功体験を重ねていくことで、組織に属する人々はおのずと組織特有の価値観を共有していきます。
「価値」とは、はじめは組織の構成員が認識できないものであっても、時間が経つにつれて組織内で大きな広がりをみせていくことに特徴があります。
最後に「基本的仮定」は別の組織から、その組織に移動してきたときの違和感に似たものです。
たとえば、以前の組織では自分の意見を自由に述べることが当たり前であったのにも関わらず、新しい組織では意見を述べる雰囲気が感じられないと思ったのであれば、それは「基本的仮定」が異なっていることを意味します。
当然ですが、組織に長く属している人は基本的にこの違和感を抱くことはありません。ゆえに「基本的仮定」は3つのレベルのなかで、もっとも確固で不変的な組織文化と言えます。
そのため、その組織の「基本的仮定」が時代や戦略に適応していれば優れた成果を生み出す大きな力となりますが、時代や戦略に適応しなくなると組織の進化を止める大きな障害になり得るため、もっとも注意しなければならないレベルであるとエドガー・シャインは指摘しています。
1-3-2: 組織文化と7S
組織文化が注目されたきっかけである『エクセレント・カンパニー』では、1980年以前の約20年間にわたってアメリカ内で著しい成果をあげた企業の成功要因を分析しています。
- エクセレント・カンパニー(超優良企業)とは、「新製品を出して大きく売上げを伸ばしていく能力にことに優れているばかりでなく、周囲のあらゆる変化に器用に対応していく能力にとくに秀でた企業」3トム・ピーターズ、ロバート・ウォーターマン、大前研一訳(1983)『エクセレント・カンパニー』講談社44頁と定義されている
- 『エクセレント・カンパニー』は、これらの企業の共有の成功要因を抽出し、優れたベンチマークを提示している
『エクセレント・カンパニー』では、アメリカの大手コンサルティングファームであるマッキンゼーの「7S」と呼ばれるフレームワークを使って、エクセレント・カンパニーの成功要因を解説しています。
7Sとは、以下の頭文字をまとめたフレームワークです。
- 「戦略(Strategy)」「組織(Structure)」「システム(System)」の3つのハード
- 「価値観(Shared value)」、「スキル(Skill)」「人材(Staff)」「スタイル(Style)」の4つのソフト
『エクセレント・カンパニー』では「Shared value(価値観)」がその他6つの要素の中心に位置しており、もっとも大事な条件であると結論付けています(図1)。
(図1「マッキンゼーの7S」出典:トム・ピーターズ、ロバート・ウォーターマン『エクセレント・カンパニー』講談社, 41頁)
- 組織文化とは、「ある特定のグループ外部への適応や内部統合の問題に対処する際に学習した、グループ自身によって、創られ、発見され、または発展させられた基本的パターン」4大月博・高橋正泰『経営組織』学文社, 171頁である
- 組織に課題や目標が生まれたとき、共通の価値観に基づいて組織の意思そのものが決まるため、重要である
2章:組織文化と組織変革
組織文化が組織の競争力の源泉であることは間違いありませんが、時代や戦略に合わない組織文化は、ときに組織自体を衰退に追い込みます。なぜなら、組織文化とは容易には変わらないことに強みがあれば、それが弱みでもあるからです。
たとえば、以下の事例を考えてください。
- 『エクセレント・カンパニー』や『シンボリック・マネージャー』と同時期に出版された社会学者エズラ・ヴォーゲルの『ジャパンアズナンバーワン』では、1980年代に世界中で隆盛した日本企業の成功要因を緻密に分析された
- 著者のヴォーゲルは、その成功要因が終身雇用に代表される日本独特の企業統治システムによって構築された独自の組織文化であると結論づけた
- しかし、資本のみならず労働力までもが容易に国境を超える急激なグローバリゼーションの進展によって、従来の日本型システムや独自の組織文化は競争力を失いつつある
- 特に、バブルが崩壊した1990年以降、日本国内で新たなシステムや組織文化の構築が求められるようになっている
このように組織文化は、ときに時代や戦略に合わせた変革が求められます。しかし、組織変革は容易に達成できるものではありません。
競争力を高められる組織文化をどのように構築し、時代や戦略に合わせて組織変革をどのように進めていくか、これは現代の競争社会に生きるすべての企業に共通する課題であると言えます。
3章では、組織文化研究で頻繁に引き合いに出されるアメリカの総合電機メーカーGE(General Electric Company)を例に、組織変革について考えていきます。
3章:組織文化の事例
GE(General Electric Company)は、1892年に世界の発明王トーマス・エジソンによって創業された、世界最大とも称されるアメリカの総合電機メーカーです。
GEの概要
- GEは優れた技術開発だけではなく、「世界がいま本当に必要としているものを創るのだ」というエジソンの言葉の通り、優れたマーケティングの発想をもった企業として高い評価を得ている
- 創業から120年以上経つが、いまでも世界中の国々でビジネスができているのは独自の組織文化の構築し、さらに不断の組織変革に取り組んできたことが大きく寄与している
このように、かつては家電の総合メーカーとして名を馳せたGEですが、2020年時点でGEは家電事業を保有していません(図2)。
(図2「GEの事業領域」)
このように現在のGEの事業は「航空」「電力」「医療」のようにインフラクチャーを中心に営まれており、かつての家電メーカーとしての面影はありません。
また、2015年には当時高い収益をあげていて、なおかつ事業の先行きも明るかった金融部門の「GEキャピタル」を1930億ドルで売却したニュースは世界中の関係者を驚かせました。
そして、売却の理由を当時のCEOであったジェフリー・イメルトは「将来GEが生まれ変わるため」5熊谷昭彦(2016)『GE変化の経営』ダイヤモンド社 19頁と語ったことからも、GEが組織変革の重要性を常に意識していることが感じられるエピソードとなりました。
2017年までGEジャパンのCEOを務めた熊谷昭彦は、GEの社員の意識について、
- 「『リスクを取ってやってみる』勇気と、前向きな姿勢がある」
- 「その仕組みが構築されていることも一種の企業文化と言えるだろう」
と語っていることからも、GEのなかで組織変革の意識が組織文化として定着していることが伺えます6熊谷昭彦(2016)『GE変化の経営』ダイヤモンド社 89-90頁。
加えて、組織変革についてイメルトは、ロールモデルとしてリーダーの役割の重要性を指摘しています。組織文化を変えるためには、まずリーダーが行動をおこさなければなりません。
この姿勢はイメルトの「これまでどんなによい仕事をしてきた人であっても、変革についてこられないリーダーは、新しい時代には合わないから辞めてほしい」7熊谷昭彦(2016)『GE変化の経営』ダイヤモンド社 109頁という社内ミーティングでの発言からも伝わってきます。
しかし、リーダーの姿勢だけでは組織全体に文化を浸透させることはできません。そこでGEでは時代や市場環境に合わせて見直す経営戦略とともに、行動規範や評価制度を戦略に合ったものに改めています。
図3は、GEの行動指規範や評価制度をまとめたものです。
(図3「GEの人材育成と企業文化」8出典:GE.REPORT)
GEでは以下の3つの手法を使って、世界各国にある支社にGEの組織文化を浸透させています。
- 社員全員の行動規範を示した「GE Beliefs」
- 社員のマインドセットと仕事のスタイルを変えるツールである「FastWorks」
- 目標達成を支援する評価制度である「Performance Development」
この3つの手法自体は形あるものであり、マネをしようと思えばだれでもできるものです。しかし、これらをすべての社員が理解し、継続して取り組むことが出来なければ組織文化にはなり得ません。
その点で、GEは優れた組織文化をすべての社員が尊重し、なおかつ積み上げた組織文化の変革をいとわないことに独自の競争力があると考えられます。
4章:組織文化に関するおすすめ本
組織文化について理解できたでしょうか。
この記事で説明した内容は組織文化のごく一部を紹介したに過ぎませんので、GEについてもっと知りたい方は参考文献やその他の書籍をご覧ください。
トム・ピーターズ、ロバート・ウォーターマン『エクセレント・カンパニー』(英治出版)
組織文化研究のきっかけともなった世界的名著です。優れた成果をあげられる企業の特徴はなにかを数多くの企業研究をもとに導き出しています。古い本ですが、いまでも愛読者の多い1冊です。
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熊谷昭彦『GE変化の経営』(ダイヤモンド社0
2017年までGEジャパンのCEOを務めた熊谷昭彦による著書です。30年以上GEに勤めた著者による内容はまさにGEの歴史そのものを表す1冊となっています。
一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
最初の1冊は無料でもらえますので、まずは1度試してみてください。
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また、書籍を電子版で読むこともオススメします。
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などの特典もあります。学術的感性は読書や映画鑑賞などの幅広い経験から鍛えられますので、ぜひお試しください。
まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- 組織文化とは、「ある特定のグループ外部への適応や内部統合の問題に対処する際に学習した、グループ自身によって、創られ、発見され、または発展させられた基本的パターン」9大月博・高橋正泰『経営組織』学文社, 171頁である
- 組織文化とは容易には変わらないことに強みがあれば、それが弱みでもある
- GEでは時代や市場環境に合わせて見直す経営戦略とともに、行動規範や評価制度を戦略に合ったものに変化させている
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参考文献
- 大月博・高橋正泰『経営組織』学文社
- トム・ピーターズ、ロバート・ウォーターマン、大前研一訳『エクセレント・カンパニー』英治出版
- T.ディール、A.ケネディー、城山三郎『シンボリック・マネージャー』岩波書店