観光人類学

【エコツーリズムとは】その理念・具体例・課題をわかりやすく解説

エコツーリズムとは

エコツーリズム(ecotourism)とは、自然や文化といった地域資源を活かしながら、持続的にそれらを利用することを目指した観光のあり方です。

1980年代以降に発展したエコツーリズムという観光は、環境破壊に代表されるマスツーリズムのネガティブな影響を乗り越えようとしたものでした。

そのため、エコツーリズムを学ぶことなしに、21世紀における持続可能な観光を考えることはできないほど、大事なキーワードとなっています。

そこで、この記事では、

  • エコツーリズムの理念
  • エコツーリズム誕生の歴史
  • エコツーリズムの具体例・課題

をそれぞれ解説します。

あなたの関心に沿って、読んでみてください。

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1章:エコツーリズムとは

1章では、エコツーリズムを概説します。エコツーリズムの心具体例や課題に関心のある方は、2章から読んでみてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1: エコツーリズムの理念

まず、再度確認しますが、

「エコツーリズム」とは、自然や文化といった地域資源を活かしながら、持続的にそれらを利用することを目指した観光のあり方

です。

エコツーリズムの理念とは大きく、「環境保全」「観光振興」「地域振興」です。それぞれのポイントを押さえることで、エコツーリズムの概要を理解することができます。

1-1-1: 環境保全

環境保全とは、自然環境を保全するような観光のかたちをエコツーリズムが目指していることを意味します。

これまでの観光は自然と共生する理念が希薄で、「観光公害」といわれるほど自然環境に悪影響をもたらしてきました。

このような歴史から、エコツーリズムは、

  • 少人数でのエコツアーを実施する
  • ツアーに関するガイドラインや規制を設ける
  • エコツアーガイドが同行し、自然環境に関する教育的な役割を担う
  • エコツアーの利益の一部を、自然環境の保全のために活用する

といった実践をおこないます。

また、植林ツアーや外来種排除ツアーに代表されるように、積極的に自然環境を保護を促進するエコツアーもあります。

「そもそも、なぜ環境は守られないといけないのか?」と疑問を持つ方はこちらの記事がおすすめです。

→【環境倫理学とは】自然環境保護の思想と代表的議論をわかりやすく解説

1-1-2: 観光振興

観光振興とは、環境保全のための観光ではなく、観光として魅力的であることを意味します。

1960年代以降、観光産業が安定的に拡大してきたため、数ある観光地はほとんど行き尽くされるという事態が発生します。言い換えると、観光客の新たな嗜好に対応する必要が生まれてきたのです。

そこで注目されたのは、エコツーリズムです。なぜならば、エコツーリズムは次のような特徴をもつからです。

これまで観光資源と捉えられていなかった自然環境に焦点を当てることで、ありふれた観光に新たな価値を生み出すという特徴をもつ

観光に学びの要素を含めたり、新たな観光資源を発見したりすることで、観光の新たなあり方をエコツーリズムは提供しています。

1-1-3: 地域振興

地域振興とは、地域経済の活性化や地域交流の促進など、ツアーによるポジティブな影響をエコツーリズムが与えることを意味します。

たとえば、世界自然遺産のケースを考えてみてください。

世界自然遺産のエコツアーでは、次のような業界で雇用を生み出すことができます。

  • その地域の旅行業者や宿泊業者
  • その地域の飲食業者
  • その地域の運送業者
  • ガイドなどの観光業者

加えて、必然的に地域住民と観光客の交流が生まれるため、地域づくりの一環としてエコツーリズムを捉えることもできるでしょう。



1-2: エコツーリズム誕生の歴史

これまでエコツーリズムの理念を紹介してきましたが、エコツーリズムがいつどのような理由で誕生したのかを知ることも大事です。ここではエコツーリズムが誕生した歴史を概説します。

ポイントは、「マスツーリズムによる弊害」「環境問題と持続可能性」「開発援助と外貨獲得手段」です。

1-2-1: マスツーリズムによる弊害

エコツーリズムが登場する最大の理由は、マスツーリズム(mass tourism)」による自然環境の破壊が顕著になったためです。

マスツーリズム

  • 観光の大衆化・大量の観光客が発生する現象を意味する
  • 一般的に、カネとヒマを有する上流階級の特権であった観光が、第二次世界大戦後以降、大衆の経済力向上によって広く普及したことを指す

観光客が限界を超えるまでに増加し、自然環境が破壊されていったのです。実際、観光客によるゴミの放置や落書きなどが自然環境に悪影響を与える事例は世界中で報告されています。

エコツーリズムとは(敷田麻実(編)『地域からのエコツーリズム』45頁(2008)から引用)

1-2-2: 環境問題と持続可能性

そもそも、環境問題は国際的な問題として1970年代から認識されていたという背景もあります。

国際的な意識の高まりは、次のようにまとめることができます。

環境に関する国際的な危機意識の高まり

  • 1972年「国連人間環境会議」の開催…環境問題は人類の課題であり、国際的に取り組む課題であることが主張される
  • 1984年「国連環境開発世界委員会」…日本が提唱して開催され、「持続可能な開発の概念」が提唱されることになる
  • 1992年「環境と開発に関する国連会議」…持続可能性は人類共通の目標であることが広く共有される

このような国際的な流れに影響をうけて、観光業においても持続可能な観光(サステイナブルツーリズム)が提唱されるようになります(サステイナブルツーリズムが指す内容は具体的ではありません)。

いずれにせよ、環境保全と持続可能性という概念が広く共有されるのに合わせて、エコツーリズムという観光の持続可能性が追い求められていったのです。

1-2-3: 開発援助と外貨獲得手段

そして最後に、開発援助と途上国の外貨獲得手段としてエコツーリズムが着目されたという側面があります。

簡潔にまとめると、次のようにいえます。

  • 開発援助…1980年代には上述した持続可能な開発を目標とした開発援助がおこなわえれていく(ex: 世界銀行は1986年に自然環境の保全を盛り込んだ開発援助をおこなう)。
  • 発展途上国…マスツーリズムに代わる外貨獲得手段として、エコツーリズムが推進される。その際、自然環境を考慮した国家のプロジェクトとして、エコツーリズムが実施された

つまり、エコツーリズムが生まれた背景を考察すると、エコツーリズムとは環境保全を求める環境側と、マスツーリズムに代わる新たな観光資源を求める観光業側のニーズがマッチしたため生まれたといえます。

これまでの内容をまとめます。

1章のまとめ
  • 「エコツーリズム」とは、自然や文化といった地域資源を活かしながら、持続的にそれらを利用することを目指した観光のあり方である
  • エコツーリズムの理念は「環境保全」「観光振興」「地域振興」の3つがある
  • エコツーリズム誕生の背景には「マスツーリズムによる弊害」「環境問題と持続可能性」「開発援助と外貨獲得手段」がある
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2章:エコツーリズムの具体例と課題

ここでは日本と海外におけるエコツーリズムの具体例を概観し、最後にエコツーリズムの課題を提示します。

2-1: 日本におけるエコツーリズムの具体例

まず、日本におけるエコツーリズムの事例です。日本の文脈でエコツーリズムを語るとき、人間(=文化)と自然が深く関わってきた歴史を尊重し、地域がそれを認識しながら観光に役立てるという意味をもちます。

世界におけるエコツーリズムは絶滅の危惧に瀕する動植物の保護を目的とする場合が多いですが、日本は古くからの生活や文化の基盤として自然があったためです。

そして、このようなエコツーリズムの活動は、さまざまな機関によって支援されてきました。

  • 環境庁(現在の環境省)…1990年から国内外のエコツーリズムに関する調査
  • 日本旅行業協会…1993年に「地球にやさしい旅人宣言」を発表
  • 運輸省(現在の国土交通省)…1995年にエコツーリズム・ワーキンググループを設置
  • NGO…1998年に全国組織の「エコツーリズム推進協議会」が発足

大まかな流れを把握できたところで、具体的な事例を紹介していきます。

2-1-1: 小笠原におけるエコツーリズム

日本において、エコツーリズムと呼べる活動は1980年代から始まっていました。そして、その先駆的として有名なのは、東京都小笠原村におけるホエールウォッチングです。

小笠原村の活動

  • 1989年に「小笠原ホエールウォッチング協会」を設立
  • 小笠原ホエールウォッチングは鯨への過度な接近を防ぐルールをつくったり、鯨に関する調査・研究をおこなった

この活動はエコツアーと呼ばれたわけではありませんが、エコツアーの創始となる活動でした。

2-1-2: 沖縄県西表島のエコツーリズム

そもそも、環境保全側と観光開発側はしばしば対立関係にありました。しかし、1992年の地球サミット以降、その対立を克服する手段としてエコツーリズムが利用されていきます。

その具体例として、沖縄県西表島におけるエコツーリズムがあります。西表島におけるエコツーリズムは、

  • 1970年代にイリオモテヤマネコの保護を主張する研究者と開発を求める島民間での対立が起きる
  • その対立を克服するものとして、1990年からエコツーリズムが推進される
  • 1996年に「西表島エコツーリズム協会」が設立され、両者の折り合いがつけらえる

といった誕生の背景がありました。

その他にも、屋久島や軽井沢、知床などエコツアーを実施する民間業者が介入していきます。その背景の一つには、環境保全側と観光開発側との対立関係を克服するものとしての役割があったのです。



2-2: 海外におけるエコツーリズムの具体例

海外におけるエコツーリズムを網羅することは難しいですので、有名な事例をここでは提示します。

  • コスタリカ…自然環境を考慮して国土の4分の1を国立公園地域または自然保護区として指定。その後、エコツーリズムを推進し、観光収入は国内総生産の約7.5%まで成長した
  • ガラパゴス諸島…増加する観光客による自然環境への影響を配慮して、国立公園内のツアーはすべて許可制となる。公認ガイドの同行を義務づけるなど、エコツーリズムを厳しく管理している
  • ジンバブエ…野生生物ツアーの観光業は牧畜業の3倍の収益をあげる
  • 南アフリカ…野生生物ツアーの観光業は牧畜業の15倍の雇用創出効果をあげる

これらの事例に加えて、アメリカやヨーロッパ諸国では優れたエコツアーを表彰するなどの仕組みを設けて、推進に向けてさまざまな制度も導入しています。

これまでの内容をまとめます。

2章のまとめ
  • 日本において、環境保全側と観光開発側の対立を克服する手段としてエコツーリズムが利用される
  • 海外では優れたエコツアーを表彰するなどの仕組みを設けて、推進に向けてさまざまな制度も導入している
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3章:エコツーリズムの課題

最後に、エコツーリズムの課題を紹介します。下記する課題はエコツーリズムの根本的な問題ですから、今後真剣に検討する必要があります。

もっとも深刻な問題は、「エコツーリズムはマスツーリズムと何ら変わりない」という批判です。そのロジックは、次のようなものです。

エコツーリズムへの批判

  • エコツーリズムは「手つかずの自然」を提示することが多くなるため、発展途上国が目的地となりやすい
  • 発展途上国の人びとは貧困を解決するためにエコツーリズムの規模を拡大していく
  • その結果、大規模な開発がされることになり、それはマスツーリズムとまったく変わりない

たとえば、次のような事例があります。

  • アメリカのマイアミから飛行機で2時間のベリーズという国は、国家全体でエコツーリズムを推進している
  • ベリーズのキャッチコピーは、「手つかずの自然」を全面に押し出したもの
  • しかし、ベリーズの観光業協会の65%がアメリカ資本の会社であり、世界で2番目に長いサンゴ礁海岸の90%は外国資本である
  • 観光客の増加により、巻き貝とロブスターの乱獲がおき、収穫量が激減する
  • 1992年にはアメリカ人のオーナーが、観光客のアクセスを改善するために、サンゴ礁を爆破して取り除くという事件も起きた

このような事例は、世界中で報告されています。そのため、エコツーリズムはマスツーリズムと何ら変わりがないという主張が的を射ていると感じるが多いです。

エコツーリズムの根底にあるのは、

「手つかずの自然」を求める観光客と、「手つかずの自然」が収入になることをあてにするしかない地元の人びととの社会経済的なギャップ

です。

西洋と現地の人びととのギャップを考えずに、エコツーリズムを提唱することでさまざまな問題が発生しています。この問題は持続可能な観光を考えるためには、必ず考えなければならない課題でしょう。

「観光人類学」は観光によるネガティブな影響を研究する意義ももつ学問分野です。観光現象に対する批判的考察を学びたい方は、ぜひ読んでみてください。

【観光人類学とは】観光研究の歴史から研究事例までわかりやすく解説

4章:エコツーリズムに関する書籍

この記事で紹介した内容は、エコツーリズムを知るための一部にすぎません。これから紹介する書籍を参考に、エコツーリズムに関する多面的な考察力を深めっていってください。

おすすめ書籍

敷田 麻実(編)『地域からのエコツーリズム―観光・交流による持続可能な地域づくり』(学芸出版社)

エコツーリズムの概要を知るためには、この本がおすすめです。日本や海外の事例も多く紹介されており、初学者にとても優しい本です。この記事でも参照しています。

沼田 真『自然保護ハンドブック』(朝倉書店)

自然保護やエコツーリズムに関する古典本です。民・官の取り組みを網羅的に学ぶことができます。

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島川 崇『観光につける薬―サスティナブル・ツーリズム理論』(同友館)

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 「エコツーリズム」とは、自然や文化といった地域資源を活かしながら、持続的にそれらを利用することを目指した観光のあり方である
  • 「エコツーリズムはマスツーリズムと何ら変わりない」という批判がある

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