心理学

【文脈効果とは】具体例から心理学的な研究までわかりやすく解説

文脈効果とは

文脈効果(Context effect)とは、知覚や記憶、意思決定などの認知活動が文脈によって影響をうけることです。

人間の認知の仕組みを考えるときに文脈の効果を考えることは、非常に重要な意味を持っています。そのため、極めて重要な用語の一つです。

そこで、この記事では、

  • 文脈効果の意味・例
  • 文脈効果の心理学的実験

をそれぞれ解説していきます。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:文脈効果とは

1章では、文脈効果を概説します。文脈効果の心理学的実験に関心のある方は、2章から読んでみてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:文脈効果の意味

冒頭の確認となりますが、文脈効果とは、

知覚や記憶、意思決定などの認知活動が文脈によって影響を受けること

です。

私たちのさまざまな認知活動は文脈の影響を強く受けることが知られています。例として次の文章を、何についての話をしているか考えながら読んでみてください2Bransford, J. D., & Johnson, M. K. (1972). Contextual prerequisites for understanding: Some investigations of comprehension and recall. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 11(6), 717-726.

手順は実はとても簡単です。まず、ものをいくつかの山に分けます。もちろん、やるべきことがどれだけあるかによっては、1つの山で十分かもしれません。

設備がなくて他の場所に行かなければならない場合以外は、これで準備完了です。一度にやりすぎないことが大切です。つまり、あまりにも多くのことをするよりも、一度に少しだけする方が良いということです。

短期的にはこれは重要ではないように見えるかもしれませんが、面倒なことは簡単に発生する可能性があります。一歩間違えれば高額な費用がかかることもあります。最初は全体の手順が複雑に見えるでしょう。

しかし、すぐに、それは生活の一部になるでしょう。このような作業の必要性が近い将来になくなるということはだれにもできないでしょう。この手順が完了した後、再びいくつかのグループに山を分けていきます。

そして、それらをそれぞれの適切な場所に置きます。それらは再び使用され、この全体のサイクルが繰り返されます。これはやはり、生活の一部なのです。

この文章が何を意味しているのか分かったでしょうか?実はこの文章は、洗濯について説明した文章です。おそらく、初めて読んだときはこの文章が何の話かがわからなかった人も、この答えを見てから文章を読みなおしてください。

すると、初めに意味の分からなかった文章の意味をとれるようになると思います。

  • つまり、私たちはこのような文章を読むときに、ただそこにある文字を読み取っているだけではない
  • 頭の中で、前後の情報やその文章を読むための構えを作って知識を補完しながら文章を読んでいる

たとえば、何の話か分からずに読んでいた「ものをいくつかの山に分ける」という文章も、洗濯という枠組みのなかで考えれば、衣服を洗濯表示のような種類ごとに分けているという意味だと理解できると思います。

この例から、私たちは何かを知覚したり、記憶したり、理解したりするときには、文脈の影響を非常に受けていることがわかります。つまり、人間の認知の仕組みを考えるときに文脈の効果を考えることは非常に重要な意味を持っているということです。

文脈効果をエピソード記憶と結びつけて学びたい方には、こちらの書物がおすすめです。

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1-2:文脈効果の例

上述したように、文脈はさまざまな認知活動に影響を与えます。ここでは、さらに詳しく「文脈が記憶に与える影響」「文脈が意思決定に与える影響」を紹介したいと思います。

1-2-1:文脈が記憶に与える影響

まず、文脈が記憶に与える影響として文脈一致効果の例を紹介したいと思います。

文脈一致効果とは、

記銘をしたときの文脈と、記憶の想起が行われるときの文脈が一致しているほうが想起しやすいという効果

です。

例を紹介する前に簡単に用語の整理を行っておきます。心理学において、記憶の各働きとして、3つの機能が挙げられます。

  1. 記銘(memorization)・・・見たり聞いたり嗅いだりといった感覚器官より入力された情報を覚える機能
  2. 保持(retention)・・・記銘によって覚えたことを忘れずに維持し続ける機能
  3. 想起(remembering)・・・保持した情報を思い出す機能

この記事では、これらの機能を上記の用語で記述します。

ここで紹介するのは、ゴッデン&バデリー(1975)の実験です3Godden, D. R., & Baddeley, A. D. (1975). Context‐dependent memory in two natural environments: On land and underwater. British Journal of psychology, 66(3), 325-331.

実験概要

  • 実験参加者はいくつかの単語を記銘して想起することを求められた
  • この時、記銘時と想起時の状況が2つに分けられていた
  • 記銘時の状況・・・一方の条件では実験参加者は、水中で単語を記銘することを求められ(水中記銘条件)、もう一方の条件では、陸上で単語を記銘することが求められた(陸上記銘条)
  • 想起時の状況・・・水中で想起する条件と、陸上で想起する条件の2つの条件が用意されていた
  • つまり、実験参加者は、水中で記銘して水中で想起するグループ、陸上で記銘して陸上で想起するグループ、水中で記銘して陸上で想起するグループ、陸上で記銘して水中で想起するグループの4つのグループに分けられていた

前者2つのグループは記銘したときの状況と想起するときの状況が一致していることから一致グループと呼び、後者の2つのグループは記銘したときの状況と想起するときの状況が一致していないので不一致グループと呼びます。

もし、記銘時の物理的環境と想起時の物理的環境が一致しているほうが、想起しやすいのであれば、一致グループのほうが不一致グループよりも想起の成績が良くなると考えられます。

実験の結果、想起した単語数の平均は、以下のとおりでした。

  • 水中で記銘して水中で想起するグループ・・・11.4単語
  • 陸上で記銘して陸上で想起するグループ・・・13.4単語
  • 水中で記銘して陸上で想起するグループ・・・8.4単語
  • 陸上で記銘して水中で想起するグループ・・・8.6単語

つまり、一致グループのほうが、不一致グループに比べてより多くの単語を想起することが出来ていました。このことは、物理的環境(水中か陸上)が記銘時と一致した状況が想起の手がかりとなっていることを意味しています。

このように、私たちは何かを記憶するときに、その対象だけではなく外部の物理的環境といった文脈も関連付けて記銘しており、想起するときも文脈の影響を受けるということです。



1-2-2:文脈が意思決定に与える影響

さて、ここまでは文脈が文章の理解や、記憶に影響を与えるという話をしてきました。ここでは、理解や記憶といったインプットだけではなくアウトプット、すなわち判断も文脈の影響を受けるという例を紹介したいと思います。

まずは、次のような状況を考えてみましょう。

  • 「塩ラーメン」か「豚骨ラーメン」どちらかを注文するか判断するという状況がある
  • このような状況で塩ラーメンよりも豚骨ラーメンを選びやすい人は、たとえそこに「味噌ラーメン」が追加されたとしても、塩ラーメンより豚骨ラーメンを選びやすいという傾向は変わらないはず
  • しかし、そのような第三の選択肢の追加によって文脈が変化することで、もともと比較していた2つの選好の関係が変化してしまうことが知られている

このような現象の代表的なものが「魅力効果」「妥協効果」です4奥田秀宇「意思決定における文脈効果: 魅力効果, 幻効果, および多数効果」『社会心理学研究』 18(3), 147-155頁

まず、魅力効果とは追加された第三の選択肢が、どちらかの選択肢よりもやや劣るものである場合、その選択肢の選択比率が増加するという現象です。

魅力効果の例

  • たとえば、燃費が良くて値段の高い車(A)と燃費が悪くて値段は低い車(B)を比べるような場面がある
  • その場面で、Aよりも燃費が少し悪く、値段も高い車(C)を追加すると、Aの車が、AとBだけで比べるときよりも選ばれやすくなる
  • これはAより少し劣ったCの追加により、AとBだけで比較しているときよりも、Aの魅力が引き立つためだといわれている

続いて、妥協効果とは、追加された第三の選択肢が、どちらかの選択肢を中間に置くようなものだった場合、その中間に置かれた選択肢が選ばれやすくなる効果のことです。

妥協効果の例

  • たとえば、燃費が良くて値段の高い車(A)と燃費が悪くて値段は低い車(B)を比べるような場面がある
  • 燃費はBよりも悪く、値段はさらに安い車(C)を追加すると、Bは値段的に見ても燃費的に見てもAとCの中間程度になる
  • このような場面では、AとBだけで比較するときに比べて、Bの選択率が上昇することが知られている
  • これは、選択肢Cの追加により、妥協的に真ん中のものが選ばれやすいためだといわれている

これらの効果は、私たちは1つの選択肢が追加されただけで、文脈の影響を受け判断が変わってしまうことを示しています。このように、文脈は私たちの認知活動に非常に大きな影響力を持っているのです。

1章のまとめ
  • 文脈効果とは、知覚や記憶、意思決定などの認知活動が文脈によって影響をうけることである
  • 人間の認知の仕組みを考えるときに文脈の効果を考えることは非常に重要な意味を持っている
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2章:文脈効果の心理学的実験

さて、1章では記憶と意思決定における文脈効果の例について、心理学実験の話を交えながら説明してきました。

一口に文脈といっても、さまざまなものがありますが、記憶や意思決定の例で紹介したのはどちらもそのときの状況や刺激の数や種類といった外的な文脈によるものでした。

一方で、その時の体の状態や感情の状態といった内的文脈が、認知活動に影響を与える場面というのも存在します。2章では、そのような心的文脈に関する文脈一致効果の実験を紹介したいと思います。

2-1:内的文脈の一致による文脈一致効果

内的文脈の一致とは、

記銘するときと想起するときの気分や感情といった心理的な状況が一致していること

を意味します。

たとえば、怒っているときに記銘した単語は、怒っているような状況で想起しやすいということです。このような気分や感情といった内的文脈の一致が想起に与える影響を検証する方法として主に2つの方法が用いられます。

1つが気分を誘導する方法で、もう1つは個人差に基づく方法です5谷口高士. (1991). 認知における気分一致効果と気分状態依存効果. 心理学評論, 34(3), 319-344.

気分を誘導する方法

  • 記銘時の気分を実験者の介入によって操作する。たとえば、特定の気分を誘発する文章を読ませることで、実験参加者の気分を操作する方法がある6ほかにも、過去1年で最も失敗したことを思い出してくださいというように、イメージを行わせることで気分を誘導する方法があります
  • 実験では、記銘前にこれらの方法を用いて気分を誘導する
  • その後、想起を行わせるタイミングで、気分を誘導し一致グループと不一致グループを作る
  • たとえば、記銘時に快適な気分に誘導したのであれば、想起時に快適な気分に誘導したグループは一致グループ、不快な気分に誘導したグループは不一致グループとなる

このような操作をおこなうと、外的文脈における文脈一致効果と同様に一致グループにおいて想起の成績が向上します。

この気分を誘導する方法は、実験参加者を任意の気分に誘導できるという点で非常に有効です。一方で、気分を誘導するための文章や単語といった特定の刺激を使って介入しているため、その刺激の内容によっては、気分の誘導以外の影響を与えてしまう可能性があります。

そのような、点を克服できるのが個人差による方法です。

個人差による方法

  • 特定の介入は行わず、記銘時と想起時の実験参加者の気分を測定する
  • この参加者の気分に基づいて、記銘時と想起時の気分が一致していたか一致していなかったかを事後的に分類することができる
  • この個人差に基づく方法は、上述したように介入による効果を気にする必要はなくなるが、一致、不一致といったグループわけがその時の参加者の気分に依存するため、うまくコントロールできないという欠点がある

このような記銘時と想起時に状況が一致しているほうが一致していないときに比べて想起の成績が良くなるといった効果のことを、以下のように区分できます7太田信夫(2011) Ⅲ-35 エピソード記憶 子安 増生・二宮 克美 (編). キーワードコレクション 認知心理学 新曜社.

  • 環境的文脈依存効果(environmental context dependent memory effect)・・・物理的環境に着目したとき
  • 気分状態依存効果(mood dependent memory effect)・・・心理的環境(特に感情)に着目したとき

このように、さまざまな文脈で、このような効果がみられるということは私たちが記憶を想起するときに「いつ」「どこで」といった状況に関する情報が非常に重要であることを示しています。

2章のまとめ
  • 物理的環境が記銘時と一致するグループのほうが、不一致グループに比べてより多くの単語を想起することができる
  • 怒っているときに記銘した単語は、怒っているような状況で想起しやすい
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3章:文脈効果を学ぶ本・論文

文脈効果を理解することはできましたか?最後に、あなたの学びを深めるためのおすすめ書物を紹介します。

おすすめ書籍

子安増生・二宮克美 『キーワードコレクション 認知心理学』(新曜社)

認知心理学のキーワードを列挙し、キーワードごとの解説をしている書籍です。特定のキーワードを深掘りしたいときに非常に有用な書籍です。文脈効果はエピソード記憶に関する章で取り上げられています。

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D・カーネマン『ファスト&スロー(上・下):あなたの意志はどのように決まるか?』(早川書房)

文脈効果の中でも意思決定におけるものに関心を持った方にお勧めです。この本では、人間の判断や意思決定の特性をさまざまな研究知見をもとに紹介してくれています。文庫本サイズの訳書も出ていますので手が出しやすく、内容も平易です。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 文脈効果とは、知覚や記憶、意思決定などの認知活動が文脈によって影響をうけることである
  • 人間の認知の仕組みを考えるときに文脈の効果を考えることは非常に重要な意味を持っている
  • そのときの状況や刺激の数や種類といった外的な文脈だけでなく、その時の体の状態や感情の状態といった内的文脈が認知活動に影響を与える場面がある

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参考文献

  • Bransford, J. D., & Johnson, M. K. (1972). Contextual prerequisites for understanding: Some investigations of comprehension and recall. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 11(6), 717-726.
  • Godden, D. R., & Baddeley, A. D. (1975). Context‐dependent memory in two natural environments: On land and underwater. British Journal of psychology, 66(3), 325-331.
  • 太田信夫(2011) Ⅲ-35  エピソード記憶 子安 増生・二宮 克美 (編). キーワードコレクション 認知心理学 新曜社.
  • 奥田秀宇. (2003). 意思決定における文脈効果: 魅力効果, 幻効果, および多数効果. 社会心理学研究18(3), 147-155.
  • 谷口高士. (1991). 認知における気分一致効果と気分状態依存効果. 心理学評論, 34(3), 319-344.