勉強法

【2021年1月~3月で読んで良かった本5選】内容を簡単に紹介

四半期で読んで良かった本5選

この記事は、文化人類学を研究する代表運営者の一人(飯島)が執筆しています。

2021年も、早くも3カ月が過ぎようとしていますが、今年も年明けから良い本をいくつも読むことができました。そこでこの記事では、2021年の1月〜3月に読んだ本の中から、執筆者が良かった本を5冊厳選して紹介します。

■紹介している本

これから定期的に、本を紹介する機会を設けようと思っていますので、乞うご期待ください。

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①森元斎『国道3号線』

この記事で紹介する本はどれもおすすめですが、一番おすすめなのは森元斎の『国道3号線』(共和国)です。

この本はなぜ、九州は「こう」なんだ?を問いかけながら、九州の「原基」や抵抗史をみていくことが主題となっています。そのとき、中心となるのが九州を縦断するように伸びる国道3号線です。

国道3号線は、九州の北端、北九州市門司区から南端の鹿児島県鹿児島市まで伸びる、いわば九州の背骨です。

九州の近代の歴史を見ると、水俣病を代表とする、日本の近代化における負の側面を背負うような出来事が複数あることが分かります。そして、この近代化の負の側面に対して、さまざまな人物、勢力が抵抗してきた歴史があるのです。

これが、偶然にも国道3号線沿いに見られることから、このタイトルがつけられています。

具体的には以下のルート(route)で、本章は展開されていきます。

目次

第1章 新政府か反動か、あるいは…西南戦争・山鹿コミューン・アジアの革命
寄り道(1)中国の革命へ

第2章 水俣病と悶え
寄り道(2)緒方正人『私はチッソであった』言葉が生まれるとき

第3章 炭鉱と村
寄り道(3)谷川雁における集団と組織
寄り道(4)伝習館裁判

第4章 米騒動
寄り道(5)北九州の古層

このルートを辿れば、九州という土地の特異性を歴史的に理解できるだけでなく、日本における九州、アジアにおける九州を学べます。九州出身の方は当然のこと、九州外部の方にも読んでもらい本です。

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②宮野公樹『問いの立て方』

この本のタイトルは『問いの立て方』となっていますが、著者が主張するように、その内容は「ノウハウめいた方法論や読後直ちに使える答えのようなもの、それらを書こうとした本ではありません」(本書、10頁)。

むしろ、自分自身と向き合うことを通して、「なぜ私はこの考えが面白いと感じたのか?」といった再帰的な時間を作り出してくれるものとなっています。言い換えれば、物事の根源(本質)まで踏み込んで考えられているかどうかが問われるものとなっています。

目次

第1章「いい問い」とは何か(答えがある問い、答えがない問い 本質と名付けてみる なぜその問いはあるのか他)

第2章「いい問い」にする方法(いい問いにまで昇華させるには 「問い」が磨かれるとき 自分と世界の矛盾のうちに他)

第3章「いい問い」の見つけ方(消極的アプローチをとる理由 「違和感」と「自覚」 対象の内実と形式他)

学問・研究に携わる方だけに限定されない、普遍的な内容です。学生の方も社会人の方も、自分の立場から読んでみることをおすすめします。

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③西江雅之『ピジン・クレオル諸語の世界』

本書は有名な言語学者の西江がフィールドでの経験を通して、異言語接触による新しい言語の誕生をめぐる考察をしたものです。

このような考察がされる過程で、そもそも言語学的な「異なる言語」の前提であったり、言語の死や誕生の契機などを学ぶことができます。

その中でも、ピジン語やクレオル語の文法や発音の特徴が示されており、言語が作り出す世界に関心をもつ方にはとてもおすすめの本となっています。

目次

第1部 「出合い」の言語学
1「異なる言語」をめぐって
2言語の死、言語の誕生
3「ピジン語」というあり方
4ピジン化の過程
5トク・ピシンという言語
6クレオル語の多様性
7クレオル語とさまざまな変種
8ピジン・クレオル諸語の背景
9多言語社会のクレオル語
10バイリンガリズムとクレオル語
11クレオル大国、ハイチ
12ピジン・クレオル諸語研究の広がり

第2部 「ことば」を追って
1わたしと「ことば」、そして「言語」との関係
2「ことば」に触れる
3「言語」に触れる
4「言語」の置き換え
5「異なった言語」間の接触へ
6「ピジン」に向けて
7「ピジン・クレオル」と呼ばれる諸語
8「言語」の誕生と死
9クレオル語の背景

少し専門的な内容になるかもしれませんが、世界中のさまざまな言語の例を提示しながら優しく説明していますので、前提知識がなくても読めると思います。

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④島泰三『魚食の人類史』

この本を端的に紹介すれば、「人間は何を食べてきたのか?」「魚をいつから食べてきたのか?」を説明する本です。

目次をみていただけるとわかるように、霊長類の時代に始まり、日本列島における魚食の歴史までをカバーした本となっています。

目次

第1章 霊長類は魚を食べたか

第2章 大型類人猿と古人類の食物とは

第3章 ネアンデルタールという謎

第4章 ホモ・サピエンスにとって魚食とは何か

第5章 進化する生態的地位―水辺から海辺へ

第6章 農耕牧畜文明に漁撈の痕跡を探る

第7章 日本列島の漁撈採集民

個人的には、第7章の「日本列島の漁撈採集民」が特に興味深い内容でした。たとえば、古代日本において(3世紀末の『魏志倭人伝』によれば)、彼らの社会が漁撈を生活の中心として発達していったことが述べられており、魚にどのような社会的な価値が付与されていたのかを学ぶことができました。

他にも、宣教師がみた戦国時代の魚食、かつお節とうま味の発見など、魚食を中心に日本史を学び直すことができます。食に興味のある方には、きっと面白い内容となっているでしょう。

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⑤吉見俊哉『知的創造の条件』

吉見俊哉『知的創造の条件』(筑摩書房)は、社会学者で積極的に大学論を論じている著者が、AI時代における知的創造の方法や、大学の役割について論じた本です。

著者の考えは、「現代の日本の大学、それに社会全般で、知的創造の社会的条件が疲弊しており、非常に弱体化して」おり、それは「グローバル資本主義と新自由主義の中で日本社会の諸々の基盤が崩れていった」こと、そして「デジタル化・ネット化の中で知識形成の仕組みがすっかり変わりつつある」ことに、その原因があるというものです。

私たちも、現在の文系を中心とする知的環境に問題意識を持って、運営部内で議論を重ねてきました。そのため、この著者の見解には非常に納得するものがあります。

そして、AIの登場によって、人間の仕事は「創造的」であることがより求められるようになることから、著者は「問いを見つけること」「批判的読書」「多様な人々が出会い刺激を与えあう場としての大学」などについて、多角的に論じています。

学生はもちろん、すでに社会に出ていて、これから自分の人生や仕事についてよく考えていきたいという社会人の方にもおすすめです。

目次

はじめに――知的創造の条件とは何か
1 知的創造を語る現代社会
2 対話的行為としての知的創造
3 本書の目的と構成

第1章 はじまりの一歩
1 知的創造は時代と世代に条件づけられている
2 創造的な世代――一八三〇年代生まれと一九三〇年代生まれ
3 第1の出会い――小学校の教室で
4 第2の出会い――キャンパスの芝居小屋で
5 記号のうごめきの中に成立する演劇とは
6 第3の出会い――一九七〇年代の大学で
7 上演論的パースペクティヴ――劇場から盛り場へ
8 第4の出会い――方法としてのカルチュラル・スタディーズ/
9 なぜ、実践的な英語力が学びに必要なのか?

第2章 知的バトルのススメ
1 知的創造は、問いの発見から始まる
2 研究を成り立たせる八つの基本要素
3 二つの四角形と二つの三角形
4 方法としての「アタック・ミー! 」
5 批判的読書はどうすればいいのか?
6 知のコペルニクス的転換を生む基礎
7 ノリが悪くなって〈問い〉が生まれる
8 〈問い〉はいかに〈研究課題〉に定式化されるか
9 「何のために」「何を」「どのように」の三角形
10 たった一つの概念に研究課題を絞り込む
11 〈問い〉が一つなら、研究テーマは複数のほうがいい?
12 分析枠組は、基軸となる概念の次元からなる
13 異なる分析概念の関係から創造的な仮説が生まれる

第3章 ポスト真実と記録知
1 ネット社会と知的創造の条件
2 知識における作者性と構造性
3 情報希少の時代から情報過剰の時代へ
4 認知的多様性とフィルターバブル
5 地図を創造する――図書館とグーグル
6 記録知の収蔵庫としての図書館
7 知的運動としてのエンサイクロペディア
8 百学連環・研究会・出版ネットワーク
9 ネット時代の集合知と記録知

第4章 AI社会と知的創造の人間学
1 第五世代コンピュータからAIブームへ
2 言語能力からパターン認識への方針転換
3 シンギュラリティ(技術的特異点)は来るか?
4 「収益加速の法則」という幻想
5 AIは、様々な分野で同じことをしている
6 パターン認識から未来予測へ
7 プロファイリングによる予言の自己成就
8 特異点なきAI社会到来の憂鬱
9 知的労働から掃き出される人間たち
10 AI的思考の彼岸とは何か
11 歴史も社会も非連続に満ちている
12 デジタルアーカイブはAIとどこで異なるのか?
13 デジタルアーカイブはなぜ知的創造の基盤なのか

おわりに――知的創造の歴史的主体とは誰か
1 知的創造をめぐる四つのエージェンシー
2 創造はいつも聴くこと、書くことから始まる
3 他者と未来への信頼を回復する――近代の臨界点にて

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吉見の大学論は、他にも複数あり非常に勉強になりますので、下記の著作もあわせて読んでみることをおすすめします。

『大学とは何か』(岩波新書)

『「文系学部廃止」の衝撃』(集英社新書)

まとめ

個人的な問題意識だけでなく、リベラルアーツガイドの運営に関して、あらためて運営メンバーと文系や学問そのものについて繰り返し議論したことで、ここで紹介したような本と出会うことができました。

■紹介した本

今後、別のメンバーによる本紹介もしていきますので、本選びの参考にしていただけると幸いです。

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