心理学

【傍観者効果とは】意味・実験・対策を事例とともにわかりやすく解説

傍観者効果とは

傍観者効果(bystander effect)とは、ある事象に対して参加者が増えれば増えるほど「傍観者」の立場を貫いてしまうことを意味します1松井 豊 (監修), 湯川 進太郎, 吉田 富二雄 (編集)『スタンダード社会心理学』(サイエンス社)

あなたは失敗することや、周囲から浮いた存在として認識されることを恐れて行動できなくなった経験はありませんか?

傍観者効果は、社会生活を送る中でしばしば起こる現象です。そのため、傍観者効果の意味、原因、対策を理解することは極めて重要です。

そこで、この記事では、

  • 傍観者効果の概要(意味・代表的事件・実験)
  • 傍観者効果の原因
  • 傍観者効果の対策

をそれぞれ解説していきます。

あなたの関心に沿って読み進めてください。

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1章:傍観者効果とは

1章では傍観者効果の「意味」「代表的事件」「実験」を解説します。傍観者効果の原因は2章において、傍観者効果の対策は3章において説明しますので、好きな箇所から読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注2ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1: 傍観者効果の意味

まず、冒頭の説明の確認となりますが、

傍観者効果とは、ある事象に対して参加者が増えれば増えるほど「傍観者」の立場を貫いてしまうこと

です。

この現象は、学校や職場のいじめにおいてよく発生するといわれています。たとえば、あるクラスメイトがいじめの対象になっているにも関わらず、「自分は無関心である」という立場を取ってしまうことはありませんか?

他者の危険を知っているにも関わらず、助けようとしなかったり、できなかったりすることは「傍観者効果」として説明されます。

「私はいじめを目撃したことがない!」と言う方がいるかもしれませんが、傍観者効果は日常のさまざまな場面で垣間見ることができます。

たとえば、傍観者効果には、

  • バスで高齢の方に席を譲ろうと思っても行動できないとき
  • 会議の場で意見を主張することをためらってしまうとき

といった状況を挙げることができます。

そのため、こうしてみると、傍観者効果は自分の身を守ろうとする防衛機能の1つであるといえるでしょう。

しかし、傍観者効果によって、

  • 援助を得られない他者が発生してしまい、自分自身の交友関係や社会的な立場に影響が及ぶ可能性がある
  • 援助を求める側にまわって考えてみると、誰にも助けてもらえず、関心も向けてもらえないという困難な状況を作り出してしまう

というネガティブな効果があります。

事実、「傍観者効果」という心理学用語は次に紹介する事件を契機に登場した用語です。



1-2: 代表的事例:キティ・ジェノヴィーズ事件

1964年、アメリカ合衆国ニューヨーク州の住宅街で発生した「キティ・ジェノヴィーズ事件」は、傍観者効果が研究されるきっかけとなった事件です3A・M・ローゼンタール 『38人の沈黙する目撃者 キティ・ジェノヴィーズ事件の真相』(青土社)

事件の概要は以下のとおりです。

キティ・ジェノヴィーズ事件の概要

  • 当該地区に住む女性のキティ・ジェノヴィーズは、帰宅途中に暴漢に襲われる
  • 事件発生現場は彼女の自宅アパートの目の前
  • ジェノヴィーズは悲鳴を上げ、アパートの住人に助けを求めた
  • しかし、一向に彼女を助ける住人は現れず、通報を受けた警察が駆けつけてくることもなかった
  • 30分以上に渡るジェノヴィーズの抵抗も虚しく、彼女は暴漢に殺されてしまった

傷ましい事件ですが、悲劇的だったのはジェノヴィーズが襲われたとき、周辺には少なくとも38人の目撃者がいたことです。つまり、多くの目撃者が存在したにも関わらず、ジェノヴィーズを助ける人や警察への通報をした人はいなかったのです。

「無力な女性が誰にも助けられることなく殺されてしまった」というキティ・ジェノヴィーズ事件は、当時の社会にインパクトを与えました。マスコミや世論は、「殺されそうな人を見捨てるなんて、都会人は冷たい」として周辺住人を非難しました。

では、なぜ38人の目撃者はジェノヴィーズが殺される様を見ているだけだったのでしょうか?彼らは、意図的にジェノヴィーズを見捨てたのでしょうか?



1-3: 傍観者効果の実験

キティ・ジェノヴィーズ事件に関心をもったのは、心理学者のラタネ(Bibb Latané)とダーリー(John Darley)です。

心理学者のラタネとダーリーは、キティ・ジェノヴィーズ事件の原因について、マスコミや世論とは異なった仮説を打ち立てました。

ラタネとダーリーの仮説とは、

  • 「都会人が冷淡であることが原因ではなく、多数の人が事件を見ていたことに原因があるのではないか」
  • 「つまり、大勢の人が事件を見ていたために、ジェノヴィーズを助けようとする行動が抑制されたのではないか」

といったものでした。

このような仮説を基に、ラタネとダーリーは実験をおこないます。

実験の概要

  • 実験には大学生が参加し、参加者は「集団討議を行う実験である」という説明を受けた
  • 参加者は2人、3人、6人のグループに分けられ、振り分けられたグループ内で討議を行うように指示された
  • 集団討議は「匿名性を守るため」に参加者が一同に会することはなく、インターホンやマイクを用いた上で行われるとされた
  • 参加者たちはそれぞれ別室に通され、同じグループのメンバーとインターホンを通じて討議を行うよう指示された
  • そして、この集団討議の途中で、参加者のうちの1人(実験協力者)が発作を起こして苦しみ出す
  • 実はこのハプニングに対する参加者の反応、つまり、「インターホンを通じて苦しむ声を聞いた参加者は、どのような行動を取るのか」が、当実験の真の目的であった

結論をいえば、実験の結果は集団討議の参加人数によって援助行動(発作を起こした参加者を助けようとする行動)の出現率に違いがあることがわかりました。

具体的に、2人で討議を行った場合、ほとんどの参加者は廊下に助けを呼びに行くなどの援助行動を取った一方で、6人で討議を行った場合、38%の参加者は一切の援助行動を取らなかったのです。

実験の結果を受けたラタネとダーリーは、

  • 多くの人が見ている場面では、援助行動が抑制されることを主張する
  • そのため、キティ・ジェノヴィーズ事件は、都会人が冷淡な人間であるがゆえに起こった事件ではない
  • むしろ、多くの目撃者が存在したからこそ、援助行動が抑制された

と結論づけました。

その後、ラタネとダーリーによって、多くの人が見ている場面において援助行動が抑制される現象は「傍観者効果」と名付けられました。

ラタネとダーリーはこの実験の他にも幾つかの傍観者効果発生の要素を検討する実験を行っており、彼らは傍観者効果について「人柄に関わらず、誰にでも起こり得ることである」と主張しています。

いったんこれまでの内容をまとめます。

1章のまとめ
  • 傍観者効果とは、ある事象に対して参加者が増えれば増えるほど「傍観者」の立場を貫いてしまうこと
  • 「キティ・ジェノヴィーズ事件」は、傍観者効果が研究されるきっかけとなった事件である
  • 心理学者のラタネとダーリーの実験において、集団討議の参加人数によって援助行動の出現率に違いがあることが科学的に証明される

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2章:傍観者効果の原因

では一体、なぜ傍観者効果は発生するのでしょうか?

結論からいえば、「多元的無知」「責任分散」「評価懸念」の3つの働きが傍観者効果の原因となります。それぞれを解説していきます。

2-1: 多元的無知

多元的無知とは、

  • 一言でいうと、「空気を読む」能力(「集合的無知」とも呼ばれる)
  • 自分で判断を下す前に、周囲の人間の行動を観察して参考にしようとする能力

です。

たとえば、キティ・ジェノヴィーズ事件において、多元的無知は「女性の悲鳴に緊急性があるかどうか」という判断に影響を与えています。

あなたの耳に、必死に助けを求める女性の叫び声が聞こえてきたことを想定してください。悲鳴を聞いたあなたは、あまりに悲痛な声だったために「大変だ、今すぐ助けなくては」と感じます。

しかし、周囲の住人は静けさを保ったままで、誰も戸口から姿を表していないようです。その結果、「もしかして、あの悲鳴に対して、私が大袈裟に捉えてしまっただけなのかもしれない」という考えるのではないでしょうか?これが多元的無知の能力です。

つまり、多元的無知が働くと、

  • 周囲の様子を観察する中で自分の考えと違った点を見つけたときに、「自分の判断が間違っている」と判断を下してしまいがち
  • キティ・ジェノヴィーズ事件でいえば、彼女の悲鳴に緊急性を感じていたとしても、「みんな何も反応していないから、助けを求めている声ではなかったのかもしれない」という判断を下してしまう
  • その結果、もともと緊急性の高さを認識していたにも関わらず、多元的無知の働きによって他の認識に導かれてしまう

という結果に陥ります。



2-2: 責任分散

そして、責任分散とは、

大勢と同調していれば、自分にかかる責任は小さくなるという考え

を意味します。

ここでは、学校におけるいじめの場面を考えてみましょう。クラスメイトの1人が標的にされ、理不尽な嫌がらせ行為を受けている場面を想定してください。

あなたはその光景を見て、「かわいそうだ、助けてあげたい」という思いを抱くかもしれません。しかし、同時に「いじめられている子をかばって、自分が次の標的になったら嫌だ」と考えることもあるのではないでしょうか。この時、自分の中で2つの考えが生まれ、葛藤を感じることが予想されます。

この葛藤状態を解消するために登場するのが「責任分散」です。具体的に、

  • いじめの事例でいえば、「いじめられている子を守らないのは私だけではない。他のクラスメイトも傍観している」と信じる
  • それによって「困難な状況にある他者を助けなければならない責任」は「私個人ではなく、多数のクラスメイトで負うもの」と解釈する
  • この責任分散によって、傍観者効果による考えや行動が「正当性を持った考え」であるかのように解釈される

という作用が働きます。



2-3: 評価懸念

最後に、評価懸念とは、

自分の行動の結果に対して与えられる評価を気にしてしまうこと

です。

たとえば、講演会に参加する場面が挙げられます。講師の素晴らしい話を聞き、あなたは「もっと色々なことを知りたい」という意欲を抱きます。すると、講演を終えた講師が「質問や意見がある方は、ぜひお聞かせください」と呼びかけました。

聞きたいことが山ほどあるあなたはすぐに手を挙げようとしますが、「評価懸念」のため質問を躊躇します。具体的に、そこで生まれる評価懸念とは、

  • 「講師や周囲に無知だと思われたらどうしよう」
  • 「言葉に詰まってしまったら恥ずかしい」

といった類いのものです。

このように、他者からの評価が恐ろしいと思うと、人間は行動を止めてしまうことがあります。「恥をかいたり、失敗したりするくらいならば、はじめからやらない方が良い」と考えてしまい、結局何もせずに見ているだけになってしまうのです。

傍観者効果発生の一因には、このような「自己評価を守るために行動しない」という作用を挙げることができます。

2章のまとめ
  • 多元的無知とは、自分で判断を下す前に、周囲の人間の行動を観察して参考にしようとする能力
  • 責任分散とは、大勢と同調していれば、自分にかかる責任は小さくなるという考え
  • 評価懸念とは、自分の行動の結果に対して与えられる評価を気にしてしまうこと

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3章:傍観者効果の対策

では、傍観者効果を起こさせないためにはどうしたらいいのでしょうか?言い換えると、キティ・ジェノヴィーズ事件のような悲劇的な事件を繰り返さないためにはどうしたらいいのでしょうか?

結論からいえば、前述した心理学者のラタネとダーリーによると、傍観者効果を打ち消すには人間の援助行動への意欲をより促進される必要があるといいます。具体的に、そのような考えは「援助行動に至るまでの意思決定モデル」として提唱されました。

「援助行動に至るまでの意思決定モデル」の細かい議論を覚える必要はありませんが、傍観者効果の発生を防ぐ方法は重要です。

ラタネとダーリーによると、

  1. 援助者に、異常事態が発生していることや緊急性を理解させること
  2. 援助者が、適切な援助方法を知っていること

の2点が対策となります。

3-1-1: 緊急性を理解させること

①の対策は、自分がトラブルの渦中にいたり、トラブルの渦中の人を助けるためにより多くの援助の手が必要になったりした場合に有効な方法です。

「傍観者」となってしまった人たちに対し、「何で困っているのか」「どうして助けてほしいのか」をきちんと説明することで、傍観者効果の発生を予防できます。

いじめにあってしまったり、何らかの被害にあってしまったりした場合には、説明の時間や勇気を持つことができないことが予想されます。その場合には、なるべく多くの人に、事態の「異常性」を訴えることが必要だといえるでしょう。

助けてくれそうな人や、専門家の手を借りるなどして、多くの人に自分の状況を知ってもらう必要があります。「知ってもらう」努力によって、援助の手を伸ばしてくれる人が増えるかもしれません。

3-1-2: 適切な援助方法を知っていること

②の対策は、他者がトラブルに巻き込まれている場合に取ることができる方法です。

あなたに傍観者効果が発生している場合、周囲の評価を気にしたり、空気を必要以上に読もうとしてしまったりしていることが考えられます。

いじめられている人を見ているだけなのなら、「自分が孤立した場合に取ってもらうと嬉しい行動」を考えてみたり、「他者に寄り添う適切な方法」を学んだりすることで、自らに起こった傍観者効果を緩和できるでしょう。

3章のまとめ
  • 対策①:援助者に、異常事態が発生していることや緊急性を理解させること
  • 対策②:援助者が、適切な援助方法を知っていること

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4章:傍観者効果等の心理現象が学べるおすすめ本

傍観者効果について理解を深めることはできましたか?

日常のさまざまな場面で出くわす傍観者効果について理解を深めることは極めて実利的です。これから紹介する書物を参考に、あなたの学びを深めていってください。

おすすめ書籍

松井 豊 (監修), 湯川 進太郎, 吉田 富二雄 (編集)『スタンダード社会心理学』(サイエンス社)

ラタネとダーリーが行った研究の詳細が載っており、傍観者効果発生のメカニズムを具体的に知りたい場合におすすめです。

A・M・ローゼンタール 『38人の沈黙する目撃者 キティ・ジェノヴィーズ事件の真相』(青土社)

傍観者効果の研究のきっかけとなった、キティ・ジェノヴィーズ事件を伺い知ることができます。

板口 典弘, 相馬 花恵 (著) 『ステップアップ心理学シリーズ 心理学入門』(講談社)

傍観者効果を含む心理現象について、カラーページでわかりやすく解説されています。初学者の方におすすめです。

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などの特典もあります。学術的感性は読書や映画鑑賞などの幅広い経験から鍛えられますので、気になる方はお試しください。

まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 傍観者効果とは、ある事象に対して参加者が増えれば増えるほど「傍観者」の立場を貫いてしまうこと
  • 「多元的無知」「責任分散」「評価懸念」の3つの働きが傍観者効果の原因
  • 対策①:援助者に、異常事態が発生していることや緊急性を理解させること、対策②:援助者が、適切な援助方法を知っていること

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