貿易戦争(trade war)とは、
二国以上の国同士が貿易・経済分野の関税やルールを巡って対立し、外交問題に発展したもの
のことです。
2019年現在、激化している米中の貿易戦争がその代表例です。
貿易戦争について知りたいという人の多くは、現在の米中貿易戦争の中身やその影響、今後のことについて知りたいのだと思います。
しかし、現状を正しく理解するためには「貿易戦争は起こるべくして起こった」理由について知っておくことが大事です。
そこでこの記事では、
- 貿易戦争とは何か?
- 米中貿易戦争とはどのようなことなのか?
- 貿易戦争が起こるのはナゼなのか?
- 貿易戦争について深く知るための書籍リスト
について解説していきます。
知りたいところから読んで、ニュースの理解やこれから未来の世界の予測に役立ててくださいね。
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1章:貿易戦争とは?
冒頭の繰り返しになりますが、貿易戦争とは、
二国以上の国同士が貿易・経済分野の関税やルールを巡って対立し、外交問題に発展したもの
のことです。
それほど難しい言葉ではありませんが、似た言葉に「貿易摩擦」もあるため混乱する方もいるかもしれません。
そこでこれから、貿易戦争やより一般的な用語である貿易摩擦について、詳しく解説します。
米中貿易戦争について知りたい場合は、2章からお読みください。
1-1:貿易摩擦と貿易戦争の区別
貿易戦争も貿易摩擦も、特に学問的に定義された言葉ではありませんが、一般的に、貿易摩擦とは二国以上の国同士の間で、輸出入のバランスに急激な変化が起こり、そこから生じる問題のことを指します。
一方で貿易戦争とは、この貿易摩擦がさらに激化し、外交上の大きな問題にまで発展したものであると言えます。
現在、アメリカと中国の政府が激しく対立し議論していることを見れば、貿易摩擦が外交問題にまで発展していることは明らかですよね。
1-2:貿易戦争・貿易摩擦の問題点
貿易戦争・貿易摩擦は、二国間の間での輸出入のバランスが大きく崩れることがきっかけになるのが一般的です。
「輸出入のバランスに急激な変化があると、何が問題なの?」と思われるかもしれません。
まず、輸出入のバランスに大きな変化があるというのは、一方の国の製品が、もう一方の国で異常に売れすぎるような状態を言います。
その結果、貿易収支が不均衡になる。つまり、一方の国の貿易黒字が拡大し、他方の国の貿易赤字が拡大し、それが問題視されることで貿易摩擦問題がはじまると言えます。
例えば、1960年代の日米間では、繊維製品が異常にアメリカ国内で売れたため、アメリカでは貿易赤字がその後拡大していきました。
さらに、日本製品の売れすぎによってアメリカの繊維産業が「このままでは潰れてしまう」「国内産業を日本に奪われる」と日本を批判し、それをきっかけに日米間で交渉が行われるようになりました。
つまり、貿易摩擦の問題点は、貿易収支の不均衡と国内産業への打撃なのです(※)。
ちなみに、現在の米中貿易戦争が「戦争」と「摩擦」より強い言葉が使われているのは、もともとの貿易摩擦の問題から、互いに互いの問題点を激しく指摘して批判し合うようになり、強い報復的な措置を与えるようになっているからです。
※ただし、国際収支の不均衡は「赤字国が損している」とは一概に言えないため、経済学上は問題とされないことも多い。
1-3:貿易戦争・貿易摩擦への対応
通常、貿易摩擦が発生した場合は、一方の国が「このままでは国内産業への打撃が大きいので、何とかしてほしい」と主張し、そこから政府間の交渉がはじまります。
実際の対応としては、
- 関税、法律、ルールを変える→輸入品が売れすぎないようにする
- 国内産業の保護政策→国内品が売れるようにする
などが行われます。
現在起こっている米中貿易戦争では、互いに、主に関税の引き上げが報復的に行われている状況です。
1-4:近年の貿易戦争・貿易摩擦の変化
本来貿易摩擦とは、「貿易」という「モノの取引」においての摩擦が問題とされてきました。
しかし、近年では「知的財産権」「人の移動」「資本(お金)の移動」など「モノ以外」の分野での摩擦も問題となってきています。
したがって、最近の貿易摩擦は、問題がより複雑化・多様化していると言えます。
- 貿易摩擦とは、貿易収支の不均衡をきっかけに起こるもの
- 貿易戦争とは、貿易摩擦が外交上の大きな問題に発展したもの
- 貿易摩擦には、関税引上げや国内産業の保護政策などの対応が行われる
- 貿易摩擦は、貿易以外の分野の問題も含んだ問題へ複雑化している
さて、ここまでが貿易戦争・貿易摩擦に関する大まかな説明でした。
次に、貿易戦争の事例として、現在進行形で進んでいる米中貿易戦争について解説していきます。
貿易戦争・貿易摩擦が起こるべくして起こった原因・背景については、3章で解説しています。
2章:【事例】米中貿易戦争とはどんなものか
現在、アメリカと中国の間で起こっている米中貿易戦争は、トランプの大統領選からはじまっていました。
ここでは、米中貿易戦争の経緯やポイントについて簡単に解説していきます。
貿易戦争・貿易摩擦が起こる原因について知りたい場合は、3章からお読みください。
※米中貿易戦争について詳しくはこちらの本もおすすめです。
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2-1:米中貿易戦争の経緯
まずは米中貿易戦争の経緯を紹介します。
細かい経緯を覚える必要はありません。
大まかに言うと、
- トランプが米中貿易を問題視する
- アメリカから関税引上げをはじめる
- 中国が報復をして互いに報復合戦になる
- 一時休戦(2018年末〜2019年2月)する
- 再度問題化(現在)
という流れです。
2-1-1:トランプ大統領就任前後の動向
トランプは2016年の大統領選挙中から、中国との間での巨額の貿易赤字を問題として取り上げはじめました。
その背景には、彼が「ラストベルト」と言われる、白人の製造業の労働者層の支持を取り付けたいと考えたこともあります。
2017年の大統領就任後は、トランプは実際に中国との貿易問題是正のために行動を起こし始めます。
これをきっかけに、米中は貿易戦争に進むことになりました。
- 2017年4月:米中首脳会談で米中間包括経済対話メカニズムの立上げが合意(その後頓挫)
- 2017年8月:中国に対する貿易の調査を開始
2-1-2:2018年の動き(貿易戦争の激化)
米中間の貿易摩擦が問題化したことから、2018年から米中間で主に関税の引き上げによる報復合戦が行われました。
関税とは、輸入品に対してかける税金のことで、互いに税率を引き上げることで貿易障壁を作ろうとしたのです。米中間の対立はやがて、中国人留学生のビザ発給の厳格化や、HUAWEI副会長の逮捕など、貿易摩擦を超えた外交問題になっていきました。
- 2018年1月:米が緊急輸入制限(セーフガード)を発動
- 2018年:3月:一部製品に追加関税を発動。それに対抗して中国も報復措置を発動。
- 2018年4月:米中両国が互いに対する報復を激化。
- 2018年5月:貿易摩擦解消のための米中閣僚会議が開始。
- 2018年6月:米が中国人留学生のビザ発給の厳格化や追加関税措置を実施し、中国もそれに対抗して追加関税措置を実施。
- 2018年8月:米中が第2弾の関税措置発動。
- 2018年9月:米が第3弾の関税措置発動。
- 2018年11月:米政府が同盟国に対してHUAWEIの通信機器を使わないことを要請していると報道される。
- 2018年12月:米中首脳会談で2019年2月28日まで関税のこれ以上の引上げをしないことを決定(休戦)。アメリカの要請でカナダ司法省がHUAWEI創業者の娘で副会長の孟晩舟を逮捕。
2-1-3:2019年の動き(休戦と再開)
2018年末から、米中貿易戦争は一時休戦していたものの、3月以降は、再び貿易戦争が激化していきました。5月現在、対立は現在進行形で激しくなっています。
- 2019年3月、4月:対中追加関税の品目別適用除外を発表。
- 2019年5月:中国の米に対する報復関税の発表。アメリカは第4弾追加関税を発表。
このように、米中間の貿易戦争は互いに引くところがなく、激しさを増すばかりなのです。
2-2:米中貿易戦争の直接の原因
そもそも、なぜ米中貿易戦争が起こってしまったのでしょうか?
詳しい原因は3章で解説しますが、直接の原因は巨額の貿易収支の不均衡にありました。
実際、アメリカからの中国への輸出総額は2017年には1300億ドルですが、中国からアメリカへの輸出総額は5050億ドルと4倍近い差があるのです。
トランプがこの巨額の貿易赤字が、国内の産業に打撃を与えて失業者を生み出しているとして批判し、それから貿易問題が明確化。その後の貿易戦争に繋がりました。
2-3:米中貿易戦争の争点
なぜアメリカは中国との貿易をそれほど警戒しているのでしょうか?
それは、中国に対して関税の対象にしている品目を見れば分かります。
関税とは、「〇〇という製品に、〇〇%の関税をかける」というように、「品目」と「税率」が争点になります。
アメリカの中国に対する課税品目は、その多くが航空、半導体、産業ロボットなどの「資本財」や「中間財」です。ここから、アメリカは中国のハイテク技術の発展を警戒していることが予測できます。
それは、アメリカがHUAWEI製品の締め出しを主張していることからも分かります。
アメリカは、自国の一大産業であるハイテク分野で、中国に覇権を握られたくないために、中国に対する要求を強めていると考えられるのです。
2-4:米中貿易戦争の日本への影響
さらに、米中貿易戦争は日本にも影響することが考えられます。
1つは、貿易戦争が世界経済のGDPに悪影響を及ぼしていることですが、もう1つは、今後アメリカが日本との間でも貿易上の要求を強めてくる可能性です。
1960年代から90年代にかけての日米貿易摩擦では、日本は非常に多くの要求を飲ませられました。
当時の日本は高い成長を保っていたからまだ良かったものの、現代の経済の停滞が常態化した日本に、不利益な要求が突きつけられた場合、その打撃は大きなものになるでしょう。
- 米中貿易戦争の原因は、アメリカの対中国の巨額の貿易赤字
- アメリカは中国のハイテク分野の成長を警戒している可能性がある
- アメリカの矛先が日本に向いた場合、大きな打撃になる可能性がある
さて、簡単に米中貿易戦争の経緯や原因について説明しましたが、米中貿易戦争はある意味で「起こるべくして起こった」とも言えます。
それは、グローバルな国際経済の状況が、近年大きく変化したためです。
そこで、その国際経済状況の変化と共に、貿易戦争が起こる原因について詳しく解説します。
3章:貿易戦争が起こる原因
米中貿易戦争が起こった原因として、国際経済の状況が大きく変化したことが挙げられます。
下記の背景から考えると、米中貿易戦争が起こったのは必然であると言えますし、今後さらなる貿易戦争が起こらないとも言えないのです。
- グローバリズムの影響
- GATT・WTO体制の弱体化
- 保護主義の台頭
- 中国の台頭
の4つであると言えます。
順番に解説します。
3-1:グローバリズム
グローバリズムとは、ヒト・モノ・カネ・情報の国境を越えた移動が飛躍的に増大し、その結果世界の均質化が進む現象のことです。
グローバルな経済活動が多くなると
- グローバルな格差:国際的な経済活動の結果、一部の国や地域が富み、一部の国・地域は貧困になる→格差の対策に貿易ルールの改善を求める
- 自由化の波:経済活動をより活性化するために、さまざまな分野で「障壁を撤廃するべき」という声が高まる
といった動きが起こります。
つまり、ヒト・モノ・カネ・情報の移動が大きくなることで、その障壁も見えやすくなり、その改善を求める声が高まっていくのです。
3-2:GATT・WTO体制の弱体化
貿易摩擦が貿易戦争と言われるまで問題化した背景には、GATT・WTO体制の弱体化も大きな原因になっています。
ここが、グローバルな国際経済状況の変化として、最も重要なポイントです。
3-2-1:GATT・WTO体制とは
GATTとはグローバルな貿易・経済問題について、多国間で話し合う場のことで、WTOとは協定の束であったGATTが国際機関となり、より強い権限を持ったものです。
このGATT・WTO体制は、もともと国際的な保護主義の高まり(ブロック経済)が第二次世界大戦の原因となった反省から、「保護主義的な貿易はやめよう」「グローバルな自由な貿易を維持・発展させよう」という理念から、欧米主導で作られたものです。
国際社会において、自由を求めるリベラルな運動から生まれた、いわば「自由な貿易を維持する体制」なのでした。
3-2-2:国際経済の多極化からGATT・WTO体制が弱体化
そのため、戦後はGATT・WTO体制の下で貿易上の問題は解決が目指され、自由な貿易を維持するルール作りが進められてきたのですが、近年はそのGATT・WTO体制が弱体化しているのです。
その原因は、国際経済の多極化です。
戦後は、経済力で勝る欧米が主導してGATT・WTO体制の下で活動ができていたのですが、途上国が経済的に台頭してきたことによって、「私たちもルール作りにコミットしたい」と主張するようになったのです。
その結果、GATT・WTO体制の下でのルール作りや貿易摩擦等の問題解決に関する合意形成が難しくなり、世界各国は他の枠組みで問題解決を目指すようになったのです。
3-2-3:弱体化による影響
GATT・WTO体制は「自由貿易」という理念(国際規範)を維持し、世界が利益重視の勝手なルール作りや保護主義に走らない防波堤として機能していました。
GATT・WTO体制が体制として、また理念(国際規範)を発信する場としても影響力を弱めたことで、貿易摩擦が「貿易戦争」に発展するほどになっても、それを止めることができなくなっているとも考えられます。
3−3:保護主義の台頭
国家は常に自国に有利な経済活動を目指します。
したがって、国際社会では、自由に活動するほど保護主義が台頭する可能性も高まると言えます。
国家は自国に有利な経済活動をする誘因を持っているのですから、トランプのように自国の国益を強く重視する権力者が生まれれば、保護主義が台頭するのは避けられません。
【保護主義とは】
保護主義とは、自国の産業を守るために、関税を引き上げたり輸入に制限を設ける姿勢のこと。対義語は自由貿易主義。
3-2で説明した通り、国際社会における自由貿易主義を維持する役割を持っていたGATT・WTO体制が弱体化したことから、世界では保護主義が台頭しても、十分にそれを止めることが難しくなっていると言えます。
3−4:中国の台頭による覇権争い
さらに、国際社会では中国が経済的に台頭してきました。
もともと、世界経済では圧倒的にアメリカが強く、それに日本やドイツが続く状況が従来の国際経済情勢でした。
しかし、1990年代以降になって中国の経済成長が著しくなり、巨大市場が生まれいくつものグローバル企業が生まれました。
こうした背景から、中国は国際社会で、強い発言力を持つようになりました。
その結果、最近ではアメリカの覇権に中国が挑戦していると言われることもあります。
つまり、米中二国が覇権争いをする状況になり、その結果経済面でも互いに譲らず激しい対立を生み出しているということです。
整理すると、
- グローバル化によって貿易摩擦が起こりやすい状況になった
- GATT・WTO体制の影響力が低下したことで、保護主義のような国家の利益重視の行動への歯止めが効きづらくなった
- 中国の台頭でアメリカとの覇権争いが激化した
ということから、貿易摩擦やそれがさらに激化した貿易戦争に発展しやすい状況になっていると考えられるのです。
繰り返しになりますが、グローバルな「自由貿易主義」的な体制および理念は、大戦の反省から生まれたものです。
この体制・理念をないがしろにして自国第一の保護主義に走れば、「貿易戦争」が「貿易」に留まらない戦争になる可能性すら考えられます。
そういった意味で、米中貿易戦争は私たち日本人にとっても、非常に重要な問題なのです。
4章:貿易戦争がよく分かる書籍リスト
ここまで貿易戦争について解説してきましたが、ここで解説したことは基本的なことだけです。
より正確に詳しく理解するためには、これから紹介する書籍を読むことが大事です。
専門知識がなくても分かりやすい本ですので、ぜひ手元に置いてこれからのニュースを見ながら参考にしてみてください。
難易度★★ダニ・ロドニック『貿易戦争の政治経済学-資本主義を再構築する-』(白水社)
2019年3月に発売された本で、米中貿易戦争について最新の動向を踏まえ、かつ「これからの世界経済がどうなるか?」というマクロな視点から分析されています。この本を読めば、現在起きていることがもう1段階深く理解できるはずです。
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難易度★『習近平と米中衝突―「中華帝国」2021年の野望』(NHK出版)
貿易戦争を含めた米中の対立について、包括的に書かれた本です。アメリカ(特にトランプ)について書かれた本は多いですが、この本では中国側の視点が詳しく書かれているため、この本を読めばさらに重層的な見方ができるようになります。
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難易度★『トランプ貿易戦争-日本を揺るがす米中衝突-』(日本経済新聞出版社)
トランプの貿易への姿勢について網羅的に書かれた本です。トランプ政権の貿易への姿勢は、今後日本にも影響を与える可能性があることがよく理解できると思います。
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一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
最初の1冊は無料でもらえますので、まずは1度試してみてください。
また、書籍を電子版で読むこともオススメします。
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などの特典もあります。学術的感性は読書や映画鑑賞などの幅広い経験から鍛えられますので、ぜひお試しください。
まとめ
最後に今回の内容をまとめます。
- 貿易戦争は、貿易摩擦が外交上の大きな問題に発展したもの
- 米中貿易戦争には「米中の覇権争い」「アメリカの巨額の対中貿易赤字の解消」「中国のハイテク分野へのアメリカの警戒」などの背景がある
- GATT・WTO体制の弱体化で貿易戦争が起こりやすい状況になっている
この記事では、これからも国際情勢について解説していきたいと考えていますので、ぜひブックマークしてこれからも参考にしてください。