ポジショニングアプローチとは、企業収益の源泉である優位性を外的要因により分析する手法です。
急速な変化が激しく事業環境も複雑化する現代では、多様化する顧客のニーズを見極めたうえで、市場での外的要因をしっかりと分析する必要があります。
その上で、ポーターが提示した戦略理論を理解することは欠かせません。
そこで、この記事では、
- ポジショニングアプローチの意味
- ポジショニングアプローチとポーター
- ポジショニングアプローチの具体的事例
をそれぞれ解説します。
関心のある所から読み進めてください。
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1章:ポジショニングアプローチとは
ではさっそく、1章ではポジショニングアプローチを「意味」「ポーターの経営戦略論」から概説します。
2章ではポーターの理論を、3章では具体例を紹介します。
1-1: ポジショニングアプローチの意味
ポジショニングアプローチとは、
企業収益の源泉である優位性を外的要因により分析する手法
です。
企業の存続条件である収益を生み出していくためには、市場のニーズを開拓し、優れた製品を開発していく必要があります。
もしもそうした製品をひとつの企業が供給し、複数のユーザーが買い求めるのであれば、その企業は自社の都合のいいように価格を設定することができ、高い収益をあげられることができるでしょう。
しかし、実際、市場には競争相手が存在しており、市場内において複数の企業と競争をするという条件があります。この条件下で企業は存続を果たしていかなければなりません。
もちろん、複数の企業が存在していれば、それぞれの企業は顧客により大きな支持を受けるために、様々な工夫や努力をしてくるでしょう。この結果、一般的には製品の値段は下落し、企業の収益性は低下する傾向があります。そうすれば、体力が尽き、事業からの撤退を余儀なくされる企業も現れることでしょう。
ポジショニングアプローチでは、このような企業の生き残りをかけた戦略策定のなかから、企業外の要因(競争相手や産業構造などの企業を取り巻く要因)に焦点を当てて、企業の優位性を築く施策を検討するものです。
1-2: ポーターの経営戦略論とは
経営学者のマイケル・ポーターは、経済学的な市場競争原理に着眼して経営戦略を提示しています。彼の議論は頻繁に引用され、ポジショニングアプローチを語る上で欠かせないものとなっています。
2章ではポーターの議論を解説していきますが、その前にポーターの議論がいかに生成したのかを簡潔に紹介します。
そもそも、経済学における市場とは、
- 常に経済的な合理性を追求する合理的経済人によって成り立つ
- 人々は価格以外の要素では経済的な判断をしない
と想定されています。
しかし、経営学者の琴坂によると、以下のようなことから市場には不完全競争性が存在します。
- 現実の市場では顧客が分散して存在するために製品の提供に輸送費がかかること
- 顧客は使用する製品に対して一定の信頼を置くことなどから、財の価格は需要量に対して一定にはならないこと
ポーターはそうした不完全競争性こそ、企業が生き残りを果たしていくためのヒントがあると考えて経営戦略理論を生み出していきました。
琴坂の議論に関して、より詳しくは『経営戦略原論』(東洋経済新報社)を参照ください。
- ポジショニングアプローチとは、企業収益の源泉である優位性を外的要因により分析する手法である
- ポーターは、経済学的な市場競争原理に着眼して経営戦略を提示した
2章:ポジショニングアプローチとポーター
2章ではポーターの議論を「S-C-Pモデル」「5フォース」「3つの基本原理」からみていきましょう。
2-1: ポジショニングアプローチにおけるS-C-Pモデル
まず、ポーターは最も初期の論文「産業組織論の経営戦への貢献」で経営学における「S-C-Pモデル」を発表しました。
「S-C-Pモデル」とは、
- もともとは、産業経済学における代表的なモデルである
- Structure(産業構造)- Company(企業行動)- Performance(企業のパフォーマンス)の頭文字をとったもの
です。
このモデルでは、まず「産業構造は企業の利益率に影響を与える」という命題があります。つまり、企業は自身が属する産業の構造によって自社の利益率を決定づけられている、ということです。
したがって、産業構造こそが企業の行動を決め、パフォーマンスに影響を与えるという一方通行的な関係になることが産業組織論における常識となっていました。
しかし、ポーターは以上の経済学的「S-C-Pモデル」を、以下のように経営学に引きつけて再解釈します(図1)。
- 実際は双方向の影響が存在し、産業構造が企業行動を決めて、それがパフォーマンスに影響する
- パフォーマンスの差異が企業行動に影響を与え、それが産業構造を変えることもある
従来、産業構造は企業がコントロールできる変数と思われていませんでした。
しかし、このモデルの登場によって、企業は自社の属する産業を変えなくても、戦略的意思決定によって収益性の異なる同一産業内の別の位置に自社をポジショニングすることで、収益を拡大できる可能性があると考えられるようになりました。
(図1「S-C-Pモデル」筆者作成)
この認識をもとに、ポーターは画期的な競争戦略理論を生み出していくことになります。
2-2: ポジショニングアプローチにおける5フォース
ポーターの最も代表的な理論にあげられるのが「5フォース」です。
「5フォース」とは、
産業の競争状態ひいてはその産業に所属する企業の収益性に影響を及ぼす5つの要因をモデル化したもの
です(図2)。
(図2「5フォース」筆者作成)
それぞれの要因を解説していきます。
2-2-1: 競争企業との敵対関係
青島と加藤は以下の書物において、競争企業との敵対関係が最も代表される項目は「企業数と規模の分布」(43頁)であると指摘しています。
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言うまでもありませんが、一般的に、同一産業内に企業数が多ければ必然的に価格競争が激しくなります。一方で、供給する企業が少なければ、競争は緩やかになり、企業の利潤も大きくなる傾向があります。
経済学の視点では、この状態は好ましくない状態と認識されますが、ポジショニングアプローチではいかに競合が少ない市場を見つけるかは非常に重要な視点となります。
また、産業における規模の分布も注目すべきです。ひとつの市場に供給者である企業が5社あった場合も、5社のシェアが均等に20%ずつあるよりも、1社がそのうちのシェアの80%を占めていて、残りの4社が5%ずつを分けあっているような状態のほうが、競争は緩やかになります。
つまり、ポーターの競争戦略においては、企業はなるべく企業数の少ない市場を見つけ、その市場においてシェアを拡大していくことが企業の利潤に繋がることが主張されます。
2-2-2: 新規参入者の脅威
新規参入者の脅威とは、
現在は当該産業で事業を営んでいない企業が新たに進出してくることで、同業者間で競争が激化すること
です。
一般的に、市場に新規参入者が好んで進出してくる状況とは、市場に成長性が秘められており、なおかつその市場内で事業を営んでいる企業に「超過利潤」が発生しているときです。
経済学的にいえば、「超過利潤」は市場の均衡を崩すものとして認識されており、時間の経過とともに解消されていく問題とされます。しかし、ポーターの競争戦略では「超過利潤」をいかに拡大または維持できるかが重要視されます。
またポーターは新規参入者の脅威に対抗するために、産業の「参入障壁」をいかに大きくするかが大事であると述べています。
参入障壁とは、新規参入者がその産業に進出する際の様々なハードルのことです。
たとえば、鉄鋼事業のように初期設備の獲得に莫大な費用が発生するような産業の参入障壁は非常に大きいです。また、産業そのものが許可制、免許制である場合、営業が許可されるまでに様々な手続きや設備投資が必要となり、新規参入のためのハードルは高くなるでしょう。
こうした「参入障壁」をしっかりと分析し、適切に維持することができるのであれば企業の利潤は大きくなると考えられています。
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2-2-3: 代替品の脅威
代替品とは、
類似した顧客ニーズを異なった形で満たすもののこと
を指します。
たとえば、パソコン製品の需要が、スマートフォンの高性能化によって代替され需要が減るケースがあると考えると、そこには代替品の脅威が発生していると言えます。
ポーターは、次の2つの条件のいずれかを満たす代替製品には注意を払うべきだとしています。
- 代替品のコストパフォーマンスが急激に向上している場合
- 収益性の高い産業で代替品が生産されている場合
①に関していえば、機能のすべてを代替できてなくても、価格で優位がある代替品が登場すれば、既存の製品市場でも代替品に対抗すべく価格競争が発生し、産業の収益性は低下することでしょう。
②に関しては、既存の産業内の企業よりも高い収益性を武器に、代替品の価格を大きく下げて、一気に普及を図ってくる可能性があるからです。そうすれば、既存の産業内でも同調した価格競争が発生してしまいます。
このように既存産業にとって大きなライバルとなりうる代替品ですが、すぐには脅威にならなくても、時間が経つにつれて大きな脅威に変化する場合もあります。
たとえば、かつてはドキュメントを作成することがメインだったパソコンも、いまでは動画を見ることも当たり前になっており、テレビ産業やビデオ産業におって大きな脅威となっています。
2-2-4: 売り手の交渉力
売り手の交渉力とは、
当該産業において必要な部品やサービスを仕入れている別の産業の影響力の大きさ
を指します。
たとえば、パソコンであれば、製品の頭脳となるCPUメモリは供給業者が数社しか存在しておらず、寡占状態になっていることから、パソコンメーカーは特定のCPUメモリ業者に依存をせざるを得ません。
その結果、供給者側からの影響を強く受けやすく、産業の収益性にも影響を及ぼす可能性が高くなります。
2-2-5: 買い手の交渉力
最後に、買い手の交渉力とは、
当該産業において出荷先の影響力の大きさ
を指します。
同じくパソコンメーカーの例であれば、家電量販店やパソコン専門店などが買い手に当たります。買い手の交渉力が大きくなるケースとしては、当該産業の製品がある程度標準化されており、製品間の差異があまり見られない場合は、買い手が産業内から自由に取引先を選ぶことができるようになり、価格の低下を迫られるような事態の発生が考えられます。
上記に示した5つの外部要因が5フォースです。ポーターによると、企業は常に情報収集と分析をおこない、5つの動向に目を向ける必要があります。
企業としては、どうしても近くに存在する敵対する競争企業にばかり目が向きがちになってしまいますが、その他4つの脅威の動向も常に意識することそこが企業の収益性を高めるために必要不可欠です。
2-3: ポジショニングアプローチにおける3つの基本戦略
さらに、ポーターは他社に打ち勝つためには3つの基本戦略があるとしました(図3)。
(図3「ポーターの3つの基本戦略」筆者作成)
それぞれ解説していきます。
2-3-1: コストリーダーシップ戦略
コストリーダーシップ戦略とは、
効率的な生産設備に積極的に投資し、生産コストをなるべく抑えることによって、市場内で価格優位を獲得しようとする戦略
です。
この戦略では、相対的な市場シェアを最大限まで高めることを目標としており、そのための投資は惜しまないことが推奨されています。
積極的な設備投資や攻撃的な価格戦略をおこなうことで、産業内での圧倒的な地位を獲得することができ、新規参入者にとっても大きな参入障壁となります。
たとえば、中国のパソコンメーカーのレノボは自社の巨大な製造工場を活用して、業界平均を下回る価格のパソコンを提供することで、市場シェアを高めています。
2-3-2: 差別化戦略
差別化戦略とは、
自社の製品やサービスを差別化して、業界の中でも特異だとみられるなにかを創造しようとする戦略
です。
差別化戦略では、機能やデザインといったコスト以外の強みに磨きをかけることによって、顧客の強いロイヤリティ(忠誠心)を形成することを目標としています。
たとえば、アメリカのアップル社のパソコンであるマッキントッシュは、同業他社に比べると非常に高い価格設定でありながらも、独自の機能やデザインを極めることで、他社と競合しない盤石の顧客基盤を保持しており、高い収益性を誇っています。
2-3-3: 集中戦略
集中戦略とは、
コストリーダーシップ戦略、あるいは差別化戦略を限定されたセグメント(ターゲット顧客)に集中されることで、特定の市場において顧客の絶大な支持を獲得することを目標とする戦略
です。
集中戦略では、産業における特定の市場のみに特化した戦略をとるため、コストリーダーシップ、差別化のどちらを達成することも可能になります。
集中戦略は、市場にリーダー企業が存在していても対抗手段として選択しやすい戦略となり、初期コストも比較的小さく済むことから、資本の脆弱な中小企業が積極的に選択すべき戦略ともいわれています。
- ポーターによると、企業は自社の属する産業を変えなくても、戦略的意思決定によって収益性の異なる同一産業内の別の位置に自社をポジショニングし、収益を拡大することが可能である
- 5フォースとは、産業の競争状態ひいてはその産業に所属する企業の収益性に影響を及ぼす5つの要因をモデル化したものである
- ポーターは他社に打ち勝つためには3つの基本戦略があると主張した
3章:ポジショニングアプローチの具体的事例
3章では戦略理論の具体的な事例を、身近なスーパーマーケット業界から紹介します。
さっそくですが、スーパーマーケット業界を5フォースで分析すると次のようになります(図4)。
(図4「スーパーマーケット業界の5フォース」筆者作成)
5フォースを分析することによって、スーパーマーケット業界における様々な脅威を確認することができます。この分析の中で、自社はどういった戦略をとっていくことで高い収益性を得られるかを考えることが企業の競争力を高める源泉となります。
次に3つの基本戦略をもとに、具体的な各社の戦略をみていきましょう(図5)。
(図5「スーパーマーケット業界の基本戦略」筆者作成)
同じスーパーマーケット業界であっても、分析をおこなうと各社にとって中心となる戦略が異なることに気づきます。このように、それぞれのスーパーマーケットが各社の強みや特徴を理解したうえで、戦略を実行しているからこそ顧客の支持を得られると言えます。
もし、コストリーダーシップ戦略を取るSEIYUが紀伊国屋のような高価格な差別化戦略を取り入れたとしたら、低価格を志向する顧客はSEIYUをわざわざ利用する意義がなくなり、一定の客離れが起こる可能性が高くなります。
この現象はなにもスーパーマーケット業界に限った話ではありません。あらゆる業界において自社のポジショニングを見失い、適切な戦略を実行できなければ、顧客が認識するその企業の産業内の価値は低下していくことでしょう。
経済的に成熟した日本は低成長時代を迎え、人口は縮小されていく見通しがなされており、既存の市場の拡大は望みにくくなってきます。
だからこそ、
- 多様化する顧客のニーズを見極めたうえで、市場での外的要因をしっかりと分析すること
- 適切なポジショニングを取り、ポジショニングに合った戦略を実行していくこと
が重要になっています。
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3章:ポジショニングアプローチを学ぶためのおすすめ本
ポジショニングアプローチの理解を深めることはできたでしょうか。
以下の書物を参考にして、あなたの学びをより深めていってください。
中野明 『図解ポーターの競争戦略がよくわかる本』(秀和システム)
ポーターの競争戦略がわかりやすく図解されており、はじめてポーターに触れる方におすすめの一冊です。
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M.E.ポーター『競争の戦略』(ダイヤモンド社)
ポーターの原論の日本語訳です。30年以上前の書籍であるため古い例が多く読むのは大変ですが、ポーターの競争戦略がしっかりと理解できます。中・上級者向けの一冊です。
一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- ポジショニングアプローチとは、企業収益の源泉である優位性を外的要因により分析する手法である
- 5フォースとは、産業の競争状態ひいてはその産業に所属する企業の収益性に影響を及ぼす5つの要因をモデル化したものである
- ポーターは他社に打ち勝つためには3つの基本戦略があると主張した
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