ネットワーク外部性(Network externality)とは、「ある人がネットワークに加入することによって、その人の効用を増加させるだけでなく他の加入者の効用も増加させる効果1総務省『平成19年度 情報通信白書』159頁」のことです。しばしば、「ネットワーク効果」とも呼ばれます。
ネットワーク外部性の議論は、近年特に重要な意味合いを持ち始めていますので、その特徴から具体例を通してしっかりと理解する必要があります。
そこで、この記事では、
- ネットワーク外部性の意味・特徴
- ネットワーク外部性における「直接的外部性」と「間接的外部性」
- ネットワーク外部性の具体例
をそれぞれ解説します。
好きな箇所から読み進めてください。
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1章:ネットワーク外部性とは
1章ではネットワーク外部性を「意味」「特徴」「議論の成立」「メリットと脅威」という項目から紹介してきます。具体例を知りたいからは、2章から読み進めてください。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注2ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1: ネットワーク外部性の意味
まず冒頭の確認ですが、ネットワーク外部性とは、
「ある人がネットワークに加入することによって、その人の効用を増加させるだけでなく他の加入者の効用も増加させる効果」3総務省『平成19年度 情報通信白書』159頁のこと
です。
詳しい説明の前に簡単に言うと、「たくさんの人が加入するほど便利になるサービス(LINEやメリカリなど)」をイメージすると良いでしょう。
また、経営学者の田中・矢崎・村上(2003)はさらに深掘りした、以下のような説明をしています。
ネットワーク外部性(又はネットワーク効果)は,需要の側の規模の経済である。供給の側に規模の経済が強く働くときは独占が生まれやすいのと同様に, 需要の側でも規模の経済が強いなら独占が生まれやすい。このことは,ネットワークの外部性を使った winner-takes-all(一人勝ち)現象としてよく知られることになった4競争政策研究センター共同研究(2003)『ネットワーク外部性の経済分析 ~外部性下での競争政策についての一案~』1頁
このように、田中・矢崎・村上はネットワーク効果を需要者側の規模の経済の効果を狙った独占であると述べています。
※規模の経済とは、生産数を増大させるほど製品1つ当たりの生産コストが下がる(安く作れる)ことです。
たとえば、電話のケースで考えてみると、2名の加入者しかおらず二者間でしかコミュニケーションが取れない状態に比べ、10名の加入者がそれぞれ相互にコミュニケーションが取れる状態では後者の方が加入者の利便性は向上しており、より高い効用があると判断されます。
つまり、ネットワーク外部性が機能するサービスでは、
- 需要者の増加自体が需要者自身の効用を高めており、もし代替できるサービスが存在しなければ需要者は高い効用を求めどんどん増加する
- その結果として、供給者の意思を超えて巨大な独占市場が構築されていく
といえます。
1-2:ネットワーク外部性の分類
さて、ネットワーク外部性は「直接的外部性」と「間接的外部性」の2つの分類されます。それぞれ解説していきます。
1-2-1: 直接的外部性
直接的外部性とは、
- ユーザー間の直接的なコミュニケーションの増加によるもの
- ファックスやE-mailの普及などを指すもの
です。
この場合、ファックスやメールをやり取りする相手が増えれば増えるほど、そのツールの利便性は増し、各ユーザーの効用は向上します。
1-2-2: 間接的外部性
一方で、間接的外部性とは、
補完材の供給が増えることによりユーザーの効用が向上すること
です。
たとえば、ビデオゲーム機などがその例です。ビデオゲーム機はあくまで遊ぶための環境を整えるものであり、それ自体を保有することでは高い効用を発揮しません。
しかし周辺産業で、そのビデオゲーム機の規格を利用した新しいゲームソフトやハードウェアが開発されることで、ユーザーの効用は大きく向上します。
1-2-3: 直接的外部性と間接的外部性の例
具体的に、パソコンのデスクトップ OS(オペレーションソフト)から「直接的外部性」と「間接的外部性」を考えてみましょう。
Net Applicationsによると、
- 2020年2月時点においてデスクトップOSの市場シェアは、Windowsが88.2%、Mac OSが9.4%、Linuxが1.8%と完全なる寡占市場となっている
- Mac OSがApple社製品に搭載される限定的なデスクトップOSであることを考えると、実質的にはWindowsの独占市場である
と言えます5マイナビニュース「世界のPC、4台に1台は依然としてWindows7-2月OSシェア」https://news.mynavi.jp/article/20200303-986236/。
そこで、Windowsという規格が事実的な標準規格になっていることで生まれるネットワーク外部性を考えます。
まず「直接的外部性」ですが、Windows OSを利用した共有のアプリケーションがユーザー間で利用できることです。
- 文章作成ソフトの「Microsoft office Word」や表計算ソフトの「Microsoft office Excel」で作成したデータは、WindowsOSを利用したすべてのパソコンで閲覧・編集可能であり、学術界やビジネス界など幅広い業界で活用されている
- これにより、ユーザーはシチュエーションによってツールを使い分ける必要がなく、新たなツールを購入する手間を省くことができることため、windowsOSを採用することで大きな効用が期待できる
次に「間接的外部性」ですが、WindowsOSが事実的な標準OSになったことで、周辺産業ではさまざまな補完材が生み出されました。
- 作成したドキュメントや資料を印刷するためのコピー機とそれを制御するためのアプリケーションが開発されたり、パソコンで動画を作成・編集するための動画作成ソフトが開発されたりした
- こうした補完材の登場にとって、ユーザーがWindowsOSのパソコンを保有するメリットはより大きくなり、WindowsOSはますますユーザーの支持を得ていくことになった
このようなネットワーク外部性によって築き上げられた巨大なネットワーク環境は一般的に「プラットフォーム」と呼ばれ、このプラットフォームを築いた主体は「プラットフォーマー」と呼ばれます。
ここではWindowsOSを開発したマイクロソフト社がプラットフォーマーであり、プラットフォーマーの多くは、唯一無二のプラットフォームの構築によって固定したユーザーを獲得し、高い収益を得ることが知られています。
1-3:ネットワーク外部性の議論の成立
ネットワーク外部性が急速に進展する背景には、イーサネットの共同開発者でスリーコムの創業者でもあるロバート・メトカーフによって提唱された「メトカーフの法則」が働いているからと考えられています。
メトカーフの法則とは、
「ネットワークの価値は、接続している利用者数の2乗に比例する」という経験則であり、ICT分野の指数関数的な発展の特徴を示す法則のひとつ
です6総務省『令和元年版 情報通信白書』147頁。
このような指数関数的な変化の特徴として、最終的に膨大な量になる点のみならず、ある時点までは変化が穏やかですが、その時点を超えると、急激に変化するという点が挙げられます(図1)。
(図1「指数関数的な変化のプロセス」出典:総務省『平成19年度 情報通信白書』148頁)
1-4:ネットワーク外部性のメリットと脅威
そして、ネットワーク外部性が働く市場では、下記の図のように供給者と需要者ともに特徴的なメリットや脅威が発生します(図2)。
(図2「ネットワーク外部性のメリットと脅威, 筆者作成)
それぞれ解説していきます。
1-4-1: プラットフォーマーのメリット
プラットフォーマーのメリットは、
巨大なプラットフォームを構築できることにより、固定したユーザーを獲得することができ、そこから大きな利益が生まれること
です。
ネットワーク外部性が働いた市場ではユーザーは指数関数的に増加し、他社の追随を許さない急速な成長を遂げることができます。
その結果、競争他社は淘汰されるか、競争相手とならないほど競争力に差が生じることになり、プラットフォーマーは市場での利益を独占することができます。
1-4-2: ユーザーのメリット
ユーザーのメリットとしては、
ネットワーク効果による利便性向上により、高い効用を受けること
です。
上記したように、直接的外部性によって、ユーザーは指数関数的に価値が増すネットワークから高い効用を受けることができす。それよって、相手によってツールや規格を変えることなくネットワークに参加でき、ユーザーの利便性を高めることができます。
また間接的外部性によって、ユーザーは発展的な効用の高まりが期待できます。プラットフォームが構築されることで、多種多様な開発者から先進的な補完材が登場することになり、ユーザーはネットワーク参加時以上の恩恵を受けることができるでしょう。
1-4-3: プラットフォーマーの脅威
プラットフォーマーの脅威としては、
革新的な技術の登場で、構築したプラットフォームが急速に陳腐化するリスク
があげられます。
ICT分野の発展は指数関数的であるからこそ、ある日を境にデジタル・ディスラプション(新しいデジタル・テクノロジーやビジネスモデルによって、既存製品・サービスの存在価値が変化する現象をさすもの)が発生することは珍しくありません。
たとえば、1990年代に大流行した無線呼び出しの「ポケットベル」は、2000年代に普及した携帯電話によってその存在価値を急速に失うことになりました。
技術革新によって存在価値を失ったサービス事業者は、築き上げたプラットフォームも撤退または縮小させることを余儀なくされます。
1-4-4: ユーザーの脅威
ユーザーの脅威としては、
競合が存在しないためサービスを選択することができず、プラットフォーマーの意思決定に大きな影響を受けること
があげられます。
たとえば、プラットフォーマーが一方的にサービス料金を引き上げたり、サービス内容を変更したりしても、ユーザー側に代替できるサービスが存在しなければ、プラットフォーマーの意思決定に従わざるを得なくなります。
一般的に、このような市場は独占市場と呼ばれ、通常の独占は公正取引委員会等より規制の対象となります。しかし、デジタル・プラットフォーム事業者に対する規制は、ガイドラインや基本方針が示された段階に過ぎず、明確な対処がなされていないのが実情です。
ユーザーとしては、特定のプラットフォームに過度に依存するのでなく、様々なリスクを想定して利用する姿勢が求められます。
このように、プラットフォームビジネスでは、
- 供給者側の視点では巨大な利益を独占できるチャンスがあり、需要者側の視点でも比較的安価に高品質なサービスを受ける機会が多いこと
- しかし、その背景には双方に脅威が存在することを理解して、関わりをもっていく必要もある
といえるでしょう。
- ネットワーク外部性とは、「ある人がネットワークに加入することによって、その人の効用を増加させるだけでなく他の加入者の効用も増加させる効果」のことである
- ネットワーク外部性は「直接的外部性」と「間接的外部性」の2つの分類される
- 供給者と需要者ともに特徴的なメリットや脅威が発生する
2章:ネットワーク外部性の具体例
いまやメールやSMSといったサービスを超えて、コミュニケーションツールとして圧倒的な地位を獲得したサービスが「LINE」です。
LINE株式会社の2019年12月発表によると、月間のアクティブユーザー数は8300万人以上と発表してます7LINE 株式会社 2019 年第 4 四半期決算発表。単純計算ですが、これは80%近い日本国民がLINEを利用している計算となります。
いまや数多く存在するSNSのなかでも、とりわけ巨大なプラットフォームを築くLINEですが、実はSNSのなかでは比較的後発のサービスにあたります。
そんなLINEが急激な成長を遂げることができたのには、独特のプラットフォーム戦略があったからと考えられます。ここでは根来(2017)の指摘に沿って、LINEの急成長の背景にある次の3つの要因を紹介します8根来龍之(2017)『プラットフォームの教科書』日経BP社。
2-1: ターゲット
LINEが登場するまでのSNSとは、主にパソコンでの操作をベースに発達してきたものでした。しかし、LINEは発表当初よりターゲットをスマホユーザーに集中し、機能や操作方法を開発してきました。
その結果として、社会の急速なスマートフォン普及の波に乗ることができ、大きなプラットフォームを構築することができたとされています。
2-2: マーケット戦略
LINEのマーケット戦略は、ネットワーク外部性の特性を非常に理解した巧妙な戦略であったと評価されています。
LINEアプリの累計ダウンロード数の推移データによると、
ユーザー数が急速に増加したのは2011年の秋頃からである
無料通話とスタンプのサービスを発表してからわずか2ヶ月弱で500万件近いダウンロードを記録した
といいます9根来龍之(2017)『プラットフォームの教科書』日経BP社, 87頁。
その裏には、大々的なテレビ広報戦略があったとされており、まさにメトカーフの法則を地で行くように、他社の追随を許さない巨大プラットフォームをわずか数ヶ月で築き上げました。
2-3: プラットフォームへの進化
LINEの最も特徴的な機能の一つにあげられるのが、メッセージで利用できるスタンプをユーザー間同士で自由に売買できる「LINEクリエイターマーケット」です。
この機能では、ユーザーが作成した個性的なスタンプを、ユーザー間で自由に売買することができ、まさにユーザーの利便性を高める自由参加型のプラットフォームであると言えます。
LINEではいまなお革新的なサービスがどんどん追加されており、そうしたサービスの多くをユーザーは無料あるいは安価に利用することができます。
特定の機能に限定することなく、コミュニケーションに関わるあらゆるサービスを包括的に提供することで、LINEのプラットフォームはいまでも成長を続けています。
3章:ネットワーク外部性について学べる本
ネットワーク外部性に関して理解が深まりましたか?
ネットワーク外部性を学ぶ入門書として、下記の本がおすすめです。
根来龍之『プラットフォームの教科書』(日経BP社)
プラットフォームビジネスに関する様々なポイントが網羅的に記載されており、まさに教科書的な1冊です。ネットワーク外部性を生かしたビジネスを始めたい方にもおすすめの著書です。
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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。
- ネットワーク外部性とは、「ある人がネットワークに加入することによって、その人の効用を増加させるだけでなく他の加入者の効用も増加させる効果」のことである
- ネットワーク外部性は「直接的外部性」と「間接的外部性」の2つの分類される
- 供給者と需要者ともに特徴的なメリットや脅威が発生する
このサイトは人文社会科学系学問をより多くの人が学び、楽しみ、支えるようになることを目指して運営している学術メディアです。
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〈参考文献〉
- 根来龍之(2017)『プラットフォームの教科書』日経BP社
- 総務省(2007)『平成19年度 情報通信白書』
- 総務省(2019)『令和元年版 情報通信白書』
- 競争政策研究センター共同研究『ネットワーク外部性の経済分析 ~外部性下での競争政策についての一案~』